183、ロバタージュ 〜 ベアトス、魔道具を語る
僕は、ロバタージュのギルド前に、生首達のワープで戻ってきた。
新しい島の調査依頼の話から、だいぶ経ってしまったけど、また行方不明扱いされてないよね?
僕は、ギルドの扉をそっと開けて中に入った。
ギルド内は、いつも通りガヤガヤしていた。こないだ来たときは、ギルマスにやたらと、様呼びされて気持ち悪かったんだ。
とりあえず、どこかのカウンターで、伝言がないか聞かなきゃね。僕は、誰も並んでいない新規登録カウンターに向かった。
「あの、すみません」
「あ、新規の冒険者登録は、本日はできないのです」
「えっ? 何かあったのですか?」
「ええ、まぁ…。申し訳ないですが、出直してください」
「いえ、僕、新規登録じゃなくて伝言がないかと思って、空いているカウンターに…」
「そうでしたか。では、登録者カードをお持ちですか?」
「はい」
僕は、登録者カードを職員さんに見せた。
「え? 特定登録者? ライトさん?」
「はい」
「ちょ、ちょっとお待ちください」
職員さんは、奥の事務所へと小走りで消えて行った。嫌な予感がする。
でも、奥から出てきたのはギルマスではなく、僕がよく知っている意外な人物だった。
「ライトさん、久しぶりだなー」
「ベアトスさん! どうしたんですか?」
「ちょっと急に呼び出されただよ」
「何があったんですか」
ベアトスさんは、職員さんをチラ見したあと、僕を手まねきした。僕は、カウンター内に入り、ベアトスさんについて奥の買い取り倉庫の方へと移動した。
ここは、前にチゲ平原に行く前に集合した場所だ。なんだかずいぶん前のことのように感じるけど。
倉庫内には、大量の鉱石が積み上げてあった。鉱山のミッションが流行ってるのかな?
「偽造されただよ」
「ん? もしかして登録者カードですか?」
「んだ。だから、俺に依頼が来ただ」
「偽造されないカードを錬金するんですね」
「それは無理だ。だから、偽造されたかどうかを調べられるものを作るだ」
「へぇ」
「次にランクが上がってカードを作り変えたら、本物のカードは特殊な鉱石を混ぜたものになるだ」
「その鉱石の反応があれば本物ってことですね」
「んだ。簡単だろう? 見た目じゃわからないから、マネされることもないだ」
「その鉱石って……ベアトスさんの錬金術で作り出したものですか?」
「んだ、ここに積み上げてあるやつだよ。カードにはわずかな量しか使わないから、たぶんこれで全員分になるだ」
「すごい…」
そう、ベアトスさんの能力は錬金だ。リュックを使っていろいろなものを創り出せるみたいなんだ。ちなみに僕の能力は透明化と霊体化だけど。
それから、ベアトスさん、魔道具は、リュックと巨大な魔法袋の2つ持ちなんだよね。
「そういえば、ライトさんの魔道具も魔人化したって聞いただよ」
「はい、ついこないだですけどね。ベアトスさんの魔法袋はセクシーな女性だと聞いたことがあります」
「ん? 魔道具に性別はないだよ? 女性の姿をしていることが多いみたいだけど…」
「リュックは魔人化していないんですか?」
「俺のリュックは、俺が完全に支配して錬金するから、魔人化はしないと思うだ」
「そうなんですね。僕のリュックは、男になってしまったんですよ」
「ん? 魔道具に性別はないだよ?」
「リュックくんにも言われました。僕が、くん付けで呼んでいたせいみたいなんです」
「へぇ、不思議なこともあるもんだな」
「あー、やはり不思議なんですね」
「んだ。あ、だからか……俺の魔法袋がやたらと機嫌が悪いのは…。リュックくんは、戦闘系なんだな」
「僕よりは強いって言ってます」
「ん? サーチしてないだか?」
「僕、サーチ能力がほとんどないんです。ゲージサーチしかできない…」
「えっ? じゃあ、強い敵に遭遇すると危険だよ」
「だから、危機探知のリングを付けてます」
「へ? それは子供のおもちゃだよ?」
「めちゃくちゃ役に立ってますよ〜」
「へぇ……今度、キチンとした探知用のものを作ってあげるから、時間あるときに来るといいだ。俺が暇なときは、居住区に新しく作った倉庫横の工房に居るだよ」
「えっ! あ、はい。ぜひ!」
ベアトスさんは、僕と話をしながら腰に下げた魔法袋をペシペシ叩いていた。ん? 何してるんだろう?
