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168、名もなき荒野 〜 星を繋ぐ門

 ロバタージュ郊外の、名もなき荒野。ここは、壊れた転移魔法陣があるだけの、草木もほとんど生えない荒れ地だ。


 なぜ、転移魔法陣が壊れたまま放置されているのか、なぜ草木がほとんど生えないのか、僕は知らなかった。


 この荒野は、この国の、いわゆる通行のカナメとなる場所にあるんだ。主要な地への道が、この荒野のすぐそばを通っている。


 すぐ北にはロバタージュの街、さらに北にはイーシアの森が広がっている。

 そして、北西に、ずーっと行けば王都がある。

 東に行けば海があり、もうひとつの国への行き来ができる港町がある。

 港町は、王都のさらに西にもあるが、東の港町の方が地図で見たときには、とても大きく感じたんだ。


 マッピングの魔道具に記された地形を見て、僕は、この荒野の場所には、ロバタージュと同じくらい大きな街があるんじゃないかと思っていた。

 なのに、まさかの何もない荒れ地だったことに、僕はいま、少し驚いていた。


(ここって、なにもないんだ)




 生首達は、奴から少し離れた場所にワープした。気付かれないギリギリの距離のつもりなんだと思う。『眼』の能力を使わなければ、見えない距離だ。


 奴は今も、空に向かって両手を広げていた。奴の手には、やわらかな光が集まり、そして奴の身体の中へと入っていく。

 あんな風にして、大気中のマナを集めることができるのか。



 僕は、奴に向かって歩き出した。少し近づいたところで地面の様子が変わってきた。草木が全く生えていない。その土を踏むと、なんだか妙な感じがした。


(なんだか、急に身体が軽い?)


 この場所は、突然マナが濃くなっていた。そして、目には見えないが、弱い結界の中に入ったような気がした。


 奴が結界を張っていたのか? いや、それならこんな簡単に入れるものは意味がない。僕はいま、霊体化をしていないんだから。




「な! なんだ? おまえ…」


 奴は、やっと僕に気づいたようだ。マナを集めるのをやめて、こちらを警戒していた。


「貴方こそ、こんなとこで何をしているのですか」


「は? 何も知らないのか? やはり、バカだな」


「何も、とは?」


「ふん、おまえが妨害したのかと思ったが、街の魔導士達か。冒険者が集まっているからな」


「あー、さっきの何か降ってきたやつですか。あれで街を破壊する気だったのですか?」


「な? なんだ? そのバカにしたような言い方は!」


「僕、言いましたよね? 死にたくなかったら、星の結界が消えるまで、おとなしく隠れていなさいと」



 僕がそう言うと、少しギクリとしたようだが、奴は先程と違って、その表情には余裕があるようだった。魔力を全回復でもしたのか?


「おまえ、この地でよくそんなことが言えるな」


「はて? どういうことですか」


「やはり、知らぬのだな。この地が、出入り口だということを」


「出入り口?」


「昔はここに、星を繋ぐ門があったんだよ。そして地底へも繋がっていた。だから、この地はマナが濃い」


「へぇ、いまは何もないですね」


「戦乱時に建物は壊れ、崩れ去ったままだな。だが、門は潰されない、開かれたままだ」


「じゃあ、ここから自分の星に帰ったらどうですか」


「星の結界に阻まれるだろうが」


「門が開いているんじゃのないですか?」


「あぁ、我々の門は、開いているさ」



 すると、空の一部がグニャリと歪んだ。転移のときの歪みか。


 その歪みから、人が出てきた。ひとり、いや、ふたり……4人だ。その中の一人は見覚えがあった。玉湯で会った幻術士だ。



「ダーラ様が、星の結界が消えたら、おまえを迎えに来てくださるそうだ。それまでに捕まえて封印するか、もしくは殺しておくようにと言われている」


「あっそ。で、その4人は、貴方の配下ですか」


「ふっ、星の結界のおかげだ。我々の元に来ることしか、生き延びる方法はないからな」


「中立の星の人もいますが…」


「いまは皆、ダーラ様の配下だ。残念だったな、さっきまでの威勢はどこにいった? 泣いて命乞いでもすればどうだ? カッカッカッ」

 


