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198、ヌーヴォの里 〜 招待の理由

 僕は、いま、ちょっと混乱している。


 新しい島に、神族の居住区を作るという話にも驚いたが、女神様から、その街の長を押し付けられたんだ。


 確かに、様々な種族が共存できる島にするためには、神族の居住区がある方が、争いの抑止力になるだろうし、何かが起こったときには介入しやすい。


 でも、それがなぜ僕なのか? リュックくんが適任だと言ってくれたのは嬉しかったけど、僕には街の長を務める能力なんてないと思う。




「ライト、トリガの里の、次期里長の件だが…」


(ん? なかったことになる?)


「あ、はい」


「新しい島に協力してもらっても、変わらぬからな」


「へ? 両方ということですか? ですが僕…」


「いま、女神様から精霊達に、新たな命令が下った。新しい島に神族の集落を作るから、その集落にもすべての精霊が出入りし、島の治安維持に務めよとのことだ」


「はぁ…」


「だから、皆、忙しくなるんだ。ライトも兼任するのは当たり前だろう? 女神様の代行者として、トリガの里を担当する立場でもあるんだからな」


「えっ……はぁ、そう、ですね」


「しかし、神族の街かぁ。楽しみだな。街には女神様の小さな城も作られるそうだ」


「えっ? 女神様も住むのですか? それなら女神様がその街の長に…」


「ん? いや、街の長は、これから選ぶとおっしゃっていた。だが人選は大変だろうな。こんな重要な拠点の長を務めるなんて、相当な技量が必要だろうからな」


(あれ? 僕が押し付けられたことを知らないのかな?)


「そ、そうなんですか…」


「誰もが自由に出入りできる島だ。それにマナが噴き出す地では争いも多いし、なにより突然変異のバケモノが出現するリスクも高い。さらに、他の星からの門も新たに作るとおっしゃっていた」


「他の星からの門?」


「あぁ、ロバタージュの街の近くに、古い門があるんだ。今でも勝手に使われているようだがな…。他の星からの来訪者は、まず、新しい島に誘導したいらしい。そのための門だ」


「へぇ…」


「入国管理をしたいのだろうな。あの島は強い奴らがナワバリにしているから、他からの侵略者には、簡単には支配されないだろう」


「あ、なるほど」


「そういう島の中心となる神族の街だ。そんな街の長がどれだけ大変かは、想像もできないな」


「はぁ…」



 やはり、僕はとんでもないことを押し付けられたようだ。しかも、門のことなんて聞いてないよ。はぁ、まいったな…。



「あの、ライト様、これから少し、私の守護する集落にお越しいただけませんか?」


「えっ、あの……ヌーヴォ様、僕はあちらの国に行ったことがありませんし、転移は苦手なので…」


「それなら問題ありません。ライト様のワープワームを連れて集落に戻ります。そうすれば、後からライト様も、ワープして来ていただけるはずです」


「えっ、あ、はぁ…。なぜ、そんなに僕を招き入れたいのですか?」


「狼だけを贔屓されているのは、神族として問題かと…」


「ひいきしているわけではないです。僕は、イーシアの生まれなので…」


「それなら、一度お越しください」




 僕は、困惑していた。正直なところ、いますぐ、新しい島に行きたい。


 別にアトラ様が他の男と一緒にいるからというわけではないが、しばらく会っていないし、新しい島は危険だし…。


 でも、なぜこんなにしつこく勧誘されるのか、少し疑問だった。精霊はプライドが高い。だから、本当の真意は隠すのかもしれない。と、考えると、何か困った事情があるのかもしれない。


 あちらの国の守護獣の集落の担当は、オルゲンさんとセリーナさんだよね。ふたりに相談できないようなことなのかな?



「わかりました。すぐに失礼しますが、構いませんか? この後、行きたいところがあるので」


「もちろん、お時間はとらせませんわ。ありがとうございます」


 そう言いつつも、ヌーヴォ様は……やはり幽霊っぽくて、感情もないように見える。素直に喜んでいるのか、何かをたくらんでいるのかは、全くわからない。


 僕は、生首を呼び、ヌーヴォ様に預けた。


「えっ? これがワープワームなのですか! なぜこのような姿を…?」


「さぁ? 僕が半分はアンデッドだからかもしれませんね」


「えっ! あ、そうでしたわね。死人に宿りし命…。その唯一の成功体でしたわね」


「えっ? いままでに失敗が?」


「あー、えーっと、どうだったかしら? では、皆さん私はお先に失礼しますわ。ライト様、場所の情報が伝われば、すぐにお越しくださいね」


(はぐらかされた……ってことは肯定か)


