18、女神の城 〜 ライトの深き闇
ブックマーク、評価、ありがとうございます。増えるたびに、思わずガッツポーズしつつ喜んでおります。ほんと、ありがとうございます!
明日、投稿予定の2話(20話)で、おおまかな設定紹介が終わる予定です。設定紹介が長くなっていますが、よろしくお願いします。
女神イロハカルティアの城の中には、住人の憩いの場であったり、イベントに使うために利用される、虹色ガス灯の広場がある。
なぜ虹色なのかは、見ればすぐにわかる。時間によって、ガス灯の色が虹色の順に変化するためである。
だからここの住人は、虹色ガス灯の前で待ち合わせをするときは、時間がわりに色を使うこともある。
赤がその日の始まり、赤→オレンジ→黄→緑→水色→青→紫、と、その色は約4時間ごとに変化していく。
ライトの手術のときは、黄色だった。そして今は青色になっていた。
この世界には電気はない。だが、ガスはあるのだ。
ガスは主に火山から採取されるため、ガスを採取する依頼は、どのギルドにもいつもたくさん掲示されている。それなりの危険を伴うため、報酬も高い。
そのため、地上ではガスは貴重品だった。
だが、女神の城では、ほとんどの灯りは、ガスを使っている。
地上にある火山に、ガス採取に行くことを苦にしない住人が多いため、逆に手軽に利用できるエネルギーなのだ。
また、普通の家庭の炊事や洗濯は魔法を使うが、料理にこだわる店は、ガスを調理に使うことも多い。
そう、女神様が足しげく通う店のほとんどが、調理にガスを使っているのだ。
「広場が、屋台だらけになってる!!」
「当たり前なのじゃ! イベントの後は、祭りをするのは常識なのじゃ」
「そ、そうなんですね……あのイベントって、もしかして?」
「そうじゃ! ライトのお披露目イベントが終わったからの。シメの祭りじゃ!」
「……僕は、お披露目されていたんですね」
「いまさらなのじゃ! スクリーン浮かせてお披露目するのはさすがに少し疲れたのじゃ。だから、その……貰ったからの」
「ん? 何をですか?」
「ポケットの中に入れたアレじゃ」
へ? 僕は、ズボンのポケットを探る……ない。
「売り物ですよっ。勝手にポケットの中から取らないでくださいっ」
「なっ! ポケットの中じゃないのじゃ。地面に転がっておったから、妾が拾ってやったのじゃ」
(あ、倒れたときに、落としたのか…)
「むむっ。妾を見ても、もう遅いのじゃ。落ちてたものを拾って、すぐ飲んだのじゃ」
「す、すぐですか…」
「じゃないと、意地悪オババに横取りされるのじゃ!」
「………なるほど」
「なるほどなのじゃ!」
イロハカルティア様の相変わらずっぷりに、少し呆れつつ、まぁ、仕方ないかと気持ちを切り替えた。
それよりも屋台だ! どんな物を売っているのか、めちゃくちゃ気になる。
ポーションの素材になりそうな物があれば欲しい。そうだ! コーヒーが欲しいんだった。
って……あ! リュックどうしたんだっけ?
「あの、イロハカルティア様」
「なんじゃ?」
「僕、リュックを手術前に広場の地面に置いていたんですが…。あの場所すっかり人だらけになってるんですけど、どこかに預かっていただいているんでしょうか?」
「は? 誰も預かるわけないじゃろ?」
「えっ……リュックなくした!」
「なにを寝ぼけておるのじゃ。リュックがなくなるわけないのじゃ」
「え、でも、いま、背負ってないですし……どこにあるかわかりませんか?」
「そんなの、妾にわかるわけないのじゃ! 戻ってこいと呼べばいいだけなのじゃ。常識じゃ!」
「へ? 呼べば戻ってくるのですか?」
「うむ。主人から離れてしばらくすると、リュックは姿を消すのじゃ。どこにいるか探せないのじゃ。だから呼ぶしかないのじゃ」
「呼ぶって……聞こえるんですか? こんな賑やかな場所で…」
「は? 誰が叫べと言うたのじゃ? 念話じゃ! 心の中で、リュックかもん! って願えばいいのじゃ」
(リュックかもん! って……また、絶対、これ呪文じゃないよね…。ひらけごまも呪文じゃなかったし)
「ライト、おぬし、ちとノリが悪いのじゃ。頭でも打ったのか?」
「打ってませんっ! って、おわっ!!」
リュックかもん! って思ったとたん、背中に、リュックが戻ってきたのがわかった。
だが、イロハカルティア様にツッコミを入れた瞬間、リュックが背負っていられないくらい、急にガツンと重くなった。
「なにをのけぞっておる? リュックが重いのか? 重いのじゃなっ!」
そんなキラキラした目で見ないでほしい…。
僕は、リュックを下ろし、中を開けた。
(うん、やっぱり)
僕は、リュックの中から、うでわのアイテムボックスへ、中身をどんどん移した。一応、ラベルも確認したが、新たな新作は出来ていなかった。
あまりにも、女神様がじーっと、じーっと見るので、僕はその目ヂカラに……負けた。
「1本いりますか?」
「っ! いりますのじゃ!!」
僕は、女神様がお気に入りのカルーアミルク風味のポーションを、1本渡した。
すると、その場ですぐに飲んでおられる。
そして、飲み干した空瓶をリュックの中に放り込まれた。
「ちょ、イロハカルティア様っ! リュックに空瓶を捨てないでくださいっ」
