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21、ハデナ火山 〜 宝玉がいっぱい

「熱っ!」


 女神様の転移でいつものように意識を手放した僕だったが、この地に着いた瞬間、あまりの熱さで意識を取り戻した。

 そしてその直後、僕の脳は思考を停止した…。頭が真っ白、いや、チカチカしていた。


「おわっ! 火口のこんな近くに! ライトさん、早く防御! バリア魔法できるんすか? 魔装備じゃないと溶けるっす!」


 僕は、ジャックさんの声で、ハッと我に返った。


「ちょちょっと、待ってーっ」


(ちょマズイ、やばっ、わわ、えーっと、落ち着け!)




 女神イロハカルティアによって、転移されたこの場所は、戦場となっている火山の火口だった。


 もともとは火山ではなかったが、数百年前に急に噴火し、それ以後は、派手な噴火を繰り返しているそうだ。


 そして、ここには火の属性を持つ魔物が多く繁殖するようになったらしい。レアな魔物も少なくないそうだ。


 上級冒険者にとっては、絶好の狩り場のひとつだそうだ。だが、稀にとんでもなく強い魔物が現れる。そんな魔物に遭遇した際には、逃げるしかない。


 そして、その魔物が人に害を与えなければ、冒険者に魔物情報と、遭遇しないよう注意を促される。だが人に害を与える存在であれば、国からギルドへ討伐依頼が出されるようになるそうだ。




 僕は、わたわたしていた。防御魔法? バリア? 何なに?


 その瞬間、頭の中に読めない文字が浮かび、ピキンッ!


「あ、なんか、できたみたいです。焦りました」


「俺も、焦ったっす。まさか、こんな場所に飛ばされるなんて」


「戦場の近くなんですか?」


「たぶん、戦場は、この真上っす」


「じゃあ、急いで拾ってきます、ビー玉」


「ん? ビー玉っすか?」


「あ、間違えました。『落とし物』の玉です」


「先に拾うようにという指令でしたね。タイガさんが引きつけてる間に、ってことっすね」


「かなり光の筋が多いです……たくさんあるんですかね」


「拾えない場所だから、他で奪われたものも、ここに放り込まれてたりするんじゃないっすかね」


「えっ? じゃあ、ここは、その敵対してる奴らのアジト的な?」


「まぁ、アジトっちゃーアジトっすね」


「じゃあ、急がないと! 行ってきます」


「えっ! まじっすか? マグマの中っすよ」


「女神様から、バリア張って、霊体化すりゃ、あとは泳ぐだけじゃ! と念話が…」


「俺の方には、ライトが霊体化したら念話が届かないから、ジャックが連絡係をするのじゃ! って言ってるっす」


「あははっ。なんか、面白いですね、女神様のモノマネするのって」


「確かに、笑えるっすね、ぷはは」

 

「じゃ、行ってきます」


「あ、ライトさん」


「はい?」


「タイミングなくて言ってなくて…。あの、俺の呪詛を取り除いてくれて、ありがとうっす。身体がすごい軽くなって、こんなに楽なんだって…」


「あ、いえ、よかったです。うん、じゃ、行ってきますね」


「うっす。あ、ここはたぶん、すぐワラワラなんか出てきそうだから、戻ってくるときは、霊体化しばらく解除しない方がいいっすよ」


「了解です!」


 そして、僕は、霊体化! を念じ、霧状に姿を変える。


「うおっ! なんか青っぽい綿菓子みたいっすね。ちょっと美味そう」


「た、食べないでくださいよっ。では!」



 僕は、火口の中に入っていった。ときおり、ブワァ〜っとマグマが噴き出している。その風圧で思うように降りられない。


(確かに綿菓子状態だから、風に弱いな…。重くならないかな…)


 すると、また頭の中に読めない文字が浮かび、グワンッ!

