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192、王都リンゴーシュ 〜 ライト、演説する

 僕は、少し静かになるのを待って、話し始めた。


「僕は、王都に来たのは今日が初めてです。王都の皆さんが何かを心配されているとの噂を聞き、いまこうして魔導塔から、お話をさせてもらっています」


(うん、聞いてくれてるね)


「いま、空から降ってきたのは、僕が支配権を持つワープワームです。ヘルシ玉湯近くにすみかがあるので、玉湯で皆さんに遊んでいただいたこともあると思います」


 あちこちで、天使ちゃんだー! という声が聞こえる。


「その子達は、褒められるのが好きなので、かわいいと褒めてやると、たまにですが治癒の息を吐くことがあります。怪我をされている方は、試してみてくださいね」



 すると、あちこちで少しざわざわし始めた。そんなに怪我をしている人がいるの?


 生首達は、張り切って治癒の息を吐いているようだ。魔力が切れると、アホの子ダンスをしてマナを集めている。


(邪神の能力、完全に使いこなしてる…)


 僕は、少し静かになるのを待った。



「皆さんは、女神イロハカルティア様のことを不安に感じておられるのでしょう。星の再生回復魔法により、星は生まれ変わり、地形まで変わりました」


(あれ? 急に静かになった)


「当然、女神様の魔力は底をつき、その保護のために星には防御結界ができました。その防御結界がいつまで経っても消える気配がない。だから、女神様はチカラを失ったまま、消滅したのではないかと心配されているのですね」



 図星だったからか、人々はシーンとしていた。僕の話は無視して、夢中で生首達と遊んでいる人達もいるが…。


「なぜ星の防御結界が、いまだに消えないのか、皆さんにお話します。ですが、ここだけの話にしてください。あちこちに噂が広まると、僕は女神様からお叱りを受けてしまいます」


 すると、生首達で遊んでいた人達も、空を見上げた。先程よりも、さらにシーンと静まり返っていた。



「再生魔法の少し後から昨日まで数日間、女神様の城では収穫祭が行われていました。皆さんの中にも、行かれた方がいらっしゃるかと思います」


 人々は、互いに顔を見合わせ、頷いたり、首を振ったりしている。あまり行ってないのかな?


「女神様は妖精です。妖精は、いたずら好きで子供好き。お祭り騒ぎにじっとしていられず、起き出してしまったようです。収穫祭の広場で、子供達と一緒に踊るゴリラを見た方もあるでしょう。あれは女神様が変装、いえ変身した姿です。困ったことに、お忍びで、祭りに参加されていたのです」



 僕は、話すべきことと、話してはいけないことを頭の中で必死に整理していた。


 祭りの件は、リュックくんが大丈夫だと言うので、このせいで結界が消えないことにしようと思いついたんだ。


 王都の人達は、複雑な神妙な顔をしている人もいるが、圧倒的に笑ってる人が多い。よかった。これでいけるよね。



「あの変装は、僕達にも見抜けないようにと考えられたようで、魔法での変身ではありませんでした。僕は、普段はポーションの行商をしているポーション屋です」


 僕は、身体の向きを変え、コペルの旗を見せた。


「売り物にならない失敗作ができると、城に持って行くのですが、その一つを利用されたのです。だから、僕も見抜くことができませんでした。ただ、話すとゴリラらしくない言動から、女神様が化けているのだとバレバレでしたが」


 どっと、笑いが起こった。人々の表情は少しずつ明るくなってきていた。



「しっかり眠ってくれないと、女神様の体力も魔力も回復しません。収穫祭は終わりましたから、側近の誰かが女神様がちゃんと眠るよう、監視している頃だと思います」


(たぶん、別の意味で監視されてるよね、嘘はついていない)


『情報提供しとこーか』


(え? 何?)


『いいから、続けろ』


「星の再生後、初の収穫祭だということもあり、即売会用の野菜を大量に育てるために、女神様はほとんどの魔力を使ってしまったようです。だから、これからまだ半月くらいは、星の防御結界は消えないと思います」



(リュックくん、何? その情報、ほんと?)


『あぁ、居住区の畑の作物を、一気に成長させてた。まぁ、妖精本来の能力だからな、たいして魔力は使ってねーみたいだが』


(えー! じゃあ、今の嘘じゃん!)


『嘘も方便ってことで、いいんじゃねーの』


(うーん…)


『ほれ、演説の途中だ。続きを待ってるぞ』


(あ、うん)



「それから、女神様は、再生魔法の際の何かの副作用で、以前よりも強くなったようです。再生魔法の後に生まれた神族の魔人は、戦闘力が高いことからも、そう推測できます。女神様が全回復して星の防御結界が消えてみないと、具体的にどの程度かはわからないのですが」


(こんなこと言って大丈夫?)


『気にするな。ガツンと言ってやれ』


「女神様が弱い神だと、他の星からの迷い子が吹聴しているようですが、それはただの虚言です。女神様が眠る今のうちに、侵略しようと考えているのでしょう」



(なんでリュックくんのことを言えって言ったの?)


