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167、ロバタージュ 〜 街の混乱

「何だ? こんなバリアの中で、何かぶっ放す気か? 味方も巻き込まれるぞ。おまえ、やはりバカだな」



 僕はいま、襲いかかってくるアンデッド化した魔物に左手を向け、そのタイミングをはかっていた。



 ロバタージュの大商会コペルの倉庫に積み上げられた荷物から、次々と魔物が現れる事件が起こっていた。

 その同じ場所から最後に現れたのが、洗脳や操りを得意とする他の星からの迷子だった。


 奴の意図はわからない。だが、少なくともこの街を害する目的があることは確かだ。

 青の神ダーラの配下なのか、もしくは別の勢力なのか、たまたまこの星に来て結界のために出られなくなっているだけなのか、奴の素性は不明だった。


 さっき、僕の部隊の隊員達によって倒された魔物達を、奴は妙な霧を使って操り動かした。僕は、闇を放出し、その霧を覆い消し去ったんだ。


 奴の操りから解放し、死体に戻したつもりだった。だが奴の操りは、それを解くと、再び殺された恨みを抱えてアンデッド化してしまうらしい。


 どこまでも下衆なことをする。死者をもてあそぶのが楽しいのか?



『タイミング外すなよ?』


(わかった)



 アンデッド化した魔物達からわき出る闇が、僕の左手に纏った闇に触れた。

 僕は、蘇生! を唱えた。僕の深き闇と、魔物達の闇が混ざり合い、そこに起爆剤として蘇生魔法を撃ち込むことでその属性が反転する。闇の反射、聖魔法だ。


 ピカッ!


 僕の左手から強く白い光が、魔物達に向けて放たれた。白い光はバリア内に広がり、バリア内は強く白い光に包まれ何も見えなくなった。


 バリン!


(げっ! バリア、割れた…)