「はい、わかりました」




 ヌーヴォ様が、その場からスッと消えると、トリガ様に声をかけられた。


「ライト、あいつの里の近くには、氷のクリスタルの採掘場がある。何か無茶なことを言われたら、対価として、その採掘権を要求すればいい」


「え? 採掘場?」


「おまえ、まさか忘れたわけではないだろうな? 暴走から覚醒へと進みたければ、氷のクリスタルを吸収する必要があると教えただろう?」


「あー、電池ですね。うーん、でもリスクばかりが高くてあまり意味がないと…」


「おまえなら、リスクはない。特殊なリュック持ちだ。おまえに何かあるなら、そのリスクは、リュックが負うだろうからな」


「えっ? それって……吸収に失敗したらリュックくんが、僕の身代わりで死んでしまうということですか?」


「あぁ、魔道具だぞ? 死ぬという表現はどうだかな。壊れたらまた新しい魔道具を女神様に作ってもらえばいいじゃないか。なにをおおげさな…」


「リュックくんのことを、ただの道具のように言わないでください! 僕の大切な相棒なんですから!」


「は? 魔道具だぞ?」


「僕にとっては大切な友です。リュックくんを危険にさらすような覚醒なんて、僕には不要ですから」


「へ? おまえ…」


「僕は、もう行きますから。皆さん、失礼します」



 僕は足元に集まっていた生首達のクッションに乗った。いつもと違って、移動距離が長いのか、乗って数秒ほど真っ白な光の中にいた。





 僕の見る景色に、色が戻ってきた。そこは、緑ゆたかな草原だった。


 だが、その少し先は、戦乱中なのだろう…。大規模な攻撃魔法による炎で、空が赤く染まっていた。


(守護獣の集落近くも、戦乱中なんだ…)




「ライト様、こちらです」


 僕が景色をボーっと見ていると、後ろから声がかかった。振り向くと、ヌーヴォ様と、たくさんの人がいた。


「そのワープワームは、とても速いのですね。お出迎えが遅れて申し訳ありません」


「いえ、いま着いたばかりですから大丈夫です」


 僕は、ヌーヴォ様の方へと歩いていった。ここの草原は、イーシアとは随分違う。薬草が生えていないし、花も咲いていない。そういう地質なのだろうか。


 そして、ヌーヴォ様について、守護獣の集落の門をくぐった。中は、岩山がゴツゴツしているという印象を受けた。広いサファリパークのような感じかな。


 草原には、たくさんの小屋が並んでいるが、集落の大部分は岩山だった。

 この集落の住人は、その岩山のあちこちから、僕の様子を見ているようだった。


 広いと言っていただけのことはある。トリガの里の数倍、いや、もっとありそうだ。


 トリガの里は平地にあったが、この集落は岩山にあるから、単純な比較は難しいのだけど…。




「ライト様、私達の里は、いかがですか?」


「ヌーヴォ様、おっしゃっていたように、とても広いですね」


「ええ、守護獣の数も、正確にはわかりませんが、おそらく10倍はいると思いますわ」


「そんなにですか。それほど、この国は守護獣を必要としているのでしょうか…。戦乱のせいで…」


「えっ? あー、まぁそうですね。なんだか、ライト様は、私の聞いていたイメージとは少し違う方のようですね」


「ん? 悪評ばかりを耳にされていましたか?」


「いえ、悪評だなんて。素晴らしい功績ばかりですわ」


「あー、なるほど。では、がっかりされたのですね。僕が争いを嫌うものだから」


「い、いえ、そんなことは…」



 僕は、まわりをグルリと見渡した。何百体というところか…。かなり敵視されているような気がする。


 まぁ、そりゃそうだよね。自分達が仕える精霊が、僕のように弱いガキを、様呼びしている。


 何者かがわかっていても、面白くないに決まっている。誰一人として、話しかけてくる守護獣はいない。何をしに来たのかと、睨んでいる者ばかりだ。



「あの、ヌーヴォ様、僕にこの集落に来いとおっしゃった理由を教えていただけませんか? あの場では他の精霊もいたから聞きにくかったんですけど…」


「そうですわね。あの、この里を担当する番犬のお二人をご存知かしら?」


「はい、わかります」


「お二人の戦闘能力も?」


「えーっと、チゲ平原で一度ご一緒したことがあるので、だいたいわかりますが」


「そう…。あの二人って、たいして強くないようなんですの。これがタイガ様が担当されるならまた話は変わったと思うのですが」


「えっと、ヌーヴォ様、すみません、意味がよくわからないのですが」


「守護獣はプライドが高いわ。今までは、私の上には女神様しかいらっしゃらなかった。でも、代行者を決められ、結界が消えても代行者がそのまま担当をすることになりましたから」


「それに対する反発ですか?」


「ええ、ライト様やジャック様には、全く反発がないようですわね」


「ジャックさんは強いですし、以前から守護獣とは親しかったようです。僕は、あの里で長期療養していましたから…」


「私の里も、担当のお二人は以前からよく出入りされていたのです。ですが、序列を決めたがる里長に手合わせで敗れてしまわれて…」


「あー、なるほど。それで一気に不信感ですか」


「ええ、そうなのです。ライト様から里長を説得していただけませんか?」


「えっ? 僕がですか?」


「ええ、序列は個人ではなく、その種族で考えるのが、現里長の独特な視点なのです。ですから、いま、女神様の代行者すべてが、この里の守護獣よりも格下だという認識なのです」


「はぁ…。でも、この里の担当者は本気で戦えば、この里の守護獣よりも圧倒的に強いですよ?」


 そう言うと、さらにまわりの殺気が強くなってきた。僕の危機探知リングが、黄色や青色に景色を染めている。


「ライト様はどうですか?」


「えっ? 僕ですか」


「はい、いろいろな噂を聞いていますが…」


「あー、僕は通常時は、その辺のチビっ子よりも弱いですから」


 それを聞いて安心したのか、馬鹿にしたのか、半数の警戒色が消えた。まだあちこち、黄色や青色に染まっているんだけど。


 見回していると、僕の視界の端っこに、赤色が見えた。


(わっ、赤色は逃げろだったよね…)


「里長が、こちらに来ますわ。説得していただけませんか?」


「話して聞いてくださるのでしょうか?」


「ええっと、それはどうかしら?」


 僕に近づいてくる赤く染まった個体…。完全に敵視されているよ…。


(はぁ……もう…)



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