190、王都リンゴーシュ 〜 舌戦
「国王様が決断されるだけですわ。私達の行動範囲の制限を解除すれば良いのです。一瞬で鎮圧してみせますわ」
「それはできません。アマゾネスはあちらの国の種族です。他国にチカラを借りての鎮圧は逆効果です」
「ですが、私達は、この国で貴族の地位を与えていただいていますわ。移住している者達はこの国の民ですわよ?」
僕はいま、王宮の謁見の間のような場所にいる。ここには、数十人の人が集まり、激しい口論の真っ最中だった。
話を聞いた感じでは、他の星の奴らが王都の民をそそのかし、暴動が起こっているようだ。
より強い指導者が統べるべきだと、民の不安をあおり洗脳されているような状態なんだ。
女神様が眠らないから、体力も魔力も全回復しないため、星の防御結界が消えないなのだ。
これは、女神様が、成長するまでの時間稼ぎなんだけど、そのことはほとんどの神族にさえ、秘密にされている。
女神様が、わざと結界が消えないようにしていることは、他の星の奴らには絶対に、知られてはいけないんだ。
『おーい、ライト、聞こえるかー?』
『ん? その声は……誰?』
『おまえなー、配下の声くらい覚えとけよ』
『あー、カース? どうしたの? ってか、そういえばギルドからいつ消えたの?』
『消えてないし。他の冒険者に紛れていただけだ』
『ふぅん、そっか。で、どうしたの?』
『いま、俺、王都に居るんだけどさ……合流していいか?』
『えっ! ギルドに居るって言わなかった? 王宮に来るの?』
『あぁ。おまえがワープした直後に、俺も移動した』
『バリアは? 王都には入れないんじゃないの?』
『俺に入れない場所は、地上にはないぜ。地底はあるけどな』
『へぇ…。で、なぜ合流したいの?』
『俺が殺されてもいいのかよ』
『ん? 意味がわからない』
『とりあえず、行くから』
そう言うとカースは、パッと、僕の目の前に現れた。
突然、登場した見慣れない男に、ケンカをしていた人達は驚き、兵は一斉に剣を抜いた。
「おっと、ちょっと待った! いきなり剣を抜くとか、野蛮すぎないか?」
「何者だ! どうやって忍び込んだ? ライト様を人質にでもする気か!」
「威勢のいい女だな、アマゾネスか? ふん、だがザコだな」
「なんだと? 男の分際で生意気な口を…」
(ひゃ〜、すごい女尊男卑発言…)
「はぁ……カース、いい加減にしなさい。皆さん、お騒がせしてすみません。僕の配下のカースです」
「えっ? ライト、その彼も一緒に来たのか?」
「いえ、別行動です、フリード王子」
兵の一部は、まだ警戒をゆるめず、カースに剣を向けていた。僕の配下だと言っても、アマゾネスは無視するんだね。
「剣をおさめろ! 彼は、国王の調査隊が受けた猛毒の呪いを、すべて一人で解除してくれたんだぞ」
「剣をおさめなさい」
フリード王子がそう言うと、女性が兵に指示を与えた。アマゾネスの兵は、国王様じゃなくて、皆と口論していた、その女性を守っていたようだ。
その女性がアマゾネスの重臣、ということは、この場にいる女性はすべてアマゾネスなのか…。
「ほう、わしの名で派遣した調査隊が世話になった。礼を言う」
「国王様、もったいないお言葉です」
そう言うと、カースは丁寧にお辞儀をしていた。何? そんな態度もできるわけ? 僕には上から目線なくせに、どういうこと?
僕がカチンときていると、それに気づいたカースは、こちらを見て、ニヤリと笑った。
(なっ! カースまで反抗期の子供じゃん)
「ん? ライト、どうした?」
「あ、いえ、フリード王子……なんでもないです」
「そうか?」
「はい、あ、うーん。カースは、こんな丁寧な挨拶ができるとは知らなかったので…」
「あら? その男、私も知っているわ。この星の者じゃないわよね。確か、ペンラート星じゃなかったかしら?」
アマゾネスの重臣らしき女性がそう言うと、部屋の中はざわついた。カースって、お尋ね者なんだね…。
「アマゾネスの騎士様、ご機嫌麗しゅう」
「嫌味かしら? 機嫌がいいように見えるの?」
「あ、いえ、現状把握ができておりませんでした。申し訳ありません」
「貴方達のことは知っているわよ。私達の街にいたペンラートの他の幻術士も、似たタイプだったわ。謝る気なんて微塵もないのよね」
「いえ、そのようなことは…」
「あの、珍しく真面目に謝っていると思うんですけど…」
「あなたには、彼はどのような態度で接するのかしら?」
「えっ? あー、こんな丁寧に話をしたことがないですね」
「上から目線?」
「あ、まぁ、はい…」
(また、主人失格って言われそう…)
「えっ! そうなの?」
「あ、はい、そうですね…。主人失格とおっしゃりたいのでしょうが、まだ、主従関係になって日も浅いので…」
「えっ? そうなの……ですか」
(ん? アマゾネスが敬語?)