 僕が、この辺りにドーム状に張っていた物防魔防バリアが、闇の反射の聖魔法に耐え切れず、砕け散った。


 強い光が収まると、アンデッド化した魔物達は跡形もなく消え去っていた。そしてバリアが砕け散ったために、聖魔法、清浄の光がキラキラと街の中に溢れ、広がっていった。


 騒いでいた人達も、このキラキラを浴び、なんだか呆然としていた。


 僕の部隊の隊員達は、清浄の光によって、麻痺や怪我は治癒されたようだった。




「お、おまえ、まさか……ダーラ様が欲しがっていたガキか」


「ダーラ様と呼ぶということは、あの神の下僕なんですね」


「下僕だと? 神に向かって何て無礼な!」


「へぇ、どこかの星を治める神ですか。こんな所に何の用事ですか? まさか、街を潰しにきたわけでもないでしょう?」


「おまえが、ダーラ様と平原で言葉を交わしたガキか?」


「僕は、貴方に何をしに来たのかと、たずねているんだけど……言葉が理解できないのかな」


「な、なんだと? 無礼にも程があるぞ」


「侵略者が何を言ってるの? 用事がないなら帰ってくださいよ」


「バカか! 星の結界が消えるまでは誰も出入りできぬわ」


「でも、太陽の光は届いているよ」


「…なっ! おまえごときが…」


「貴方のような邪神、僕なら簡単に殺せる。光の粒子になれば、星に戻れるんじゃないですか?」


「…ッ! なんだと?」


「殺されたくないなら、この星の住人に迷惑をかけないでください。それが守れるなら、見逃してあげます。結界が消えるまでどこかでおとなしくしていなさい」


「なっ! なんだその言い方は! こんな中立の星の…」


「貴方はここでは、ただの侵略者だ。僕は言葉選びを間違えてはいませんよ?」


 僕の後ろには、僕の部隊の隊員達がズラリと並んでいた。奴は、僕と隊員達を睨みつけた後、その場からフッと消えた。


 僕は、剣を持つ右手のチカラを抜いた。剣からスーッと僕の中に闇が戻ってきた。

 かなり吸ってたんだな。僕は剣を鞘に戻した。



「やった! すごい! 追い払った!」


「やるな、さすがだ!」


「女神様の軍隊なんだろ? すごいもん見ちまったぜ」


 この状況にパニックになっていた人達は、安堵の表情を浮かべ、僕達に称賛の声を浴びせていた。



 でも、僕の危機探知リングは、まだ黄色く光っていた。まだ、終わっていない。



「皆さん、まだ終わっていません。街の中にいてください」


 やれやれと、馬車を動かそうとした人達に僕は声をかけた。


「えっ? もう逃げていったじゃないか。時間、遅れてるんだよ」


「あんた若いから、わかってないんだ。心配しすぎじゃないか」


「ちょっと! ライトの言うこと、聞きなさいよ!」


「お嬢様、勘弁してください。大幅に遅れているんですよ」


「さっきの奴は、チゲ平原を襲った邪神の配下です。プライドの高い神です。このまま、引き下がるとは思えません」


「命令よ! ライトがいいと言うまで街から出ていっちゃだめよ」


「ですが、もう赤い太陽が昇ってますぜ?」


「ダメなものはダメよ」


 リリィさんが、コペルの従業員達と言い争いを始めた。



『おい、飲んどけ』


(ん? そんなに使ってないよ?)


『言うこと聞け』


(わかった)


 僕は、魔法袋から変身魔ポーションを取り出し、一気に飲み干し、空瓶をすぐにリュックに入れた。


 いま、僕が言った言葉で、街を出ようとしたコペルの人達の言い争いは、だんだん激しくなっていった。

 街の人達は、それを興味深そうに見ている。僕が何を飲んだか、特に誰も気にしていないようだった。



 今は、青い太陽から赤い太陽に変わる早朝だ。街の外には、ほとんど人はいない。

 早朝の少し冷たい風が、ピタリと止んだ。



『来るぞ、2発』


(えっ? どういうこと?)


『街を吹き飛ばす気だろーな。バリア、街全体に』


(たぶん、街にはバリアあるよ? だから魔物も入ってこれない)


『だーかーらー、2発来るって。さっさと準備しろ』


(街全体? 1発目でバリアを壊すの?)


『だろーな。1発目の直後にバリア張れよ。2発目は、すぐ来るぞ』


(わかった)



 僕は、右手を空に向け、街全体にバリアを張るイメージをした。頭の中に街の地図が浮かんだ。これをすべて覆うのは、かなり魔力が必要な気がする。


 僕は、集中力を高めた。どんな攻撃が来るんだ? 街を吹き飛ばすなら、上からドカンと爆撃してくるか?



「ライト、何やってるの?」


「お嬢さん、すみません。ライトさんは今、防御魔法の準備に入ってます。集中を切らさないであげてください」


 僕の部隊長ペールさんが、リリィさんを止めてくれた。助かった、話をすると集中力が途切れる。


「えっ? あ、うん。なぜ、魔法の準備? まだ何も…」



 ヒュー、ヒューッ


 突然、空から無数の火の玉が降り注いだ。


 ドガガガ、ドガン! ドドドドドッ!

 キィン! パリン! ドドッ!


(初撃で、簡単に…)


「きゃー! 火の雨!」


 街のバリアは壊され、冒険者や魔導士が慌てて、降り注ぐ火の玉で燃え上がった建物の火を消している。


「消せ! 魔導士なんとかしろ、街が潰されるぞ」


「街から出るな! 外は、無防備になる!」



 僕は、空に向かって魔力を放った。そして、街全体を覆うイメージを持って、さらに魔力を注いでいく。

 どんな攻撃が来るかわからない。ドーム型の、水バリアをベースにしたわらび餅バリアが完成した。


 僕は、すぐさま、変身魔ポーションを1本飲み干した。魔力切れ直前のめまいを感じたんだ。


(やばっ)


