表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

205/286

205、ルー雪山 〜 上の層へ

「芋がないんだけどー」


 マイペースすぎる空気を読まない精霊ルー様が、ぽつりと呟いた。


 もしかすると、ミサさんとマーシュ様の関係に進展があるのではないかと、ミサさんの動向に注目していた僕だったが、ルー様の呟きによって、この場の空気感は一気に現実に引き戻されていた。


 僕を包んでいるシャルまでもが、ため息をついたような気がした。まぁ、シャルはただの虎だから、ため息なんかつかないんだけど…。



「あー、芋は頼まれなかったから、持ってきてへんで。いるなら、持ってくるけど?」


「ミサのとこの芋は、色がちょっとねー」


「ここでも芋は収穫できるんやろ?」


「最近急に避難者が増えたから、足りてないのよーん」


「あ、そっか。ルーちゃんはあまり精霊魔法が得意じゃないから、妖精も出入りしてるんやんな? 妖精に成長を…」


「ミサ、それ無理」


「ん? なんで? またケンカしたん?」


「うーん……忘れた」


「あっそ。じゃあ、上の宿場町で買ってきたらええんちゃう? あ、年貢がわりにカツアゲしてるんやったっけ?」


「やっぱ、それしかないね。でも、マーシュが町に行ったらダメって言うのー」


 マーシュという名が出ると、ミサさんは明らかに動揺している。そして急に歯切れが悪くなっていた。


「あー、守護獣がダメって言うなら……うーん」



 そしてなぜか、ミサさんとバチッと目が合った。うん? なんだか嫌な予感がする。


「ライトさん、ヒマそうやな」


「えっ? いえ、それほどでも…」


「シャルと遊んでるやん」


「いや、えーっと…」


「ちょっと、買い出し行こかー」


「えっ? あ、宿場町に?」


「せや、たまには人助けも悪くないやろ。わかってるかもしれんけど、ここの人達は、外に出られへん事情があるねん」


「なるほど、わかりました。いいですよ」


「ライト様、すみません。ここは女性の一人歩きは危険なので、ミサちゃんに同行していただけると安心です」


「いえ、ん? ルー様も女性ですが…」


「あー、ルー様は、一人歩きをしても大丈夫なのです。見た目が子供ですからね、誰も興味を示しませんから」


「ちょっと、誰が…」


「それに、ルー様はすぐにカチンとくるタイプなので、危険探知ができる人は絶対に、近寄りませんからね」


「そ、そうなんですね…」


「ちょっと、あたしは…」


「ルーちゃんは強いから、魔族でも睨まれると怖がるらしいで」


「へぇ」


「ちょっと、そんな…」


「ルー様、一緒に買い物についていかれますか?」


「えっ? ダメって言ってたくせに」


「一人で行くのを禁じただけです。人とどのように接するべきか、学ばせてもらういい機会ですからね」


(ほんとに、引きこもりなんだ…)


「ルーちゃん、一緒に行こか」


「あ、でも彼女を連れ歩くと、お二人が悪魔の仲間だと思われてしまうかもしれませんね…。ルー様は姿を消してついて行ってください」


「嫌だよーん。ついていくなら、あたしも…」


「強奪してはいけませんよ。どう喝も禁じます」


「えー、そんなむちゃくちゃなことを言われたら、何も話せないじゃない」


(えっ? 当たり前のことだよ?)


「はぁ…」


(マーシュ様のため息が深い…)



「ライト、そんなに頭べちゃべちゃで、ここから出たら頭が凍るかもよーん」


「えっ?」



 ルー様にそう言われ、シャルがマズイと思ったのか僕を解放した。僕は、シャルから離れると思わずブルっとふるえた。


(確かに、寒い)


 僕は、シャワー魔法をかけて、全身スッキリさせた。もちろん、頭もしっかり洗って乾いている。


「あんた、それ、何したの」


「あー、シャワー魔法です。弱い火水風の同時発動で…」


 僕が言い終わる前に、ルー様は自分にシャワー魔法をかけていた。すごい、すぐに真似できるんだ。


「いいね、これ。何? 文句あるの?」


「い、いえ別に」


「ルーちゃん、すぐできるなんて器用やな。ウチはかなり練習してんで」


「ミサさんもできるのですか?」


「あれ? できるって言ってへんかったっけ?」


「えーっと、どうでしたっけ」


「ライトさん、あれ持ってるやろ? イロハさんが気に入ってるシリーズの…」


「呪い系ですか?」


「そうそう、男になるやつ」


「ありますよ」


「それ使えばいいねん。ルーちゃんを変装させれば、町に行ってもバレへん」


 僕は、ミサさんご指名の、キール風味の変身ポーションを魔法袋から取り出し、ルー様に渡した。


 だが、ルー様は、めちゃくちゃ嫌そうに顔をしかめている。ん? 伝説のポーション屋って言ってたよね? 何が気に入らないのかな。


「ルーちゃん、それ飲んでみー」


「ポーション飲むほど疲れてないよーん」


「それ飲んだら変身するで」


「呪い……呪い殺す気? あたし、そこまで悪いことはしていないもの」


「あ、弱い呪いですし、1日で効果は切れます。なんなら、これですぐに弱い呪い解除も」


 僕は、クリアポーションも1本渡した。


「こ、これだわ! 伝説のポーション!」


「ルーちゃん、ライトさんのポーションは、全部伝説って言われてるねんで」


「どうして?」


「飲んでみたらわかるで」


「伝説級にすぐに効くとか?」


 そう言いつつ、クリアポーションを開けようとするのを、ミサさんに取り上げられ、変身ポーションの蓋をしぶしぶ開けた。


 くんくんと匂いを嗅いで、変な顔をしていたが、ミサさんに促されて、一気に飲み干された。


 その瞬間、ルー様は男の子に変身した。ピンクの髪はそのままだったが短くなっている。服装はそのまま、パッションピンクのフリフリスカートだったが…。


「その顔で、その服はちょっと変態やな。服装、変更できへんの?」


 まだ、きょとんとしているルー様に、ミサさんは遠慮のない言葉をはいていた。


 ルー様は、姿見のような氷を出し、自分の姿を観察し始め、ボンっと服装が変わった。やはりピンクベースだが、ハーフパンツに変わったことで、派手さは、わずかにマシになっていた。