 別に威勢もなにも…。僕は特に態度を変えているつもりはなかった。奴に余裕ができて、そう見えているのか。


 僕は、転移してきた4人の顔を見た。あの幻術士は気まずそうにしていた。


 そして、僕の記憶にない顔を見たとき、僕は、ドキンとした。正確に言うと、僕ではない。もう一人の僕が、動揺し、怒り、そして怖れで混乱していた。



(どうしたの?)


『翔太、アイツだ。アイツが俺の集落を潰したんだ。長が親切にしてあげたのを仇で返したんだ』


(えっ! 病をばら撒いた?)


『そうだ、アイツが! すべてを奪った!』



 もう一人の僕は、混乱から立ち直ると、今度は強い恨みに理性を失っていた。僕の中で、激しく闇が暴れている。


『おい、落ち着け! 闇のバランスが崩れる』


(リュックくん、無理だよ、ライトは…)



 そして、空の歪みからまた何かが現れた。2人…じゃない2体というべきか。チゲ平原を襲っていた飛竜だ。


「我々は、この地の門へは、この星のどこからでも転移して来ることができるのだ。外の星との出入り口だからな」


「へぇ。チゲ平原を襲撃したのは、ここに隣接するからなんですね。外からどこにでも自由に入って来られるわけじゃないんだ」


「直接、どこからでも入れる方もおられる!」


「それで? この地に配下を呼びつけて、貴方を守ってもらおうということですか」


「はぁ? バカなことを言うな! おまえを殺し、あの街を潰すだけだ」


「なぜあの街を潰したいのですか? 何か貴方の害になるとでも?」


「あの街に集まった冒険者が、あちこちウロついているではないか。我々を探し出し、始末させようという魂胆だろう」


「別に貴方達のことなんて、気にしていないと思いますよ。地形が変わったから、その調査のために冒険者が各地で活動しているんです」


「よく言うわ! 我々を見つけたら好戦的に近づいてくるではないか」


「じゃあ、逃げればいいじゃないですか。本当に狙われているなら、逃げても追っ手は来るでしょう。いま、貴方が無事でいることが、狙われていない証拠ですよ」


「なんだと?」


「今からでも、逃げて隠れたらどうですか? 今後一切、この星に害を与えないと約束するなら、見逃してあげますよ。これが最後通告です」


「上から目線で、何様のつもりだ? おまえはバカだな。この状況がわかっていないんだろう。不利なのはおまえの方だ」


「僕は、いまは女神イロハカルティア様の代行者だ。貴方達が、番犬と呼んでいる神族ですよ」


「代行者? 神と同格だと? 俺と……ふざけるな!」



 飛竜2体が、うずうずして奴の合図を待っている。他の配下達も、それぞれ武器を手にしていた。



 僕の足元には闇が溢れていた。いつものように霧状に漏れているのとは違う、ゴウゴウと音を立てた荒れ狂う闇の嵐だ。


『もうコントロールは無理だ。おまえが合わせろ! バランスを崩しすぎると消滅しちまうぞ』


(合わせると……暴走してしまうよ?)


『わかってる、わかっているがこのままだと…』


(わかった、僕は……リュックくんに命預けるよ)


『オレも、おまえが消滅すると同じ運命だ。オレも消えたくはないからな』


(了解、相棒!)