「は? なにを言うておる。リュックに戻せば、瓶は元のマナに戻るのじゃ。ライトは魔力が低いんじゃから、資源は大切に、なのじゃ!」
「……知らなかった」
僕は、せっせと、ポーションをうでわに移した。やはり、女神様は、じーっと見てらっしゃる。
「もうダメですよ」
「な! なっ? なんじゃ! 妾は、くれとは言うておらぬのに、ライトはひどいのじゃ!」
(あ、拗ねた……フリだな)
僕は、仕方ないと、もう1本、彼女に渡す。だが、受け取っても、まだ拗ねたフリが続く…。仕方ない……さらに2本渡す。すると、ぱあっと笑顔になられた。
(ほんと、僕は断るのが苦手だな……はぁ)
僕が、リュックからうでわへ売り物を移し終えてすぐ、ドワっと一気にたくさんの人が押し寄せてきて、完全に囲まれてしまった。
何ごとかと僕がオロオロしていると、女神様は、インタビュー開始の合図を出された。
(え……もしかして、記者がどうとかっていう…)
「お待たせしたのじゃ! 聞きたいことはライトに聞くのじゃ。妾の新たな『落とし物』係じゃ!」
「ライトさん、はじめまして。先程の手術の様子、興味深く、見させていただいました。使われていた魔法はかなり出力を抑えておられていましたが、あの出力が患者の身体への負担が一番少ないということなのでしょうか?」
「ライトは、攻撃魔法は、その辺のチビっ子より弱いのじゃ。あれで最大出力じゃ」
「え? 本当ですか?」
「は、はい…」
「ライトさん、こんばんは。さっそくですが、あの、腹を切らずに炭化した部分だけを切り取られていましたが、あれはいったいどんな魔法を組み合わせたのですか? 物資を通り抜ける透過魔法を使うとすべて通り抜けてしまいますから、切り取りできないですよね?」
「あれは、『眼』でロックオンした部分に触れたときだけ実体化させたのじゃ。それに魔法ではない、ライトの『能力』じゃ! 霊体化じゃ!」
「えっ? 霊体化なんて能力……ありましたっけ?」
「ライトが転生したときの突然変異の産物じゃ! 妾が、死神やリッチに確認して計算したのじゃ」
「ということは、ライトさんはアンデッドなんですね?」
「そんなわけないじゃろ。アンデッドに聖魔法は撃てぬのじゃ」
「ライトさん、あ、あの、あれを吹き飛ばされた光には驚きました。あの光は、闇の反射で間違いないですか?」
「じゃなきゃ、あの呪詛が消し飛ぶわけはないのじゃ! それにあの中にいたジャックも、一気に回復したではないか。聖なる清浄の光で間違いないのじゃ!」
(え? 何? わけわからない……僕はそんな魔法、使えない…)
「いろは様、ライトさんに聞けと言われつつ、ずっとお答えいただいているのですが…」
「っな…! ライトがどんくさいから、妾が口出しする羽目になるのじゃ」
「え? あ、はい…」
もう喋らないと、女神様は、お口にチャックをする仕草をなさった……ははっ。
「闇の反射は、起爆剤が必要ですよね? 蘇生魔法をぶち込まれたのですか?」
(……全く意味がわからない…)
女神様を見ると、アゴをくいっくいっと突き出して、ほれほれ言い返してやれと……おっしゃっているような…。
「あのとき、僕も何が起こったかわからないんです。あの意思を持つ呪詛に『我を受け入れよ』とか言われて、カチンときて……そしたら、強い光に包まれた感じで…」
「えっと、あのとき、ライトさんの左腕に、アイツが絡みついてましたよね? 腕は大丈夫だったのですか?」
「えっと……魔力を吸われているような感じがしました。それにジャックさんの身体から、アイツを取り出したとき、焼け付くような痛みが左手に…。でもその瞬間、光ったのでよくわからないです」
記者の方々の質問が止まる。何か考えをまとめようとされているようだけど…。一瞬、シーンとした。
「呪詛がライトに入り込もうとして腕を溶かしたのじゃな。なるほど、わかった」
(僕にはわからない…)
「あの、よくわからないのですが……いろは様、ご説明を」
(あ、みんなもわからないんだ、よかった)
「アイツがライトを溶かすからじゃ。自滅じゃ」
「と、いいますと?」
「ライトは回復魔法だけはそれなりなんじゃ。溶かされ壊死した腕を、自ら蘇生するのは当たり前じゃ!」
「蘇生魔法を使えるのですか! ライトさん!」
「えっ? 知らないです…」
「使わなきゃ、闇の反射は起こらぬ。愚問じゃ!」
「あ、そうでしたね、失礼いたしました」
「ライトは赤子じゃからな、まだ上手く使えぬ。じゃが怒ると、こやつは別人のようになるんじゃ」
「じゃあ、あの闇をぶつけられたのは…」
「ライトは、心に闇を抱えておるからな…死人に宿した命じゃからの。元々の身体の持ち主と二人分の魂の闇が混ざった、深い闇を抱えておるのじゃ」
(僕、そこまで根暗なつもりはないんだけど…)
「なるほど、共鳴させて深化させた闇ですか……強烈ですね…」
「そうじゃ! ライトは、ある意味最強なんじゃ。闇を支配するあの冷血な馬鹿神は、ライトの存在を恐れるじゃろな。なんせ、ライトはあいつらを消し去ることができるが、あいつらにはライトは殺せぬからの」
(え? もしかして、僕は……)
い、いや。もう何度も反省したはずだ。
僕はチートではない。
うん、僕は、僕にできることをやるだけだ。