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214、名もなき島 〜 出番のない彼

「おい、亀も協力しろ! 侵略者を排除するんだ」


「ここは、巨亀族の地だ。侵略者はおまえ達の方だ。この人族は、知らずにこの地に足を踏み入れただけだと言っていたじゃないか」


「話がややこしい。強き者が、この地を得ればいいだけではないか」


「これより、この地の支配権の争奪戦だ。人族から奪い取るのだ」


「だから、この地は人族に奪われてはいない! 巨亀族の地だ!」



 魔族の争いに僕はうんざりしていた。


 さっきは、知らずに立ち入ったと言っても信じなかったくせに、他の魔族に支配地を狙われると、コロッと態度を変えている。誇り高き巨亀族と言っていた、その誇りとは何なんだ?



 僕は、いま、たぶん覚醒状態だ。目に映る景色が青く染まっている。氷のクリスタルの中で覚醒したときも、景色が青く染まったんだ。


 僕は、スピードの調整を覚え、雷雲が竜になり、暴走戦闘力の見せ方もわかった。

 暴走戦闘力を隠していた何かがパリンと割れて、僕のまわりの闇が青く輝いている。なぜ青くなったんだろう? ま、いっか。


 あとは、どの程度の戦闘力があるのか、それを知る必要がある。たぶん暴走時と同じなのはわかっている。


 だけど、暴走時は怒りにとらわれて何も考えられなかったけど、今はとても冷静だ。

 同じ戦闘力でも、使い方を変えれば、少ないエネルギーで大きな効果を得られるはずだ。



「あんなバケモノをどうやって倒すんだ?」


「連携して、この地は共有にするか」


「この地は、巨亀族のものだ! おまえ達には渡さない」



 そして僕が竜を出し、魔人まで出てきたというこの状況は、奴らにとっては、驚きの連続だっただろう。


 僕が暴走戦闘力を見せれば、奴らは逃げ出すかと思ったが、これでもまだ諦める気配はない。


 それに、この口論もそろそろ限界のようだ。ジリジリと互いに睨み合い、牽制しあっているが…。



『ライト、やっぱ、ショータイムだぜ』


『翔太、覚醒して安定したチカラを試そうぜ』


『はぁ、リュックくんもライトも……ちょっと血の気が多いよ?』


『だが、くるぞ。ガツンとビビらせねーと、終わらねーぞ』


『さっきの翔太の見せ方は上手かったと思う』


『そうだな。笑いながらコワイことを、こんなガキが言うと、めちゃくちゃ効果あるみてーだな』


『リュックくん、一言よけいだよ。僕は子供じゃないから』


『そうだな、翔太は…というか、俺は生きていればもう18歳だ』


『えっ? そうなの?』


『俺は誕生日の前日に死んだからな』


『じゃあ、これからは、年齢を聞かれたら18歳って言うことにするよ』


『おーい、おまえら、くるぞ!』




 魔族は、あちこちから一気に僕に向かってきた。分散するかと思ったのに、僕一点狙いなんだ。


 僕は、青く光る闇を放出した。僕に向かってきた奴らの動きが止まる。そこに、黒い竜が雷撃を吐いた。


「クッ、な、なんだこの青い光は! う、動けねぇ、ガハッ」



 そう、僕が拘束し、ライトが雷撃を吐いたんだ。襲いかかってきた奴らが、雷撃に弾き飛ばされるようにバタバタと倒れていった。


 雷撃を受けなかった奴らは、その場に立ちつくしていた。あ、いや、僕が闇で拘束してるんだった。


 奴らの顔は、恐怖でゆがんでいた。まるで得体の知れないバケモノを見るような目で、僕を見ていた。


 僕は拘束しただけで、雷撃を吐いたのはライトなのに…。誰も、黒い竜は見ていない。そっか、竜の形をしているけど、闇雲だから生体反応がないのか。



『オレ、出番ねーんだけど』


『魔人は、いるだけでビビらせるから、いいんじゃないか?』


『オレ、完全に、客寄せパンダじゃねーか』



 僕は、倒れた奴らのゲージサーチをした。うわっ、全員、赤色……しかもゲージは短く瀕死の状態だ。


(ちょっと、ライト、やりすぎでしょ)



