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170、ロバタージュ 〜 アホの子ダンス

「俺は、おまえの申し出を受ける」


 僕が、配下になるかとスカウトした幻術士は、いま僕の前で、ひざまずいていた。


「もう決めたの?」


「あぁ、決めた。というより俺には他に選択肢はない。今、この瞬間から、おまえの為に働く」


「ん?」


「俺は迷宮に関わったときから、ずっと命を狙われてきた。だから、あちこちの要人を洗脳していた。依頼されて洗脳した者も、数は記憶にないほどだ」


「そう」


「だが、俺を殺すことのできる奴らは、俺の力では洗脳できない。俺が洗脳したことが知られて、いまでは多くの追っ手がいる。俺は、ずっと戦場にいるような毎日だ。ほんの僅かな時間も、気を抜くことができない」


「そっか」


「俺は、もう限界なんだ」


「それで?」


「あ?」


「なんだか、上から目線だよね。媚びるのが嫌いでも、礼節くらいはわきまえるべきだよ」


「だから、そうしているだろう」


「ん?」


「忠誠を誓うとき、俺達は主君と認めた相手にだけ、ひざまずく」


「え? その姿勢って、忠誠のポーズ?」


「この星の流儀は知らない」


「今まで、それ、何回やったの?」


「何? なぜ、そんなことを聞くんだ」


「なんとなく…」


「……二度目だ」


「ダーラと、僕?」


「違う。俺の星の神と、おまえだ」


「……そう」


「信じてないな? だが、事実だ。こんな屈辱的なことを、そう何度もやってたまるか」


「屈辱的なの?」


「当たり前だろ!」


「じゃあ、立てば?」


「は? まだ終わってないじゃないか」


「なにが?」


「俺は、おまえにひざまずき、おまえが渡した酒…ではなかったが、未知の毒物を俺が飲んだ」


「ポーションは毒物じゃないよ」


「おまえが俺に授けたものを、俺は自分の身体に入れたんだ。だから次はおまえの番だろ」


「何? 僕が何か毒物を飲むわけ? 悪いけど、僕、毒耐性あるよ?」


「違う! さっさとおまえの言葉を言えよ。俺は、さっきおまえの為に働くって言っただろ?」


「んー、何を言わせたいのかわからない」


「おまえは、俺に命じるだよ! 自分の為に俺が何をすべきなのか、役割を与えるんだよ」


「へぇ、それに従うの?」


「あぁ、死ね以外は従う」


「ふふっ、そっか。じゃあ、役割を与える」


「はっ!」


 彼は再び、僕に頭を下げていた。


 媚びるのが死ぬほど嫌いだと言っていた彼が、ひざまずいて頭を下げるということは、僕には想像できないほどの屈辱なのかもしれない。


「キミは、僕の配下としてふさわしい行動をせよ」


「えっ?」


「以上です」


「はっ! ……えっ?」


「もう立ったら? いつまでも、そんなポーズしてなくていいよ」


「あの、意味がわからないのだが…」


「自分で考えなさい。何をすべきか、常にまわりを見ていればわかるよ」



 彼は立ち上がり、ジッと何かを考えている。



「じゃ、僕は帰るから」


「えっ! 俺達を見逃していいのか?」


「帰るって、俺達…」


 他の3人が、なぜか妙な質問をしてきた。聞いたくせに、しまったという顔をしている魔導士…。


「もう、誰とも主従関係はないはずでしょ? 好きにすればいい。自分で生きていくチカラくらいあるでしょう?」


「へ? あ、あぁ」


「アイツを配下にして、俺達は…」


「彼はまだ自由になっていない。殺していないんだ。だから、配下にした」


「えっ?」


「じゃないと彼は壊れてしまう。僕、そういうのはわかるんだよ。本当に救いを求めている叫びは、聞こえるんだ」


