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176、名もなき島 〜 様々な思惑

「ライトさん、ちょっと」


「ん? どうしたの? あ、ギルマスへの伝言ありがとう」


「いえ。それよりちょっと問題が…」




 僕は、デスゴリラに化けた女神様がチビっ子達と盆踊りを踊る姿をぼんやり眺めていた。


(はぁ……僕も、どっと疲れてきた)


 しばらくすると、背後から小声で、僕の部隊の隊員さん二人が声をかけてきたんだ。




 ここではマズイと言うので、人の少ない場所へ移動した。すると、何人かの見知らぬ男が現れた。僕はとっさにバリアをフル装備かけた。


「いやいや、やめてくださいよ。貴方のような方と戦う気はありませんから」


「何のご用ですか? あなた達は?」


 僕は、ゲージサーチをした。彼らは2本2本。外からの迷い子か? 魔族か?


『おまえの兵、コイツに操られてんぞ』


(うん、外からの迷い子かな?)


『その子孫ってとこじゃねーか?』


(なるほど、はぁ…)


「私達は、彼らと知り合いでしてね。有名なライトさんと話をしてみたかったのです」


 そう言ってニコリと微笑んだ。その瞬間、ゾワリと気持ち悪いしびれが身体を駆けめぐった。


「ふっ、簡単に他人の目を見てくださる。貴方がそうだから、貴方の兵も危機感が足りないんですよ。我々と共に来ていただきましょうか」


 そう言うと、奴らは転移の魔道具を作動させた。


(げっ? 転移はやめて…)


 そして彼らは、女神の城、虹色ガス灯広場からライトを堂々と簡単に連れ去っていった。





 ドーン! と何かが爆破されたような衝撃音で、僕は目が覚めた。

 どれくらい眠っていたのだろうか。頭が痛い、気持ちが悪い…。完全に転移酔いだった。魔道具の転移って、半端なく酔う。よくこんなの使うよね。


 ガンガンと痛む頭を触ろうとして異変に気付いた。僕は、手を後ろで縛られている。とりあえず起き上がろうとしたけど、足も縛られている。


「リュックくん」


 小声でリュックくんを呼ぶと、ポーチつきの肩ベルトが肩に戻ってきた。異空間に隠れてたんだね。


『アイツらが触ろうとしたから消えたんだよ』


(リュックくんを?)


『あぁ、ポーションを盗むつもりだったんだろーな』


(あ、魔法袋、盗られてる…)


『あー、それは転移直後にオレが隠した。だからリュックに入れてるとでも思ったんじゃねーか。リュック…というか、ミニバックだな』


(そっか、ありがとう)


『ちょっと探検してくる。おまえはもう少し寝てろ。こないだの暴走のダメージ、まだ全く回復してねーだろ?』


(うん、確かにダル重いか。わかった、昼寝しとく)


『あぁ、ただ……いま太陽は青いぜ?』


(じゃあ、夜寝しとく)


『ぷっ、なんじゃそりゃ。じゃあな』


(はーい、気をつけてね)


 リュックくんは肩ベルトを残して、スッと消えた。


 僕は、頭痛を治癒しようかと思ったけど我慢した。魔法を使うと察知されそうだ。


(はぁ、頭痛い、気持ち悪い…)


