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184、ロバタージュ 〜 転移渦が消えない

 ギルドの天井から黄緑色の光が降り注ぎ、ギルド内にいた全員がこの光を浴びていた。


「な、なんだ? この光」


「精霊魔法じゃないの? 体力も魔力も少しずつ回復していくわ」


「解毒、いや浄化魔法?」


 ギルド内の冒険者達も職員達も、突然、帰還石で現れた30人ほどのひどい怪我に驚き、そして、いま室内なのに降り注ぎ始めた黄緑色の光に驚いていた。


 そして、怪我人を必死に回復しようとしていた若い白魔導士も驚いていた。


 突然現れた少年が、全体回復魔法を放ったのだ。しかも、少年は、怪我人の状態を一瞬で判断したようだ。この魔法は、高位の魔導士や精霊が使う浄化魔法だ。





「お疲れ様です。ライトです。あなたは、この人達と同じパーティですか?」


「はい。私は唯一の白魔導士リンガロッシです。出発時は、他にもいたのですが殺されてしまって…。100人で行ったのに生還者はこれだけです」


「えっ……とりあえず、治療します。この体力が減り続けるのはいったい?」


「猛毒の呪いを受けたのです。ありえないほどの猛毒です…。私は毒も呪いも耐性がありますが、やられました。みがわりペンダントが砕け散りました」


「わかりました。なんとかしてみます」


「えっ? あなたは、精霊魔法使い?」


「いえ、えっと黄緑色の光のことですか?」


「あれは『森の浄化』ですよね。毒消しと回復。私は、国王様付きの白魔導士なので詳しいんですよ。 父から役目を引き継いだばかりですが…」


「そうなんですね。初めて使ったのでよくわからなくて…」


「えっ?」


「まぁ、あとはお任せください」


「この人数、大丈夫なんですか? あなたはいったい…」


 僕は、若い彼を安心させるように、やわらかく微笑んだ。



(さて、やるか)


 まず、血の海を掃除するためにシャワー魔法をかけた。


 ゲージサーチをすると、みんなまだ体力は赤色だが、ゲージは減らなくなった。黄緑色の光が、減少分と同じくらい回復しているのだろう。


 僕は、順に倒れている人の身体にスッと手を入れ、軽く回復していった。


『おい、魔ポーション飲んどけよ』


(あ、うん、わかった〜)


 僕は、魔法袋から変身魔ポーションを取り出して飲み干した。


『足りてねーぞ』


(まじ?)


 僕は、さらにもう1本飲み、また、順に軽く回復してまわった。怪我は治り、みんな意識は戻ったけど、まだダメだな。もう一度まわるかな。


 このミルフィーユ方式は、かなり使えることがわかってきた。短時間で、大勢の状態を改善させることができる。治療院での経験が役に立ったね。


(あれ? さっきから危機探知のリングが黄色く光っている?)


 室内を見ると、転移後の渦がまだ消えずに残っていた。あの奥の何かを察知してるのかな?


『おい、さっさと回復しねーと』


(あ、うん)


