表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/286

19、女神の城 〜 報酬は日帰り旅行

 女神イロハカルティアの城にある虹色ガス灯は、青色から紫色に変わっていた。


 紫色の次は、赤色。赤色から1日が始まる。つまり今はこの城の真夜中にあたる時間だった。


 屋台に群がっていた祭りを楽しむ人達の数も減り、祭りの終わりを感じさせる。



 僕は、ジャックさんの身体の中にあった、呪詛により炭化した部分の摘出手術に挑んだ。

 その過程の中で、よくわからないうちに、不思議な魔法を使えるようになったみたいなんだ。




「そういえば、妾は、ライトにまだ朝食を馳走になっておらぬが?」


「えっと……忘れてました。店のお会計は?」


「タイガじゃ」


「あ、僕の分もですよね。ごちそうさま言ってない」


「そんなのは気にしたら負けじゃ。それより、屋台の行列が消えているのじゃ!」


「そうですね、人が減りましたね」


「うむ。今がチャンスじゃ! 今度こそ妾に…」


「いろはちゃん、またおねだりかしら?」


「わ! いきなり現れるでない! 邪魔しに来たのか? 意地悪オババ!」


「もう! かわいくないこと言わないのっ。せっかく、一緒に屋台まわろうって誘いに来たのにー」


「も、もしかして、チップス屋は?」


「いろはちゃんのために、まだ油の火を落とさないようにって言ってあるわ」


「おぉっ! さすがなのじゃ! ナタリーは美人なだけじゃなくて気遣いができて優しいのじゃ。完璧なのじゃ! すぐ行くのじゃ! ライトも、はよ、はよ!」


(べ、べた褒めだ……意地悪オババ扱いしてた人と同じ口から出た言葉とは思えない)


「うふふっ」



 僕は、チップス屋に向かってまっすぐ歩く女神様に、ものすごい力で引っ張られ、コケそうになりながらも、なんとか無事その屋台に到着した。


「いろは様、まいどですぅ〜」


「うむ。野菜のチップスが欲しいのじゃ!」


「かしこまりました、3人分でよろしいですか?」


「よろしいのじゃ!」


 屋台では、スライス野菜をフライにしているようだった。ポテトフライだけでなく、色とりどりの見たこともない野菜が揚げられていく。


 そして油から引き上げ、仕上げに塩コショウ?


「あーっ!!」


「な、なんじゃ? どうしたのじゃ?」


「うん? なぁに?」


 僕は、めちゃくちゃ驚いていた! だって、仕上げのアレ、塩コショウって、日本語だ!