「はぁ、貴方達、この程度でこのザマですか。僕は、まだほとんど何もしていないのに…」


 僕は、あまりにも呆れたという顔を作った。そして、ライトが雷撃で倒した奴らに回復を唱えた。


 でも、僕が回復したのに、なぜか逆に怖がられてしまったようだ。ガタガタと震えている者もいる。


 なぜなのかと、威勢のよかった獣系の魔族の方を振り返ると、奴も額に汗をにじませ、顔をひきつらせていた。


(何? この変な空気…。僕が悪者みたいじゃん)




 突然、少し離れた山のふもとの景色がグニャリと歪んだ。これは、転移の渦か…。また、援軍?


 そして、転移してきたのは老人ふたりだった。彼らは、瞬く間に、僕の目の前に移動してきた。


「ライトさん、そろそろ勘弁してやってもらえませんかな?」


「あ、タトルークさん?」


「ええ、爺ですよ。ウチの若い子がご迷惑をおかけして…」


 そう言うと、爺さんのひとりが、巨亀族のリーダーをこの場にワープさせた。


「ろ、老師様、あ、あの……き、危険です。コイツは、バケモノです。魔人も従えているようで…」


「馬鹿者!! ライトさんには、絶対に刃向かうなと言ったであろう! わしらはライトさんに恩があるのだ」


「えっ、それは、大魔王様が警戒している死霊のことでは?」


「それが、彼だ。うっかり者のライトには気をつけよと…」


「あー!! そうだ、あの死霊の名はライト! まさか、こんな所で遭遇するなんて…」



 元大魔王タトルーク老師の登場に、巨亀族はもちろん、他の魔族も、また、遠巻きに見ていた人達も驚いたようだった。


 そして、僕の言われたくない二つ名、うっかり者の死霊、という言葉で、魔族達は、僕のことを大魔王を警戒させる死霊だと気づいた。そのため、さらに怖れ、恐怖でおかしくなる者も出てきた。



