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217、名もなき島 〜 どどーん!

「ヲカシノ様、どうでもいいというのは…」


「ふぉっほっ、確かにどうでもいいことですな。新しい島は、新しいルールで、ということですな」


「そそ、この島は、女神様のリベンジなんだからさー。あの国を戦乱が終わらない国にした責任を感じてるなら、この島ではおとなしくすることだねー」


「ほんとに、女神様にはしてやられましたな。湖にライトさん、そのまわりを戦闘狂の精霊に守らせるということは……湖に作る街は、もしや神族の街ですかな」


「何も聞いてないんだねー。この草原には他の星とを繋ぐ門を作るらしいよー。だからボクが担当するんだって」


「えっ! この島に門ですか! なんと…」


 それを聞いた魔族も、フリード王子達にも、衝撃が走ったようだ。みな、とんでもなく驚いていた。


 ざわざわと、いろいろな声が聞こえてくる。ほとんどが、否定的な、危険視するような声だった。



「ライトさん、これは事実ですか?」


「ハンスさん、僕も具体的にはわからないのですが、そうみたいです」


「そうすると、湖に作る街は……侵略されないように湖底に作るのですね。草原の周辺は、外から来た奴らに侵略されるリスクが……それをクラインが守るのは…」


(ん? ハンスさんがビビっている?)


「湖のあたりは、魔力を奪われるような地になっているのは、そのためですかな。外からの訪問者の力を削ぐことができる。草原との境に、悪魔族の壁があるのは、わしらにも好都合だ」



 さっきまでは、この地をめぐって争奪戦をしていたのに、ころっと態度が変わるんだな。


 それだけ、他の星と繋ぐ門というのは危険なんだろう。


 そして、草原に降り立った他の星の奴らが向かう先はと考えると、自分達にふりかかるリスクが大きいことは、容易に推測できる。


 他の星からの訪問者は、普通に考えれば、すぐ近くの湖には足が向かないと考えられる。


 湖底に作られた街は、結界やバリアで侵入を阻止することで、簡単に入ることなんてできないのだから。




 突然、ブワッと強い風が吹いた。そして、湖側の空間がグニャリと歪んだ。また転移渦だ。


 中から出てきたメンツに、僕は驚いた。驚いたというより、見間違えかと、二度見したくらいだ。


 リュックくんが、僕の肩にスッと戻ってきた。顔を合わせたくないのだろうか。


 一番最初に飛び出してきたのは、10歳前後に見える猫耳の少女だった。その後から、アイドルのような服を着た人達が次々と出てきた。



 フリード王子が、僕のすぐそばに移動してきた。


「ライト、なぜ女神様の軍隊が…? 我々の争いをおさめに来られたのか?」


 フリード王子の顔色は悪い。そうか、女神様の軍隊は、何かの制圧のために動くイメージがあるんだ。


「どうでしょう? ただ、あのメンバーは、戦闘系じゃないんですよね」


「えっ? 制圧に来たんじゃないのか? あ、そういえば、少女も一緒か…。あの少女は神族なのか?」


「彼女は神族ではないですね…。説明が難しいです。それに、なぜあのメンバーなのか、僕もわからないです。嫌な予感しかしません…」


「えっ……嫌な予感というのは…」


「あー、フリード王子、そういう意味ではありません。彼らは、僕の部隊です」


「えっ!? ライト、あ、えっ?」


「地上や地底を担当する番犬には、自分の城兵がいるんですよ。と言っても、部隊長が指揮をとるので、僕はほとんど放置してますけど」


「そ、そうなのか。たくさんの兵が?」


「全員来てます、僕の兵も部隊長も」


「えっ? 20人くらいしかいないのか?」


「はい、そうですよ」



 そんな話をしていると、転移渦から出てきた少女は、精霊ルー様の方へと走っていった。


 そこには、ルーシー様もいる。ルー様も少女も、見た目はルーシー様と近く見える、あくまでも見た目だけだが。なんやかんやと、女子トークでもしているのだろうか?


 しかし、あの少女は、いったい何をしに来たのだろう? 地上への直接の干渉はしない主義だったんじゃないの?


 魔族は、僕の部隊にくぎ付けになっていて、少女の行動は気にもしていないようだった。ただ、タトルーク様だけは、首をひねっているようだが…。



 僕が少女の行動について考えていると、部隊長ペールさんが、僕の前にきて敬礼をした。


「ライトさん、準備はすべて整いました」


「ん? 何の準備かな?」


 ペールさんは、フリード王子をチラ見した後、少し沈黙している。これは指示を仰ぐ念話中かな?


「ライト、私がいるとマズイなら外すが」


「いえ、予想はついています。そしてこの場にフリード王子がいるということは、知っておいてもらうべきだとの判断です」


「えっと…? なんだか妙な言い方だな。まるで私達がこの場に導かれたかのような…。ここに来たのは偶然だぞ? この島はマナが不安定だから転移が難しいんだ。だから、転移先が少しズレてしまったのだ」


「あー、それは、干渉してズラされたのかもしれませんね。なるほど、そこから仕組んでいたとは…」


(リュックくんが言うように、腹黒いね…)


