172、女神の城 〜 収穫祭
ドンドン ドンカラシャッシャ
ドドン ガ ドン〜
スチャラカ チャン チャカ
スチャラカ チャン〜
月が〜♪ ドドドンパン〜
ドドドン〜ドドン〜
は〜♪ ヨイヨイ〜♪
「えっ!? 何? ここ、どこ?」
僕は、えーっと……またおかしくなったのかな?
女神様の城に生首達のワープで来たはずだった。
でも、目の前には、広場の中心にヤグラが組んであり、ヤグラの上には和太鼓を打つ人達がいた。そのヤグラのまわりには、どう見ても盆踊りをしている人達がいる。
それにこのBGM、この世界の言葉ではない、なぜか日本語だ。音が割れていて雑音が多いけど、あの有名な月が出る民謡だ。
僕は、生首達のワープで日本に戻ってきたのか?
「あら、ライトさん」
呆然と立ち尽くしていると、どこからか名前を呼ばれた。日本に戻ったわけではなさそうだ。
「おまえ、何ボーっとしとんねん」
声のした方を向くと、服屋のセリーナさんと、タイガさんがいた。うん、やはり日本に戻ったわけではなさそうだ。
「あ、こんにちは。あの、一体なにごとですか?」
「昨日から収穫祭が始まったのよ」
「えーと……盆踊り大会じゃなくて?」
「ん? 盆踊り大会?」
「コイツは俺と同郷やからな、このダンスを知っとるんや」
「あー、そうだったわね。じゃあ、ライトさんも踊ってきたら?」
「いえ、僕は踊れないです…」
「なんやねん、夏祭りでどこでも踊るやろが」
「覚えてないですよ」
「すぐ思い出すやろ」
「そうよ、簡単だもの。恥ずかしがっていたら損するわよ」
「あ、いえほんとに…。それに踊る気分じゃないですし…」
「なんや、また邪神殺して、テンション下がったんか」
「あ、闇の暴走の後って、ダークな気分になるのかしら?」
「え? なぜそれ……いえ……ってか、なぜあの曲? タイガさんが昭和から買ってきたんでしょうけど、電気ないですよ?」
「だから、ラジカセや」
「ラジカセ? でも電源は…」
「おまえ、ラジカセわかってへんのか? 電源なくても電池で動くんや」
「あ、電池…」
「ヘンテコな機械から音が出るのよ。それを拡声魔法で広場に流しているの」
「へぇ、すごい! 科学と魔法のコラボですね」
「まぁな」
「ところで、あの、女神様はどちらに?」
そう言った瞬間、頭の中に変な映像が浮かんだ。ん? 何? ジャングル? サファリパーク?
「女神様は眠ってるわよ。女神様の猫なら、昨日は、ずーっと踊ってたけど、今日は見ないわね」
(あ、そっか。眠ってる設定だった)
「たぶん、おまえの家やろ。あの1階店舗のとこ、妙に気に入っとるんや」
「えっと、ジャングル状態ですか?」
「なんや、知っとるんか。ワープワームの遊び場に改装するって言うて、自分の遊び場になっとんねん」
「あはは、なるほど」
「わかってると思うけど、女神は寝とる。いまこの城には、祭りで地上や地底の奴らが大量に来てるんや」
「わかりました、気をつけます」
僕は、祭り会場の虹色ガス灯広場を出て、居住区の僕が借りているアパートへと向かった。
居住区の中には、確かにいろいろな種族が歩いていた。店の前にも出店が並んでいる。
僕とすれ違うと、ジト〜っと睨んでくる者もいた。僕が女神様の代行者だと知られているのかな。
タイガさんのコンビニの前まで来ると、タイガさんの娘ミサさんと、警備隊レンさんの彼女のセイラさんがいた。ここの出店の店番をしているようだった。
「ちょっと、あんた、祭りやで?」
「あ、ミサさん、セイラさん、こんにちは」
「ライトさん、こんにちは。お城にお邪魔してます」
「セイラさん、はーい。ん? ミサさん、祭り……ですね?」
「はぁ、全然ピンときてへん顔やな。そんな怪しいかっこでウロつくと、浮いてるで」
「あ、服?」
「ライトさん、魔導ローブと腰の剣ですよ。祭りの日は、みんな武装しないことが、参加条件だそうです」
「えっ? 知らなかったです。さっき、タイガさんには何も言われなかったし…」
「オヤジは脳筋やからな、期待せん方がええで」
「は、はい…」
「そんな高価な魔導ローブを着ていると、特に魔族は警戒しますよー。目が合っただけで、自分を殺しに来たのかと思うらしいです」
「あ、さっき、睨まれてたのは、そういうことか」
「あんたの場合は子供に見えるから、金持ちのアホぼんやと思われるんちゃう? 隙をみて盗もうという気かもしれへんな」
「…なるほど」
僕は、魔導ローブを脱ぎ、魔法袋に収納した。腰の剣も、剣用の魔法袋へ収納した。
「へぇ、服の趣味、変えたんや」
「ん? あー、前のは戦闘でボロボロになったから処分したんですよ」
「ロバタージュの流行りの服ですよね。似合ってますよ」
「そうですか? ありがとうございます」
「うん、黒っぽい服の方が、似合うで。少なくとも男の子には見えるわ」
「あはは、ありがとうございます」
「アパートに行くん?」
「あ、はい」
「じゃあ、買っていきー」
「えっ? これをですか? 焼き菓子?」
「ケーキボールや。スポンジの中にクリームが入ってんねん。チョコレートかけるやんな?」
「あー、あの…」
「ミサ、ライトさんが困ってるわよ」
「買っていかへん方が困るやろ。ライトの部屋の1階はプレイランドやで」
「確かにそうね」
「あの、そのカステラみたいなのを買っていかないと困るんですか? 僕、全然立ち寄ってなくて、様子がわからなくて」
「ライトさんの部屋の店舗部分は、チビっ子達の遊び場になっていたわ。さっき、驚いたけど…」
「トリックオアトリート、やっとったで」
「へ? あー、ハロウィン?」
「さぁ? 知らん。だから、買っていきー」
「わ、わかりました。必要な量がわからないので、おまかせでお願いします」
「よう言うた! さすができる男は、ちゃうな」
「え……嫌な予感がする…」
僕の反論は無視され、せっせとベビーカステラみたいな、ケーキボールだっけ?が、袋に詰められていく。
甘い匂いで美味しそうだけど、一体、何袋詰める気なんだろう…。
「まいど! 飲み物もつけて全部で銀貨1枚」
「ええ? 高くないですか?」
(屋台のベビーカステラで、1万円って…)
「なに言うてんねん。飲み物もつけたんやから、こんなもんやろ。チョコレートもかけたし」
「わ、わかりました」
僕は、銀貨1枚を支払って、大量のケーキボールと、紅茶っぽい飲み物を受け取った。
(重っ!)