「ルーちゃん、男でその色って、おかしいで? なんか道化師みたいやで」


「道化師? うーむ…」


 再び、ボンっと音がして、色がパステルブルーに変わった。派手だけどパッションピンクよりは目に優しい。相変わらず、道化師っぽいけど…。


「うーん、さっきよりはマシやな」


「そう? あたしってバレない?」


「男が、あたしって言うと、オネエみたいやで」


「オネエ? うーむ…。ミサが言うこと難しすぎてわからないけど」


「ルー様、男の子っぽい話し方をされないと、不自然ですよ」


「ん? うーむ…。わ、わかった、よーさ」


(よーさ?)


「それは、普通にわかったよ、でええんちゃう?」


「うーむ…」


 男の子に変身したことで、思わぬ成果があらわれた。ルー様は話し方がわからなくなり、おとなしくなったんだ。


 いや、でも、引きこもりが無口になるとよくないのかな? 攻撃的な話し方しかできないようだから、無口の方がいいのかな?


 でも、ルー様がおとなしくなったことで、マーシュ様は少しホッとしているようにも見える。ま、いっか。



 そしてミサさんは、シャルをマーシュ様に預け、何かやり取りをした後、僕達は、雪山の洞窟内の宿場町へと向かった。



 食堂のある広い部屋の上の層には、動物用のエサ場と寝場所があった。

 さらに上には、居住地の畑の層があり、さらに上には簡易的な小屋がたくさん並ぶ層が何層も続いていた。



「すごく居住地は広いのですね」


「あー、ここは何十万人とか住んでるらしいで」


「えっ? そんな大量の人の食料って…」


「魔族系は食べる必要ない人もおるし、さっきの畑でまかなってたみたいやけど、ここ数年は足りてないみたいやねん」


「それで、ミサさんが運んでいるのですか?」


「イロハさんが、仕方なく城の居住区で余った野菜を差し入れすることになって、ウチのバカが店の売れ残りも一緒に持ってくるようになってん」


「ん?タイガさんが?」


「うん。でも、最近は、ウチがシャルと一緒に運ぶことが多いねんけど」


「そうなんですね」


「で、ミサちゃんは、なぜかマーシュに惚れたのよーん」


「ルーちゃん!」


「ん? ライトも気づいてるみたいだよーん」


「えっ?」


「あはは、はい。そうかなと思って、ちょっと…」


「あ! それで、マーシュさんにあんなこと聞いたん?」


「あ、はい。余計なお世話でしたね」


「いや、あれは驚いたけど、希望がわいてきたで」


「マーシュも、ミサちゃんのこと好きみたいだよーん」


「えっ!? ほんまに?」


「いつも、ミサちゃんみたいに、愛想よくしろとか説教するから…」


「あー、そういうこと……なんや、焦ったやんか」


「ん? どういうことー?」


「別に、なんもない。気にせんとって」


「ふぅん」


 なんだか女子トークが始まり、僕は居心地が悪くなってきた。


 ルー様は男の子に変身してるけど、子供の姿だからか、あまり声は変わらない。そのためか、本人は性別逆転を忘れているようだ。



 長い居住地の層が終わると、行き止まりになっていた。あー、これか。確か、簡単に行き来できないようにしてあるって言ってたっけ?

 上から、冒険者が、居住地に入り込まないようにしてあるようだ。



 ミサさんが、壁をペタペタ触っている。すると、魔法陣のような模様が壁に浮かび上がった。


「この模様が出てるときだけ、この壁が通れるねん。ライトさん、バリアちょうだい。この先は、普通の洞窟やから」


「わかりました」


 僕は、ミサさんと、自分にバリアをフルでかけた。


「えっ、ここまでガッツリじゃなくても大丈夫やけど、まぁ、ありがとうな」


「いえ」


「めちゃくちゃ寒いから気合い入れて、外に出るねんで」


「えっ? あ、はい。一応たぶんバリアで大丈夫かも」


「ん? めちゃくちゃ寒いねんで」


 そして、ミサさんについて僕は壁を通り抜けた。透過魔法の魔法陣なのかな。ぐにゃりと身体がゆがむ感覚が気持ち悪かった。


 次に通るときは、普通に霊体化して通り抜けよう。ここまで上がれば、さすがにもう、クリスタルになる前の岩石はないだろう。




 僕は、壁を通り抜けた先の光景に驚いた。


 そこは、氷の湖の上だった。キラキラと青白く輝いて、あまりにも幻想的で美しかった。


「すごい! キレイな場所ですね」


「ん? 寒いだけやけど……あれ? 寒くないやん」


「バリアを張りましたから」


「へぇ、やっぱ、ライトさん補助魔法ハンパないな。確か、神族で一番高いんやろ? 補助魔法力」


「えっ? 初耳ですよ、それ」


「そうなん? あとは魔力が増えれば、もっと使えることが増えるって、ウチのアホが言うてたで」


(アホとかバカとか……愛情表現なのかな?)


「そうなんですね…」


「ここの上の層が、一般人には雪山の最下層やと思われてるねん。冒険者もおると思うで」


「わかりました」


 僕は、もう一度振り返り、美しい幻想的な光景を目に焼き付け、二人の後を追いかけた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