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220、湖上の街ワタガシ 〜 ライトの妄想が…

 いま、僕は湖上の街の中心にある広場にいるんだ。


 広場の真ん中にある大きな泉を、女神様のむちゃぶりにより、治癒ポーションに変えたところなんだ。


 プールのように広い泉は足湯として、持病や疲れを癒す効果が備わった。泉のオブジェの上の冷泉部分は、その水を飲めば怪我を治す効果がある。


 この島は、戦乱があちこちで起こっているから、怪我を治す泉は重宝されるかもしれないな。




 そして女神様は、チビっ子達や獣人の少女達と、足湯でバタ足の練習をしているようだ。


 足湯だと言ってるのに、少女は服のまま、また肩まで浸かって泳いでいた。チビっ子達も、負けじと必死に泳ぐ練習をしている。


 背の高い獣人の少女達は、ふちに座って足を湯につけてバシャバシャさせ、ニコニコしている。獣人の少女達は、まぁギリギリ正しい使い方ができていた。



 そんな子供達を、大人達は穏やかな表情で眺めている。うん、平和な光景だね。





 さて、僕は、さっき女神様に言われたこの辺りの仕上げをしなければならない。


(世代も種族も関係なく利用できる学校か…)


 これからのこの世界は、女神様が新たな星系を作るとか言ってたけど、他の星との交流が盛んになるのかもしれない。


 青の神ダーラには、まだ狙われているような気がするし、他にもたくさんの侵略者が、機会を狙っているようにも思える。


 どんな未来が待っているのかはわからない。でも、女神様が理想としているのは、すべての人との共存だ。



 この島はマナが濃く、様々な種族のナワバリがある。ということは、この街には、いずれ、多くの種族がやってくるかもしれない。


 すぐそばの草原には、他の星と繋ぐ門ができる。他の星からの訪問者も、この街にやってくるだろう。


 その中で学びたい者を、すべて受け入れることができるようにするには……やはり、いろいろ必要だね。


(うーん、やっぱ、魅力ある街にしたいよね)



 僕は、オシャレな大学をイメージした。ただし、天井の高さには配慮が必要だ。

 体格の大きな種族でも不自由なく動ける開放的なキャンパスをイメージした。個々の教室の内装や、バリア設定などは後から可能なはずだ。


(この精霊の霧がかかっているうちに、僕のイメージを具体化していかなきゃ)



 宿舎も必要だよね。いや、寮かな? これも、学校の近くにあると便利だな。近くに住みたくない人は、離れた場所に部屋を借りればいいんだから。


 あと、スーパーみたいなものがあるといいよね。あちこちにコンビニや他の店になりそうな場所もあったけど、1ヶ所でいろいろ揃うのは、学生としては嬉しいよね。


 スーパーにフードコートを作れば、学食がわりになるんじゃないかな? 学生以外が利用できれば、学生が少なくても潰れる心配はないよね。


(いまは、潰れる心配はいらないか)



 あと、市役所も必要だっけ。これは、城壁の中に作るんだよね。あ、ギルドもある方がいいかな? 誰でもすぐに収入が得られるには、冒険者が一番手っ取り早い。


 ただ、ロバタージュよりも荒くれ者が多く出入りしそうだから、警備しやすい方がいいよね。


 市役所の1階をギルドにすればいいかな。移住の手続きに来て、すぐギルドに登録できるようにしておくと便利だよね。


 ということは、市役所はそれなりの大きさの建物が必要だな。揉め事が起こりがちなギルドは外から見える方がいいかな?


 市役所には、レストランもある方がいいかな?

 この街を見渡せる展望レストランなんていいよね。でもそうするには、建物の高さが必要か。ここは湖の上だから、それは無理かな。


(でも、展望レストランがあるといいな)



 城壁がただの壁というのは、僕としては少し圧迫感を感じる。壁沿いに店が並んでいる方がいいんじゃないかな?


 あ、店のことばかり頭に浮かんでいたけど、材料はどうするんだろう? 湖のまわりの草原は、薬草はあるかもしれないけど、野菜はなさそうだった。


 空きスペースで、野菜を育てる畑があると便利なのかな?


 あと、せっかく湖の上なんだから、湖の水が飲める場所や、なんなら泳げる遊び場所があるのもいいかな?


(ちょっと、注文が多すぎるかなぁ?)




 僕が考えるのをやめると、グラグラと地震が起こった。そして、地面から何かが生えるかのように、にょきにょきと出てきた。


 のんびりと子供達が遊ぶ様子を見ていた大人達は、焦って、地面からのにょきにょきを必死に回避していた。


 一方で、子供達は、この地震に気づかないかのように、キャッキャと遊んでいた。泉の中にいるから、安全だよね。


 僕が立っていた場所の近くも、地面からにょきにょきと生えてきて、僕はとっさにバリアをフル装備した。


(焦った…)




 地震がおさまりホッとしたのもつかの間、僕は再び目の前の光景に焦った。やっちまった感がハンパない。


 泉の横には、どこからどう見てもビルが建っていた。昭和な感じではなく平成な感じのビルだ。


 鉄筋コンクリート造りかな…。しかも、全面ガラス張りの都会的な雰囲気がぷんぷんする、オフィスビルのような建物だ。


 1階は、確かにガラス張りがいいかもと思った。そして展望レストランがあるといいなとも思った。

 でも、この世界には電気がないのに、これを階段で上るのかと想像するだけで疲れる。


(あ、魔法があるからワープできるか…)


 いちにさんし……うん、11階建だね。でも天井の高さは僕の故郷の倍はある。

 だから、高さでいえば、22階建か、それ以上の高さがあることになるよね。



「ライト、なんじゃ、これは?」


「えっと……オフィスビルですかねぇ」


「む? 何をする場所じゃ?」


「1階にはギルドかなぁと…。一番上は展望レストランで、あとは役所とか兵の詰め所とかいろいろ…」


「なっ? これは、ライトの故郷の城なのか?」


「城ではなくて、都会にはよくある建物で…」


「とかい? ふむ……。で、あれは何じゃ?」



 少女が指差す先には、城壁の上に飛び出たスーパーらしき看板。店名はまだ入っていないが、派手な電飾が…。ん? 電飾? 電気ないよね?


