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179、女神の城 〜 ライト、持論を語る

 僕はいま、虹色ガス灯広場の屋台で、リュックくんと、焼きそばを食べていた。


 女神様に、無茶ぶり任務完了の報告だけなら念話で済むのに、戻ってこいと言われていたんだ。


 僕も、拉致されたときに洗脳されていた部隊の隊員さんのことが気になっていたから、ちょうどいいとも言えるんだけど。



「ライトさん…」


 ちょうど、焼きそばを食べ終わったのを見計らったかのように、後ろから声をかけられた。


 振り返ってみると、軍隊の制服を着た部隊長のペールさんと、隊員1人がいた。


「ペールさん、お疲れ様です」


 僕は、もう一人の隊員さんにも、お疲れ様を言った。彼らは妙に緊張しているようだった。


「ライトさん、今回の失態、申しわけありません」


「ん? 失態?」


「邪神の配下の侵入に気づかず、しかも隊員2名が洗脳されてしまうとは…」


「あー、まぁ、仕方ないよ」


「ナタリーさんから、ライトさんが我々の尻拭いをすることになったと聞きました。本当に申しわけありません」


 ペールさんは、よく見ると疲れ果てているようだった。心労なんだろうか。新米の部隊長だから、いろいろ周りからも言われるんだろうな。


「別に、尻拭いというわけでもないよ。もともと僕が狙われていたようだしね」


「主人を守ることも、我々の使命です」


「あのさー、それは逆じゃねーの?」


 突然、リュックくんが口をはさんだ。ペールさんはリュックくんが何者かわからず、眉間にしわを寄せていた。


「リュックくん、初対面の人にその言葉使いはないんじゃないの」


「初対面じゃねーだろ」


「その姿では初対面でしょー」


「はぁ、うるさいなー」


(やっぱ、反抗期の子供みたいだな…)