「はい」
「へぇ…」
(何? 意味がわからない)
「ライトさん、知らないだか? ペンラート星の住人は、あまのじゃくだ。信頼した者には、上から目線で話すだ。それがある種の敬語らしいだ」
「えっ?」
僕は、カースの顔を見ると、なんとも言えない気まずそうな顔をしているが、否定はしない。
そういえば、新しい島の邪神ほいほいの小屋で、媚びるように話すか、上から目線か、と聞かれたことを思い出した。
あのときは、話し方から誰なのかを特定しようとしているのかと思ったが、あの神は既に特定はしていると言っていた。
ということは、あれは、僕との信頼関係があるかを探ろうとしていたのか。
(ん? カースは僕を信頼してるってこと?)
「あ、そういえば、カース、なぜ合流したかったわけ?」
「王都内は、変な奴らが多いから身の危険を感じた」
「あっそ。お尋ね者なんだね、ほんと」
「それほどでもない。おい、ちょっと待て。変な奴らってのは、これまでに会ったこともない奴もいるんだからな」
「ペンラートの幻術士が、そんな些細なことを怖れて主人の元に逃げてきたのかしら? なんてなさけないのかしら」
アマゾネスと会話するのは無理って言ってたベアトスさんの意見に、諸手を挙げて賛成だよ、僕…。
くるりと周りを見渡してみたが、この女性を黙らせることのできる人はいないのかな。国王様までもが、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
(仕方ないか…。話をぶった切ろう)
「あの、話を戻しませんか? 先程の流れでは、やはり、僕が住人の皆さんに話をする方がいいと思うんです。武力行使は、最終手段だと思いますよ」
「ライトよ、我が王都の民は、まるで操られているかのように騒いでいるのだ。話など、できるだろうか」
「国王! 民が操られているとおっしゃるなら、そのペンラートの幻術士を使えばいいんじゃありません? ですが、力を示さねば、また同じことを繰り返すだけでしょうけどね」
「洗脳を解除させよと?」
「まぁ、操られているのなら、ですわ。民の不満からの愚王に対するクーデターなら、幻術士は解除じゃなくて、術をかければいいのじゃないかしら」
「洗脳させよと?」
「ペンラートの幻術士は、操る能力は高いはずですわ。まぁ、この彼に、そこまでの力があるかは存じませんけど」
「アマゾネスの騎士様、私は王都程度の広さなら、操ることは可能です。ですが、操り続ける魔力はない。その術が解けたとき、それが王宮の命令だと知られると、それこそクーデターが起こりかねません」
「使えない男ね」
(ヤバイ、この人、殴りたくなってきた…)
「お役に立てず、申し訳ありません」
「ふん、謝る気なんてないくせに…。はぁ、もう、だから、私達に任せればいいのよ」
国王様は、アマゾネスの女性とカースを厳しい表情で眺めていた。だが、フッと表情をやわらげ、フリード王子に何か合図を送り、僕の方に目を向けた。
「父上は、ライトに任せるそうだ。俺も補佐につく」
「え? フリード王子が補佐ですか?」
「あぁ、王宮からの伝達に映像を使うときには、王族が居なければならないんだ。侵入者に乱用されることがないように、そのような規則になっている」
「映像を使うことができるのですか! すごい」
「王宮の魔導士団は、それなりに優秀なんだよ」
「あ、魔法で…」
「なら、俺も補佐するだ。魔道具で拡声する方が、魔導士の負担は減らせるだ」
「あぁ、ベアトス、助かる。確か、前にも使ってくれた拡声装置だな?」
「んだ、少しあれから改良しただ」
「じゃあ、俺も補佐な」
「えっと、カースには悪いが、幻術は使わないでいこうと思うのだが?」
「フリード王子、俺も術を使うつもりはない」
「じゃあ、何を?」
「俺の主君は、ビビりだからな。それに経験不足だ。どうすれば効率的に人の心を掴めるか、全くわかってないだろうからな」
「なるほど、確かに幻術士は、人の心を掌握するエキスパートだな。カースも補佐を頼む」
「あらあら、そんなことで大丈夫なのかしら? 女神様の代行者が聞いて呆れるわね」
(殴りたい…)
「アマゾネスの騎士様、俺の主君を怒らせるような言動は、自己責任でお願いしますね。女神様の番犬は、すべて戦闘系だということをお忘れになりませんように…」
「何? 男の分際で、私に意見するということかしら? 身の程知らずもはなはだしいわね」
(ダメだ、限界…)
「あの、失礼ですが、貴女は何様のつもりですか」
「は? 何なの! 失礼ね」
「失礼ですがと、お断りしてから話しましたよ」
「なんですって!」
「僕は、貴女達のことはよく知りません。ですが、女尊男卑だという思想は、貴女の種族内での価値観でしょう? このような公の場に、その価値観を持ち込むのは、おかしくないですか」
「男が、くだらないことを…」
「そう、それです。話し合いの場に、男も女も関係ないでしょう?」
「関係……あるわよ」
「いえ、関係ありません。そのような差別的な発言は、貴女の品位を落とすことになります。貴女には、凛とした気高さがあるのに、すべて台無しですよ」
「気高さが…。コホン。わかったわよ、好きにしなさい」
「では、そのように」
僕は、言い負かされて悔しそうな彼女に、やわらかな営業スマイルを見せた。彼女は、キッと睨み返してきたが、反論はされなかった。
(勝った!)
「じゃあ、ライト、案内する。ベアトスとカースもついてきてくれ」
「はい、了解です」
僕達は、広場にいた人達に軽く会釈をして、フリード王子に連れられて、王宮内の魔導塔という場所に向かった。




