196、イーシア湖 〜 ライト、呆然とする
皆様、いつも読んでいただき、ありがとうございます。ブックマーク、評価もありがとうございます。増えるたびにめちゃくちゃ元気をもらっています!
今日で、投稿し始めて、ちょうど半年になりました。こんなにずっと毎日投稿を続けていられるのも、読んでくださる皆様のおかげです。ほんと、ありがとうございます。
数日前から、似合わない詩なども書き始めました。こちらは、気まぐれ不定期投稿予定です。くだらねーと笑えるうたを目指しています(笑)
今後も、毎日更新できるよう頑張ります。今後とも、どうぞよろしくお願いします。
僕は、やらかしてしまった。
イーシアの草原の一部を、僕の深き闇で枯らせてしまったんだ。リュックくんが止めてくれたから被害は少なかったけど、僕は害獣なんじゃないだろうか。
最近、なぜかよく漏れてしまう闇…。それに、怒ると、すぐに景色が赤くなるような気がする。目が赤くなるから景色も赤に染まる暴走状態。暴走癖がついてしまったのか? これは、マズイんじゃないのかな…。
僕がどんよりしていると、精霊イーシア様が声をかけてくれた。
「ライトさん、大丈夫ですよ。もう、草原は元に戻りました」
「イーシア様、ほんと、すみません、僕…」
「ふふっ、ほんと、アトラが言うように世話をしたくなるわね。あのアトラが、あたしがお世話してあげないとーって言い出したときは、驚いたのだけど」
「えっ、あ、はぁ…」
「ふふっ。気にしないで大丈夫ですよ、あー、そうね、いま貴方は成長の途中だから、いろいろな異変があるのだと思うわ」
「そ、そっか……イーシア様、ありがとうございます」
「おい、またイジイジしてると、漏らすぞ」
「えっ!?」
僕は慌てて足元を見たが、大丈夫、漏れていない。
「リュックくん、漏れてないよっ」
「いまは、だろ?」
「……うー」
僕は、反論できなかった。だよね、最近、すぐに闇が漏れてしまう。僕の身体は一体どうなってるんだろう。
「ライト、相変わらずだな。ちょっと安心したぞ。隠居すると、ガラリと態度が変わる奴もいるからな」
「トリガ様、僕は隠居してないです…」
「えっ? そうなのか? あの闇竜が、ライトは落とし物を拾わなくなったと言っていたが」
「あー、それは拾いに行く時間が取れなくて…。なんだか、ずっと振り回されているんです」
「ふぅん、なんだ、出世したわけじゃないのか」
「僕は、まだまだ新人ですよ」
突然、トリガ様がチラッと横を向いた。
視線の先には、さっきの死神の神だという黒髪の女性と話す、派手な虹色のドレスを着て日傘をさす貴婦人がいた。
その貴婦人は、護衛らしき者を2人連れていた。護衛のひとりは頭からヘビが生えている。
メドゥーサって女性だけかと思ってたけど、男もいるんだ。あ、メドゥーサじゃないかもしれないよね。
そういえば、生首達の前の主人も、髪がヘビでメドゥーサっぽかったな。普通によくいる種族なのかもしれない。
トリガ様の視線に気づき、二人はこちらへと振り返った。貴婦人は、能面のような顔をして……ん? お面をかぶっているのかもしれない。
僕が、そう考えると、貴婦人の顔がサッと変わった。いや、手にはなにかを持っている。やはり、お面だったんだ。
「ライト、あのババアの顔を見ない方がいい」
「ん? もう見てしまいました。お面を外したんですね」
「あぁ、アイツら、おまえの正体を探っている」
「知られてはいけないのですか?」
「知られると喰われ……ないか。死神がビビっていたからな」
「あの貴婦人は?」
僕は、トリガ様と話をしていたのに、目の前には貴婦人がいた。虹色ドレスが派手すぎて、目が痛い。
「あら? 貴婦人って、私のことかしらぁ?」
(あれ? なんだか、ナタリーさんみたいな話し方)
「あ、はい。あの、地底の方ですか?」
「うふっ、そぅよぉ〜。あなた、かわいいわねぇ〜」
「えっ? あ、はぁ…。あの、貴女も下級神なんですか?」
「ふふっ、その獣番の精霊から聞いたのねぇ〜」
(獣番? あ、トリガの里のことかな?)
