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221、湖上の街ワタガシ 〜 街のシンボル塔

「なんだ? あの大きな塔は?」


「湖上に突如現れました。塔のまわりは街になっているようです」


「そもそもなぜ湖の上に? あの湖はマナを吸収していただろう?」


「あの塔や街を作るために、湖がエネルギーを集めていたようです。いまは、あの付近では魔力を吸い取る妙な違和感は消えています」


「もしや、神か、神に準ずる者が作ったか?」


「わかりません。ただ、あの街からは魔族の気配も、人族の気配もあります。それにこの星の住人ではない者の気配や、神族らしき気配も…」


「至急、調査せよ。危険な魔導塔かもしれん」


「はっ!」



 いま、新しい島のあちこちでは、騒ぎが起きていた。突然、島の端に、異常に濃い霧がかかったときから、マナの流れが止まったのだ。


 その霧が晴れると、マナの流れは元に戻り、皆はホッとした。だが、その霧の中から現れた大きな見たこともない塔に、再び大騒ぎになっていたのだ。


 その塔は、誰もが見たことのない素材でできているようだった。しかも太陽の光を浴びてキラキラと光っているが、塔からは魔力を感知できなかったのだ。





「ライトさん、草原を取り巻いていた魔族が、街に偵察隊を送り込んできたようです」


「ペールさん、交戦にならないように気をつけてください。共存の島にしたいというのが女神様の意向です。そのための第一歩が共存できる街です」


「はい、もちろん気をつけます。それから……勝手にお連れしてしまってすみません…」


「あー、あの少女ですか」


「はい、どうしても急ぐのじゃと、我々を強制的に集められまして…」


「はぁ、災難でしたね。しかもこの街に、しばらく張り付くことになってしまいましたね」


「この街の護衛を担当することは、前から決まっていたことなのです。ライトさんには言わないように口止めされていましたが……すみません」


「ん? いや、いいですよ。あの少女の腹黒さはだんだんわかったきましたから」


「あはは、確かに腹黒いですね。でも我々はよく呼び出してもらっています。新人部隊長の俺を育てようとしてくださる配慮には感謝しています」


「よく呼び出し? あ、ペールさん達は潜入捜査が得意だったよね。もしかして…」


「はい、彼女が潜入したい場所に同行し、警護させていただいていました」


「はぁ、お世話は大変でしょ?」


「はい、まだよくわからないことで、怒ったり喜んだりされます…」


「だよね。僕もよくわからない…」


「あはは、それを聞いて安心しました。では、そろそろ警備に戻ります」


「はーい、よろしくね」


 ニコッと笑って、僕の城兵の部隊長ペールさんは、いま来た道を戻っていった。




(さてと…)


 僕は、まだ自分の家がどこにあるのか探せていなかった。


 だが、それよりもまず、精霊の霧の中で、僕のイメージから作り出してしまった建物の確認をすべきだよね。



 僕は、オフィスビルのような11階建のビルの前に立った。全面ガラス張りだが、外から中は丸見えではない。

 ガラスは透明だが、黒っぽい色ガラスなのかな? だから、思いっきり鏡のように自分の姿がしっかり映る。


 入り口は、自動ドアのように見えるんだけど、電気ないよね。真ん前に立っても当然開かない。

 霊体化して通り抜けようかとも思ったけど、それでは建物としての意味がないよね。


(どこかにスイッチあるのかな?)


 自動ドアと同じくセンサーっぽいものがあるが……あ! なんだ? あのボーリングの玉みたいなやつは?


 自動ドアの両脇にある手すりのような場所に、ボーリングの玉を半分に割ったような黒い半玉が埋まっているのを見つけた。


(大きなボタンなのかな?)


 僕は、それに触れた瞬間、ぐんっと魔力を吸いとられる感覚が…。その次の瞬間、半玉は黒光りし始めた。


(まさかの魔力を奪う玉…)


 僕が少し後ずさると、ウィーンと、自動ドアが開いた。電気じゃなくて、魔力で動くのか。


 僕は、自動ドアからビルの中に入った。中はとても明るかった。外からの光はしっかり入ってきている。


「何もないのじゃ」


「わっ! びっくりした!」


「なんじゃ?」


「いつの間に入ってきたんですか」


「いま入ってきたのじゃ。さっき、妾が触れてもこの扉は開かなかったのに、いまは近づいただけで開いたのじゃ」」


「あ、いま魔力を注ぎましたから」


「ちがーう! ライトの家だから鍵がかかっておったのじゃ。あの玉は、妾の魔力も吸ったのじゃ!」


「え? 家探しゲームの後にできた建物ですよ?」


「ライトの家じゃ。この城壁の中とその周りは、ライトの家なんじゃ」


「えっ…」


「皆で使うものになったから、妾も入れると思ったのじゃが、一番最初はライトじゃないと入れないようじゃ」


「え? イメージして作ったものすべてですか?」


「そうじゃ。ここに役所を作ると言っておったが、役所ができて鍵の権利を共有にすれば、役所に管理を任せられるのじゃ」


「じゃあ、そうします」


「うむ。そんなことより、中を探検するのじゃ!」



 そう言うと、少女は、テテテと駆け出した。何? そのワクワクが止まらない走り方…。


 ガランとした内装が施されていない建物内は、とても広く感じた。

 まぁ、ロバタージュのギルドより、外から見た感じでも、フロアの広さは数倍あるようだけど。


 太い柱の一つに、まさかのエレベーターがついていた。その横には階段もある。少女は、エレベーターに気づかず、階段を駆け上がっていった。


(まぁ、エレベーターを知らないと気づくわけないよね)



 エレベーターのボタンを押したが、ボタンは点灯しないし階数表示も出ない。うーん、こいつも電源が入ってないのか…。あ、電気じゃなくて、魔力ね。


 この付近を探すと、柱の横にあった。黒い半玉だ。僕がそれに触れると、ぐんっと魔力を取られた。


 チン!


