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223、湖上の街ワタガシ 〜 まさかの訪問者

 草原に現れたのは、まさかの人物だった。

 現れたのは一人ではない。軽く20人はいるだろうか。



「爺ちゃん、どうしたのー」


「爺ちゃん、どうしたのー」


 お菓子の家の窓から、クライン様とルーシー様が不思議そうに顔を出している。


「ちょっと、ご挨拶に来たのだ」


「なんで、地上に来れたのー? 大魔王やめたの?」


「そーよ、そーよ」


「辞めてないが、ここに、おまえ達の支配地ができたから、来れたんだよ」


「うーん? わかんないよー」


「わかんないよー」



 チビっ子達に優しく微笑んで、彼はこちらへ向き直った。僕は、とっさにバリアをフル装備かけた。


「ライト、妾にもくれなのじゃ」


 そう言われ、めが…じゃなかった猫耳のティア様にもバリアをフル装備かけた。



「そんなに警戒しなくてもよいではないか」


「お久しぶりです、メトロギウス様。なぜこの島に?」


「今、話したであろう? 女神様が地上に降りておられると聞いたのでな、ご挨拶に参ったのだ」


「へぇ、どこに女神様がいるのですか?」


「ふっ、相変わらず性悪な悪霊だな、ライト。その獣人に化けている少女が、女神イロハカルティアだろう?」


「女神は城で寝ておる。妾は、ティアじゃ」


「ほう、分身ということか? 情報とは違うようだな…。確かにその魔力量で、この街を造ったとは考えにくいか…」


 メトロギウス様は、ジッと少女を見ていた。おそらく、あの手この手でサーチをしているのだろう。



「大魔王メトロギウス、何の用じゃ?」


「分身の分際で呼び捨てか? なめられたものだな、俺のプライドが…」


「爺ちゃん、ティアちゃんをいじめちゃダメ!」


「そーよ、そーよ」


「なっ? 子供達を手懐けたのか」


「別に手懐けたつもりはない。一緒に遊ぶ友達じゃ」


(友達なんだ…)


「ティアちゃんは友達だよ」


「ティアちゃんは友達だよ。かわいいの」


「そ、そうか…」


 やはり、大魔王様はチビっ子ふたりには弱いようだ。反論されてタジタジになっておられる。



「それで、何のご用ですか? メトロギウス様」


「あぁ、この島の支配者に言っておくことがあってな」


「島は、誰かが統治しているわけではありません。無法地帯だから、たくさんの種族が集まってきているんですから」


「この島の支配者は、この街を造った者だろう。妙な見張りの塔まで建てているのが何よりの証だ。この街の長は、女神イロハカルティアだろう?」


「支配者? そんな考えはないと思いますよ」


「この街は、神族の街じゃ。その一番上の者というなら女神になるじゃろうな。だが、この街の長と話をしたいなら目の前におるのじゃ」


「ティア、だったか? 女神の分身が長を務めるということか」


「おぬし、バカじゃろ? 猫が長などできると思うておるのか?」


(猫って言い切ってるし…)


「なんだと? おまえ…」


「爺ちゃん、ティアちゃんには優しくー」


「そーよ、そーよ」


 チビっ子達にそう言われると、孫に甘い大魔王様は、ぐぬぬと怒りの言葉をのみ込んでいた。


(あれ、ストレスになりそう)


 僕は、ちょっと大魔王様が気の毒になった。腹黒さでは、少女は大魔王様といい勝負だ。


 大魔王様が言葉に詰まったのを見て、少女は、ふふんと勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。



「メトロギウス様、この街の長は、僕が務めることになりました。お話なら、僕がうかがいます」


「なっ? なんだと? つまらない冗談など聞きたくない。俺は、真面目に話しているのだ」


「そうですか。僕と話せないということなら、お引き取りください。大魔王様が魔族の国を離れていていいのですか」


「おまえ、本当に殺してやろうか!」


「爺ちゃん、ライトは僕の配下1号だからダメだよ」


「そーよ、そーよ」


「そーじゃ、そーじゃ」


(猫が、便乗してるし…)


 メトロギウス様は、ピクピクと……血管が切れそうな顔をしていた。はぁ、もうさっさと帰ってよね。


 なんだか、たまったストレスのはけ口が、妙な方向に向きそうでコワイんだよね。



 大魔王様と一緒に転移してきた人が、大魔王様に耳打ちしていた。念話すればいいのに、なぜわざわざ、コソコソ話をするんだろう?



