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213、名もなき島 〜 ショータイム

「な、なんだ? 闇使いだと?」


 いま、僕のまわりには闇が溢れていた。しかも、僕の視界が赤く染まっている。

 巨亀族の、見せしめに潰すという言葉にカチンときた僕は、いま暴走状態だった。


 精霊ルー様に覚醒させてもらったはずなのに、暴走してしまっているんだ。そっか、失敗したかもしれないって言ってたっけ…。




『おーい、覚醒したからって強くなったわけでも暴走しないわけでもねーぞ』


(リュックくん、でも氷のクリスタルは……あ、電池か)


『おまえ、自分で電池を積むだけだって、ずっと言ってたじゃねーか』


(そうだったよね…)


『ただ、その電池のおかげで、頭の中は冷静なんじゃねーか』


(確かに、今までで一番冷静かもしれない)


『なら、自分のチカラ、自分で操れるよな?』


(あ、たぶん…)


『落ち着いて相手を見ろ。オーバーキル狙うんじゃねーぞ。最小エネルギーで最大効果を狙え』


(む、難しいよ、リュックくん)


『戦い方はもうわかっているだろー? あとは自分のチカラを知ることだ』


(や、やってみる)



 僕は、目を閉じ、ふぅ〜っと息を吐いた。そして、ゆっくり深呼吸をして、目を開けた。


 僕の目に映る景色は、青く染まっていた。これって、覚醒の時に見た色だ。



「なんだ? おまえ。一瞬、戦闘力が上がったかと思ったが、幻術か?」


(えっ? 戦闘力が下がった?)


『おーい、何度同じことを言えばいーんだ? 強くなったわけでも暴走しないわけでもない。つまり、弱くなったわけでもねーよ』


(えっ、でも…)


『隠れただけだろーな。暴走戦闘力の透明化ってとこじゃねーか』


(わ、わかった)


『くるぞ!』




 彼らは、一斉に斬りかかってきた。さっき小競り合いをしていた十数人が皆、僕に向かってきていた。


(えっ? あれ? 遅い)


 亀だからかと思ったが、違う。いくらなんでもスローモーションで走ってくるわけがない。そうだった、暴走時は、敵の動きがゆっくりに見えるんだった。


 僕は、彼らの方へと走った。そして、直前で横に飛び、彼らの背後に回った。すると、彼らは僕を見失い、消えたと騒いでいる。


 僕は、見せしめにと言っていたリーダー格の男の背後にまわり、声をかけた。


「貴方、何してるんですか? 僕は後ろにいますよ。声をかけずに、背後から斬りつけてもよかったんですけど」


 すると、リーダー格の男は後ろを振り返って、驚いた顔をしている。


「ワープか…。こざかしい」


 そして、僕の近くにいた奴らが、こちらに向かってきた。やはりスローモーションだ。話をするときは少し遅めくらいなのにな。


『おまえが自分でスピード調整してるだけだろーが。無意識みたいだけどなー』


(えっ? そうなの? わっ!)


 気を緩めると、奴らのスピードが上がったように見えた。僕は、奴らの動きに集中した。

 すると、またスローモーションになり、僕は彼らの剣をすべて避けることができた。


(なんとなく、スピードはわかってきたよ)


『次々と来るぞ』


(うん、大丈夫)


 僕は、奴らの剣をすべて避けた。すると、奴らはだんだん苛立ち始めたようだ。それでも、斬りかかるのをやめなかった。




 リーダー格の男が何かの合図をすると、草原側にいた奴らは、僕に背を向け、フリード王子達の方へと走っていった。


 フリード王子達が迎撃態勢をとると、彼らは大きな亀の姿に変わった。そしてそのまま、ふみ潰そうとするかのように突撃していった。


(えっ!)


 僕は、斬りかかってくる奴らを避けることに手一杯で、対応が遅れた。


 ドドドドドーン!


