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182、女神の城 〜 魔道具「リュック」の名前

 僕は、虹色ガス灯の広場に戻ってきた。


 広場には、屋台がズラリと並び、さっきまで野菜の即売会だった場所は、テーブルとイスで埋めつくされていた。

 魔法でセッティングしたんだろうけど、まるで屋外のフードコートのようで、あまりの早変わりに驚いた。


 屋台は、もともとあった屋台の人達がやっている所が多いようだが、バーベキューは無料でふるまわれているみたいだった。


 どの屋台も人であふれていたが、バーベキューといっても、それぞれ店ごとに違うようだった。

 なかでも、ひときわ混み混みの屋台があった。混んでいると覗きに行きたくなるよね。僕は、混み混み屋台を見に行った。



「えっ? リュックくん、何やってんの?」


「おう、おまえも手伝え」


「へ? う、うん」


「お兄さん、助かります〜」


「あ、いえ…」


 リュックくんは、屋台で、バーベキュー串を焼いていた。この屋台は女性3人でやってるようだった。僕は、リュックくんと並んで、串に刺した肉や野菜を焼き始めた。


「リュックくん、なんで手伝ってんの?」


「アイツら、スイーツ屋らしくてな。火が苦手なんだとよ。屋台を燃やしそうになってたから…」


「あー、確かにバチバチと、ここの火、暴れてるね。魔法の火かな? 強すぎるんだよ」


 僕は、薪の組み方を変えて火力を調整した。


「おっ! 火花が飛び散らなくなったな。さすがバーテン」


「えっ? お兄さん、バーテンなんですかー?」


 後ろから、屋台のお姉さんに声をかけられた。


「あ、はい。まだ見習いですけどね」


「へぇ」


「その彼はお友達ですか? 仕事とか聞いても教えてくれないんですー」


「友達というか、まぁ、相棒ですね」


「へぇ、あ、冒険者! そっか、地上の人って冒険者をしてる人が多いですよね」


「まぁ、そうですね」


「よかった。彼、手伝ってくれてるけど、全然、話をしてくれないんだもの」



 僕は、チラッとリュックくんを見ると、串を焦がさないように真剣に焼いていた。なるほど、リュックくんは集中するタイプなんだな。


「焼くのに集中してるからだと思いますよ〜」


「もしかして、苦手なことをお願いしてしまったのかしらー」


「あはは、たぶん、焼くのは初めてなんだと思いますよ〜」


「おい、おまえよそ見ばかりしてると、焦げるだろーが。マジメにやれよ」


「はいはい。そんな神経質にならなくても大丈夫だよ」


「さっき、真っ黒になっちまったんだよ」


「あー、火力を調整したからもう大丈夫だよ」


「なんだよ、それ、先に言えよー」


「見てたじゃん。僕が調整してるところー」


「あれは、飛び散らないようにしたんじゃねーのかよ」


「もう、あーいえばこーいうんだから。反抗期?」


「だーかーらー、子供扱いしてんじゃねーぞ」



 ん? 焼き上がった串を、待っていたお客さんに渡して、僕は気がついた。さっきよりも、すんごい人だかりになっている。


 ほとんどが女性客で、リュックくんをポーっと見つめているんだ。