(あ、エレベーターが来た)


 電源を入れてからボタン押してないんだけどな。少し不思議に思って、エレベーターの前に戻ると少女がボタンを押していた。


(いつの間に?)


 でも、ボタンを押したが、その先がわからないらしく、何度もボタンプッシュばかりしている。その度に、エレベーターの扉が開いていた。


「ライト、なんじゃ? これは」


「エレベーターですよ。上まで行って、階段で降りてきましょうか」


「んん?」



 僕が、エレベーターに乗り込むと、少女も後をついてきた。ごく普通のエレベーターだ。11階のボタンを押して、閉じるボタンを押した。

 閉じるは、なぜか漢字だった。あ、閉じる記号みたいなのも書いてあるけど。


 エレベーターは、スーッと上に上がっていった。スピードはイマイチだな。油圧式かな?


 チン!


 扉が開いた。僕はエレベーターから降りた。少女はなんとも言えない複雑な表情をしていた。


「なぜ、この箱は上に上がったのじゃ? チン! と話すのか? こやつの言葉は、意味が理解できぬ」


「これは機械ですから話さないですよ。着きましたの合図で音が鳴るのです。さっき、魔力を注ぎましたし、それで動いているようです。入り口の自動ドアと同じですよ」


「ふむ…」


(あ、この顔はわかってないよね…)



 少女は、わぉ! と小さな声をあげ、テテテと駆け出した。またワクワクしてるのね。


 僕は少女の後を追って、驚いた。

 この場所は、この街どころか、島全体が見渡せるのではないかと思うくらい360度、絶景だった。


 想像したよりこのオフィスビルは高いみたいだ。この島にはあまり高い山はない。


 この街の位置は、島の端にあることがわかった。三方を海に囲まれている。海にはたくさんの小島があることも、見ることができた。


「ここは指令部にするのか?」


「いえ、展望レストランにしようと思います。こんなに遠くまで見通せると思わなかったから、少し驚きましたが」


「逆に、街の様子はへばりつかねば見えぬな」


 そう言って、少女は窓にへばりついて下を見たり、遠くを見たりしている。


「街の様子なら、4〜5階くらいからの方が見えそうですね」


「しかし、ここをレストランにするとは、大胆な発想じゃ。ここに来れば、島の様子をみなが見ることができるのじゃ」


「じゃあ、お客さん増えそうですね」


「ふむ。まぁ、そうか、これがあると皆が互いに監視できるのじゃ」


「ん? あー、あちこちの様子ですか?」


「うむ。いまどこで戦乱が起こっているか、丸見えじゃ」


「ということは、島のあちこちから、この建物が見えるんですね」


「おそらく、みな、不気味だと不安になっておるじゃろうな。得体の知れない魔導塔にみえるのじゃ」


「な、なるほど…」



 しかし、この島はあちこちで戦乱が起こっている。魔法を使った争いだけでなく、いろいろな小競り合いが見えた。


 その争いの近くには、空に昇るようにマナがふき出していた。マナの奪い合いか…。



 島の景色を堪能した後は、階段で下へと降りていった。10階9階も、島の景色がかなり見える。

 8階あたりからは街の景色も、へばりつかなくても見えるようになってきた。

 5階まで下りると、街の景色しか見えない。



「ふむ。この塔があるから、この街は、ほとんどの島の住人が訪れるのじゃ。宿屋やカフェをたくさん作らねばならぬぞ」


「えっ?」


「それに、治療院も必要じゃ。そうじゃな……困ったときにこの塔に来れば、何でも解決できるようにするのじゃ」


「ん?」


「共存の街にふさわしい塔じゃ!」


「うーん、1階と最上階しか考えてなかったですけど、フロアがかなり広いから……どうしましょう?」



「人手は気にする必要はないのじゃ。地上に散らばっている神族やその子孫で、ヒマな奴らに声をかけてあるのじゃ」


「え? そうなんですか」


「この街は、この星の上に初めて作った神族の街じゃ。みな喜んでおる。湖底の居住区には、すでに数万人集まってきておるのじゃ」


「そ、そんなに?」


「うむ。居住区の引っ越しが落ち着いたら、湖上で仕事をするように言ってあるのじゃ」


「完璧ですね」


「うむ。して、この塔じゃが……うーむ。ギルドは3つは必要じゃな。買取や保管場所も必要じゃ」


「え? 3フロアもですか!」


「うむ。あと治療院も2つある方がよいのじゃ。種族で分けねば、寝首をかく奴も現れるじゃろ」


「あ、確かに。人族と魔族は、フロアを分ける方がいいですね」


「役所は、監視塔の役割と、移住者の手続き、あと兵の詰め所と休憩所かの? 3つくらいか?」


「監視フロア、住人相談の役所フロア、このビルで働く人の休憩所と警備の人の詰め所フロアですね」


「ふむ」


「じゃあ、残りはレストランにしようかな?」



 僕は、1〜3階をギルド、4階を安い定食屋、5〜6階を治療院、7〜9階を役所、10〜11階をレストランに決めた。


 すると、少女はすぐさま念話で伝えたらしく、1階に降りてきたときには、大量の人がいた。


「あとは、任せて次に行くのじゃ。ライトが魔力を注がねばならぬ所は、すべて起動させるのじゃ!」



 僕は、少女……猫耳の少女に化けた女神様に、腕をむんずと掴まれ、強制的に、次へと向かわされたのだった。



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