「わしは、何も言ってないが」
「あら、そうなのぉ? 私のうわさ話をしているのかと思ったわぁ〜」
(ナタリーさんより、かなり語尾に癖があるね…)
「あの、もしかして悪魔族だったりしません?」
「ふふっ、正解よぉ〜。悪魔の神よぉ〜。あの死神の婆とは、敵対関係にあるのぉ〜」
「親しげに話しているように見えたが?」
「うふっ、それは目が悪いのよぉ〜。あんなのと一緒にしないでほしいわぁ〜。ただの業務連絡よぉ〜」
(癖がつよい……ちょっと苦手かも)
トリガ様は、厳しい顔で彼女を睨んでいた。一方で彼女は、くつろいだ表情で、イーシアの風景をキョロキョロと眺めている。
少し離れた場所にいる黒髪の女性は、僕と目が合うと小さくヒッと変な声を出していた。なんだか、異常に怖がられている。
確かに、僕は、闇を漏らして赤い目をして睨んでいたわけだから、気味が悪いよね。
「で? 結局、あなた達の結論はどうなったのぉ? 下級神は、私がってことになったわぁ〜。だから、あなた達は手をひくでしょぉ?」
「ここは、地上だ。手をひくわけないだろ。 それに、貴女達下級神に、地上の担当を決めろとは言っていない。地上で暴れている奴らを回収するように依頼したはずだが?」
「そんなこと無理に決まってるでしょぉ〜。マナがわいてるのよぉ。誰のものでもないエサに集まるのは、当たり前のことだわぁ。地底は広くなってないのよぉ? 不公平じゃないのぉ」
「もともと、地上は、地底からの魔物に場所を奪われているんだ。そう言うなら、すべての魔物を地底に戻せよ」
「あらぁ、無茶苦茶なことを言うのねぇ〜。やはり、獣の番人は、その頭も獣並みになるのかしらぁ」
なんだか、すごく失礼なことを言う貴婦人。悪魔の神だというが、まぁ、悪魔をとりまとめるには、これくらいの毒舌は必要なのかもしれない。もしくは、トリガ様と仲が悪いのか…。
「ここで揉めていても意味がない。新しい島にわいている魔族を回収して、地底に戻れ」
「だぁかぁらぁ〜、そんなことできないって言ってるでしょ〜。ほんっと、頭悪いわねぇ」
「はぁ? なんだと?」
『おーい、おまえが、なんとかしてやる方がいいんじゃねーか?』
(えっ? リュックくん、離れてるのに念話?)
『あのなー、前にも言ったが、おまえの肩にオレの一部を残してるだろーが』
(あ、そっか。ん? 僕が?)
『じゃないと収まらねーぞ。それに女神の考えは、コイツらは知らねーからな』
(そ、そうなんだ)
女神様は、新しい島に、他の星の奴らを集めようとされている。いや、逆か……あちこちに潜む奴らを追い出したいんだ。人族や魔族に悪影響だから、普通の民から隔離したいんだよね。
一方で、女神様は人族と魔族の共存を望んでいる。もうひとつの国は、そうしようとして失敗したんだよね。だから、今も戦乱が続いている。
そっか、マナを求めて集まる魔族は、戦闘力が高い。そして新しい島に領地を求める人族も…。そして、他の星の奴らを集めている。これなら、共存ができるかもしれない。
人族と魔族だけなら、争いになるかもだけど、別の脅威となる邪神がいるなら、戦乱なんてことにはならないような気がする。
もしかしたら、それを見越して、女神様は新しい島を造ったのかもしれない。だと、すれば……うん、そうだよね。
(リュックくん、わかった)
『あぁ、せいぜい頑張れ』
(ん? うん…)
「あの、ちょっといいですか?」
僕は、トリガ様と、悪魔の神に話しかけた。なぜか、他の精霊も注目しているようだ。
「なぁに? かわいい坊や」
「ライト、なんだ?」
「あの、ちょっと提案があるんですが…」
「新しい島についてか?」
「はい」
「ちょうどいい、それをおまえに決めてもらおうと思っていたんだ。どうにも決着がつかなくてな」
「えっと、何をでしょう?」
「あの新しい島を、どちらが管理するかだ。いま、あの島には両方、行ってるんだよ」
「ん? 両方とは?」
「守護獣だ。狼と虎、どちらが担当するかで揉めている。この国に近いから狼が担当すべきだと思うが、いま、あの島に渡っている人族は、ほとんどがあっちの国の人族だから虎が担当すると言っていてな」
「はぁ…」
(守護獣の中でも、勢力争いしてるの?)
