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193、王都リンゴーシュ 〜 不機嫌なこびと

 王都の様子は、すっかりいつもの日常に戻ったみたいだ。空に映った僕の演説が終わると、人々はその演説の話に必死で、先程までの暴動のことなど完全に忘れたかのようだった。


 僕は、フリード王子に連れられ、王宮内のさっきの広場に戻った。暴動が収まったから、もう会議はお開きだと思っていたが、まだ全員そのままその場に居るようだった。



「さすが、お見事でしたな」


「まさかの演出に、驚かされましたよ。あれで洗脳を解除したのですか?」


「えっ、あ、はぁ」


 僕が返答に困っていると、カースが口を開いた。


「はい、洗脳というよりは軽い集団催眠のような状態でしたから、花火の音と、空から突然降ってきたヘルシ玉湯のアイドルに驚き、正気に戻ったようです」


「そのような手法で洗脳を解除できるとは……ライトさんはかなりの策士でいらっしゃる」


「いえ、僕のアイデアではありません。カースが考え、ベアトスさんの協力で、あのようなサプライズができました」


「ほう、珍しいな。フリードが気に入っているのはそういう所なのだろうな。無欲で謙虚なのは人としてはよいかもしれませんが、人の上に立つ者としてはどうなんだろうな」


「父上、そのような言い方は…」


(ん? 僕、何か変なこと言った?)



「国王様、俺の主君のことを全くご存知ないから、そのようにおっしゃるのですね。わかっていての発言ならば、愚王との噂は事実だということでしょうか」


「ちょ、ちょっとカース、失礼だよ」


「おまえは黙ってろ。俺のプライドの問題だ」


「は? 何それー」



 カースの挑発に、国王様の顔から笑みが消えた。怒らせちゃったんじゃないの? 僕は少し焦りを感じた。


「ライト、悪いな。父上は自分の価値観と異なる者には否定的なんだ。人の上に立つ者は、絶対的な強者でなければならない、という信念があるんだよ」


「いえ、別に僕は大丈夫です。人の数だけ考え方があると思います。それが個性ですからね」

 

「その歳で、悟ったようなことを言うね。私達に対しても、そのような横柄な態度をとる気かしら?」


(えっ? 僕、何か変なこと言った?)


「別に、ライトは横柄ではないだろう? いま父上が、謙虚だと言っていたじゃないか」


「フリード、アマゾネスとしては、彼が簡単に民を説得してしまったことが面白くないだけだ。いちいち絡むな」


「はい、父上、申し訳ありません」



「それからカース、わしが何を知らないと言うのだ? 彼に関する情報はすべて耳に入っている」


「ふっ、すべてではありません。ほんの一部ですよ。井の中の蛙という言葉がありましてね…」


「カース、失礼なことを言わないように」


「はぁ、わかったよ」



 すると、逆に国王様が気になったらしく、カースに妙な質問をされた。


「カース、もしもの話だ。この国を統べるわしと、ライトさんが敵同士になると、どちらが滅ぶ?」


「は? ライトが殺そうと決めたら、国王様は逃げられませんよ? 逆に国王様は、どんな軍隊を使っても彼を殺すことはできません」


「なっ? ならば、アマゾネスならどうだ?」


「ふっ、同じことです。この俺が選んだ主君なんですからね。まぁ、まだガキですけど…」


「なぜそのようなことが言えるのだ? いくらワープワームの支配権を持つとはいえ、戦闘力は通常の人族と変わらないように見えるが」


「それをここで明かす気はありません。そんなことより、国王様、ご自分の城に入り込んだスパイに気づかないのですね」


「な、何? スパイなど…」


「この城には人族しかいないはずですよね?」


「当然だ。まぁ、ハーフならいるがな」


「俺が以前、依頼されて洗脳した奴が8人ほどいます。俺以外の術にかかっている奴は、その数倍はいる。さらに他の星の住人も魔族もいる。俺の主君のまわりには洗脳されている奴はいない。それが国王様と、俺の主君の器の違いですよ」


「な、何? おまえ!」


「俺が術をかけた奴らの洗脳は解きますよ。おそらく記憶があやふやになる。キチンとフォローしてやってください。他の奴らは、呪術士にでも頼んで調べてください。主要な地位にいる人から調べる方がいいですよ」


 その言うと、カースは、パチンと指を鳴らした。


 ドタッ!


 国王の側で控えていた、アマゾネスと激しく口論をしていた男が倒れた。


「な、なんだと!」


「あー、この人もでしたか。この部屋にはいないと思っていました。ライト、回復してやって」


「はぁ……わかったよ」



 僕は、倒れた人をゲージサーチした。うわぁ、魔力切れじゃん。体力はオレンジ、魔力は赤、しかもゲージは短く限りなくゼロに近い赤だった。


 僕は、回復を唱えた。そして、固定値1,000回復の魔ポーションを渡した。うん、これ、ちょっと渡すのに便利だね。


「カース、なぜこの人、魔力切れを起こしてるの?」


「俺が術を解いたからだ。術を解いたときに反撃されないようにしてある」


「術を解くと魔力がほぼゼロになるの?」


「そういうこと。いろいろ保険をかけてあるんだよ」


「あっそ…」



「さっきの話だが、彼には配下は少ない。だから配下の多いわしの場合は、こういうこともあり得る。これを器の大きさの違いだと言うのか」


「国王様の配下は、何体おられますか?」


「我が配下は、国王軍を含めると100万人はいるぞ」


「じゃあ、数でいけば、ライトの方が多いですよ。ワープワームは通常でも一つの族には、500万体はいますからね」


「そんな魔物ごときを配下の数に入れるのか!」


「王都の暴動を鎮めたのは、その魔物ですよ。ただのワープワームではない。邪神の力を吸収したワープワームですからね」


「なっ? どういう意味だ?」


「俺の主君が殺して奪った神の能力を、天使ちゃん達が吸収したってことですよ。だから、暴動を鎮めるチカラがあったんじゃないですかね」



 カースは、なぜかドヤ顔をして国王様を見ている。見下していると言う方が正確な表現かもしれない。


 やはり、僕にはカースの性格はよくわからない。ただ、プライドがとんでもなく高いことはわかってきた。



 ジッと睨むように話を聞いていたアマゾネスの女性が、なぜか怒りに震えているようだ。めちゃくちゃ怖い顔をしている。


(何? 僕、何かした?)