「なんか、人が増えたね…」


「あぁ? そうか?」


「まぁ、いいんだけど、僕達、食べれないね」


「確かに!」


 そう言うとリュックくんは、パッと後ろを振り返って、屋台のお姉さんに話をしに行った。


 その様子を見て、並んでいた人達が、アレコレと言い始めた。まぁ……わかりやすい嫉妬だね。


 屋台のお姉さん達も、リュックくんを見る目にはハートマークが浮かんでいるかのようだし…。


 でも、リュックくんは気づいてないよね。はぁ、僕はどうすればいいのだろう? 注意するにも、別にこれは女遊びというわけでもないよね。


「おーい、手伝いは終了だ」


「お兄さん、火の調整ありがとうございます。これなら、私達にも使えますー」


「そうですか、よかったです」


「あ、あの、背の高いお兄さんの名前って?」


「ん? 気になるのですか?」


「あ、え、いえ、あの、その…」


 急に真っ赤になってモジモジするお姉さん…。周りから見たら、僕に照れているように見えるんじゃないかと、ちょっと不安になった。


 そういう誤解は、やはり困る。いつアトラ様の耳に入るかもしれない。彼女を嫌な気分にさせたくない。


「おまえ、何やってんだ? 行くぞ」


「あ、あの! お名前は?」


(わっ! 直接聞いちゃった。大胆だね)


「あぁ? オレに聞いてんの?」


「は、はい!」


 あ、そういえば、リュックくんの名前ってまだ考えてなかった…。


「リュック」


「え?」


「オレの名前は、リュックだって言ってんだけど」


「リュックさん」


「あぁ、じゃあ、焼けたの2本、もらってくなー」


「あ、はい。リュックさん、ありがとうこざいました」


「おう」


 そう言われて、リュックくんはニコッと微笑んだ。それ、ダメじゃない? そんな顔で微笑むと……って、もう手遅れだった。


 リュックくんに微笑まれたお姉さんは、真っ赤になって、そのままその場にズルズルと座り込んでいた。




 僕は、お姉さん達に軽く会釈をして、スタスタ歩き始めたリュックくんを追いかけた。


「はぁ…」


「なんだ? おまえ、複雑な顔してねーか?」


「僕は、リュックくんをどう教育すればいいのか、どうすればチャラ男にならないかわからないよ」


「はぁ? んなことばっか言ってんじゃねーぞ。他に、気にしなきゃならねーことあるだろーが」


「ん? あ、バーベキューの串、早く食べないと冷めちゃうね」


「……はぁ、そうだな、ほい」


「ちょ、ちょっと、この距離で放り投げる?」


「まさかキャッチするとは思わなかったぜ。おまえ、やるときはやるなー」


「あのねー、食べ物で遊んじゃダメなんだよ?」


「じゃあ、ポーションで遊ぶのはいいのかよ?」


「あー……ほんと、似てるよね、そーいうとこ」


「ふんっ。ほら、冷めるぞ」



 僕は、バーベキュー串にかぶりついた。野菜も肉もめちゃくちゃ美味しい! 野菜は収穫祭の売れ残りかな? 肉はリュックくんが提供したって、女神様が言ってたよね。


「リュックくん、この肉って…」


「めちゃくちゃウマイよな」


 そう言って、ニカッと笑う顔は、やはり子供のようだった。リュックくんは僕のことを親だと思ってるのかな?