「んー、魔法袋がうるさいだ。ライトさんの魔人のサーチをしてみてもいいだか?」
「えっ? リュックくんに聞いてみないと…」
「へ? なぜ魔道具にいちいち聞くだか?」
「あ、はい、いま反抗期みたいで…」
「ぷはははっ! 魔人なんて、ずーっと反抗期だよ。主人が命令すれば、しぶしぶでも言うことを聞くだ」
「そうなんですか? 僕、リュックくんの教育方針に悩んでて…」
「へ? 教育するだか?」
「しなくても大丈夫ですか?」
「うーん、俺は特に何もしてないだ。魔人化して100年くらいは暴れまくるけど、そのうち、主人に逆らっても仕方ないと悟るだ」
「100年! そんなに?」
「んだ。こっちもいちいち気にしてられないだ」
「そうなんだ…」
「1年くらい帰って来なかったときは、さすがに俺も怒って、コイツが残してた紐を燃やしただ。それからは、わりとおとなしくなっただ」
「えっ? それ燃やしたら、エネルギー補給は…」
「俺からは吸収できなくなるけど、姿を変えるときにマナを取り込むから大丈夫だ。あ!」
「はい?」
「リュックくんは、姿を変えれないだ。肩の紐は、燃やしたらエネルギー切れで動けなくなるだよ」
「ん? リュックと人型と自由に変われるみたいですよ?」
「いや、マナを取り込むのは人型から人型に変わるときだよ」
「じゃあ、リュックくんは自力でマナを取り込めない?」
「んだ。それから、魔道具に戻るには残した紐が必要だから、戦闘時には気をつけるだ。うっかり燃えてしまうと戻れなくなるだ」
「わ、わかりました。ん? ベアトスさんの魔道具は、紐を燃やした後、どうやって戻ったんですか」
「女神様が新しい紐を作ってくれただ」
「なるほど」
「すっごく文句を言われたみたいだ」
(うん、めちゃくちゃ言いそう…)
「だから、おとなしくなったのかもですね」
「んだ。魔道具から進化した魔人は、基本みんな女神様に似ているだ。だから、似たタイプからすっごく文句を言われると余計にカチンとくるらしいだ」
「へぇ。確かにリュックくんも女神様に似ています」
「たぶん、ライトさんの魔道具は、かなりライトさんの影響を受けているだ。コイツは女神様の悪い所すべてそのまま引き継いでるだ」
「うわ……大変ですね…」
「んだ」
すると突然、抑えていたベアトスさんの手を振り切るかのように魔法袋が揺れ、スッと消えた。
「こら! 勝手に人型になっちゃだめだと叱ったばかりじゃないだか」
僕の目の前には、女神様というより、あのやかましい妖精さんに似た感じの女性が現れた。
サキュバスのような悪女だと聞いていたけど、普通に清楚で、知的な感じの美しい女性だった。
ベアトスさんと同じ黒髪だから、女神様っぽさがないのかもしれない。女神様は金髪だもんね。
「だって、私のこと、ずいぶんな言い方してくれてるじゃない。黙ってられないわよ!」
(あ、怒ってる…)
僕がどうしようかと戸惑っていると、ベアトスさんの魔法袋は僕の方をジッと見た。あ、サーチ?
