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197、イーシア湖 〜 新しい島について

 ふわっと風が吹き、イーシア湖に集まっていた精霊達が、トリガ様の近くへ、すなわち僕の近くへと移動してきた。


「ライトさん、騙すようなことになってごめんなさい。私達は、貴方が適任だと考えたのです。ですが、貴方から言っていただかないと、いろいろと難しい事情がありまして…」


 イーシア様が精霊を代表するかのように、僕に話し始めた。他の精霊達も、それを見守っている。


「イーシア様、いったいどういうことなのでしょうか」


「唐突すぎて困惑されますよね。でも、これ以外にないというのが私達の話し合いの結論です」


「えーっと、精霊の皆様の結論ですか?」


「ええ、そうです。下級神には、その承認をお願いする予定でしたが、私達が考えたことよりも、ライトさんの提案の方が優れていると思います」


「あの、えーっと…」



 すると、トリガ様が口を挟んだ。


「ライト、あの島が生まれた日から、ずっと精霊は話し合いをしていたのだ」


「えっ? 毎日ですか」


「あぁ、我々にとっては重要なことだ。女神様から、あの島は戦乱で潰すことがないようにとの命令があったからな。だが、日に日にあの島のナワバリ争いが激しくなってきたんだ」


「マナがわいているからですよね」


「そうだ。それに、予期せぬ奴らまでが集まってきた。これには、我々も下級神も、ちょっと厳しい状況になってきたのだ。だから、誰か神族を……できれば神殺しが可能な、高い戦闘能力を持つ神族を、我々の協力者として確保したいと考えた」


「えっ……はぁ」


「その協力者を確保し、その方に、狼か虎かを決めてもらおうと考えたのだ。その守護獣の種族が決まれば、おのずと精霊も決まる」


「だから、さっき僕に決めてもらおうと……などとおっしゃっていたのですね。守護獣が決まれば精霊も決まるのですか?」


「あぁ、いま、暇なのは守護獣の集落を守る精霊だけだからな。狼ならその里を守るわしが、虎ならその集落を守るヌーヴォが、あの島を担当することになるのだが……まさか両方になるとはな」



 すると、僕の目の前に、スッと女性が現れた。めちゃくちゃキレイなんだけど、めちゃくちゃ冷たそうな、近寄りがたい雰囲気の女性だった。


 身体も透き通っているのではないかと思うくらい肌に色がない。精霊というより、少し幽霊っぽいかもしれない。



「ライト様、精霊ヌーヴォでございます。お初にお目にかかります」


「ヌーヴォ様、はじめまして」


「この度は、私達の守護獣も選んでいただき、ありがとうございます。狼と連携をというのは、いささか厳しいですが、これも良い機会となりましょう」


「あの、狼と虎は、仲が悪いということなのでしょうか」


「ええ、どちらもプライドが高いものですから…。ですが、虎の方が圧倒的に数が多いので、私達の集落はとても大きいのです」


「そうなんですね」


「この後、私達の集落にお越しいただけませんか? あの島に適した者を選んでいただきたいのです」


「いや、僕はあの島は、ほんの一部しか行ったことがないので、よくわかりません」


「では、私達の集落を見に来ていただくだけでも…」


「おい、おまえ、ライトを取り込もうとしても無駄だぞ。ライトは、トリガの里の次期里長だ」


「里長の娘を使って、たらしこんだのでしょう? 狼なんかより虎の方が色気がありますわよ」




 精霊ヌーヴォ様は、いったい何が言いたいのだろう。ふたりがキッと睨み合いをしている。守護獣だけじゃなく、精霊どうしも仲が悪いのかもしれない。


 僕は、返事に困りつつ、下級神の反応も確認しなければと思い出した。


 確か、貴婦人の悪魔の神が担当することになるんだよね。僕が、彼女の方を見ると、下級神のふたりは、僕のことを警戒しているようだった。


(何? 死神から何か聞いたのかな?)



 僕の視線に気づいたふたりは、仕方ないという顔で、僕の近くにやってきた。


「精霊は相変わらずねぇ〜」


「いつも、仲が悪いのですか?」


「あの偉そうな精霊と冷酷な精霊は、仲が悪いわよぉ。性格も真逆みたいだわぁ〜」


「そうなんですね。あの、先程の提案した件ですが…」


「もぉっ、坊やったら…。女神様の番犬なら、そうと言ってよねぇ。普通の子かと思ってたじゃないのぉ」


「え、あ、はぁ…」


「しかも、あなた、ライトって名前…」


「あ、はい、ライトです」


「まさか、あのライトだとは思わなかったわぁ。うっかり者の死霊ねぇ」


「あー、それで警戒されているのですね」


「べ、別に警戒なんてしてないわよぉ。私はあの死神と違って、民を喰おうとなんて……滅多にしないもの」


「たまには、喰うんですね…」


「えっ? そ、それはたまには食べないと私の能力が下がってしまうから……食料よ。みんなが肉を食べるのと同じよぉ〜」


「はぁ」



 彼女は、さっきの僕の暴走しかけたことを、聞いたのだろう。先程までとは明らかに態度が違う。


 だけど、あの二つ名、下級神までが知っているなんて…。勘弁してほしい。あ、大魔王メトロギウス様は悪魔族だから、もしかしたら直接、聞いたのかもしれない。


(はぁ、近いうちに地底に行こう…)



「あの、新しい島のことですが、共同で担当するということで、構いませんか?」


「うーん、まぁいいわよぉ。その代わり、キッチリ分けてよぉ? 私は魔族の世話しかしないわよぉ」


「はい、それでいいと思います。ただ、他の星の奴らもいるようですが…」


「はぁぁあぁ〜。それなのよね、そぉれ。関わりたくないわぁ……坊やがなんとかしてよねぇ」


「いや、そういうわけにはいかないと思いますよ。いっそ、貴女が手懐けてしまわれては?」


「えぇぇえ〜? うーん、そうねぇ、それがいいかもしれないわぁ。坊や、かしこいわねぇ」


「あ、はぁ…」




 とりあえず、これで話はまとまったんだろうか?


