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187、ロバタージュ 〜 魔人について

 ドタ! バタ!


「うっ……これは…」


 ガタン!


 あちらこちらで、倒れる人が出てきた。


 さっきまで、ギルドには、この街を人質にすると言っていた奴らがいた。だけど、僕が暴走したことがキッカケで、撤退を決めたんだ。

 ただ、新しい島に戻るときにあの神は、従えていた魔獣をまるで道具のように爆発させ、僕達の追撃を防ごうとしたようなんだ。


 しかも、それはただの爆弾ではなかった。猛毒の呪いが爆発によりギルド内に一気にひろがったんだ。


 僕がさっき毒の呪いを打ち消した闇は、もうほとんど僕の中に回収してしまっていた。

 だから、猛毒の呪いは、このギルド内のすべての呪い耐性のない人にかかってしまったようだ。




 僕は、慌てて左手を前に向け、僕の闇を纏わせた。ギルド内に漂う猛毒の呪いと、僕の深き闇は、触れ合うとバチバチと音を立てていた。

 僕は、蘇生を唱えた。僕の深き闇と、あの神の猛毒の呪いは、蘇生魔法を起爆剤として、その属性が反転する。


 ピカッ!


 僕の左手から強い白い光が放たれた。そう、闇の反射、清浄の光という聖魔法だ。


 出力は抑えたつもりだったが、ギルド内が強い光で、一瞬なにも見えないほど真っ白に染まった。


 ようやく光がおさまり、視界が戻ったときには、倒れていた人達も、上体を起こしていた。


「なに? 真っ白な…」


「何もかも全回復しているぞ」



 一般の冒険者達は、何が起こったのかわからないようだった。ギルドの職員さんや、国王様の調査隊は、僕が聖魔法を放ったのだと気づいたようだ。



「やはり、ライトがいると絶対安全だな」


「フリード王子、そんなことは…。猛毒で倒れた人、たくさんいますし…」


「でも、もうすべて回復しているだろう。それにしても、ライトの魔人はハンパないな」


「リュックくん、ご挨拶〜」


「フリード王子、ライトがいつも迷惑をかけてます」


「えっ! ちょ…」


「いやいや、逆だよ。ライトには命を救われて以来、ずっといつも助けられてばかりだ」


「いえ、そんなことは…」


「はぁ〜.フリード、こーいうのやめねーか? なんだか疲れるだけで、意味ねーだろ」


「ちょ、リュックくん、そんな失礼な言い方…」


「ライト、構わない。俺もフランクに話ができる友は数えるほどしかいないから、逆に嬉しいよ」


「えーっと、無礼討ちされたりしませんか?」


「なんだ? 無礼討ちとは?」


「平民が偉い人に失礼をはたらいて、斬られてしまうことです」


「ん? 平民?」


「あ、いえ……忘れてください」


「ふっ、神族は、前世の記憶がある者もいると聞く。ライトは、そのタイプだな」


「ええっと…、どうでしょう?」


「隠さずともよいのだけどな。俺はだいたい知っていると思うぞ。だがまぁ、ここではな」



 そう言うと、フリード王子はギルド内をぐるっと見回した。うん、確かに一般の冒険者もいるもんね。


 さっきの戦闘を見ていたためか、魔人だとわかったためか、冒険者達はリュックくんを怖がっているようだった。


 リュックくんが、チラッと見るとみんな目をそらす。


「やはりオレって、おまえらから見ると怖いんだろ?」


「リュックくん、おまえって…」


「ふっ、ライト構わないよ。人族の中での王制は、他の種族には関係ないことだからね。リュックくんって呼べばいいのかな?」


「いや、くん付けはいらねー。リュックでいい」


「そうか、じゃあリュック、確かに魔人と聞くと怖いな。女神様が作り出す魔人は、この星の害悪となる者を抹殺するイメージが強いからな」


「フリードは、女神の魔人を知っているのか?」


「直接、見たことはないが、様々な資料は王宮に残されているからな。地底の魔王達も怖れているだろう」


「あー、なるほどな。じゃあ、教えておく。オレは女神の魔力で生み出されたが、魔人ではなく魔道具として作られたんだ。だから、女神が直接作り出す魔人とは違う」


「魔道具なのに、人型なのか?」


「オレは、ただの魔道具リュックとして作り出されたが、ライトがオレをこんな風に育てたんだ」


「ちょ、何? 僕のせいでヤンキーになったみたいに言ってー」


「なんだ? ヤンキーって」


「あ、あの……リュックくんみたいにガラの悪い不良少年のような…」


「だーかーらー、子供扱いすんじゃねーって。どう見てもオレは大人だろーが」


「中身は反抗期の子供じゃん」


「おまえなー」


「ププッ、なんだ? てっきり主従関係があるのかと思っていたが、まるで兄弟のようだな」


「えー、フリード王子、どっちが兄ですか?」


「おまえなー、どう見ても、おまえは少年でオレが大人じゃねーか」


「フリード王子は、見た目で判断されてないよ。ですよね?」


「あははは、なんだか答えづらいな。まぁ、いいコンビだな」


「はい、僕の相棒ですから」


「なら、おまえ、オレにごちゃごちゃ意味不明な説教すんじゃねーぞ」


「な? 僕は、人として先輩なんだからね」


「ププッ、ちなみにどんな説教されてるんだ?」


「あー、言葉遣いだとか、あとチャラ男になるなとか…」


「チャラ男って何だ?」


「意味不明なんだ。ライトの頭の中では、女遊びをする男がチャラ男らしい」


「へぇ、確かにリュックはモテそうだな」


「魔人だとわかれば、誰も怖がって寄ってこねーよ」


「確かに魔人は性別もなければ、生殖能力もないから、ライトが心配するようなことにはならないんじゃないか?」