「な、なぜ日本語? あの、日本に……僕の前世…あ、あの、この星にあるんですかっ」


「ライトくん、何を言ってるかわからないわー」


「ん? 落ち着くのじゃ! ささ、チップスを食べるのじゃ」



 僕は、とりあえず、震える手でチップスをつまんだ。


 カラッと揚がっていて、出来たてのチップスはとても美味しかった。そして、塩でなく、塩コショウというのも、コショウがいい仕事をしている。


「あの、この塩コショウは、どこで?」


 僕は、お店の人にたずねてみた。すると、まさかの返事が返ってきた。


「これは、居住区のコンビニで売ってるんですよ。えっと、確かタイガさんがやってる方の店だったと思います」


「えーっ! タイガさんって、あのタイガさん?」


 僕は驚いて、女神様を見た。


「そうじゃ。あの脳筋でガラの悪いタイガじゃ」


「コンビニ経営してるなんて、全然イメージと違う」


「経営って言っても、奥さんに…」


「えーっ! タイガさんに奥さんいるんですか! あ、そっか、年齢的にも、不思議ではない」


「うふふ。奥さんも娘さんもいるわよー」


「あー、あの娘、確かライトと同じくらいじゃ。今は地上で冒険者をしておるのじゃ」


「そ、そうなんですね。ナタリーさん、すみません、話をぶった切ってしまって」


「ふふっ。いいのよ、みんな驚くもの。経営も店も奥さんが何もかもやってるわ。あ、特殊な仕入れだけはタイガが行ってるけど」


「特殊な仕入れって?」


「その塩コショウみたいなものよー」


「ま、まさか、日本から?」


「いろはちゃん、説明してもいいかしら?」


「どうせ、タイガが話すじゃろ」


「ふふ。あのね、隠居してここで暮らしてる転生者はね、いろはちゃんのお手伝いをすることで報酬がもらえるの」


「お給料ですか?」


「いえ、お給料はなくて、年に一度の日帰り旅行なの。自分が元いた前世の時代に」


「えっ! 前世に戻れるのですか!」


「戻るというか旅行ね。今の姿のままだから、異国の人に見られるわ」


「あ、そっか、なるほど」


「でね、その国の物を買ってきて居住区で売る場合は、月に一度、行かせてもらえるの」


「じ、じゃあ、この塩コショウは、日本のもの?」


「うん、そうだと思うわ〜」


「じゃあ、インスタントコーヒーも?」


「うん、あるわよー」


 僕は、めちゃくちゃドキドキしてきた! 日本の食べ物がある! しかも隠居したら、日本に戻れる!


「ライト、おぬし、もう隠居しようなんて考えておる、なんてことはないじゃろな?」


「えっ、えっと…。いや、あはは」


「言っておくが、戻っても、前世の知り合いには会えぬぞ。いろいろ面倒になるから、禁じられておるのじゃ。だから、時間も場所も少しずらした所にしか、行かせられぬのじゃ」


「あ、そ、そうですよね。確かに混乱を招きます…」


「それに、本人のためにもな。辛くなるだけじゃ」


「………ですね」


「そうだわ! いろはちゃんが気に入ったあの魔ポーション、コーヒーがないと作れないのよね? 地上のコーヒーは不味いわよ」


「な、なんじゃと! それを早く言うのじゃ! ライト、買いに行くぞ! コンビニに行くのじゃ」


「は、はい!」




 タイガさんのコンビニは、居住区の商業エリアの一番奥、住居エリアの近くにあった。

 店の中は、コンビニというよりは地元密着のミニスーパーのような感じだった。


 そして、早速、店内を歩き回った。レジ近くには、手作り弁当が並んでいる。店の奥の方に、僕が求めるものがあった!


 インスタントコーヒー、粉状のミルク、砂糖、さらに塩コショウも買うことにした。値段はだいたい5倍か。


 ぼったくりと言いたくなるけど、わざわざこの地からあまりにも離れた異世界に仕入れに行っていることを考えると、妥当な価格かもしれない。


 それぞれ2個ずつ購入し、ちょうど銀貨1枚だった。1万円もするんだ。まぁ仕方ない。


(そういえば、初めてお金使った!)


 僕が無事お会計を済ませてすぐ、女神様に呼ばれた。


「ライト、挨拶せい」


 すると、店で品出しをしていた女性が、作業を止めてナタリーさんと話しているのが見えた。

 僕は、その3人のところへ駆け寄り、ぺこりと頭を下げた。


「はじめましてライトです。タイガさんにはお世話になっています」


 すると、その女性は豪快に吹き出した。


「ライトさん、はじめまして。逆じゃないんですか? ウチのバカがお世話をおかけします」

 

(えっ! 毒舌)


 僕は、ちょっと驚いて、パッと顔を上げた。


 その女性は、タイガさんより少し年上に見える。それになんというか、肝っ玉母さんのような、がっしりと構えた、頼り甲斐のありそうな人だった。


「いえ、そんなこと。いろいろ教えてもらっています」


「ははっ。役に立ってるならよかったよ。あ、お買い上げありがとうございます」


「こちらこそ、日本の物を買えて、めちゃくちゃ嬉しいです。ありがとうございます」


「あ、同郷だったんだね、ウチのバカと。じゃあ珍しいというより懐かしい物かな」


「ライトは、まだこの世界に来たばかりじゃから、懐かしくもないじゃろ」


「懐かしいというより驚きというか感動ですっ」


「そうか、それはなによりだわ〜あはは」


「コーヒーが必要になれば、遠慮なく妾を呼ぶのじゃ。迎えに行ってやるのじゃ!」


「イロハカルティア様、それって、迎えのお駄賃たんまり取る気ですよね?」


「なっ? なっ何を言うておる。意味がわからぬのじゃ」


(目が泳いでらっしゃるんですけど…)