 まだ、トリガ様は、ヌーヴォ様とケンカしているけど、他の精霊達は安堵の表情を浮かべている。


 僕がそう考えていると、この場所を提供しているイーシア様が、口を開いた。


「これで、決まりましたね。新しい島の管理は、それぞれ現地に拠点を作る必要があります。こうしている間にも、どんどん空き地が減っていきますわ」


「それはマズイわぁ〜。私は魔族の多いエリアに拠点を作ってくるわぁ。じゃあ皆さん、ご機嫌よう〜」


 イーシア様の言葉を聞いて、悪魔の神は、護衛を連れてさっさと消えていった。

 死神の神も慌てて消えていった。地上に下級神ひとりというのが怖かったのだろうか。



「じゃあ、我々もいったん解散するか。こちらの国の人族は、まだナワバリを持たないからな、拠点については人族の動きをみてからだな」


「私達の方は、もう移住した者も多いようですわ。ただ、他の星からの迷い子と交戦になることが多いようだから、どうしようかしら」


「ライトの拠点は、どうするのだ?」


「へ? 僕の拠点ですか? そんなのは不要ですよ」


「神殿でも……えっ? あー…」


「トリガ様、どうされたのですか?」


 あれ? トリガ様だけではない。精霊達すべてが、いっせいにフリーズしている。これは、念話か?


 みんなの表情が一斉に驚き、眉をひそめ、またパッと明るくなった。同じ話を聞いているのか…。




(僕だけ聞こえない…)


『おまえには聞こえないようにしてるからな』


(あれ? リュックくん? いつ戻ってきたの?)


 いつの間にか、リュックくんが僕の左肩に戻ってきていた。


『地底の奴らが消えたときだよ』


(ん? ん〜〜? そう…なんだ)


『ぷっ、おまえ、何か我慢したのか』


(あ、うーん、何でもない)


『ぷぷっ、地底のほとんどの奴らは、オレが魔道具から進化したことは知らねーんだよ』


(えっ? そうなんだ)


『あぁ、地底には洗脳されている奴が多いからな。下級神の側近にも洗脳されてるのがいるんだ。だから、処刑人だと思わせておく方がいい』


(そっか、わかった。で、なぜ僕に内緒で、みんなが話をしてるの?)


『ちょっと考えればわかるだろーが。女神が何をたくらんでいるか』


(やっぱ、女神様との念話?)


『こんなにも一気に大勢と念話をできるのは、女神しかいねーよ。他の奴は、せいぜい3人くらいしか念話を繋げられねーからな』


(あ、そっか。で、何の話?)


『おまえが提案したという形で、押し切るみたいだぜ。はじめからそのつもりだったんだろーな』


(あー、下級神も精霊も、ってことか…)


『いや、違う。あの島に、神族の居住区を作る話だ。おまえが、その長になる』


(そっか……へ? いま、なんて言った? 神族の居住区? 長? 僕が区長さんをやるの?)


『区長か、村長か、里長か……知らねー』


(ってか、神族の集落を作るってこと? 他にもあるの?)


『いや、地上にも地底にも、神族の集落はない。だが、今後の女神の野望を考えれば、地上に神族の集落がある方が都合がいいと考えたみたいだな』


(確かにそうかもしれないけど、なぜそれで、僕が区長さんなの?)


『はめられたんじゃねーか? 女神に。もしかしたら、星を再生する前から決めていたのかもしれねーな』


(な、なんで僕なわけ? 新人だよ?)


『そんなこと知らねー。まぁ、でもオレも、16人の代行者の中では、一番適任だと思うぜ』


(ど、どうして…)


『おまえは抑止力になる。まぁオレとセットで考えてのことだろうがな。チカラを持つ者に反発する守護獣に、気に入られているところがポイント高いんじゃねーか?』


(え、意味わからない)


『チカラを持つ者に従う者と、プライドが高くチカラを持つ者に反発する者がいる。おまえが一番、無難なんだよ』


(えー……でも、区長さんなんかやってたら、行商できないじゃん)


『別にずっと島にいる必要なんてないじゃねーか。生首達がいるんだから、問題が起こったらすぐに戻れるだろーが』


(まぁ、そうだけど…。僕、バーテン修行もしたいし)


『別に、やりたいことやればいいじゃねーか』


(そっか、うん……えー、でも〜)



『何をうじうじイジイジしておるのじゃ。ライトは、街長じゃ。とっくに決まっておるのじゃ』


(えっ、女神様、あの…)


『その国の人族の移住が落ち着いたら、ドドーンと街を作るのじゃ。楽しみにしておくのじゃ』


(いや、あの…)


『妾は、忙しいのじゃ。反論は聞こえないのじゃ。ってことで、よろしく、なのじゃ!』


(えっ……)



 女神様は、一方的に押し付け、念話をブチっと切られた。いつもより強引さが増しているような気がする。


(リュックくん、移住が落ち着いたら街を作るって言ってたよね、いま…)


『そうだな、場所どーすんだよ』


(だよね。島を大きくするのかな?)


『いや、地形はそうそう動かせねーだろ。まわりの島かもな』


(あ、まわりにたくさん島があるよね)


『でも、まわりの小島に街を作って、あの島の管理ができるのか?』


(だよね。どうするんだろ?)


『自信満タンだったから、何か考えがありそうだな』


(うん……なんだか、嫌な予感がする)


『オレもだ…』




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