 巨大亀の数体に蹴散らされるような形で、王宮の調査隊の多くは草原まで飛ばされ、その衝撃で動けなくなった者もいた。


 ブワン〜


 突然、大気が揺れた。すると、草原との境界線になにか光るものが現れた。

 巨大亀達は、その光る何かに、ガチンと当たり次々とひっくり返っていた。


(あ、ヲカシノ様の結界か)


 草原の境界線に、ヲカシノ様がニヤニヤ笑いながら立っていた。そうか、草原はヲカシノ様の守るテリトリーだ。


「チッ! アイツはもしかしたら…」


「草原は、ボクのナワバリだからねー。草花をそんなデカイ亀に踏み荒らされるのは嫌なんだよねー」



 すると、巨大亀達は、草原に飛ばされなかった人達に、ターゲットを変えた。その先にはフリード王子もいる。


 ヲカシノ様は、ニヤニヤしているだけだった。草原以外の場所は、静観する気なのか。


 僕は、斬りかかる奴らを避けながら、フリード王子達にドーム状のわらび餅バリアを張った。


 巨大亀達の突撃は、わらび餅バリアが、ぷよーんと弾いた。弾かれた奴らはまたひっくり返っていた。




 だが、避けたり、バリアを張ったり…という程度では、やはり奴らは諦めなかった。


「逃げることしかできないのだな」


「避けている間に、貴方達が諦めるかと思ってたんですが……援軍を呼んだんですか」


「何? チッ、勝手に嗅ぎつけてきやがったんだ」



 山の方から、いくつものグループがこちらへと近づいてきた。援軍じゃないなら、何なの?



「面白そうなことをしてるじゃねぇか。のろまな亀では、人族を踏み潰すこともできないらしいな」


「そのケンカの相手、誰なんだ? なんか、見覚えのあるような、ないような…」


「我々の獲物だ。邪魔するな! 散れ!」


「はぁ? だいたいこの地を亀なんかが占領しているのが間違いなんだ。おまえらは、地底に帰れ」


「もう我々のナワバリだ。大魔王様も、ナワバリ争いに終結のおふれを出されたではないか!」


「だが、人族や他の星の奴らに奪われた地を、奪い返すのは自由だ。その人族に取られたんだろう? それなら、そいつらを倒せば、この地は倒した者の地だ」


「ふざけるな! ここは巨亀族の地だ」



 僕は、この島の現状を目の当たりにして、ちょっと衝撃を受けていた。隙あらば、その地を狙おうという戦乱状態…。


 この島は、女神様がすべての種族が共存できるようにと願って作った場所だ。

 だけど、もう一つの国のように戦乱状態が続くのなら、共存の地とは言えない。


 この島に神族の街をつくるということが、女神様の考えた解決策なのだ。だととすると、その街の長となる僕が担うべきことは…。



『はぁ、どんどん集まってくるな』


(リュックくん、なぜ、こんなすぐに集まってくるの?)


『互いに偵察しているのもあるだろーが、意図的に、情報を流してるみてーだな』


(えっ? 誰が? 大魔王様?)


『いや、もっと腹黒いやつだ』


(えっ? 他の星の神々?)


『おしいな、この星の神だ』


(ん? 下級神?)


『いや、女神だな』


(へ? なんで?)


『あのヲカシノがニヤニヤしてることからも、これはある意味、ショータイムだ』


(ショータイム?)


『客寄せパンダになった気分だぜ』


(リュックくんが、ショーをするの?)


『は? 主役は、おまえだろーが。まぁ、オレも出てこいってことだろーな』


(なんで?)


『最初が肝心だ。この湖の長には、逆らえないと思わせる必要があるからな。そのために仕組まれたショータイムだろーな』


(えっ……そんなこと聞いてない)


『聞いてたら、断るだろう? だから知らされてねーんだよ。ベアトスも知ってた顔してるぜ』


(口止めされてたってところかな…)


『だろーな。そもそも、ヲカシノのとこに行って、ここに来るのも、全部ベアトスの提案だろ?』


(あ、うん。なぜ僕も一緒になのか、わからなかったんだよね)


『女神からの指示だと考えれば…』


(めちゃくちゃしっくりくるね)


『だろ? はぁ、魔人化してから女神の思考が見えにくくなったんだよな』


(別人格になったからかな?)


