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195、イーシア湖 〜 ライト、焦る

 いま僕は、イーシア湖でリュックくんと薬草摘みをしている。


 リュックくんが言うには、この湖にはたくさんの精霊が集まっているらしいんだ。新しくできた島についての話し合いをしながら、僕達のことを観察しているみたいなんだ。



 リュックくんが人の姿になっていると、摘んだ薬草を入れることができない。だから、さっき、魔法袋の中身の移し替えをしたんだ。


 小さめ魔法袋をふたつ空にして、僕とリュックくんがそれぞれ摘んだ薬草を入れることにした。

 そのときに、満タンだった大きめ魔法袋の中身も、ダンジョン産に移し替えた。


 うでわからダンジョン産の魔法袋を出しているのを見たリュックくんが、異空間ストックしていた分もと、勝手に移し替えていた。ちょうどいい、今の在庫を確認しよう。うでわの中に直接入れてある分も、まとめて計測することにした。


 僕の今の商品は…


 PーⅠ 、15,355

 MーⅠ 、1,933

 F10 、10,570

 C10 、48,625

 B10 、2,222

 H10 、5,036

 化x100 、3,092

 化y100 、6,320

 化z100 、2,837

 PーⅢ 、3,607

 MーⅢ 、625


 M10 、511


 *空き容量がわずかです!



 えっ? ダンジョン産10トンは余裕で入るんじゃないの? でもポーション10万本超えてる…。ってか、6万本くらいだったはずなのに、リュックくん、どんだけ異空間ストックしてたの?



 僕は、うでわに、10%30%ポーションは1,000本ずつ、10%魔ポーションは1,000本、30%魔ポーションは500本、それ以外は2,000本ずつ入れ替えた。

 これで、空き容量がわずかです警告は消えた。


 売りやすいものは、ふつうの魔法袋に入れ替えたいけど、いま、大きめ魔法袋しか使えない。ここにはいろいろなものをごちゃごちゃ入れているから、満タンにするわけにもいかない。


(やっぱ、魔法袋、買わないと…)


 僕は、モヒート風味、火無効つき、クリアポーションの売れ筋3種を5,000本ずつ、他は50本ずつ、女神様に交換してもらった1,000回復魔ポーションは511本全部、ふつうの魔法袋に移し替えた。


 そして、ダンジョン産をうでわに収納して、整理整頓完了。ふつうの魔法袋、かなり満タンに近いようにも見える…。


(やっぱ、ちゃんと行商しないと…)


 なんだか、売り物だらけになってきた。そういえば行商ぜんぜんしてない。宝玉探しもぜんぜんしてない。


(なんか、いろいろ振り回されてるよね、僕…)



 気を取り直し、薬草摘みを再開した。


 ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……疲れてきたな


 ふと、リュックくんの様子を見てみると、ゴロンと草原に寝転んでいた。


(さ、サボってるー)


 まぁ、いっか。天気もいいし、この草原って眠くなるんだよね。僕も、昼寝しようかな…。


 ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……ちょっと眠い




 ザザッ!


(えっ?)


 すると、突然、僕の目の前に、黒髪ロングの女性が現れた。一瞬、あの怖い映画の○子かと思って、ギョッとした。顔も髪が隠していて、ちょっとしたホラーだったんだ。


 前髪をかき分けて、ニッと笑ったことで、やっと女性だと認識できた。老婆とまではいかないが、年配の女性だった。


「さっきから、あんた達、暇そうだねぇ」


「えっ? あ、いえ」


「何者だい? 他の奴らは知っているようだが、あたしには教えてくれなくてね」


「あ、申し遅れました、ライトです。このイーシアの北部の生まれです」


「ふぅん、あの寝てるバケモノは、なんだい?」


「え? バケモノ? あー、彼は僕の相棒です」


「ふぅん、あたしが近寄ってきても無視しているなんて、ただ者じゃないね。もしくは、なんの探知能力もないのかい」


「ん〜? あの、貴女は……そんなコワイ人なんですか?」


「なんだい、あんたも探査能力はないのかい」


「あ、僕は危機探知リングをつけていますから、大丈夫なんです」


「へぇ、そんなもので何が測れるんだか」


「殺意を持たれてると警告が…」


「じゃあ、あたしみたいに殺意を消せば反応しないおもちゃなんだね」


 そう言われて僕は、とっさにバリアをフル装備かけた。リュックくんの方を見ると、寝転んだままだった。


「きっひっひっ、ほんとに探査能力がないんだね、あんた」



 すると、湖の真ん中あたりから、噴水のような水しぶきがあがった。そして、ふわりと2体の人型の何かが出てきて、こちらの方へと、ゆっくり近寄ってきた。


「婆さん、地上で何やってるんだ?」


「イーシアに呼ばれたから来ただけだよ。結界があるはずの湖に近寄ってくる人がいたから、何者かと思ってね。でも、誰も教えてくれないから、本人に聞こうと思ってね」


「はぁ…。湖から地上に降り立つのは、越権行為だ。それに、人に近寄るなんて……あれ? なぜその少年は平気な顔をしているんだ?」


「だろう? 興味をそそられるんだよ」


 イーシア湖の真ん中には、確か地底への出入り口があったよね。前に、ナタリーさんと地底に行ったのは、この場所からだった。


 ということは、この人達は魔族ということか? でも魔族なら、危機探知リングが反応しないのはおかしい。殺意を消されているから?



 僕がいろいろ考えていると、ようやくリュックくんが起き上がった。えっ? あの顔は、寝起きの顔? もしかしてマジで寝てたの?