 奴は、集めた配下に指示を出した。飛竜2体が一気に僕に近づいてきた。


 僕は、闇を放出した。足元で荒れ狂っていたもう一人の僕の闇の動きに、僕の闇を合わせた。


 辺りに一気に僕達の闇が広がっていった。だが、やはり、この地には結界があるようだ。見えない壁から先へは広がっていかない。


(よし、これなら気にしなくていい)


 僕は、倍速! を唱えた。飛びかかってくる飛竜のスピードが半減した。僕は、さっと奴らの攻撃を避けた。


「おまえ、またこの霧か!」


 なぜか、奴は怒っていた。あー、奴の出す洗脳の霧は、僕達の闇で消え去るんだっけ。


 飛竜の攻撃は、僕に当たらない。奴らはチゲ平原での僕との違いに気づき、少し警戒し始めた。



(ねぇ、大丈夫? ライト)


『翔太、俺、もう無理だ。殺意しかない』


 もう一人の僕が、この身体の元の持ち主のライトが、完全に理性を失っていた。ただただ、自分の集落に伝染病を持ち込み、集落を滅ぼした男への復讐心に支配されていた。


(たぶん、集落を滅ぼしたのは誰かに命令されたんだと思うよ。アイツの意思じゃないかもしれない)


『笑ってたんだ。妙な霧を俺達に吸わせて、皆が倒れる姿を見て、アイツは笑ったんだ』


(下衆だな)


『そうなんだ。俺は、アイツを許すわけにはいかない』


(そっか、わかった。でも強制的にやらされたことなら、ライトが怒りを向ける相手はアイツじゃない、首謀者だよ)


『わかっている、でも、アイツは……アイツは…』



 僕は、目を閉じてスゥーっと深呼吸をした。


 ガチンと、何者かの剣が僕のバリアに当たった。と同時に巨大な火の玉の直撃を受けた。僕を、火が覆った。


「直撃だぜ!」



 僕は、ゆっくりと目を開けた。僕の見る景色が赤く染まっていた。火に覆われた赤ではない。奴らの攻撃は、バリアですべて防いでいた。


「命が惜しいなら、いますぐ僕の視界から消えて」


「はぁ? まだ生きていたか。さっさと片付けろ」


 邪神の指示で、再び、奴らは僕に近づいてきた。


 僕は、剣を抜いた。凄まじい勢いで闇が吸い込まれていく。だが、奴らの動きは遅い。だんだんスローモーションになってきた。


(これ、前に倒れたときと同じだ。暴走だ…)


 だが、僕は意外に冷静だった。もう一人の僕は完全にぶち切れていた。あのときとは逆なのかな。


 僕は、奴らに向かって剣を振った。今回は当てようと狙ってギリギリまで引きつけた。


 バリバリッ!


 僕が振った剣から黒い雷撃がものすごい音を立てて、飛んでいった。しかも、速い! いや、奴らの動きが遅い。


 バキバキッ!


 雷撃は、奴らの一人をかすった。そして、空に闇雲が浮かんだ。雷撃がかすった奴は、一気に燃え上がった。

 慌てて消そうとした味方の水魔法のせいで感電し、バタンと倒れた。



『翔太、あいつじゃない。俺は…』


(わかってる。だけど先に邪神を殺ろう。指示をする奴の方が罪は重い)


『わかった!』


 そう言うと闇雲は、邪神の方へと近づいた。


(行くよ!)


 僕は、さっきの雷撃でビビっている奴らを無視し、邪神のそばへと、生首達のワープで移動した。


「お、おまえ!」


「さようなら」


 僕は、闇を吸収した剣に火水風土すべて纏わせ、奴の心臓をめがけて、剣を突き立てた。


 バリン! グサッ!


「お、っ、ま…」


 少し遅れて、闇雲から無数の槍のようなものが奴に突き刺さる。僕もさらに剣を持つ手に魔力を込めた。



 ドッ…バンッ!


 まるで花火のように、奴は爆発した。



 そして、光の粒子がふわっと漂い、空に向かって昇っていった。だが、その一部が僕に入ろうと近寄ってきた。


(邪神の力なんて、いらない!)


 僕は、近づいてきた光の粒子に闇を放った。


 だが……いつのまにか僕の前で盾となっていた生首達を、闇が押し出してしまい……なんと! 光の粒子は生首達に吸収されてしまった。


(えーーっ!?)



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