 僕は、急降下した。


(えっえっと、重力魔法? もう少しゆっくりーっ)


 だ、ダメだ。ゆっくりにならない……うわっ! っぷ……あ、別に息吸うは必要ないんだ、よな、うん。



 僕は、マグマ溜まりに飛び込んだ。火山のマグマの中…。冷静に考えると怖くなる。


(もし間違ってバリアと霊体化を解除したら、一瞬で跡形もなく燃えるよね、僕…)


 マグマの中は、サラサラに見えていたのに、かなり粘度がある。潜るスピードがだいぶ失速した。

 その分、まわりを見る余裕ができた。


 あれ? マグマの中なのに、魚みたいなのがいる。数匹が僕の後をついてきていた。魔物かな? 僕は念のため、透明化! を念じた。


(よし、まいたな)


 マグマの中の魚みたいな奴らは、ついてこなくなった。


 結構、潜った。そしてようやく底が見えた。

 あちこちに、たくさんビー玉が埋まっている!



 僕は、ビー玉を拾おうと意識した。霊体化したままだが、手がほんのわずかに実体化する。僕の手、なんか調子の悪いテレビ画像のようになってる…。


(急いで集めなきゃ)


 僕はあちこち移動して、ビー玉を集めた。ときおり、底がグラグラ揺れている。不安定だな…。なんか、妙な歪みというか綻びがあるようにも見える。


(よし、底に埋まってるのはこれで全部かな)


 僕は、壁のも掘りたいけど……どうするかな? と考えながら壁に近づくと、あっ!!


(通り抜けちゃった!)


 壁を通り抜けて、マグマのない小さな空間に出た。

 とりあえず、手に持っているビー玉を収納したい。


 透明化はそのままで、霊体化を解除! よし!


 女神のうでわを開けてみると、小箱も……見えないけど手探りで……よし、見つけた!

 小箱を引き出し、そこにビー玉をゴロゴロと入れ、うでわを閉じた。



『ライト! 熱いのじゃ! 冷やしてから入れるのじゃ! びっくりしたのじゃ!』


(あ、すみません……次は気をつけます。底に転がってたのは、だいたい拾えました)


『壁のも、いけるか?』

 

(はい、やってみます)


 僕は、再び、霊体化! を念じた。

 そして、『眼』に力を込める。


(結構いっぱいあるなー、でも、なぜか螺旋状に埋まってる。かなりの距離を泳がないと…)


 そして僕の水泳大会は再び始まった。


 今度は浮力で行けるかと思ってたら、全く動かない。重力魔法は解除したのに…。

 だからといって、霊体化した僕に足はない。バタ足はできないのだ。


(うーむ…。あ! 風魔法!)


 僕は、風魔法を下に向けて撃つ。すると、僕はフワァ〜っと上に上がる。よし!

 降りるよりも上がる方が大変だ…。螺旋状にビー玉を集めながら上昇していった。


 かなり疲れた…。あともう少し! と思った瞬間、マグマの波に乗ってしまった。


(あーっと! アブナイ!)


 ビー玉を落としそうになった。必死にマグマのうねりから壁に逃れ、壁の中に入る。すると、そこには、風穴のような縦穴があった。


 さらに、もう少し奥に進むと、ちょっとひんやりした別の空間を見つけた。


 そこで、もう一度、落とさないうちにと、霊体化を解除! そして、うでわを開けて、手探りで小箱を探す。うん、あったあった。

 僕は小箱を引き出し、ビー玉をゴロゴロと入れ、サッとうでわを閉じた。あ! 冷やすの忘れた!


『ば、ばかものっ! 熱いではないかっ! 冷やしてから入れるのじゃ! やけどしたのじゃ! ポーションが必要なのじゃ!』


(…ごめんなさい……モヒート風味のでいいんですね、やけどなら)


『イヤじゃ! 甘い方がいいのじゃ!』


(……カルーアミルク風味のは、やけど治りませんよ?)