『たぶんな。それに、女神は星の再生魔法以降、成長してるからな。それも原因かもしれねーな』


(女神様の魔力が高くなって、できることが増えてきたから、自分の分身にも思考を隠した?)


『ただでさえ腹黒いのに、ますます腹黒くなったんじゃねーか? はぁ…』


(あんまり、腹黒い印象はないんだけど…)


『それは、アイツの腹の中を知らねーからだよ』


(女神様のお腹の中……って言われると、パフェで埋めつくされているイメージしかない)


『あっそ。それより、アイツらのケンカが落ちついたみたいだぜ。来るぞ』


(えっ? あ、うん)


『派手に暴れるかー』


(暴れるの?)


『絶対逆らえないと思わせねーと、意味ねーぞ』


(うーん…)




 魔族が、次々と集まってきていて、いつの間にか、僕はグルリと取り囲まれていた。


「くっくっく、アイツ、ビビって動けないんじゃねぇか? 早い者勝ちだな」


「なんだか、かわいそうな気もするけど、この島にノコノコとやってきた少年が悪いのよね〜」


「亀はノロいからな、俺ならあんな奴…」



 僕は彼らを見渡した。トカゲ、鳥、熊、あとはよくわからないな。獣系が多いようだけど、悪魔やアンデッド系はいない。



 僕は、剣を持つ手に力を込めた。殺したら、あとで蘇生すればいいんだ。最初が肝心、か…。よし!



 奴らが、一気に僕に向かってきた。僕は集中力を高めた。そして奴らに向けて、剣を横一文字に振った。


 バリバリッドババーン!


 僕の剣から、まるで生き物のような黒い雷撃が飛び出し、彼らに襲いかかった。ひと振りで数人が倒れた。


 それを避けた奴の元へ、僕は走った。

 奴らはスローモーションで動くから、僕はあっという間に追い抜くことができた。そして、彼に向かって剣を振り下ろした。


「ヒッ、なぜ? ワープか?」


 奴は、僕の剣を避けた。そして、今度は僕に向かってブンッと振り回した剣を、僕のバリアが弾いた。


「な、なに?」



 雷撃は、空中でまだうねっている。僕は、黒い雷撃を竜のようだと思った。竜の……えっ? 竜? に、なった?


 雷撃は空中で留まり、黒い竜の姿に見えた。



『翔太、ドラゴンにしてみた! カッコいいだろ?』


『えっ? ライト? あ、雷雲がドラゴンに変わったの?』


『あぁ、俺がドラゴンに変わったんだ』


『えっ? 雷雲ってライトなの?』


『何をいまさら。いつも俺が闇雲を操ってるだろ? あ、あまり数を出すなよ? 頭がこんがらがる』


『わ、わかった』


『オレも出るけど、もう一人のライト、オレに闇撃当てるんじゃねーぞ』


『知らない。魔人なら避けろよ』


『わわっ、ライトもリュックくんも、ケンカしないでよー』



 僕の左肩から、リュックくんが消えた。そして、僕のすぐそばに、人の姿で現れた。



「あのガキ、竜を出して……えっ? 魔人?」


「ちょっと、まさか処刑人?」



 リュックくんは、僕に何か言えと、あごをくいくいとしている。何を言うの? 何を言えば怖がるの? あ、怖がるのは…。


「まだ、やりますか? 愚かな者たち」


「なっ!」


 僕は、やわらかな営業スマイルを浮かべた。


 そして、さっきの雷撃で負傷した奴らに回復を唱え、怪我の治療をした。


「なぜ治療を…」


「ふっ、怪我をしていては、まともに戦えないでしょう? 遊びは、ここまでです。真面目にお相手しようかと思いまして」


 僕は、暴走戦闘力を隠さずに見せたいと念じた。


 パリン!


 何かが、割れるような高い音とともに、僕のまわりの闇が青く輝いた。


「ば、バケモノだ!」



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