「どうして、そんな霊的な…」


「霊的? あー、だからかな? 僕、半分はアンデッドなんだよ。死人に宿った命だからね」


「えっ! 死霊? いや、リッチ?」


「さぁね」


「だから、あんな闇を…」



 僕は、奴らにニコッと営業スマイルを見せ、そして、僕の配下となった幻術士に近寄った。


「名前、聞いてなかったね」


「あっ! 冒険者の登録名は、カースだ」


「そう、じゃあカース、街に戻るから、その足元のクッションに乗って」


「えっ?」


「ワープワームだよ」


「えっ! わ、わかった」


「じゃ、行くよ」


 僕は、生首達のワープで、ロバタージュの街に戻った。





「着いたけど…」


「えっ? あ、あぁ」


「僕は、ライト。キミの本当の名前は?」


「あ、うーん…………レスティン」


「実名を知られると、何か問題があるの?」


「ある。呪術に使われると不利になるから…」


「そっか、じゃあ、カースって呼ぶね」


「……いや、レスティンで構わない」


「隠してるんでしょ? もしかして偽名?」


「偽名なわけないだろ! おまえに嘘をつくわけがない。忠誠を誓ったんだからな」


「そう、じゃあ、気分で呼び方を変えようかな」


「好きにしろ」


「ふふっ、で?」


「あ?」


「何か困ったことがあるの?」


「は? いや、別に」


「玉湯付近に住んでる?」


「あぁ、定宿にずっともう数十年住んでいる」


「へぇ、ずっと同じとこ?」


「部屋はたまに変えるが…」


「そう、じゃあ、特に問題はないね」


「まぁな」


「うん、じゃあねー」


「えっ? あ、あぁ」





 僕は、ロバタージュのコペル大商会へ生首達のワープで移動した。


 街の様子はすっかり落ち着き、倉庫では従業員達が忙しそうに片付けをしていた。僕の部隊の隊員達は、もう城に戻ったのか、姿は見えなかった。


(襲撃騒ぎは、おさまったね)



 また、僕がすぐに移動すると思っているみたいで、生首達は僕のまわりをふわふわと飛んでいた。


 さっき、生首達は、邪神の光の粒子を吸収してしまったけど、特に変わりはなさそうだった。あれは、やはり討伐者じゃないと能力を奪えないのかもしれない。


(うん、変なものを吸収してなくてよかった)


 僕は、ホッとしていた。



「ねぇ、さっき運んだカース、じゃなくてレスティンのこと、誰か見ておいてあげてね。何かあれば教えて」


 僕がそう言うと、僕が話しかけた生首はヘラヘラしながら、くるりと逆さまになって飛び始めた。うん、これ、やっぱ、情報伝達手段なんだな。


 そして、情報伝達が終わると、頭を上にしていつものようにヘラヘラ……ん? 何? 空を見上げて赤黒い霧状の手足らしき部分を広げてクルクルと回っている。


(何してるの?)


 ヘラヘラしながら上を向いてクルクル回っていると、アホの子みたいなんだけど…。


 すると、赤黒い霧状の部分にやわらかな光が少し集まり、そして生首にスッと吸い込まれていった。


 えっ? もしかして……それ、あの邪神が使っていた大気中のマナを集めるやつ?


 僕がゲージサーチをすると、アホの子生首の魔力は青、他の生首達はワープをしたからか緑や黄色だった。


(ま、まじ?)


 僕が驚いていると、他の生首達も、アホの子ダンスを始めた。やはり同じように、魔力が回復している。


 そして、魔力回復が終わると、得意そうにヘラヘラふわふわしていた。


「す、すごい…」


 僕が思わずもらした呟きに反応して、生首達は、ヘラヘラしながらめちゃくちゃに、あちこち飛び回っている。これは、狂喜乱舞のときの、コイツらの行動だ。


(この能力なら、欲しかったかも…)


