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194、イーシア湖 〜 星の再生による変化

「王宮の中庭か? 森のような場所にいる」


「国王様、中庭にお邪魔しても構いませんか? 同じくワープワームの支配権を持つ者として、彼らの族長と直接話をしてみます」


「フリード、案内を。ライトさん、彼らに城内で火を吐くのをやめるように言ってくだされ」


「はい、承知しました」


 僕は、フリード王子について、中庭に行こうとした。しかし、カースにちょっと待てと呼び止められた。

 カースは、しばし、ジッとしていた。口元がなにかぶつぶつと呟いているように見える。



「そいつらの族長が、逃げたぞ」


「えっ? あっちの国?」


「いや、魔族の国だ」


「えっ……あっちの国に戻ったんじゃなくて、本気で逃げたってこと?」



 ワープワームは、同じ族が地上と地底に分かれて生息している。攻撃を受けて一族が全滅しないように、という知恵のようなものなのだそうだ。


 生首達の族長さんは、だいたい地底にいるもんね。地底の方がマナも濃いし、魔物にとっては、よい環境なのだろう。

 だから、逃げたというより、そもそものすみかに戻っただけなのかもしれない。



 すると、僕の目の前にスッと生首達が現れた。呼んでないのに、30体ほどいる。ん? でも、どの生首もヘラヘラしていない。もしかして、族長さん?


「ライトさま、ごぶさたしています」


「えっ! 念話じゃなくて、しゃべった? しかも、スムーズに、普通にしゃべってる!」


「はい、クラインさまに、しどうしてもらっています」


「あ、クライン様、地底でかな?」


「はい、ルーシーさまも、しどうしてくれます」


「そっか。あの二人は元気にされてる?」


「はい、とても、にぎやかです」


「ふふっ、相変わらず、仲良しなんだろうね」


「はい、なかよしです」


「そっか、よかった。で、どうしたの? 突然」


「はい、アマゾネスをあるじにしている、あのいちぞくについてです。ライトさまから、にげたようです」


「えっ、カースの言うように逃げたの?」


「はい、わたしたちに、おまかせいただけませんか? ひとぞくのすみかで、ひをはくことをやめさせます」


「そんなこと、族長さん…。他の族に口出しなんてできるの? 無茶なことはしないでね」


「はい、だいじょうぶです。ライトさまがあたえてくれたチカラがあります」


「ん? 僕に似たなら、戦闘力は残念でしょう?」


「あの、ライトさまがきらっている、カミのチカラです。わたしたちのちのうが、ワープワームのげんかいちをこえました」


「あ、だから大気からマナを吸収できるようになったんだね」


「はい、それだけではありません。こうして、かいわをすることが、できるようになりました」


「あ、これってあの邪神の光の粒子を吸収したからなんだ」


「はい、ですから、わたしたちのいちぞくは、ワープワームのなかでは、カミとよばれるようになりました」


「神の能力を吸収したんだもんね。その呼び方は間違いではないか」


「はい、ですから、おまかせいただけませんか?」



 僕は、フリード王子の方を見た。フリード王子は、ポカンとした顔をしていたが、僕の視線に気づき、ハッと我に返ったようだ。


「フリード王子、コイツらに任せても構いませんか?」


「あ、あぁ、地底に追いかけていくわけにもいかないからな。同じ種族で話してもらう方がいいだろう」


「そうですね。もし、それで話がこじれるようなら、僕が地底に行ってみます」


「えっ! あ、そっか、ライトは神族だから、地底にも自由に出入りできるんだな」


「まぁ、はい、たぶん。それに、地底には僕の主君がいますからね」


「ええーっ? 魔族に仕えているのか?」


「まだ、仮の状態ですが。さっき、話に出てきたクライン様が将来の主君です。彼が成人になられたら、僕の主君になる予定です」


「まだ子供なのか?」


「はい、5歳です。もう6歳になったかな?」


「えっ? どうしてそんな……幼児じゃないか」


「ええ、ですが、僕を全力で守ろうとしてくださいましてね。魔族の主君を持つなら彼の他には考えられません」


「へ、へぇ…。ということは、ドラゴン系か?」


「いえ、悪魔族です。現在の大魔王様の直系の孫にあたるようです」


「大魔王に味方するいうことか?」


「いえ、大魔王様は、僕を嫌ってますしね。どちらかといえば、大魔王様とは敵対関係にあります」


「なんだか、複雑なんだな」


「そうですね。ただ、魔族は、力こそが全てという感覚なので単純です。人族ほど、人間関係は複雑ではありません」


「そうか、なるほどな」



 僕は、ジッと、ふわふわ漂いながら待っていた生首の族長さんの方を向いた。


「ということで、よろしくね」


「はい、ライトさま、かしこまりました」


「あ、族長さん以外の個体も、会話ができるの?」


「おんせいによるかいわは、わたししかできません。わたしのけいごをする、このものたちは、ライトさまとのねんわなら、かのうです」


「そっか、いつもヘラヘラしてる奴らは?」


「ほかのものたちは、ことばのりかいはできますが、かいわもねんわも、できません。ひょうじょうで、いしをつたえようとしています」


「あ、だからヘラヘラしたり、泣きそうになったりするんだね」


「はい、それしかつたえるしゅだんが、ないのです」


「いろいろ、よくわかったよ。ありがとう」


「はい、いえ、はい」



 そう言うと、族長さん達は、くるりと回転し、スッと消えた。回転するのが、生首達のクセなのかな?


 僕も、用事は終わったので、こびとに攻撃されているベアトスさんと共に帰ろうと、ベアトスさんを探した。


(あれ?)