「ねぇ、あなた、それで番犬なの? どういうこと? クマより思いっきり弱いじゃない」
「あはは、はじめまして。ベアトスさんのことをクマって呼んでるんですね。あなたは、お名前あるんですか?」
「私は100の名を持つのよ! 好きな名前を付ければいいわ」
「す、すごい悪女っぽいですね…」
「はぁ、もう、いい加減にするだ。いつになったらまともな会話を覚えるだ? コイツの名前は、レイって付けただ」
「レイさん。男女どちらでも違和感のない素敵な名前ですね」
「だろ? なのに、コイツは気に入らないみたいなんだ。もっと長い名前がいいって言うだ」
「へぇ…」
「ちょっと、あなた! そんな弱いなんて反則じゃない。だからアイツが…」
「ん?」
「あ、ライトさん、魔道具が魔人化すると、主人の欠点を補うための能力を持つことが多いだ。逆に主人が得意なことはできないだよ」
「えっ! じゃあ、リュックくんは自力でマナを取り込めないし、自己回復もできない? マズイですね…。あ、ポーション作って飲めばいいか」
「あ、それもできないだよ。コイツも魔法袋の中身は俺の許可なく触れないだ。ましてや勝手に自分で食べたり飲んだりなんて絶対できないだ」
「えっ?」
「主人に所有権があるだ」
「そっか…。じゃあ、所有権を移したものは飲めるんですよね?」
「んー、あ! 飲んでも回復効果はないかもしれないだ。コイツもポーションは効かないだ」
「えー」
「たぶん、魔人だからだよ。回復手段があると、主人を守るより殺そうとするだ」
「あ……制御きかなくなった魔人を処分できなくなる?」
「んだ。下手すりゃ、いろいろなものを滅ぼしかねない個体も存在するだ」
「なるほど…」
「ねぇ、あなたの魔道具も、人化させなさいよ」
「ん? どうしてですか?」
「クマがサーチするから。数値知りたいのよ」
「えーっと、たぶんいま反応ないから、生産中なのだ
と思うので邪魔になるから…」
「なに? あなた、主人としての自覚、足りないんじゃないの?」
「そうかもしれませんねー」
「は? 何? その態度」
「こら! レイ、いい加減にするだ。ライトさん、ずっとこんな調子なんだ。悪気はないみたいだが…」
「女神様にも同じこと言われてますから、大丈夫ですよ」
「ほんと、似てるだ…」
「はは…」
「そうだ、ライトさん、新しい島のことで来ただな?」
「はい。フリード王子の調査に同行する話があって」
「城の収穫祭で風使いが使えないからと、別の移動手段で国王の調査隊が、もう先に調査に行ってるだよ」
「え? 国王様の?」
「んだ。だからもう、フリード王子の調査は不要かもしれないだ」
ドカドカ、ドカッ
キャー!
「帰還石じゃないだか?」
「うっわ〜、ぼっろぼろー」
「えっ?」
バタバタバタバタバタ
ギィー
「ライトさん、いらっしゃいますか」
「はい、います」
「すぐに来てください! ベアトスさんも」
「わかりました」
「俺も?」
ベアトスさんは、積み上げた鉱石に何かをふりかけた。すると鉱石がスッと消えた。
「盗難防止をしただ」
僕は頷き、そして呼びに来た職員さんの後について、倉庫から出て、ギルド内に戻った。
冒険者達が取り囲んでいるその中では、30人ほどの人が倒れていて、若い白魔導士ひとりが懸命に治療にあたっていた。床は……血の海だった…。
僕は、ゲージサーチをした。全員、体力は赤色、20%未満だ。しかもそのゲージは短く、すごい勢いで減っている。
(間に合わない…)
僕は、手を上にあげ、この人達全体に回復魔法をかけようとイメージした。僕の手から放たれた光がギルドの天井に広がり、室内に黄緑色の光の雨が降り注いだ。
(な? 何、この色?)