「いま、それぞれ3体ずつで、現地調査をしているんだ。アトラもそこに行っている」
「え? アトラ様も?」
「あぁ、狼は、アトラと、リガフ、ケトラが行ってるんだ」
「ケトラ様も?」
「あぁ、最近やたらと反抗期でな……アトラがやることは全部やりたいらしくて、言うことをきかないんだ」
「そうなんですね」
「ちょ、ちょっと、リガフってあの黒狼かい?」
わっ! びっくりした。いきなり、すぐ目の前に、死神の神が現れた。
「あぁ、そうだ」
「あの島にいるのかい? あの島を担当させるのかい? どうなんだい?」
死神の神は、なぜか必死な顔をしていた。
もしかして、リガフという黒狼は、怖いのかな?
「いやぁねぇ、必死になっちゃって〜。婆さんなんて、相手にされないわよぉ〜」
(ん? 相手にされない?)
「そんなことはない。あの黒狼は、あたしにも親切なんだよ。あんたのように底意地が悪い悪魔には、関わらないようにしているんじゃないかい」
「あらぁ、そんなこと言っちゃって〜。悔しいくせにぃ」
「あの、リガフ様というのは?」
「あらぁ、坊やは知らないのぉ? まぁ、男の子には興味のないことだわねぇ」
「男性なんですか?」
「そうよぉ〜。すっごくワイルドでイケメンなのよ〜。すっごく強いしねぇ〜……いろいろとねぇ」
(ん? いろいろと?)
「あー、ライト、心配しなくていい。アトラもケトラも、アイツとは合わないと言っていたからな」
「何が合わないのぉ〜? やぁだぁ〜、えっちねぇ〜」
(えっ…)
「おい、妙なことばかり吹き込むな。ライト、悪魔の言葉に耳を傾けるとロクなことにならない。無視しろ」
「トリガ様、あの……いえ、はい…」
(えーっ!? そんなイケメンとアトラ様が一緒に…)
僕は、嫉妬で押しつぶされそうになってきた。いや、でも、アトラ様は、仕事で行ってるんだ。ケトラ様も一緒だから、二人っきりじゃない。
はぁ、気分を入れ替えなきゃ。また、漏れてしまうかもしれない…。スゥ〜ハァ〜
深呼吸をすると、少し落ち着いてきた。よし!
「あの、提案なのですが、よろしいですか?」
「あぁ、そうだったな、話してくれ」
「はい。あの島は広いんですよね?」
「あぁ、小国くらいあるようだが」
「それなら、魔族の管理は下級神が、人族の管理は精霊がすることにして、複数の担当者を置くのはどうでしょう?」
「共存せよ、と言っているのか?」
「争いにならないように、領地をきっちり分ければ、大丈夫ですよね? じゃないと、決着なんて永遠につかないような気がします」
「うーむ…。地底のガーディアンはいいとして、守護獣はどうするのだ?」
「守護獣も、両方いる方がいいんじゃないですか? こちらの国も、あちらの国も、人族は渡っているのですから」
「そうか、ライトが……いや、ライト様がそうしろとおっしゃるなら、我々はそれに従いましょう」
「えっ? 様呼び?」
「当然、担当してくれるんだろうな」
「えっ? 僕が?」
「言い出した責任をとるのは常識だろう? 神に二言はないはずだ」
「いや、神じゃないですから…」
「神族で、女神様の番犬、いまは女神様の代行者じゃないか」
「えっ!? そんな…」
僕が、呆然としていると、トリガ様はニヤリと笑った。
(は、はめられた?)