 とりあえず、僕は治療を再開した。





「ベアトスさん、あれなんですけど…」


「あーあ。大量に1ヶ所に帰還石を使って戻ったせいかな? いや、帰還を妨害されただな」


 ギルドの職員が、ライトだけじゃなくベアトスも呼んだのは、室内にできた転移渦の件だった。

 魔道具の誤作動などど転移後にも、転移渦が残る現象がたまに発生するのだ。


 ベアトスは、渦を閉じるために、レイを魔道具に戻し、巨大魔法袋から必要な魔道具を取り出した。


「あー、閉じれないだ。この場所が、何者かにロックオンされてしまったみたいだな」


「えっ! そんな…」


「どこと繋がってるだ? 冒険者はどこから戻ってきただ? ただの冒険者じゃないだな、どこかの調査隊?」


「はわわわ、た、たぶん……新しい…」



 その瞬間、転移渦は光り始めた。


「げっ! 来る気だな。この怪我を負わせた奴だな」


 ベアトスは、渦から少し離れて、ライトの様子を見た。まだ、治療中だ…。これだけの人数だから当たり前か。


 ベアトスの腰から魔法袋がスッと消えた。異空間に隠れて、戦闘準備に入ったようだ。


「渦からみんな離れるように指示するだ」


「はい!」


「冒険者のみなさん、転移渦が繋がってしまっているようです。何者かが現れるおそれがあるので気をつけてください」


「まずい……これ、ひとりじゃないだ…」


 ベアトスは、探知の魔道具の反応に冷や汗をかいていた。普通ならこの反応なら、逃げるところだが、ここでそうするわけにもいかない。


「ライトさんが、何とかしてくれたらええが」




 ギルドの室内の空気が揺れた。


 転移渦の中から、ひとりの男が出てきたのだ。ギルド内に、一気に緊張が走った。


「人族だらけですね〜。おや、ここは治療所でしたか」


 転移渦の中から出てきた男は、僕の方をチラッと見て、そう呟いた。そして興味深そうにキョロキョロしている。


 僕の危機探知のリングは、その男を黄色に染めていた。黄色は危険な相手。でも彼は、戦う気はなさそうに見えた。


 僕は無視して治療を続けた。毒は弱くない呪いによるもののようで、回復しても消えない。これ、聖魔法とかじゃないと消せないのかな…。


 どうするか考えていると、ギルドの扉が開き、見覚えのある顔が入ってきた。


 彼は渦から出てきた男を見て、一瞬その顔はこわばっていたが、僕の元へとスタスタ歩いてきた。


「おまえには荷が重い。そこをどけ」


「カース、ありがとう」


「はぁ? まだ何もしてないんだが」


「助っ人に来てくれたじゃん」


「仕方ないから来てやった」


「ふふっ」



 そして、カースは、毒の呪いを受けた人の腕を掴み、何か唱えていた。すると、何かが砕けるような音がした。


「ふん、たいしたことないな」


 僕が天井から降らせている黄緑色の光で、少しずつその人の体力は回復していった。毒の呪いが解除されたんだ。


「魔力使ってる?」


「いや、たいして消費しない」


「そっか。でも、あれ飲む?」


「あのクソ甘いやつか?」


「うん」


「もらってやってもいいが」


「ふふっ」


「何?」


「いえ別に、どうぞ」


 僕が変身魔ポーションを渡すと、カースはすぐに飲み干していた。顔をしかめながら…。

 カースは甘いものは苦手なのかもしれない。


 そして、ボーっと座っている人達の呪いを次々と解除していった。



 その様子を、渦から出てきた男は興味深そうに見ていた。この男はゲージは1本ずつしかない。ということは、この星の住人だな。


 僕は、てっきり他の星からの迷い子かと思っていたけど…。魔族か、もしくはもう一つの国の住人か…。


 でも、彼が居ても、意識が戻った帰還者は特に怖れてはいないようだ。ということは、彼は100人もの調査隊をボロボロにした奴とは無関係なのか?