「ライトさん、根回しが終わったら、どどーんと始めるそうです」


「何を始めるのか聞いてないんだよね。だいたい予想はつくけど…」


「開始の指示をお願いします」


「えっ? 僕が?」


「はい、この場にいる責任者は、ライトさんですから」


「あの少女の、立ち位置はどうなってるの?」


「えーっと……謎の猫だそうです。あ、じゃなくて、謎の美少女だそうです」


「はぁ、わかりました。お名前はティア様ですか?」


「いえ、ティアちゃんだそうです。ちゃん付けにしないと、蹴りがはいりますからご注意ください」


「はぁ……バリア張らなきゃ」



 フリード王子は、聞いていいか迷っているようだったが、顔にティアちゃんって何者? と書いてあるようだった。


 僕は、ペールさんをチラ見し、少女の方も見てみた。少女は、いつの間にか、タトルーク様に絡んでいるようだった。うん、良さそうだな。


「フリード王子、あの少女は、女神様の……まぁ分身のようなものなんです」


「えっ!? イロハカルティア様?」


「フリードさん、女神様は眠っておられます。女神様の城で飼っておられる猫です。と言っても人族のペットとは違いますが」


「あ、飼い猫…。獣人ですか?」


「いろいろなものに化ける、化け猫ですね」


「ライトさん、そんな風に言うと…」



 その瞬間、ふわっと、風が吹いた。


(げっ…)


「ライト! 誰が化け猫じゃ? 化け猫は、バケモノのことじゃろ」


 僕は、バリアをフル装備かけた。


「な? 何をしておる」


「ティア様、いったい何事ですか? 僕は何も聞いてないんですけど」


「ちがーう! ティアちゃんじゃ。何度教えれば覚えるのじゃ」


「はぁ、ちゃん付けしないと蹴りを入れると聞きましたが、本当ですか?」


「なっ? なんじゃ、まるで妾が悪いような言い方をしおって…」


「ティア様が悪いですよ」


「ちがーう! ティアちゃんじゃ!!」


(はぁ……リュックくん、なんとかして)


『無理、オレにふるな』


(はぁ…)


「男のくせにコソコソ話しおって…」


「それ、差別発言ですからねっ」


「な? なんじゃと!」



 僕達が、めちゃくちゃつまらないことで言い合いになっているのを、フリード王子は楽しそうに見ている。


 いつの間にか、遠巻きに魔族も、そしてケンカを止めに来ようかと迷っているクライン様も、離れた場所にいたベアトスさんや獣人の女の子達も、僕達に注目していた。


 そして、精霊ふたりと、ルーシー様がこちらの騒ぎに注目したところで、少女は、ふむと頷いた。



「皆の目が、こちらに向いたのじゃ。ライト、宣言をするのじゃ」


「はぁ……何かわかりませんが、始めるのですね?」


「どどーんと、始めるのじゃ」


「わかりました。では、開始の宣言をします……はぁ、知りませんからね」


「妾に任せるのじゃ!」




 突然ふわりと吹いた風がやわらかな光となり、この辺り一帯を、まるでベールをかぶせたように包んだ。


「ここにおる者は、すべて、ライトの協力者となるか? ライトと敵対するかもしれない者は、この光のベールの外に出よ。何もとがめぬから心配はいらぬ」


 少女が、突然偉そうに話し始めたことに、カチンときた魔族もいた。

 だが、タトルーク様がそれを制したことから、この少女の地位が高いことを悟ったらしい。


 少し待っても、光のベールから出る者はいなかった。


「ふむ。みな、ライトに協力するのじゃな? この島の治安を守るのじゃな?」


 そう言われて、一人、二人と、光のベールから外に出ていく者が現れた。結局、ふたつの種族が抜けたようだ。


「他にはおらぬか?」


 迷っているような種族もいたが、タトルーク様が動くそぶりを見せなかったことから、踏み止まったようだ。


「ふむ。意外と多いのじゃ。では行くのじゃ」


 少女がそう言うと、光のベールが黄色く強い光を放った。僕はまぶしすぎて、思わず目を閉じた。

 そして目を開けたときには、僕達は、山と草原の境から、湖のほとりに移動していた。


 さらに、光のベールは、湖の方へとどんどん広がっていき、広い湖をすっぽり覆ってしまったようだ。



「さぁ、始めるのじゃ!」


 うわぁ! 僕は思わず叫んでいた。僕だけじゃない、ここに移動したほぼ全員が驚いていた。


「キレイ…」


 ルーシー様は、うっとりとその光景を眺めている。その横ではクライン様が、しっかりとルーシー様のガードをしている。


(ふふっ、クライン様、紳士だね)



 光のベールに向かって、湖から細い無数の水柱が上がった。そして舞い上がった水が、キラキラと輝きながら、まるで生きているかのように何かを形作っていった。


 光がだんだん強くなり、白くなってきた。視界は幻想的な霧の中にいるかのような、不思議な気分になった。


 僕の視界の端でピンクの何かが見えた。あ、ルー様だ。


 ルー様も、何かを放っている。キラキラと輝く水に氷の結晶のようなものが混ざり、やはり強い光の中で何かができていくようだった。


 そして、草原からも、キラキラしたものが浮かび上がり、湖の上へと取り込まれていくようだった。光で見えないけど、これはヲカシノ様が放ったのかな。



「ふむ。なかなか良い出来じゃ」



 強い光がより一層強くなり、そしてパーンと弾けるように消え去った。僕は一瞬、目がチカチカくらくらした。


 視界が戻ってくると、僕の目には想像とは違うものが映った。僕は、やはり二度見していた。


 そこには、さっきの、どどーん! という効果音が似合う景色が広がっていた。


 湖の上いっぱいに、大きな街が出来上がっていたんだ。


 ロバタージュと同じくらいの広さがあるんじゃないかな? もっと広いかな?


(あれ? 湖底じゃなかったの?)



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