「はぁ、何やってんの?」


「えっ? あ、よくわからないんだけど…」



 リュックくんは、僕にじゃなくて、僕の後ろの3人に声をかけたつもりのようだった。リュックくんの視線は、僕の後ろの女性に向いている。


 黒髪の女性がリュックくんに、ニッと笑顔を向けて話し始めた。


「この子は、あんたのペットかい? 奴隷かい?」


「は? ライトのこと、知らねーの?」


「ここの精霊達が教えてくれないんでね。直接本人に聞こうと思って…。でも、あたしが近寄っても、一瞬驚いた顔をしただけなんだよ。どうなってるんだい?」


「そりゃ、貴女のような怖ろしい下級神には、教えたくないだろーな。殺そうとするだろうから」


「人聞きの悪いことを言うんじゃないよ。こんな若い子を喰っても得るものは少ないからね」


「まぁ、殺そうとしても、貴女にライトは殺せないけどな」


「へぇ、自分の奴隷を守ると言うのかい? よほど気に入ってるんだねぇ」



 僕は、なぜ、リュックくんの奴隷扱いされているんだろう? ゲージサーチをしてみると、体力も魔力も2本ずつ。


 さっき、下級神って言ってたっけ? 確か、地上の精霊と同じ役割を果たすのが、地底では下級神だったよね。


 精霊も下級神も、もともとは女神様が作り出したんだから、リュックくんに見抜けるのは当たり前か。


 それにリュックくんをバケモノと呼んだのは、魔人だとわかったからなんだろうな。女神様が直接作り出す魔人は処刑人だもんね。



「あの、よく事情がわからないのですが、貴女は地底の方なんですよね? イーシア様に呼ばれたというのは?」


「そんなことは、教えてあげられないんだよ」


「そうですか。じゃあ、いいです」



 僕は、再び、薬草摘みの作業に戻った。地底からこの黒髪の人を探しに来たみたいだし、放っておこう。


 ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……まだ居るね


 ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……まだ見てる


 ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……なんかウザイ


 リュックくんの方を見ると、リュックくんも薬草摘みをしていた。でも、少し摘んではすぐにため息をついている。薬草摘みのような単純作業は、苦手なんだね。


 黒髪の女性と、その女性を迎えに来たらしい2人の男性は、ずっと僕達の薬草摘みを見ている。


(帰ればいいのに…)




 しばらく、薬草摘みをしていると、湖の一部がやわらかく光った。そして、その光が消えると、たくさんの精霊達が姿をあらわした。

 トリガの里で見たことのある者だけじゃなく、不思議な姿をした者もいた。


「ライト、暇そうだな」


「へ? 暇じゃないですよ。素材集め中です。トリガ様、話し合いは終わったんですね」


「おっと……あ、そいつに聞いたか。結局決まらなくてな…。仕方ないから、おまえに決めてもらおうということになった」


「は? 何の話し合いをしていたのですか?」


「聞いたんじゃないのか? その死神に」


「えっ? 死神?」


「ちょっと、そこの偉そうな精霊! あたしは死神じゃないよ。死神をたばねる、死神の神だよ。何度教えても間違うんだね、頭悪すぎやしないかい」


 トリガ様は、死神の神だという黒髪の女性をチラッと見て、ふんっと鼻を鳴らした。



「地底の下級神だ。下級神をまとめる立場にあるが、クセが悪くてな。地上に来るたびにいろいろな魂を喰おうとするんだ」


「えっ? 魂を喰うのって、悪魔じゃないんですか」


「どちらも大差ない。死神もな、命を刈り取って能力を吸収するために、魂を喰うことがあるんだ。下級神だという自覚がないのか…」


 そう言われて、その死神の神は、ばつの悪そうな顔をしていた。


「トリガ様、魂を喰うと、その喰われた人は完全に消失してしまいませんか?」


「あぁ、蘇生できなくなるな」


「その神は、魂を喰わないと生きていけないのですか?」


「いや、マナがあれば食料は不要だ」



 僕は、迷宮で殺したあの神々の言葉を思い出した。


 僕が殺した赤の神はワープワーム狙いだったが、一緒に居た女性、青の神が僕の魂を喰うと言っていたことを思い出したんだ。


「へぇ、貴女は、あの邪神と同じ感覚なんですね。そういえば、アイツは逃してしまったなぁ…」


「えっ……ちょっとやだ、あんたは一体…」


「何ですか?」


「いや、あの、精霊、この子はなんなんだい? ちょっと、何をぼうっとしているんだい」


 突然、死神の神は、慌て始めた。何? 邪神と同じだと言われて焦るわけ?


 下級神って精霊と同じ立場なはずだよね。地上の精霊は、みな、自分の身を犠牲にしてでも民や星を守ろうとする。

 それなのに、この下級神は、自分の欲望のために民の魂を喰うだなんて……あり得ない。


「貴女、下級神として、失格なんじゃないですか」


 僕は、彼女を真っ直ぐに見て、そう言った。あれ? 赤い。彼女が赤い……いや、景色が赤い?


「ヒッ! この子の方が、バケモノじゃないかい」



「おい、ライト、また漏れてるぞ。盛大に漏れて、いや、目が赤くなってるって、わかってるか」


「リュックくん、うん、今、気づいたよ」


「おまえなー、薬草が枯れてきてんだけど」


「えっ?」


 僕は足元を見た。僕のまわり数メートルの草原が土色に変わっていた。


(やばい)


 僕は、めちゃくちゃ焦った。すると、僕のまわりに漏れていた闇がスーッと僕の中に戻ってきた。


「イーシア様、すみません!」


「イーシア、悪いな。こいつ、お漏らしが治らねーんだ」



 呆気にとられていたイーシア様だったが、ふわっとやわらかい笑顔を見せ、手を大きく広げられた。


 僕が枯らした草原は、みるみるうちに緑色に戻っていった。


(よ、よかった……焦った〜)



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