 さっきまで攻撃してきていた、イカツイ顔のこびと達が……なんだか、泣き出しそうな顔になっている。

 濃いオジサン顔が泣きそうになるなんて、似合わないんだけど…。


 もう族長さん達が、地底で説得をしたのかとも思った。だが、それにしては早すぎる。

 たぶん、この場で、族長さん達がこびと達に何か言ったんだろう。僕が見ていることがわかると、尋常じゃないくらい怯えているようだ。



「ライトさん、どこに帰るだか?」


「そうですね、とりあえずロバタージュにと思いますが、ベアトスさんは?」


「俺も、ロバタージュのギルドに用事があるだ」


「じゃあ、ロバタージュに一緒に戻りましょう」


「ライト、俺もロバタージュのギルドに用事がある。ついでに頼めるか?」


「はい、大丈夫です」



 そして、僕は、まだ呆気にとられた顔をしている国王様達に軽く会釈をし、生首達のワープでロバタージュのギルド前に戻った。ベアトスさん、フリード王子、そして当然のようにカースも…。


「フリードは、あそこに居たくないだけだろう? 護衛なしで大丈夫なのか?」


「カースは、なんでもお見通しか。護衛は、すぐに追いかけてくるから大丈夫だ」


「そうか、大変だな、つきまとわれて」


「まぁな」


「カース、いつのまにか、タメ口になってるよ?」


「おまえの友は、俺の友でもあるからいいんだよ」


「それ、どういう理屈なわけ?」


「もううるさいな。あ、おまえの嫌いなアイツ、いるようだぜ」


 そう言うと、カースはニヤリと笑った。ギルマスか…。



「そう、僕は、別にギルドに用事はないからね。送り届けただけだから。じゃあ、薬草でも摘みに行ってくるよ」


「ふぅん、まぁ、しばらく会ってなかったから限界って感じか?」


「何? 薬草を摘みに行くと、誰かに会えるのか?」


「フリード、聞いてないのか? ライトの彼女、いや婚約者か? が、イーシアに…」


「あー、もう、カース、なんで知ってるわけ? なんでもかんでもバラしちゃダメだよ」


「カース、俺、その話、気になるんだが」


「フリード王子も、ダメですからね」


「やけに必死だな、真っ赤な顔して…。青春だな。あはは」


「からかうと、どんどん赤くなるぜ」


「あんまりライトさんで遊んじゃダメだよ。逆襲されても知らないだよ」


「ゲッ、まさか」


「はぁ、もう知らない。じゃあ、僕はこれで〜」


「あ、ライト、島の調査計画をギルドで練り直すから、調査メンバーに入れておいていいか?」


「はい、大丈夫です」


「そうか、じゃあ、よろしく頼む。あ、彼女によろしくな。いつか会わせろよ」


「えっ、あ、はぁ…。では失礼します」


 僕は、生首達のワープで、イーシア湖へと移動した。





 僕は、イーシア湖の広い草原に来た、つもりだった。でも、なんだか様子が違うんだ。イーシア湖が、僕の記憶よりも圧倒的に大きくなっていた。


 もともとイーシア湖は、けっこう大きな湖だったけど、今は比較にならないくらい大きくなっていたんだ。『眼』の能力を使わなければ、対岸が見えない。


 そして、薬草が生えている場所は随分と狭くなった。でも、すごい密度で薬草が生えている。逆に摘むのはラクかもしれない。


『おい、水汲みするぞ』


(うん、わかった。えっとホースを……ん?)


 僕は何もしてないのに、肩からスルスルとホースが伸びて、湖にポチャンと入った。そして、ドクドクと水が汲まれている感覚が伝わってきた。


『同じ水のはずなのに、マナが増えてるな。チッ、調整が大変になるじゃねーか』


(そういえば、星の再生回復のあと、初めて来たよね)


『水汲みは任せて、この付近の薬草、摘んでおけよー。湖から離れるんじゃねーぞ。そんなにホース伸ばせねーからな』


(うん、わかったー)


 ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……久しぶりだな〜


 ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……密集してるし


 ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……うん楽しい



 でもアトラ様、いないなぁ。森の中を巡回中かなぁ。


 僕はふと、手を止めた。なんだろう? 見られている気がする。あたりを見渡しても、特に誰もいない。


(気のせいかな…)


『精霊が見てるぞ。何が楽しいんだか知らねーけど、楽しそうだが』


(えっ? 精霊?)


『あぁ、かなりの精霊が集まってる。あの島のことで話し合ってるみたいだが』


(そうなんだ。イーシア湖に精霊の集会所があるのかな?)


『ここは、精霊イーシアが結界を張ってるからな。秘密話には最適なんじゃねーの? 誰かも、ここで告って…』


(わーわーわー、リュックくん、僕のプライバシーが〜)


『そんなもん、ないだろ。女神だっていつも盗み聞きしてるじゃねーか』


(はぁ、だよねー。この世界って、こういうとこは改善の余地ありだよね)


『よくわからねーが、気にしなきゃいいだけだろ』


(うーん、まぁそうだね…)


『よし、水汲みは完了だ。おまえ、薬草摘み遅くねーか?』


(そんなこと言われても…。リュックくんなら一気に摘めるの?)


『魔法で刈りとれるが、魔力を帯びちまうと……って、前に言わなかったか?』


(そうだっけ? 覚えてない)


『まぁ、いいや。魔法で摘んだ薬草は、正直使えねー』


(そっか、わかった〜)


 僕は、さらにぷちぷちと薬草摘みを続けた。

 精霊達が会議をしてるなら、アトラ様は湖にいなくて当然かぁ。


 すると、肩からリュックくんがスッと消えた。


(ん?)


「おまえ、遅いからオレも手伝ってやる」


「ありがとう」


 リュックくんは、人型になって薬草を摘み始めた。


(優しいとこあるよねー)



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