「子供じゃねーって」


 僕がリュックくんとごちゃごちゃ話している間に、二人はリュックくんをサーチしたようだ。二人とも、顔がこわばっていた。


「あー、ごめんね。紹介してなくて…。僕の魔道具が魔人化したんだよ」


「は、はい! いま確認しました」


「それから、さっき、リュックくんが言っていたように、逆だよ? キミ達が守るべきなのは住人だよ。そして、そんなキミ達を守るのが僕の使命でしょ」


「えっ!?」


「ん? 何かおかしいかな?」


「い、いえ。いや……我々ではライトさんを守ることが…できないということでしょうか」


「おまえなー、なんか発想が、後ろ向き全力疾走してねーか?」


「うーん、そうだね。できないよ」


「おい〜」


「リュックくん、いいんだよ。一度きちんと伝えておかなければいけないことだから」


「……力不足で申しわけありません。私は部隊長の責を…」


「あのさ、逆に聞くけど、僕がキミ達の長で不満なの?」


「い、いえ、とんでもありません」


「僕では、キミ達を守るには力不足?」


「そ、そんな…」


「意地悪な言い方したね。ごめんね。でも、もうひとつキツイ言い方をするよ」


「は、はい」


「僕を守るのが使命だなんてのは、思いあがりだよ。僕のために、体を張って命を粗末にするようなマネは許さない」


「は、はい」


「僕は自分の身は自分で守れる。僕を守るという言葉は、ある意味、侮辱だよ? 自分で自分が守れないと言われているように聞こえる」


「そ、そんなことは決して!」


「ふふっ。じゃあ、僕がキミ達を守る、で決まりね。僕の部隊はそういう方針でいくから」


「は、はい」


「他の部隊から何か言われたら、今の僕の言葉を伝えて。僕を守るという言葉は侮辱だと言っていたとね」


「は、はい。かしこまりました」


「それで、洗脳されたふたりは、どうなったの?」


「呪術士により洗脳は解除されました。いま、兵舎で謹慎させています」


「それは誰の命令で謹慎?」


「軍規に従って…」


「そう。じゃあその軍規は、意味がないから僕の部隊では適用しません。さっさと兵舎から引っ張り出して、祭りの警備についてもらってください」


「えっ? あ、はい。直ちに!」


 そう言うと、ふたりは慌てて兵舎の方へと走って行った。途中、立ち止まり、こちらに深々とお辞儀をしていた。


「軍規って、軍隊の規則だろ? いいのか?」


「別に悪いことしたわけじゃないから、いいんだよ。祭りでこんなに人が多いのに、引きこもらせるより働いてもらうべきでしょ」


「オレにはよくわからねー。でも、きっと何か言われるぞ? アイツら」


「大丈夫だよ。あそこまで落ち込んだら、あとは浮上するだけだから。何か問題になるようなら、僕が受けて立つよ」


「ふぅん。一応、部隊を率いる覚悟はしてるんだな」


「覚悟というか……改善すべき規則は、新人しか気づかないと思うんだよね」


「おまえが変える気か? 新人番犬」


「伝統とかいろいろ言われそうだけどね」


「ふっ、そーだな」


「あー、これで戻って来いって言われたのかな?」


「どうだかなー」




 僕達が、屋台のイスでのんびりしていると、やたらと視線が集まった。でも、だからといって声をかけられるわけでもない。


 知らない間に、僕達が居座っている焼きそば屋台には、長い行列ができていた。その行列から、やたらと見られるんだ。


「ちょっと居座りすぎかな?」


「あぁ? 席、空いてるじゃねーか」


「でも、やたらと見られるよ? 邪魔なんじゃない?」


「じゃ、移動すっか〜」


「あ、お客さん、居ていただいて大丈夫です」


 そう、屋台のお兄さんが声をかけてきた。


「迷惑では?」


「いえ、逆に長蛇の列ですから。女性客がお客さん目当てで並んでくれたり…」


「へ? あ、リュックくん?」


 そういえば、スイーツ屋じゃなく、焼きそば屋なのに、並んでいるのは女性が多い。なるほど、リュックくんが客寄せパンダか。


「そんなにオレ、珍しいか? まぁそうか、魔人なんて珍しいよな」


「はは、たぶん意味が違うと思うよ」


「あぁ? じゃあなんでジロジロ見てんだよ」


「リュックくんがイケメンだからじゃないの? 服屋でも、そう噂されてたから」


「オレのどこがイケメンなんだ? 意味わかんねー」

 

(自覚ないのね…)




「あの、ライトさんですか?」


(えっ? なぜ僕に声をかける?)


 会ったことのない若い女性に名前を呼ばれ、僕はちょっと戸惑っていた。


「は、はい、ライトですが?」


「あーよかった! あの、治療院の先生に呼んできてほしいって頼まれて…。イケメンと一緒にいる少年だとしか聞いてなくて捜せるか不安だったんですー」


(な、なるほど…)