「なんだか、僕が悪者みたいですね。魔族が異常に怖がっているのは、大魔王様の妙な噂のせいですね」


「ふっ、何を言ってるのやら。覚醒したようですな。奴らの拘束も解いてやってください。もう、刃向かう気力なんて微塵もないでしょうからな」


「あ、拘束したままでしたね。忘れてました」



 僕は、闇を回収した。青く光る闇を戻すと、竜の形をしていた闇雲も僕の中にスッと戻ってきた。


 そして、目を閉じてふぅ〜っと深呼吸をした。目を開けると、目に映る景色に色が戻ってきた。やっぱ、こっちの方がいいね。


 赤から戻ったときほどの違いはないけど、やはり青く染まっていたときは、見える景色は少し違和感があったんだよね。



 僕が覚醒状態を解除すると、まわりの張り詰めていた空気感が一気にゆるむのを感じた。


 でも、僕が目を向けると、ギクッとした顔をするんだよね…。



「その状態は、以前お会いしたときと、あまり変わりませんな。完全に覚醒状態の能力が隠れている」


「そうですか? なんか覚醒失敗したかもしれないんですよね」


「いや、逆でしょう? しかし、いいものを見せてもらいましたな。メトロギウスは、ライトさんのその戦闘力を見てはいないのでしょうな」


「だいぶ、お会いしてませんからね」


「その戦闘力を知れば、ライトさんに気をつけろではなく、近づくなというおふれが出そうですね」


「いや、それってバケモノ扱いしていませんか?」


「ふっふっふ、女神様の番犬が全員戦闘系だと、今日やっと確信できましたよ」


「そうですか。まぁ、僕は基本、回復役ですけどね」


「おー、そうそう、回復のお礼を言わねばと思ってましたが。トシのせいか忘れっぽいものでな」


「少し若返りました?」


「数千年分くらいは、若返ったようだが、動くと一気にトシをとるようですな」


「無理はなさらないでくださいね」


「そう言ってくれるのは、城の治療院の先生と、ライトさんだけだよ。みんな、早くくたばれと思っておるようでな」


「老師様、誰もそんなことは思っておりません」



 巨亀族のリーダーは、必死に否定していた。タトルーク様を見る目はキラキラと輝いている。その言葉に嘘はないのだろう。



「そうか? まぁよい。それより、この地ですがな。ライトさんの支配地になさいますか?」


「へ? 僕ですか?」


「ライトさんが支配されるなら、誰も文句は言わないでしょう。力こそ全て、が、我々魔族の常識ですからな」


 僕は、タトルーク様の言葉に少し違和感を感じた。なんだろう? 何を言わせたいんだろう。



「爺さん、それは、卑怯じゃねーの? 混乱の地は、もう支配権は誰にもない。ライトに、おまえらの地だと言わせたいんだろ?」


「リュックくん、突然、何を…」


「はぁ、これだから女神様の分身は嫌いなんですよね。まだ、わしらの罪を…」


「おまえのせいで、あの国は今も戦乱が続いてるんじゃねーか、元大魔王タトルーク」


「リュックくん、過ぎたことをいつまでも言ってちゃダメだよ。タトルーク様も、もう同じ過ちはなさらない」


「ありゃりゃ、これはまた、厳しいことをおっしゃる…」


(ん? 僕、何か変なこと言った?)



 すると突然、爺さんは二人とも、僕の前でひざまずき、頭を下げた。


「えっ? あの…」


「ライトさん、いえ、ライト様。わしらは、決して貴方の邪魔は致しません。この島のことには、全力で協力すると誓いまする」


「あ、はい」


「ふっ、あの腹黒女神には、してやられましたな」


「は?」


「わしらが生き延びるには、ライトさんの治癒力が必要だ。あまりにも甘美な蜜を与えられたら、手放せるわけがありませんからな」


「寿命のことですか」


「ええ、ライトさんと敵対したり、ライトさんが消滅すると、わしらは寿命が来ることを怖れる日々が始まる。永遠に生きたければ、貴方に味方するしかないんですよ」



 この様子を見守っていた人達や、魔族達は、老師がひざまずく姿に呆然としていた。


 僕は、老人を虐待しているように見えそうで、この状況に耐えられなくなってきた。



「タトルーク様、もういいですから、立ってください。みんなが見てますよ」


「ふっ、無様な老人だと思われてしまいますな」


 そう言うと、彼らは同時にスッと立ち上がって、まわりをグルリと見渡した。人の姿だと二人に分かれるけど、亀の姿だと双頭亀一体だったよね。


 そのときのまわりの反応から、彼が今もかなりの力を持っていることが簡単に推測できた。


(まぁ、元大魔王だもんね)



「この地のことですがな…」


 タトルーク様は、そう言いかけて口を閉ざした。ん? あ! すぐ近くの空間がグニャリと歪んでいる。


(何? また魔族?)


 すると、その歪みから出てきた人達に、僕はめちゃくちゃ驚いた。


 その中のひとりが、僕の前にパタパタとかけてきて、僕を背にかばいタトルーク様に向き合った。


「ライトをいじめちゃダメー」


 少し遅れてきた人もそれを真似た。


「ライトをいじめちゃダメー」


 まさかのチビっ子の登場に、元大魔王は言葉を失っていた。



「クライン様、ルーシー様、お久しぶりです」


「うん。ライト、俺がなんとかしてやるから安心しろ」


「そーよ、そーよ」


「はい、ありがとうございます」


(クライン様、かっこいい〜)



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