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166、ロバタージュ 〜 コペルの荷物の中から

 バン!


 また、店の扉が勢いよく乱暴に開いた。


「お嬢様、おられますか!」


 息を切らせて飛び込んできたのは、商人風の若い男だった。


「はい、来られてますよ」


 マスターにどうぞと促され、その男は店内へ駆け込んだ。そして、奥にいたリリィさんの後ろに立った。


「こんな所まで押しかけてきて、何なの? 私は嫌だと言っているでしょ!」


「お嬢様、違うんです。大変なんです! すぐ来てください」


「何? 嫌よ、私は食事中よ」


「食事どころじゃないんですよ。大量の…」



 バン!


 また、店の扉が、勢いよく開いた。ほんと、みんな乱暴に開けるよね。


「ライトさん、いらっしゃいますか」


(ん? 今度は僕?)


「あぁ、いるよー。助っ人が必要なほどか」


「はい、マスター、大量の重傷者が出ています」


「えっ? ペールさん? どうしたの?」


 その男は、僕の部隊の部隊長ペールさんだった。なぜ? 城で訓練していたはずなのに…。


「はい、救援要請を受けて来たのですが、回復役が足りません」


「わかった、すぐ行く。マスターすみません」


「あぁ、構わない。行ってやれ」


「はい」


 僕は、他のお客さんに軽く会釈をして、扉の方へ向かった。そして半分霊体化してカウンターから出た。


「ちょっと、ライト、カウンターそっちから出れないわ……え?」


「僕、透過魔法みたいなのを使えるので。リリィさん、また〜」




 店を出て、ペールさんにその場所を聞くと、コペル大商会の裏の倉庫だと言う。ここからは距離がある。


 僕は生首達を呼んだ。人目につかないように来れるかとたずねると、足元にスッと半透明のクッションが現れた。


「ペールさん、ワープ使います。その足元のクッションに乗って」


「えっ!? あ、はい、わかりました」


 僕は、ペールさんが乗ったのを確認して、コペル大商会の前に生首達のワープで移動した。


 生首達、こないだは確か透明化できていたと思ったけど…。クッションは半透明じゃないと見えないからかな?



(えっ? 何これ)


 ワープした先の、目の前の光景に僕は驚いた。街の中なのに、大量の魔物がいる。それに、大量の負傷者もいる。一体、何があったんだ?


 僕が呆然としていると、ペールさんが簡単な説明をしてくれた。

 突然コペル大商会の倉庫に積み上げられた荷物の中から、魔物が次々と現れてきたのだという。

 強い魔物も混ざっていて、警備隊では対応しきれず、王宮経由で女神様の軍隊に、救援要請をしたのだという。


 僕は、ペールさんの説明を聞きながら、この場に倒れている人達のサーチをした。体力20%以下の赤はいない。黒、すなわち死者もいない。


(よかった)


 いま、魔物達と戦っているのは、ほとんどがペールさんが部隊長を務める、僕の部隊だ。みんな驚くほど強かった。どんどん魔物が倒されていく。


(すごっ)


 この街には僕が居たから、ペールさんが救援を受け、部隊を引き連れてきたそうだ。

 でも、みんな、制服は着ていなかった。冒険者風の服装だ。制服を着るか否かは、どうやって区別してるんだろう?



 とりあえず、僕は、負傷者の治療をしよう。



(リュックくん!)


 僕が呼ぶと、リュックが背中に戻ってきた。異空間って、ほんと、どうなってるんだろう?


『お呼びですか、ご主人様ー』


(ん? 何? ご主人様って…。もしかして、リュックくん拗ねてる?)


『はぁ、別にー』


 これは、拗ねてるね…。女神様の魔力で作り出された、いわゆる分身だから、性格も似ているのかもしれない。


(拗ねないでよ。僕、リュックくんが居ないと困るんだよ)


『ふぅん』


(サポートよろしくね、相棒)