『妾は、回復魔法くらい余裕なのじゃ! だから魔ポーションが必要なのじゃ!』


 こうなると、女神様は意地でも引かないのを、僕は学習していた。

 下手にツッコミをいれると、拗ねたフリをされて邪魔くさくなる…。


『なんじゃ?』


(いえ、なんでも…。今度、お会いしたときにカルーアミルク風味のをお渡ししますから)


『うむ。2本じゃぞ?』


(え? 1回しかやけどしてないじゃないですかーっ)


『2回やけどしたのじゃ。最初のも熱かったのじゃ!』


(………わかりました)


『うむっ。ライトも聞き分けがよくなったのじゃ。大人になったのじゃ』


(…ははは)



 僕は、気を取り直し、再び『眼』に力を込めた。

 あたりを見渡すと、螺旋状の壁にあと2個、光を見つけた。マグマに戻ろうと、引き返し、ふと思いつく。


(この縦穴を上る方が楽かも)


 僕は、また霊体化! を念じ、縦穴を上っていった。すると、広い場所に出た。

 そこには、さっきまで何人もの人がいたような痕跡がある。食べ物かすや骨やなんやらが、一ヶ所に積み上げられている。


(何人かが住んでる感じだな……ヤバそう)


 僕は、見つかる前にとサッサと退散した。



 この上の縦穴は、人が余裕で通れるくらい広くなっていた。少し上に上がり、光の方へと、縦穴をそれる。

 そして手を伸ばしビー玉を掴もうとした瞬間、いま、僕が通ったばかりの縦穴に、上からズザザザッと、人が数人下りてきた。

 壁の中からそちらを見ると、向こうも一人、こちらの方を見ていた!


(マズイ!)


 僕は、ビー玉を掴むと、マグマの中にそぉ〜っと入った。そして近くの壁のもう一つのビー玉を見つけた。掴んだ! よし!


 僕は人が居る場所とは反対側の壁の中に入る。そして、そのまま少し様子を見た。

 いま、僕は霊体化し透明化している。このままなら、たぶんバレない。




「どうしたんだ?」


「いや、何か見られているような気配を感じたんだが…」


「あ? 壁からか?」


「いや、その奥というか……気のせいか。俺が探知できない生き物はないからな」


「ちょっと気が高ぶってるんじゃねーのか? 妙な冒険者に、好き勝手やられてよー」


「あれは冒険者じゃないだろ。おそらくこの星の女神の番犬だ」


「それよりさっさと回復して戻らねーと、後で、帝王だかなんだかに殺されるぞ」


「だな、ったく、俺達の縄張りに踏み込んで来やがって。何様のつもりだ? アンデッドごときが!」


「神の直属の配下だろ? 女神の番犬よりも、俺はあのアンデッドを殺したいが」


「何の冗談だ? 死なないからアンデッドなんだよ」


「ふん、違いねー。おら! 行くぞ!」




 彼らは再び上に上がっていった。何か飲んでいたから、おそらく回復して戦場に戻ったんだろう。


(あ、いなくなったかな。もう動いても大丈夫かな?)


 僕は、さらに少し奥に進み、狭い空間に出た。

 霊体化を解除! そして、とりあえず握りしめていたビー玉を、うでわの小箱に入れた。今度はさすがに冷めている。


『やっと出来たのじゃ。チッ。これで宝玉は全部か?』


(な、なぜ? 舌打ち…? もしかして熱い方がよかったのかな)


『なにか言うたか?』


(あ、いえ。一応、この辺りのはそれで全部です)


『そうか、じゃあ、ジャックの救援に行くのじゃ!』


(え? ジャックさんの?)


『そうじゃ。冒険者のフリをして魔物を引きつけておる。ライトの仕事を邪魔させぬためにな』


(わっ! す、すぐ戻ります)


 僕は、慌てて、またまた霊体化! を念じ、マグマの中へ戻った。壁の中を進むよりはマグマの中の方が、上に上がりやすい。風穴があればもっと楽なんだけど…。


 そして、その勢いのまま、マグマから飛び出した。すると先程とはあまりにも違う光景が僕の目に飛び込んできた! そこは…。


(地面が火の魔物で、埋まってる…)


 まるで、火のじゅうたんが敷き詰められたかのように、ジャックさんが囲まれていた!



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