「貴方のワープワームが、神の能力を吸収したの? そんなことありえないわ。討伐者しか吸収できないわよ」


「あー、事故みたいなものです。僕が、邪神の光の粒子が寄ってくるのを嫌がったので、それから僕を守ろうとして、たまたま吸収しちゃった感じです」


「嘘よ! ワープワームが守ろうとなんて、そんなことするわけないわ。ワープと偵察しかできないわよ」


「だが、治癒の息を吐いたり、ふわふわと飛んでいるではないか。それが神の能力なのか」


「国王様、飛ぶというか浮かぶのは初めからです。治癒の息は進化後です」


「では、神の能力というのは?」


「うーん、よくわかりませんが、大気からマナの吸収はできるようです」


「えっ!? そんなことが下級魔物にできるのか」


「はい。僕にはできないことですから、神の能力です。もうすっかり使いこなしているようです」


「そ、そうか…。神の能力を持つワープワーム…」


「そんなこと、あるわけ…」


「アマゾネスのワープワームとは、随分違うようだな」


「私達の女王様のワープワームは、ワープ能力が高いのです。本来の魔物としての能力が高いのですわ」


「ワープワームは、主人の能力を真似ると言っていなかったか? あ、なるほど、ライトさんは白魔導士だから、ワープワームは治癒の息を覚えたのか」


「たぶん、そうだと思います」


(アマゾネスも、めちゃくちゃプライド高そうだよね)




 僕は、この場にとても居心地の悪さを感じていた。ベアトスさんも、少し離れた場所で退屈そうにしている。もう、帰ってもいいよね?


「あの、王都の騒ぎもおさまりましたし、僕達はそろそろ失礼します」


 僕は国王様にそう挨拶をして、ベアトスさんの方を向いた。ベアトスさんも、限界だったようで、ホッとした笑顔を見せていた。



 国王様は、うむと頷いてくれたんだけど、そのとき、僕達の目の前に、イカツイこびとが何人か現れた。

 手には斧のような武器を持つ、濃い顔立ちの男だった。みんな同じ顔をしている。


 僕は、とっさにバリアをフル装備かけた。イカツイこびとは、斧を持っているのに火を吐いた。僕のバリアが火を弾き、床のじゅうたんを焦がした。


「はぁ、いつも帰り際に、ケンカ売ってくるだ」


「このこびとが、アマゾネスのワープワームですか? ちゃんと足があるんだ」


「んだな。普通のワープワームはこんな感じだよ。ライトさんの天使ちゃんが変わってるだ」



 今度は、ベアトスさんに向かって、こびと達は火を吐いた。ベアトスさんは、魔道具でそれをかわしていた。


 アマゾネスの女性は、特に注意をするでもなく、彼らを見ていた。普通、じゅうたんを焦がすようなことをしたら、叱るべきじゃないの?



「あの、このこびと達は、なぜ暴れているのですか? それになぜ貴女は彼らを叱らないのですか?」


「えっ? 私にはそんな権限はないもの。女王様に支配権があるのだから、女王様の指示にしか従わないわ」


「そんな状態で放し飼いですか。それって危険じゃないですか」


「貴方だって、放し飼いじゃないの」


「僕は、人に危害を加えないようにと言っています。貴女の女王様にも、彼らに注意をしてもらう方がいいですよ。じゅうたんを焦がすなんて、さすがにダメでしょう?」


「知らないわよ。女王様は、この国にはいないもの」


「じゃあ、彼らは好き放題に暴れているということですか」


「下手に叱ると、大量にわいてきて収拾がつかなくなるのよ」



 僕は、こびと達をよく見てみた。みんな機嫌が悪そうだ。不満が溜まって暴れて憂さ晴らしでもしているように見える。


「ねぇ、あなた達の族長さんはどこにいるの?」


 僕がそう話しかけると、より一層、怒った顔をして威嚇してくる。ワープワームは、強き者にしか従わない。支配権もそうだが、支配権が絡まなくても同じだろう。


 生首達は玉湯の人達には火を吐いていたが、タイガさんやアトラ様には吐いたことがない。


(そっちがその気なら、それでいこうか)


「話ができる族長さんに会いたいんだけど」


 当然、彼らは無視し、火を吐いてくる。言葉を理解できないのかもしれないな。



「ねぇ、カース、こびと達の…」


「やだね。なんで俺が、魔物の思考をたどらなきゃならないんだ?」


「あ、やっぱ、できないよね…。じゃあ…」


「おい、できないとは言ってない。ったく…」


 そう言うと、カースは何かをつぶやいている。僕の目の前にいたこびとがフリーズした。


「族長は、この城の庭にいる。だが、会うつもりはないらしい」


「そっか、場所わかる?」


「あぁ」


(何でもできるんじゃん)



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