『一番、説得力あるだろーが』


(でも、リュックくんが怖がられるじゃん)


『魔道具だとは言ってねーから、オレのことかはわからねーだろ』


(そうだけど…)


『それに抑止力になるからな。この暴動を引き起こした奴らに、強い魔人が生まれたと知らせるのが一番の目的だ』


(あー、なるほど。ん? リュックくん、そこまで強いの? 抑止力になるほど)


『さぁな。まぁ、通常時のおまえよりは強いと思う』


(そのへんのチビっ子でも、僕より強いよ)


『ふっ、体力も残念だしな』


(はぁ……そうだね)


『演説、終了か?』


(あ、まだ途中だった…)


『おまえなー』



 魔人の話や、女神様は強くなったということ、また他の星からの侵略の可能性に、人々は驚いたようだった。


 先程までの暴動とは違った意味で、大騒ぎになっていた。


 内乱を企んでいる場合ではないと気づいたか、もしくは驚きで洗脳が解除されたかのようだった。



「女神様は、民のことには干渉しない放任主義です。ですが、それは星の住人同士の勢力争いには干渉しないという意味です。他の星からの侵略には、当然、全力で対処されるでしょう」


 僕が話し始めると、少し騒ぎは収まってきた。


「いま、女神の番犬と呼ばれる僕達16人が、女神様の代行者の役割を与えられています。女神様は放任主義ですが、僕達は必要なときには直接干渉します。ですから、皆さん安心してください。この星を害する侵略者は、必ず排除します」



 ドッと、大きな歓声が上がった。拍手している人達もいる。拳をぶんぶん振り回している人もいる。そして、いまいましげな顔をしている者もいる。


(よし、演説完了)


『まだだろーが』


(ん? 何?)


『逃げ場を失った奴らは、何をしでかすかわからねーぞ』


(えっ……どうすればいいの?)


『逃げ場所を教えてやれよ』


(ん? まだ結界は消えないよ?)


『何のための島か、わかってねーのか?』


(あ、邪神ほいほい?)


『あぁ、あの島に他の星の奴らを集めればいい。島と言っても、小国ひとつ分はあるくらいの大きな未開の島だ。自分達の居場所は自分達で作ればいいんだ』


(もしかして、あの島は、他の星の人達のために造られたの?)


『まぁ、それもある。最終目標は、共存の地にしたいみたいだけどな』


(そっか、わかった)


 でも、新しい島に行けと言うと、絶対に罠だと思って警戒するよね…。ってことは、その逆でいくか。



「最後に皆さんに、ひとつだけお願いがあります。新しく大きな島ができたことは、噂でご存知でしょう。いま、あの島のあちこちではマナが噴き出しています。そのため、地底の魔族や、あちらの国の住人が、あの島のナワバリ争いをしています」


(あんまり聞いてないな…。でも、奴らは聞いているね)


「国王様の調査隊が向かわれましたが、その交戦に巻き込まれたようで、大量の犠牲者が出てしまったようです。猛毒を吐く魔獣にやられたと聞きました。非常に危険な島です。魔獣に襲われても逃げ切れる自信のある人しか、あの島には行かないでください」


 国王様という言葉や、魔族や魔獣に反応した人が、まわりを静かにさせているようだ。もう一度言うか。


「あの新しい島には、近いうちに調査に行きます。次の調査隊に、僕も同行するつもりです。ある程度の安全な場所を確保できたら、王宮およびギルド経由でお知らせします。それまでは、あの島への立ち入りは自粛してください。遭難されても救出には行けません」


 人々は、またざわざわし始めた。一方で、ニヤリと笑う人達もいた。うん、他の星の奴らだね。



「長い話を聞いていただいて、ありがとうございました。では、皆さん、僕はこれで失礼します。次に会ったときにはポーション屋として接してくださいね。それから、その子達も、そろそろすみかに帰します。また、遊んでやってくださいね」



 僕がそう話すと、生首達はスーッと空へ昇るように上がっていった。そして、少し、はらはらと舞い、ピカピカくるくると回った後、フッと消えた。


(退場シーンは、いまいちだね…)


 僕は、魔導玉から手を離した。空に映っていた映像はスッと消えた。




「ライト、お疲れ。なかなか興味深い演説だったぞ」


「フリード王子、お疲れ様です。僕だけしか話してなくて、よかったのでしょうか」


「あぁ、俺は、魔導塔からの正当な映像だと示すための、ただの背景だからな。気にしないでくれ」


「はい」


「見事に鎮静化したな。皆、何事もなかったかのように、日常に戻りつつあるようだ」


「洗脳状態だった奴らは、それが解除されてるんだ。術士の能力が低かったんだな。俺なら、こんなことくらいで解けるような術は使わない」


「カースは、能力が高いんだな。それに、見せ方がうまい。とても勉強になったよ」


「ふん、たいしたことはしていない。フリード、おだてても俺はもう主君は変えられないんだ」


「いや、引き抜くつもりじゃないんだがな、はははっ」


「それに、俺は自分より上だと思える奴に仕えたい。人族には荷が重いだろう」


「カース、失礼な言い方になってるよ」


「事実だ。確かに彼の主君を務めるには、人族では荷が重いな」


「神族にも荷が重いような気がするだ」


「ですよね、僕もそう思います」


「まぁそうだな、ガキだからな…。そのうち、マシになると期待している」


「なに、それ」




 僕は、演説を終えて、魔導塔の人達に軽く挨拶をした。


 結局、ベアトスさんが出した食料は、すべて食べられてしまったようだ。僕が出したポーションも、すべてテーブルから消えていた。


 魔導士のひとりから、ポーション代だと言って金貨30枚を渡された。足りない分は、フリード王子からもらってくれと言う。

 どうやら、彼らが支払った分は、私用で使うためのもののようだ。また入荷したら売って欲しいと言われた。


(やはり、魔ポーションって貴重なんだね)


 僕達は、魔導塔をあとにした。



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