 僕は、はぁとため息をつきつつ、生首達の嬉しそうな様子を眺めていた。コイツら、ほんと、いつも楽しそうだよね。



 そういえば、コイツらのすみかのあるヘルシ玉湯では、癒し系のアイドル扱いされてるんだっけ。そこで、「天使ちゃん」というあだ名がついたんだよね。


 実際に、治癒の息を吐いて、湯治に来た人達を癒してあげているらしい。それに、ヘラヘラしたお気楽な顔を見ていることで、癒される人もいるのだろう。


 僕は、カチンとくることが多いんだけど、最近は腹も立たなくなってきたな。慣れっておそろしい…。


 そういえば、生意気な後輩アダンも、生首達のことを気に入ってたよね。腕いっぱいにたくさんの生首達を閉じ込めて、きゅーっと抱きしめていたことがあったっけ。




「ライト〜!」


 僕が、コペルの倉庫近くでボーっとしていると、それに気づいたリリィさんが駆け寄ってきた。


「よかった、無事で。お疲れ様〜」


「リリィさんも、いろいろお疲れ様です」


「ほんと、せっかく珍しいご飯を食べてたのに、台無しだわ」


「あはは、また、たぶん手伝いに行くと思います。バーテン修行気分で楽しいんで」


「そう、じゃあ、また珍しいご飯、食べに行くわ」


「はい」


「それより、ちょっと時間あるかしら?」


「ん? どうしたんですか?」


「お爺様がね、あ、じゃなくてコペルの会長がね、ライトに会いたいらしいのよ」


「えーっと、コペルの行商人だからですか?」


「うーん、それもあるかな…」


「なんだか、歯切れが悪いですね。お困りごとですか?」


「そう、私、すっごく困ってるの…」


「えーと、はい。少しなら大丈夫です。この襲撃の事後確認、まずここに来たから、他にも行かなきゃならないので」


「あ、そうね、うん、すぐに済むと思うわ」



 僕は、リリィさんに連れられてコペルの事務所へと入っていった。


 行商人の登録をしたときと同じく、その1階の通路には荷物が積み上げられていて、まるで倉庫のような状態だった。

 2階に上がると、やはり派手だった。ピカピカした成金趣味な雰囲気で落ち着かない。だが、リリィさんはその2階からさらに上の階へと上っていった。

 その3階は、やはり成金趣味な雰囲気だったが、事務所というより、休憩室のような感じだった。


「ここのフロアは初めてよね?」


「はい」


「ここの奥に、偉そうな人達の部屋があるのよ。ここは従業員の食堂よ。こっちに座って、少し待ってて。お爺様、じゃなかった、会長を呼んでくるわ」


「はい、わかりました」



 僕は、リリィさんに指示されたテーブル席のイスにリュックを下ろした。ギシッ!

 ん? 僕から離れると、かけていた重力魔法が解けてしまったようだ。イスがギシッて……そんなに重いの?


 リュックを開けると、うん、どっちゃり入っていた。僕は、リュックから中身を魔法袋へと移した。


 ほんとならダンジョン産に移し替えたいところだけど、コペルの従業員が何人か食事をしている場で高価な魔法袋を出すのは、ちょっとマズイことになりそうな予感がしたんだ。


 リュックの中身をすべて移し替えたが、異空間ストックからリュックへポーションは移動してこない。リュックは空っぽのままだ。


(リュックくん!)


 呼びかけても、リュックくんの返事はない。あ! もしかしたら魔力切れ?

 僕は、リュックの横ポケットの内側の水晶に触れた。でも、魔力は吸われない…。どういうこと? もしかして、リュックくんが壊れた?


 そう考えると、頭から血の気がサーっと引いていくのを感じた。僕が暴走して、負荷がかかりすぎたんだ。無理をさせすぎたんだ……どうしよう。


 空のリュックを背負おうとしたけど、中身を取り出したのに、重くて持ち上がらない。僕は、重力魔法をかけて、リュックを背負った。


(どうしよう、リュックくんが死んじゃった…)


 僕は、頭をガンと殴られたような強いショックを受け、その場に立ち尽くしてしまった…。


(どうしよう…)



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