「怪我人か病人ですね」


「はい。観光客があちこちでケンカして運び込まれるから、先生が魔力切れで…」


「あー、魔力。わかりました。すぐ行きます」


 僕を捜しに来てくれた女性は、チラチラとリュックくんを見ていた。


「なに?」


「あ、いえ別に…。わ、私はこれで」


 そう言うと女性は、治療院の方へと走り去った。


「リュックくん、僕、治療院へ行くけど、どうする?」


「ん? あーそうだな。ちょっと金、手に入れてくるわ」


「えっ? な、何するの? カツアゲとかしちゃダメだよ」


「んなこと、しねーよ。さっきの島で魔物狩ったから、買い取ってくれるとこ探すんだよ」


「そっか、わかった〜。じゃあ、別行動だね」


「あぁ、っていいのかよ?」


「ん? 何が?」


「魔人をこんな人混みで、任務も与えず放し飼いにして」


「へ? 別に飼ってるつもりはないけど?」


「オレはおまえの魔道具だろーが」


「うん? 魔道具だけど、相棒じゃん。何を言わせたいの?」


「心配じゃねーのか?」


「ん? 呼べば戻ってくるでしょ?」


「あぁ」


「じゃあ、はぐれる心配なんてないじゃない?」


「は? はぁ…。じゃなくて、オレが暴れたり、観光客を襲ったりするかもしれないとは思わねーのか?」


「えっ? リュックくんって、もしかして……チャラ男?」


「は?」


「まぁ、それは個性だし…口出しすべきじゃないかもだけど、あんまり女遊びしない方がいいよ? タイガさんみたいになってしまうよ」


「はぁ?」


「じゃあねー」



 リュックくんが納得してないみたいだったけど、僕は、治療院へ向かった。


 イケメンだからモテるだろうけど、一応、僕はリュックくんの主人だ。個人の自由だと言われそうだけど、注意はしておくべきだよね。

 でもあまりしつこく言うと逆効果かもしれない。こういうのって僕は得意じゃないから、難しいよね。




 そして僕は、治療院に到着して驚いた。そこには、中に入れないほどの大勢の人がいて、入り口に仮設テントが設営されていた。


「先生、大丈夫ですか?」


 治療院の先生は、魔力切れなのか、額に汗をにじませながら、魔道具を使って治療をしていた。

 僕が声をかけると、うつろな眼差しを向けられた。


「ライトさん、助けてください…」


「あ、はい。女性に言われて手伝いに来ました。魔力切れですか?」


「魔力も何もかも切れてます」


 僕は、とりあえず変身魔ポーションとクリアポーションを渡した。


 先生は、すぐさま魔ポーションを飲むと少しだけ若返っていた。これなら、クリアポーションは飲まないで大丈夫だね。と、思ったが、先生はクリアポーションも飲んだ。


「助かった……魔力切れで防御できず、妙な病原菌にも感染してしまってたんですよ」


「あ、それはちょうど良かったです」


「助っ人も次々と魔力切れで倒れてしまって…」


「じゃあ、これ使ってください」


 僕は、変身魔ポーションとクリアポーションを10本ずつ渡した。


「助かります。お代は、あとで…」


「あ、はい。いえ、別にいいですよ。それより、少し休憩してください。治療手伝いますから」


「じゃあ、ほんの少しだけ仮眠させてもらいます」


「了解です」


 治療院の先生は、倒れている助っ人にポーションを配った後、机に突っ伏してしまった。きっと限界を超えていたんだろうな。


(さて、やるかー)



 僕は、あちこちにうずくまって順番待ちをしている人達を、ゲージサーチしてみた。体力が20%以下の赤色はいない。だがみんな、待ちくたびれた顔をして、グッタリしていた。


 まず僕は、次々と軽く回復していった。


 大量の怪我人がいるときは、ミルフィーユ方式がいいよね。軽い回復は短時間でできる。これで治せない人も少し楽になるから、つらい待ち時間を改善できる。


 僕が、いきなりスッと身体に手を入れたから、1人目の人にはめちゃくちゃ驚かれた。でも、僕の回復方法を見ていたためか、3〜4人目からは怖がられなくなった。


 全員ざっと軽く回復して回った。あとは、これで治らなかった人の治療をしていこう。



「いま軽く回復しました。まだ調子の悪い人は治療院の中へ、大丈夫な人は外のテントへ移動してください」


 そして、助っ人の白魔導士達に、テントの人の最終チェックと、治った人は帰るように振り分けを依頼した。


「すごい! 一気に患者が減りましたよ」


「待ち時間が長いだけで、余計に気分悪くなったりしますからね。ミルフィーユ方式です」


「ん?」


「ミルフィーユって何層にも重なってるんです。軽い回復を何度か重ねていけば、短時間で大量の人の改善ができるので」


「なるほど! 術者の負担も少ないですね」



 僕は、変身魔ポーションを1本飲み、気合いを入れた。残っているのは、重傷者や重病人だ。


(よし、やるかー)



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