「フリード王子、それが……リュックくんは性別あるんです。それに…付いてるみたいです」


「えっ? それは本当ですか! 王宮の文献にミスがあったとは…」


「セシルさん、普通は性別はないそうです」


「じゃあ、リュックさんは、特殊な個体?」


「あぁ、そうだよ。ライトのせいで、こーなった」


 僕は、ライトのせいじゃ! といつも言うあの顔が頭に浮かんだ。ほんと、性格似てるよね…。


「へぇ、珍しい魔人と知り合えて、嬉しいよ」


「そうか? まぁ、それならいいが」


「ということは、やはり、リュックはライトの魔人か」


「あぁ、オレの主人はライトだ。女神とは別人格だからな」


「女神様とは主従関係はないのですか? 王宮の文献では、神族の魔人は女神様の使徒だと…」


「セシル、神族の魔人は2種類いるんだ。女神が直接作り出す魔人は処刑人と呼ばれている。コイツらは女神が必要なときに作り、用が済めば消し去られる女神の道具だ」


「なるほど、それは王宮の文献通りです」


「もうひとつがオレのように、魔道具から進化した魔人だ。魔道具として神族に託されたときに、その神族と主従関係ができる。その主人の影響を受けて育つ」


「ということは、この世界にいる神族の魔人はすべて魔道具から進化して生まれたのですね」


「あぁ、いま、80体ほどいるな」


(えっ! そんなにいるんだ)


 その数を聞いて、ギルド内でこの話をジッと聞いていた人達も、少しザワザワした。

 リュックくんは、一般の冒険者がいるのもわかってて、魔人について話してるんだろうか。



「なるほど…。2種類いるとは知らなかったから、我々の文献では、それが混ざって記述されているのですね。王宮に戻ったら、直ちに改めなければ」


「まぁ、別にたいしたことじゃねーし、適当でいいんじゃねーの?」


「いえいえ、重要なことです。それに、やみくもに魔人を怖れる必要はないということもわかりましたし」


「あー、オレはまだチカラを制御できねーから隠せないけど、人族のフリしている魔人の中には、やべー奴もいるぜ」


「えっ! あ、魔人には寿命がないから、主人が亡くなったことで自由になった魔人ですね」


「いや、それは違う。魔道具から進化した魔人は主人が死ぬと消えるんだ。だから、主人は生きている。主人から離れて、好き勝手やってる奴らが、やべーんだよ」


「というのは?」


「主人が魔道具を必要としなくなると、放置するようになるんだ。主人の知らぬ間に、どこかの種族の長になっていたり、どこかの魔族を壊滅させたりして遊んでいる奴もいる」


「えっ!」


「もうそいつらは、主人には抑えられねー。そもそも、主人の苦手な部分を補うのが魔人の役割だったりするんだ。強い魔人が生まれたら、主人はチカラでは制御ができねーんだよ。始末する権利をふりかざすだけになる」


「主人は魔人を始末できるのですか」


「あぁ、じゃないと、生み出した魔人が狂ったら世界の脅威になるじゃねーか。主人は、生み出した魔人を消せるんだよ」


「じゃあ、ライトさんも、リュックさんを抑えることはできないけど、始末することはできるんですね」


「は? セシル、何言ってんだ? オレの話を聞いてなかったか?」


「はて?」


「ライトは、オレにごちゃごちゃ意味不明な説教するんだよ。ウザイけど、ライトの方が一応主導権握ってるから、仕方なく適当に返事を返してやってんだよ」


(やっぱ、リュックくん、反抗期…)



「えーっと、でも、ライトさんよりリュックさんの方が圧倒的に戦闘力が高いですし…」


「あのなー、もしオレがライトと敵対して1対1で戦うことにでもなったら、一瞬でオレ、消されるんだけど」


「えっ!?」


「セシルは、ライトのチカラがわかってねーんだな。女神の番犬は全員戦闘系だぜ。まぁ、ライトの場合は自滅系だけどな」


「あ、闇の暴走?」


「あぁ、本気で怒らせちまったら、オレ、消される…」


「リュック、もしかしてライトを怖れているのか?」


「そうじゃなきゃ、いまここにはいねーよ。放し飼いにされてたら魔人は普通、征服欲に支配されて、どこかの国でも滅ぼそうかと思うだろ」


「リュックくん、ダメだよ!」


「わかってるって。んなことしねーよ。それにオレは、おまえの世話に忙しいからな」


「何? それ」


「おまえの元を離れていると、おまえが暴走してやらかすんじゃないかと、気になって落ち着かない」


「な? 何、それ。僕がまるで…」


「おまえ、闇、制御できてんのかよ」


「……できてない」


「ほれ、みろ。おまえが消滅するとオレも消えるんだからな。あぶなっかしくて離れてられねー」


「うぅ…」



「魔人には情はないはずだと不思議に感じたが、なるほどな。ライトを気にかけるのは自分が消滅しないため、か」


「フリード、それは少し違う。コイツのせいで、オレには多少は人的な感情があるんだ。人族のような複雑な感情は持ってねーがな」


「へぇそうか、おもしろいな。いろいろ聞けてよかったよ。ここにいる者達も、リュックに対する警戒心はゆるんだみたいだからな」


「まぁ、怖がられすぎるのも疲れるからな」



 僕は、少し複雑な気分になっていた。僕はリュックくんのことを友達だし、命を預けることのできる相棒だと思ってる。

 でも、リュックくんはそうじゃないんだな。まぁ、そりゃそうか、魔道具だもんね。


(でも、なんだかさみしい…)



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