『1本で足りてねーだろ』


(わかってる)


 僕は、さらに2本飲み干した。そして、近くにいた人達に叫んだ。



「バリアから出ないでください。外からは入れません! 皆に伝えてください」



 さっきケンカしていたコペルの人達は、すごい勢いで何度も頷いている。もし、街の外に出ていたら、火の雨から逃れるすべはなかっただろう。彼らはすっかりおとなしくなっていた。


「ライトさん、バリアを張ってくれたんですね。でも、相手も、いまのでもう……えっ?」


 突然、身体が浮き上がるような引っ張られるような感覚を感じた。



 バリバリバリバリ! キュン!

  ドゴゴコッ! ドーン!



(何? 重力魔法?)



 凄まじいエネルギーが爆発するような、とんでもない魔法だ。地形が変わってしまいそうな攻撃を受け、僕は背筋が凍った。


 幸い、わらび餅バリアは、なんとか街を守ることができたようだった。しかし、衝撃は、吸収しきれず、街は大きく揺れ、いろいろものが崩れていた。



『ライトくーん、大丈夫〜?』


(ん? ナタリーさん? はい、なんとか耐えたみたいです)


『そう、魔法攻撃したバカは、街が潰れなかったのを見て、また、大気からマナを集めているわ』


(えっ?)


『タイガに行かせてもいいんだけど、洗脳耐性が低いのよねー』


(わかりました、僕、行ってきます)


『ふふっ、助かるわ〜。早めにお願いねぇ』


(はい)



 僕は、街のバリアを調整することにした。わらび餅じゃなくて通常のバリアに切り替え、フルで張り直した。街全体の広域バリアは、ガツンと魔力が持っていかれる。


 変身魔ポーションを3本飲み干した。口の中が甘い…。口直しに、パナシェ風味のクリアポーションを1本飲んだ。


『オレも腹減りなんだけどー』


(えっ? わかった)


 僕は、リュックを下ろして横ポケットの内側の水晶玉に触れた。グンッと手が引っ張られる感覚、ほんと一気に魔力を抜くんだから、めまいで倒れそうになるよね。


 そして僕は、魔ポーションを2本飲み、水晶玉に触れ……を3度ほど繰り返した。また、口の中が甘くなり、今度はモヒート風味を飲んだ。

 やっと、リュックくんがもういいと言うので、自分の魔力回復をして準備完了。



 僕が、リュックをゴソゴソ触ってポーションを飲んでいたのを、僕の部隊の隊員達がそれとなく壁になり、人目につかないようにしてくれた。ペールさんの指示なのかな?


 それに、事情を聞きにきたギルドや、警備隊や、貴族っぽい人達の対応も、全部、部隊の隊員達がやってくれた。


 だから、僕は自分の動きたいように動くことができる。彼らは、めちゃくちゃ優秀だね。



「ライト! もう街から出ても大丈夫?」


「リリィさん、まだダメです。僕、ちょっと行ってきます。彼らの指示に従ってください」


「えっ? どこに行くの?」


「あの邪神を……片付けてきます」


「えっ!?」



「ライトさん、お供を!」


「この街の混乱をなんとかしておいて。僕は大丈夫だから」


「……かしこまりました。お気をつけて」


「うん、ありがとう。ペールさん、あとはよろしくね」


「はっ!」



 僕は、生首達に、あの邪神の居場所がわかるかと聞いてみた。すると、頭の中に映像が流れてきた。ロバタージュ郊外の、何もない荒野で、奴は空に向かって両手を広げている。マナを集めているのか…。


 生首達も、優秀だね。僕が指示しなくても、周りをしっかり偵察してくれている。こうなることを見越して、奴に張り付いていたのかな?


(さっさとお帰りいただこう)


 僕は、自分にバリアをフル装備かけた。そして、生首達のワープで、奴のいる荒野へと移動した。



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