「リュックくんが提供したって聞いたけど…」


「あぁ、肉が足りないって騒いでたからな。軍隊の制服を着た奴に、狩った魔物の肉を使うかと聞いたら、没収されちまったんだよ」


「没収?」


「やたらと、ありがとうありがとうと言われて、でも金くれないからさー。で、待ってると、すぐ後ろの屋台が燃えそうになっててさー」


「あー、それで手伝うことになったんだね。それね、リュックくんの言い方が、差し上げますに聞こえたんだよ」


「あぁ? オレのせいか?」


「買い取りしてくれる所を探してると言えば、紹介してもらえたと思うよ」


「チッ、言葉ってややこしいな…」


「まぁね。それより、名前、つけてなかったよね」


「何の名前?」


「リュックくんの名前」


「あー、リュックでいいぜ」


「でも、リュックってカバンのことだよ?」


「いまさらだろ?」


「ん?」


「オレがまだ言葉の聞き取りもできない頃から、おまえ、ずっとオレのことを、リュックくんって呼んでたじゃねーか」


「あー、うん、そうだけど」


「そのせいで、オレは性別が男になっちまったんだ」


「ん? どういうこと?」


「魔道具には性別はないんだよ。ベアトスの魔法袋だって性別ないだろ?」


「え? えーっと、サキュバスみたいな女性って聞いたことあるよ?」


「それは女の姿がいいと思ってるだけだ。男の姿にもなるぜ。さっき、男の姿でオレに絡んできたしな」


「えっ? 何か言われたの?」


「別に。先輩ヅラしたかっただけじゃねーか」


「そっか。で、何だっけ?」


「だーかーらー、いまさら他の名で呼ばれても、ピンとこねーってことだよ」


「わ、わかったよ。じゃあ、リュックくんの名前は、リュックね」


「あぁ」


「でも、性別が男になってしまったって……もしかして困る? 確かに魔道具に性別なんてないよね」


「別に困らねーが…。性別が決まっちまったから、妙なもんが付いてるな」


「ん?」


「女神にも、魔人にもないものだ」


「えっ! な、何?」


「ち…コホン。あれだ、子作りのパーツ」


「えっ!? 女神様も魔人にも、ないの?」


「はぁ? そっちに驚くか?」


「みんなあると思ってた…」


「あっそ」


「なかったら、チャラ男の心配しなくてよかったんだ…」


「あのなー、おまえ、心配の方向、おかしいだろーが」


「ん? だって、リュックくん、イケメンだし、さっきも女性をへなへなさせてたし…」


「は? 何言ってんだ? バカじゃねーの」


「僕は、リュックくんには健全な大人になってもらいたいんだよ」


「あのな、どー見ても、オレの姿は大人だろーが」


「でも中身は反抗期の子供じゃん」


「子供じゃねーって!」


「はぁ、僕、どうすればいいかわからないよ」


「あのなー、ふつーなら、魔道具が魔人化したら暴れ回ったりしないように、落ち着くまでガッツリ監視するもんだろ」


「ん? リュックくん、大魔王になりたいの?」


「いや、別に」


「じゃ、女神様の仕事したい?」


「いや、別に」


「じゃあ、問題ないじゃん」


「は? それでいいわけ?」


「ん? だってリュックくんはリュックくんだから」


「オレは、何もできねーって思ってるのか?」


「リュックくん、やっぱ反抗期だよね」


「はぁ?」


「僕は、リュックくんにはリュックくん自身の生き方があるのはわかってるから、そこに口出しはしないよ。先輩として、魔人化したばかりの赤ん坊に、人としてのアドバイスはするけどね」


「赤ん坊?」


「うん、せっかく人化したんだから、それを楽しめばいいと思うよ。あ、でも僕の魔道具だってことは、忘れちゃダメだよ? ポーション作ってくれないと困るし」


「は? あぁ、わかってる」


「あと、カツアゲとかもしちゃダメだからね」


「しねーよ」


「うん、ならよろしい。ロバタージュに戻ろっかー」


「……あぁ。ったく、子供扱いしやがって…」



 そう言いつつ、リュックくんは頰をプク〜っとふくらませていた。それも、女神様にソックリだよね、気づいてないんだろうけど。


「しかし、やたらと見られるな」


「リュックくんがイケメンだからだって言ったでしょ?」


「ちげーよ。殺気のこもった目だよ」


「あー、それ、殺気じゃなくて嫉妬じゃない?」


「違うって。オレが魔人だから警戒してんだよ」


「じゃあ、リュックに戻る?」


「あぁ」


 そう言うと、リュックくんはスッと消え、僕の左肩に戻ってきた。意外に素直なとこもあるよね。


 リュックくんが消えると、人の視線は気にならなくなった。でも、確かに、嫉妬というより警戒に近いような視線もあったよね。



『オレ、人化すると、まだ自分のチカラや魔力の制御が、できねーんだよ』


(そうなの?)


『あぁ、だから、魔人だとすぐにバレちまうんだ』


(そっか。きっとそのうち慣れてくるよ。じゃ、戻るよ』


『あぁ』


 僕は、生首達のワープで、ロバタージュへ戻った。



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