 いつの間にか、僕は再び眠りに落ちた。





「あのガキ、本物なのか?」


「はい、ロバタージュのギルドで見つけた、あのガキの部隊の隊員を洗脳しました。自分の主人を間違えるわけはないかと」


「だが、おまえ程度の幻術で、気絶するか?」


「私も正直、驚いています。芝居かと思いましたが、完全に眠っています。麻痺術が効きすぎてショック状態になってしまったようです」


「自慢か?」


「い、いえ……最大出力で術をかけた甲斐がありました」


「ふぅん、しかし、あんなガキを連れていくだけで、本当にダーラ様は配下にしてくださるのだろうか?」


「あのガキを気に入られたようですよ。我が主人がそう言っていました」



 女神の城で、収穫祭に集まった観光客のフリをして密かに忍び込んだ男には、大きな野望があった。

 また彼は、自分の幻術士としての能力に絶対的な自信を持っていた。自分の術が通用しない相手は、少なくともこの星にはいないだろうと思っていた。


 彼は、自分が仕える神の完璧な信頼を得るために、この星にずっと定住し、様々な工作活動をしてきた。

 何人もの配下を従え、またこの星に忍び込んでいる神々との交渉も、そつなくこなしていた。



「そういえば、おまえの神はどこにいるのだ? 今日、ここに来るはずだったんじゃないのか?」


「あー、我が主人は、星に帰られました」


「は? 誰かに討伐されたか」


「はい、おそらくあのガキに…」


「なんだと?」


「あ、でも安心してください。しばらくは、神殺しの力は使えないはずです」


「そうなのか?」


「はい、あのガキの攻撃力は普通の人族と変わらない。それなのに神殺しができるということは、何か特殊な能力を使うはずです」


「ほう」


「特殊な能力を常時使えるなら、その者の戦闘力に、その数値があらわれるはずですから」


「認識阻害を使っているのかもしれんが?」


「いえ、その可能性も調べましたが、阻害されてはいませんでした」


「そうか。それなら、俺が光の粒子に変えられる心配もないな」


「ですが、番犬は16人いますよ? 他の奴らが救出にやってくるかもしれません」


「ダーラ様は、あのガキが死んでいても構わないとおっしゃってたんだよな?」


「はい、そうだと思います」


「じゃあ、殺すか。そうすれば魔法袋に入れておくことができる」


「殺すと、おそらく逃げられますよ」


「どういうことだ?」


「側近が死ぬと、神は、すぐさま身体を引き寄せ、その者を蘇生できます」


「女神イロハカルティアには、今はそんなチカラは残っていない。星の結界がまだあるんだからな」


「代行者を16人も選んでいるわけですから、その役割を担う番犬もいるはずです。以前から女神と呼ばれている番犬もいますから」


「た、確かに…。この星に定住しているおまえ達でなければ、気づかぬことだな」


「かもしれません」


「やはり、おまえ達に協力を頼んで正解だった。俺がダーラ様の配下に加われたら、おまえ達にも有利になるよう取りはからってやる」


「ありがとうございます。ですが私達の神はあくまでも…」


「それは、わかっている。スカウトしようというわけではない」


「安心しました」


「呪術系や幻術系は、神が精神的にも支配しているから、スカウトなどできるわけがない」


「支配ではなく、忠誠を誓っていますので…」


「武闘系や魔導系は、忠誠を誓っても簡単に裏切るがな」


「私達は、忠誠を誓った相手を裏切ると罰を受けます。さらに、忠誠を2度裏切ると死の呪いにかかります。ですから2度目の忠誠を誓うことはありません」


「今の神を裏切って、他の神に忠誠を誓うことはないということか」


「はい。裏切るつもりがなくても、裏切る結果になると死の呪いが…」


「わかった、わかった。呪術系や幻術系は、みんなそんなことばかり言っているな。俺、おまえらの種族に生まれなくてよかったよ」


「戦闘系の方々は、よくそうおっしゃいます」


「はぁ、おまえ達のようなタイプと話していると疲れるわ。重苦しいんだよ」


「それは、申しわけございません」


「もうよい。あのガキはどうしている?」


「まだ眠っています。一瞬起きたようですが、手足を縛られていることがわかり、諦めたようです」


「ほんとに、あのガキ、本物か?」


「…そのはずですが」



 ガタン、ギィー



「また、新たな客人ですね」


「チッ、なぜこの辺りにばかり、邪神が集まってくるのだ」


「隠れるには最適な場所ですからね」


「俺の獲物のことは言うなよ?」


「もちろん秘密にしておきますから、ご安心ください」


「俺は、あのガキの様子を見てくる。そいつはサッサと追い返しておけ」


「かしこまりました」



 コンコン!


「誰かいるか?」


「はい、どうされましたか?」


「なんだ、やはりおまえか、情報屋」


「気づかれてしまいましたか」


「妙な幻惑の霧で、この小屋を隠しているつもりだろうが、逆に目立つぞ」


「それはそれは…。私の魔力だと気付いてくださる方に集まっていただけて光栄です」


「ん? 他にもいるのか?」


「ええ、赤や青の勢力争いから逃げて隠れておられる方々が、十数名ほど立ち寄られます」


「俺もその中の一人ということか」


「いえ、懇意にさせていただいてる方は別ですよ」


「調子のいいことばかりだな、おまえは」


「いずれ、情報屋は卒業したいと思っておりますので、その際はぜひお力をお貸しください」


「ふっ、楽しそうなイベントは、近くで見るに限るからな」


「ありがとうございます」


「決行は、そろそろなのか?」


「準備は整っております。あとは星の結界が消えるのを待つのみです。我が主人は討伐されて星に帰りましたから、気づかれることもないでしょう」


「殺されてチカラもさらに失ったのだろう。まさに、おまえにとっては好機だな」


「ええ、あの方を殺してくれた番犬には、足を向けて眠れませんよ」





 ライトを置いて探索に出たリュックは、自分の身体を慣らすために、魔物を狩っていた。


 人型になると、どうしても魔物や魔族に気づかれてしまう。だが適当に魔物を狩っていると、魔族はリュックを気にしなくなるようだった。


「しかし、ここ半端ねーな」


 どれだけ狩っても、どこからか魔物はわいてくる。


「弱い魔物ばかりで、つまらねーな」


 リュックは、身体を動かすことに慣れてきた頃には、魔物狩りにすっかり飽きていた。


「島を見てみるか」


 リュックは、スッと異空間に入り込み、この島のはるか上空へと移動した。


 この島は、まだ名もなき新しい島だ。あちこちで様々な種が、ナワバリを主張するかのように小屋を建てたり、巣を作ったりしているようだった。


 また、いたるところから濃いマナが湧き出ていた。そのマナに引き寄せられるように、この島には多くの種が渡ってきているのだろう。


「人族より、魔族や他の星の奴らの方が圧倒的に多いか」


 近いうちに再び来ることになる島だが、場所によっては、人族が立ち入るのは危険だとリュックは感じた。


 大きな島全体の地図を頭に入れ、リュックはため息をついた。


「出遅れすぎだろ…。知らねーぞ」


 リュックは、ライトの元へ戻るために再び異空間に入り、スッと移動した。

 これはリュックが移動する手段であり、ライトから離れたときに待機する場だ。


 ライトの居る小屋付近には、たくさんの神々の魔力の痕跡が残っていた。なぜ、この小屋に弱い神が集まるのか…。リュックはその理由に気づき、再びため息をついた。


「邪神がほいほいやってくるように、仕向けたのか」


 リュックは、さらに大きなため息をついた後、異空間に入り、ライトが目覚めるのを待った。



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