 僕は、先程から治療していた白魔導士に、こっそりと話を聞くことにした。


「あの、リンガロッシさん、いま、渦から現れた男をご存知ですか? 帰還した原因となったのは?」


「あの男は、たぶん諜報員です。幻術を使う」


「魔族ですか?」


「たぶんハーフかと…。もう一つの国の奴らです」


「そうですか。じゃあこの呪いは?」


「魔獣です。たぶん人工的に作られたような…」


「えっ? 人工的に?」


 僕は、思わず声のトーンが高くなってしまった。すると、カースを見ていた彼は、こちらに視線を移した。


「なんだか楽しそうな内緒話ですね」


 そして、彼はコツコツとこちらへ近寄ってきた。白魔導士は、一歩下がりバリアを張っていた。


 僕も、バリアをフル装備かけた。


「あの、あなたはなぜここに来られたのですか」


「やだなー、そんなに警戒しないでくださいよ。彼らがどこに逃げたのか見てこいと言われましてね」


「あなたの雇い主にですか?」


「へぇ、私が何者か聞いたのですね」


「いえ、知りませんよ。幻術を使うくらいしかね」


「ふっ、貴方のお友達も幻術士のようですね。冒険者仲間といったところでしょうか」


 なるほど、カースが呪いの解除をするのを、同業者として興味深く観察していたということか。


「それで、いつまでここにいるつもりですか? あなたはこの国の人じゃないんですよね? 勝手に入国するのはマズイんじゃないですか」


「私には、国などないですよ。生まれは地底ですけどね。魔族というわけでもない」


「そうでしたか。で……いつまでいるつもりですか」


「ふっ、せっかちだねー。私には私の役割があるんですよ」



 突然、危機探知のリングがブルブルと震え、赤く光っていた。何? ブルブル機能なんてあったの?


 僕はカースの方を見ると、カースも警戒していた。渦が赤く染まって見える。


 コイツは、偵察か…。ここのサーチをして情報を送っていたんだな。彼は、ニヤリと笑っていた。


「私の役割は終了ですね」


「あなたの役割は、この場所のサーチですか」


「ふっ、ここはこの国の中でも主要な街だ。人質にするには、やはり主要な街じゃないとね」


 そう言うと、彼は不思議な霧に包まれ、スッと姿を消した。




 ギルド内にいた人達は騒然となっていた。多くの冒険者は、ギルドの扉へと、我先にと殺到していた。


 まだ呪いの解除が終わっていない人がいるのに、呪いを解除してもらった人達は、1ヶ所に集まり、魔道具を操作していた。


「国王様の調査隊が、なんたるザマですか!」


 若い白魔導士リンガロッシに怒鳴られ、一瞬戸惑った人もいたが、大半は魔道具を使って、どこかへ転移していった。


 だが、転移あとの渦は、消えていない。


「バカな! なんてことを」


「リンガロッシさん、王都に転移した渦が…」


「あの島から王都へ、繋げてしまったも同然だ。何のためにわざわざ、ロバタージュに戻ってきたんだ」


 リンガロッシの言葉で転移を思い留まった調査隊の人達は、混乱していた。自分達が逃げようとしたことで、さらに多くの犠牲者を出すことになるかもしれない。



 すると、調査隊が転移した、王都に繋がる渦が光った。


 中からは、王宮にいるはずの、僕がよく見知った顔が現れた。そして、渦はスッと消えた。戻ると、消えるのか? いや、消すチカラがある人が転移してきたのか。


「フリード王子! セシル様! なぜ…」


「ちょうど居た訓練場に、父上の調査隊が戻ってきてね。転移渦が消えないと騒いでいたから、来たんだ」


「再び転移しないと渦は消せないですからね」


「き、危険です…」


「渦が消えない方が危険だろう。それに、ここには彼がいることがわかっていたからね」


 僕は、僕の方を見た彼らに軽く会釈をした。



 その直後、赤く染まっていた渦が光った。そして渦の中から1人また1人と現れた。


「王都側の渦を閉じるのは、ギリギリ間に合ったな。やはり国内だと転移は速い」


「フリード様、セシルの能力が高いとは言ってくださらないのですね」


「ふっ、距離の差だろう?」


「……ええ。マナが濃すぎる新しい島からの転移は、距離だけじゃなく、移動障壁もありますからね」


「ライト、頼むぞ」


 僕は頷き、フリード王子とセシルさんにバリアをフル装備かけた。



 転移渦からは、結局、5人と1体が現れた。それを見ていたカースの表情がひきつっていた。彼らは、カースを見て、ニヤリと笑った。


「見〜つけた〜」



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