「あれは、スーパーですね。いろいろな店が集まっていて、庶民の味方の安売り店です」


「ふむ。派手な飾りじゃな…。では、あれは、アパートか?」


 城壁の上から少し出ている建物、これはこの世界によくある石造りで安心した。でも、かなりの数だな…。何棟あるんだろう?


「はい、主に学生用の寮というか、アパートです」


「ふむ。して、学校も完全に作り直したのじゃな。仮に作ってあったものとは、別物になっておる」


「身体の大きな学生も来るかもしれないので、少し大きくしました」


「少しではないのじゃ。まぁよい、訓練施設は、学生も住人も共用にすればよいだけじゃ」



 全体をくるりと見渡し、不思議そうにしていた少女だったが、だんだんその目は輝いてきた。


(また、何か変な遊びを思いついたのかな…)


「遊びではないのじゃ、この街が気に入ったのじゃ! 街の中なのに、あちこちに畑ができたり、水場があったりして不思議なのじゃ」


「え、あ、はぁ」



 そういえば、ロバタージュも女神様の城の居住区も、その街の中には、畑も街路樹も水場もないよね。


 公園くらいはあったけど…。そういえば、草木で街を飾る文化はないみたいだな。



 女神様は、すんなり受け入れてくれたけど、他の人達は大混乱中だった。


 ガラス張りのビルが特に怖いらしい。


 近づいて、自分達の姿がガラスに映るとビクッとしている。下手すると、ガラスを攻撃する人も出てくるかもしれないな…。




「さぁて、さっきの競争の1位を発表するよー」


 あちこち飛び回って見ていたヲカシノ様だったが、見学が終わったようで、発表することを思い出したようだ。


 この街の様子に、オロオロしていた人達も、ヲカシノ様の声で、ハッと我に返ったようだ。


 一方で、少女は急に不機嫌になっていた。


(あー、さっきから機嫌悪そうだったのはこれか)



「家探し一番乗りは、クラインとルーシーだよ〜! みんな拍手〜」


 パチパチパチパチ


(えっ! チビっ子ふたりなんだ)


 ふたりはハイタッチをした後、腕をぶんぶん振っている。ふふっ、ノリノリでニッコニコだね。


「この街の中には建てても維持できないから、草原でいいかな?」


「うん、いいよー」


「うん、いいよー」


「キミたちの家ができたら、それがボクにも、いい目印になるよ。さすがに、自分の魔力で作った家の場所なら、どこからでも探せるよ」



 その話を聞き、僕もベアトスさんもホッとした。


 ヲカシノ山からこの島の草原へ、いちいち連れて行けと呼ばれるのもつらいもんね。



 チビっ子達は、ヲカシノ様となにやら打ち合わせを始めたようだ。あれ? そういえば、ルー様を見ないな。あ、この大勢の中に混ざるわけないか。


 湖底の街も同時にできたようだから、きっと、そっちに行ってるんだろうな。



「霧がそろそろ晴れるのじゃ。湖を取り囲む奴らがなだれ込むかもしれぬ。あとは、ライトが話すのじゃ」


(えっ? 急にふられても…)


 だけど、みんなの視線が僕に集まっていた。これは、街の方針などの話が必要かな?


「えっと、みなさん、この街は種族関係なく、共に暮らす街を目指したいと思います。街に移住したい人は、なるべく積極的に受け入れますから、よろしくお願いします」


「霧が晴れたら、ヒマな助っ人がたくさんくるのじゃ。ライトは何もわかっておらぬから、手続きは助っ人に聞くのじゃ」


(ちょっと……まぁ、事実だけど…)


「まだ家を見つけていない者は、早目に探すのじゃ。では、そろそろなのじゃ」


 そう少女が言った瞬間、スーッと霧が晴れた。


(えっ! 僕、まだ家、探してないじゃん)


「湖は、これまでは街を作るエネルギー集めのためにマナを吸収しておったが、いまはもうただの湖じゃ。なので、ここへの転移も邪魔はされないはずじゃ」


 それを聞いて、わっと皆がわいていた。確かに魔力を吸い取る湖の上で暮らすのはコワイもんね。


「皆さん、新しい街を楽しみましょう。では、解散します」


 僕の締めの言葉を聞いて、皆は、あちこちに散っていった。ほとんどは、家探しに行ったようだ。



 草原から、たくさんの人が街に入ってきた。躊躇なく入ってきたことから、おそらく女神様が言う助っ人だろう。



 しかし、女神様は、エネルギー集めと言いながら、本当の目的は、湖を他の種族に占領されないために、皆が避ける環境を作り出していたんだよね。


 女神様の腹黒さが少しわかった気がする。


「ライト、妾は腹黒いのではない。当たり前の策略じゃ。甘っちょろいことでは、統治はできぬのじゃ」


「えっ、あ、まぁ……そうですね。しかし、なぜ直接この島に来られたのですか? 直接干渉しない主義では?」


「それは女神の方針じゃ。妾はティアじゃ」


「もしかして、ティア様としてずっと…」


「ちがーう! ティアちゃんじゃ!」


 そういうと、彼女はニッと笑った。


(こ、これは、肯定だよね…)



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