 ジッと様子を見ていた精霊ヲカシノ様も、女神様が猫に徹していることから、仕方なく、会話に加わった。


「大魔王、コソコソ話は、ボクにはまる聞こえだよー。念話の傍受を考えてるんだろうけど、どっちも無駄だよー」


「なんだ? 精霊か?」


「あれー? ボクのことわからないのー?」


「ん? ハッ! おまえ……戦闘狂か。チッ」


「爺ちゃん、夢の国の王子だよー。お菓子の家を作ってくれたんだ」


「そーよ、そーよ」


「あー、そうか、おまえが精霊ヲカシノか…。だから、おまえの通った後は、あちこちをお菓子に変えていたのか」


「別に通ったから勝手にお菓子に変わるんじゃないよ。道しるべにしただけだよー。地底はよくわからないんだよねー」


「地底ではやりたい放題、散らかしやがって。あれを引っこ抜いて処分するのは大変なんだぞ」


「ヲカシノは、迷い子の天才じゃから、仕方ないのじゃ。目印がないと迷うのじゃ。それに、引っこ抜かずとも、ちぎって食べればよいではないか。もったいない」


「うるさい猫だな」



 ヲカシノ様は、大魔王様が連れてきた配下に、いつのまにか、紅茶と焼き菓子を出して配っていた。


 それを見つけた少女が、ヲカシノ様に近寄っていったのは言うまでもない。



 少女を睨んでいた大魔王様だったが、少女がお菓子の順番待ちをするために離れたことで、僕の方に向き直った。



「いま、配下が確認した。おまえが長だというのは事実なのだな」


「はい、そうですよ。悪魔族なら相手の話が事実か否かはわかるのではないですか?」


「おまえは、見えないのだ。異常に深き闇が、俺のサーチを弾く。しかし、しばらく見ない間に随分と様子が変わったのだな」


「そうですかね?」


「回復魔法力だけは見せているのは、白魔導士だと欺くためか?」


「別に、あざむいてませんよ。僕は、白魔導士ですから」


「ふん、ただの白魔導士が、何人もの神殺しができるか。しかも、自分のワープワームに神の能力を吸収させ、ワープワーム界を牛耳るとは…」


「あれはたまたまですよ」


「死霊の言葉など信じられるか」


「半分は人族なんですけどね、僕…」


「ふんっ」



 大魔王様の視線が、お茶会に向いていた。チビっ子達が楽しそうにキャッキャと笑っている。


「あの猫は、子供なのか?」


「さぁ? 年齢はわかりません。姿もいろいろな姿に化けるので、会うたびに違いますし」


「そうか。だが、子供達はあの猫を気に入っているようだな。親しそうに、はしゃいでおる」


「精神年齢は、近いのかもしれませんね」


「ふぅん。まぁ、あの子達には同じ年頃の友達がいないのは気になっていた。女神の分身なら、悪いようにはしないだろう」


 そう言いつつ、目を細めて子供達の様子を見ている姿は、大魔王とは思えない穏やかさがあった。



「お話というのは?」


「あぁ、子供達が得た領地に、警護を置きたいのだ」


「ハンスさんがいらっしゃるのでは?」


「あの子達は、最近は大人の目を盗んで、すぐに居なくなるのだ。遊びのつもりかは知らぬが、この島で自由にさせるのは危険すぎるからな」


「なるほど。警護を置きたいということは、常駐するということですか」


「そうだ」


「彼らの支配地ですから、僕が決めることではありません。クライン様とルーシー様に相談なさってください」


「ということは、置いても構わないということだな?」


「ええ。ただし、湖にある街や、その周りの草原を害する行動をとられるようなら、排除することもありますが」


「断るということか」


「いえ、侵略しようとしたり、その他、害になる行為があったときには排除するということです」


「おまえが排除するのか?」


「この街には、僕の城兵も常駐していますから、彼らに任せることが多いかと。彼らに対応できないときは、僕が動きます」


「ほう、自信があるようだな」


「まぁ、覚醒もしましたし、優秀な配下もいますからね」


「そうか」



 ん? なんだろう? 大魔王様の様子がおかしい。いや、気がそぞろなのかな。どこかと念話か…?



「助けてあげたらー?」


「え? ヲカシノ様、何をですか?」


「大魔王が、孫を心配して地上に上がった隙をつかれたみたいだよー」


「なぜ……傍受…」


「あのねー、この距離にいて傍受も何も、普通に聞こえてくるんだけどー。それから草原はボクが守ってるんだから、妙なことしたら、すぐに排除するよー」


「チッ、どいつもこいつも…」



 僕は、チラッとクライン様達の方を見た。二人も何か念話を受けたようだ。さっきまで街にいたハンスさんが、草原に出てきていた。


「爺ちゃん、すぐに戻ってこいって」


「爺ちゃん、石山も攻撃されてるって」


「あぁ、だが、おまえ達は、ここにいる方が安全かもしれんな」


「総力戦だよ?」


「そーよ、そーよ、総力戦って何?」



 少女の方を見ると、お茶会で大魔王様の配下とも友達になったようだった。


 女神として接すると、こうはいかないんだろうな。変身ポーションで姿を変えれば、本来の魔力が知られないからだと思っていたけど、目的は別にあるのかもしれない。


 少女は、僕と目が合うと、あごをくいくいとしていた。それは、何をやれってこと?



「ティアちゃんは、ボクと同じ意見のようだよー」


「えっ? そうなんですか」


「うん、恩を売るチャンスだもんねー」


「あー、なるほど…。でも、権力争いに加担するのは…」


「権力争いというより、相手は魔族だけど魔族じゃないからねー」


「もしかして…」


「うん、もうそろそろ結界が消えると思って、フライングしたんじゃないかなー」


「メトロギウスが倒されると、地底は他の星の奴らに占領されるのじゃ。ドラゴンを支配しようとしておったが、作戦を変えたようじゃ」


「ドラゴン…」


「アダンが防戦に手を貸しておるのじゃ。だからターゲットを変えたようじゃ」


「じゃあ、僕は…」


「ちょうど、ライトには名目があるのじゃ。一番介入しやすいのじゃ」


「あ、クライン様ですね」


「うむ」



 大魔王様は、あちこち念話に忙しいようで、この話は積極的には聞いていなかったようだ。


 まぁ、当然、あてにするわけにもいかないだろうからね。神族に頼ったとなれば、大魔王としての地位を失いかねないだろう。



 また、少女が、あごをくいくいとしている。僕から申し出ろということか。


(違うとは言わないから、当たりだね)


 どうすれば、自然に助っ人ができるんだろう…。



『チビっ子を送ってけば? ついでにホップをもらおーぜ。そろそろ品薄だぜ』


(それだ! リュックくん、天才!)


『いや、普通だろー』




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