「あぁ〜わかった。噂のポーションですね。いろはさんがお気に入りだという」


「あれは、コーヒー牛乳味なのじゃ。美味なのじゃ! それなのに、ライトはケチだからあまりくれないのじゃ」


「売り物ですからね、買ってくださいよ。ギルドで価格査定してもらってきますから」


「イヤじゃ!」


「へ? あ、お金ないとか?」


「そんなもの腐るほどあるのじゃ! ないと、冒険者に落とし物の依頼を出せぬではないか」


「あ、そっか。じゃあ、次からは買ってくださいね、カルーアミルク風味の魔ポーション」


「イヤじゃ!」


「……でも、欲しいんですよね?」


「当たり前じゃ! じゃが、買って……味が落ちてしまうと困るのじゃ!」


「……変わらないと思いますけど」


「変わるのじゃ! 馳走になる方がなんでも美味しくなるのじゃ。常識じゃ!」


「………パフェと一緒ですね」


「むむっ。パフェもまだ馳走になってないのじゃ。行くのじゃ!」


「この時間は、飲み屋しかやってないですよ、いろはさん」


「うぬぬ……そうじゃった…」


 タイガさんの奥さんは、こんな女神様にとても優しい笑みを浮かべておられる。なんでもどーんと受け入れる懐の深さを感じる。


 僕は、タイガさんがどんだけ破茶滅茶な人なのか、まだわからないけど、この女性なら、しっかり受け止めてあげてるんだろうなと思った。



「そうだわ。ライトくん、あの魔法教えてよ〜」


「えっと、なんでしたっけ?」


「ほら、ジャックくんの手術前の、ブワァ〜ってやつよー」


「あ、あれは、偶然できたんで、今もできるかはわからないです…」


「は? 何を寝ぼけておる。一度できたなら死ぬまで出来るに決まっておるではないか。常識じゃ!」


「えーっと、そうなんですか? 僕、記憶力はあまり…」


「ライトくん、魔法は初めて起動するときは、頭の中に古代文字で呪文が流れるでしょ? 一度起動すれば頭に完全に記憶されるから、忘れないのよ。たとえ記憶喪失になってもイメージできれば使えるわ」


「読めない文字は、古代文字…。え? でも偶然できたシャワー魔法は、読めない文字浮かばなかったような…」


「術者が作り出した魔法ね」


「えっ? 僕が作ったんですか?」


「うん、だから教えてってお願いしてたじゃない? とっても便利そうだもの」


 僕は、シャワー魔法を、自分にかけてみた。うん、サッパリする。

 そして、ナタリーさんにもかけ、ついでに、じーっと見てる女神様にも。


「ゆるい3属性の同時発動なのね。おもしろいわね」


 見ただけで、ナタリーさんは自分でかけていた。


「転移魔法のときのクリアと似てるけど、こっちの方がサッパリしますわね」


「え? クリアって? やっぱ、シャワー魔法?」


「クリアはクリアじゃ! 転移元の菌を、転移先に運ばぬように、転移魔法をかけたときに、身体が掃除されるのじゃ」


「なるほど。宿に泊まったときに、それほど身体が汚れてないから不思議だったんですよね、クリア、なんですね」


 タイガさんの奥さんも、かけてほしいと言うので、かけてあげた。すると、めちゃくちゃ感動された。

 魔法はあまり得意じゃないから真似はできないけど、と残念そうだったが。





「奥さん! タイガさん、いないっすか? あ、あれ?」


 そこへ、ジャックさんが駆け込んできた。めちゃくちゃ元気そうで、僕はホッとした。


「なんじゃ?」


「あの、例のアレ、先に行ったふたりから救援要請っす。ちょっとヤバそうで…」


「じゃろうな。ふむ、ライトを連れて行け」


「えっ、冒険者Aランク、じゃないっすよね?」


「Gランクです…」


「かまわぬ、妾が許可する」


(え、えぇーっ!?)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