僕は、魔法袋に収納した。うん、ほんと、魔法袋って便利だよね、
「ありがとーな。よし、これでノルマ達成や〜」
「もうミサったら、まるで押し売りじゃない」
「でも、それくらい食べるやろ、あの子ら」
「お菓子そんなに食べたら、ご飯食べれなくなるわよ」
「祭りの日くらい、自由にすればええやん。ここの住人の子は、この城に軟禁されてるねんから」
「ん? 軟禁?」
「ミサ、そんな犯罪のような言い方すると、ライトさんが驚いているわよ」
「居住区から出る許可がもらえるまで、地上に行けへんねんから軟禁やん」
「許可が必要なのですか?」
「自分で自分の身を守れるようになるまで、軟禁やねん。神族の子孫は、妙な奴らにモテるから」
「モテるというのとは違うんじゃない? ライトさん、神族の子孫は魔物に襲われやすいらしいの」
「魔物だけじゃなくて、魔族もやで。喰いたいらしいわ。たぶん、なんかちょっと違うんやろな」
「そ、そうなんですね…。じゃあ、居住区から出られないのは仕方ないですね。子供達を守るためのルールだから」
「だからここは、3歳から学校に行かされるんや。地上だと13歳くらいからやと思うけどな」
「えー! それはちょっとかわいそうね。そんな幼い頃から剣術や魔法の訓練なんて…」
「だから、祭りの間は学校も休みやから、自由に好き勝手にさせてやればええねん」
(だからここのチビっ子って、僕より強いんだ…)
「じゃあ、僕はそろそろ…」
「うん、またよろしくねー」
「えっ! あはは、はぁ」
僕は、ミサさんはやはりタイガさんと似てるなと思いつつ、コンビニの裏のアパートへと移動した。
ついこの前に来たときは、まだほとんど店はやってなかったのに、もうすっかりすべて営業していた。
アパートの1、2階の大きいカフェには、待ち人で入り口に行列ができていた。新規オープンの看板も出ている。
そのカフェの横が僕の部屋。その隣、さらに隣は、どちらも何かのショップのようだけど、パッと見ただけでは何屋さんかわからなかった。
そして、僕の部屋の1階店舗、生首達の遊び場に改装すると言ってたけど…。
ガラス張りの店内は、不自然なほどの密林に見える。
僕は、その扉を開けた。
店内に入ると、僕は……なんだかまた頭が混乱してきた。アパートの一室なのに、めちゃくちゃ広いジャングルだった。
目がおかしくなったのかな? トリックアートなのかと少し歩き回ってみたが、壁に当たらない。
ちょっと、これ、僕の2階の部屋にはどこから行くの? と考えたときに、頭の中に声が響いた。
『鍵を上に向ければ、入り口が出てくるのじゃ』
(これ、どうなってるんですか?)
『適当に作ったら、デカくなってしまったのじゃ。だから、仕方なく空間を継ぎ足したのじゃ』
(全然わからないです)
『そんなことより、探すのじゃ』
(へ? 何をですか?)
『ライトが鬼さんじゃ。かくれんぼというやつじゃ。3人以上見つけられなければ、罰ゲームじゃ』
(えっ!)
『もう、始まっておるのじゃ!』
ちょっと、何? 僕はリュックくんのことを聞きたいのに、念話がプツリと切られてしまった。
僕は鍵が巻きついた右腕を上に向けてみた。するとスッと階段が出てきた。なるほど、これで自分の部屋に行けるんだ。
腕を下ろすと、階段は消えた。防犯上、いいかもしれない。
「部屋に入っちゃうのー?」
「ん? 誰か近くにいるの?」
「し、しまった」
そして、ドタドタと僕から離れていく足音が聞こえた。あれ? チビっ子にしては、足音すごくない? というより木も揺れたよ?
僕は、ジャングルの中を『見て』みた。ん? あれ? チビっ子は居ない…。なぜか動物が……いや、魔物がうじゃうじゃいる?
(もしかして、変身ダブルポーションで種族逆転?)
『なっ? ライト、卑怯なのじゃ! かくれんぼに『眼』を使うのは反則じゃ』
(僕は、リュックを直せるか聞きに来たんですが…)
だが、女神様の返事はなく、また念話を切られてしまった。これは、このジャングルから探し出すしかないのか…。
背に腹はかえられない。卑怯だと言われようが、使えるものはすべて使おう。
僕は、かくれんぼに参戦した。