『はいはい』



 現状把握を終えた僕は、ペールさんに確認をとった。


「ペールさん、僕は負傷者の治療だけで大丈夫?」


「はい、いまのところは大丈夫です。ただ、まだ潜んでいる奴がいますが…」


「わかった。負傷者の回復をしたら、戦闘のサポートするよ」


「え? サポート?」


「うん、サポートだよ。適材適所だ、戦闘はみんなに任せる」


「は、はい、了解です」


 なんだか、ペールさんがキョトンとしていたけど、僕はニコッと笑って、自分の仕事を始めた。



 僕は、あちこちで倒れている人をまわり、スッと手を入れ回復! を唱えていった。かなりの数だけど、回復は一瞬だ。僕は、次々と負傷者の治療をしていった。


 そして、負傷者が居なくなったときに、リリィさんがやって来た。さっき、リリィさんを呼びに来た商人っぽいお兄さんも一緒だった。


「えっ? ライト…」


「あ、リリィさんも、ここに? あ、そっか、コペルの荷物だからですね」


「そうなんだけど…? 話が違うわね」


「さっきまで大量に重傷者がいたんです。それにあの人達は? あの、いったい、どうして?」


「ライトが治療したんでしょ」


「えっ? こんな短時間で? 貴方は一体何者なんですか」


 若いお兄さんは、混乱しているようだった。リリィさんに鎮圧してもらおうと迎えに行って戻ってきたら、事態が収束しつつある。何がなんだかわからないよね。


「僕は、コペルの行商人ですよ」


「えっ? ウチの? あ、旗…」



『ライトさん、潜んでいた奴が出てきます』


『ペールさん、了解。強い?』


『わりと……下手すると街が吹き飛びます』


『わかった』



 僕は、魔導ローブを取り出して身につけた。そして、バリアをフルで張った。


「何? ライト、今さらローブ?」


「はい、ちょっとマズそうです。リリィさん、皆さんが巻き込まれないように、避難誘導をお願いします」


「えっ、何?」


「潜んでるのが出てくるようです」


「どこから?」


「おそらく、魔物の発生源と同じかと」


「ッ! ウチの倉庫ね。じゃあ、北へ誘導するわ」


「はい、お願いします」



 リリィさんは、回復した人や、不安そうに遠巻きに見ていた人達の避難誘導を始めた。


 だが、みな、もう片付いていると安心し始めていたためか、なかなか避難してくれないようだった。好奇心の方が勝ってしまっているんだろう。



『おい、早く隊員の世話してやれ』


(うん、わかった)



 僕は、魔物と交戦中の隊員に近づいた。すると、魔物が、僕を標的にし始めた。


(げっ! バリア張りに行けないじゃん)


『おまえなー、もう時間ねーぞ。マジメにやれ』


(まじめだよ、僕)


 と言った瞬間、僕の景色の一部が黄色く染まった。危機探知リングを見ると、黄色く光っていた。


(やばっ、黄色だ)



 僕は、透明化! 霊体化! を念じた。スピードを上げたい、倍速! を唱えた。まわりの動きが遅くなった。よし!


 僕は、隊員達を順にまわり、バリアをフル装備していった。最後にペールさんにバリアをかけた瞬間、奴が姿を現した。


 魔物かと思っていたが、違う。人だ!


 僕はゲージサーチをした。体力2本、魔力3本…。他の星からの迷子だ。もしかしたら、街を破壊するつもりか? 青の神ダーラの配下か?


 とりあえずバリアが、間に合ってよかった。僕は、倍速魔法を解除し、少し様子を見ることにした。




「ほう、虫ケラだらけの街に、兵か? 私服でカモフラージュしているつもりか?」


「何者だ? 何が目的だ?」


「ふぅむ。おまえがリーダーか? いまバリアを張ったのは誰だ?」


「さぁな。目的は何だ?」



 奴は、ニターッと笑い、自分の身体から妙な霧を放出した。すると、さっき倒した魔物達がよみがえった。いや、違う…。操り人形のように、死体を動かしているんだ。


『コイツ、洗脳も操りも使うぞ』


(リュックくん、黄色なんだ、コイツ)


『兵には荷が重いんじゃねーか』


(わかった)


『俺の言うことは聞けよ?』


(了解!)



 僕は、霊体化と透明化を解除した。すると、隊員達の何人かは驚いた顔をしていた。驚いていないのはベテラン勢かな?



 ふうーっと、深呼吸をした。そして僕は、魔族の国スイッチを入れた。いつもの、はったりスイッチだ。


(よし!)


 そして僕は、手を空に向けて、この辺り一帯にドーム状のバリアを張った。バリアの中には、魔物と奴と、そして僕の部隊の隊員達がいた。


 街や人を気にしていては、僕は自由に動けない。



「ほう。コイツらにバリアを張ったのは、おまえか?」


「死体を操り人形にしないでくれる? かわいそうじゃない」


「じゃあ、おまえ達を操り人形にしてやろうか」


 奴は、再び妙な霧を出した。



『ライトさん、マズイです。麻痺毒です。バリアを張ってもらってても、しびれがきます』


『じゃあ、僕がやるから、操られないように互いに気をつけていて』


『えっ? ライトさんが?』


『うん、みんなには僕のことを知っておいてもらいたいから』


『了解です。隊員全員に告ぐ! 魔力を体内に循環させろ。アイツの洗脳にかかるな』


『『はっ!』』



 隊員の中には、麻痺で動けなくなっている者もいたが、操られないように必死に抵抗していた。


 すると、奴は少し不機嫌そうな表情を浮かべた。


「逆らうと、苦しいだろう。身をゆだねれば楽になるぞ」


(こいつ…)


 僕は、魔法袋から剣を取り出し、腰につけた。



「僕の兵に何をしてるわけ?」


「はぁ? おまえの兵だと? ん? なぜおまえは平気な顔をしているんだ」


「僕は、毒に耐性があるからね。死体はそのまま眠らせてやりなよ。死体をもてあそぶなんて、下衆な趣味だね」


「なんだと!?」



 奴は、魔物の死体を動かし始めた。なるほど、隊員への洗脳と両方同時にはできないんだな。

 隊員達は、妙な霧に必死に抗っていたが、魔物の死体が動き始めると、少し楽になったようだった。


 僕は、剣を抜いた。僕のローブの中から溢れた闇が剣に吸い込まれていく。


 操られた魔物達が、一斉に僕に襲い掛かってきた。だが、僕のバリアに弾かれ、その攻撃は僕には届かない。


『深き闇で、奴の霧を覆い消し去れるぞ』


(制御できないかも)


『オレが、ついてる』


(ふっ、了解、相棒!)



 僕は、一気に闇を放出した。黒く深き闇が、僕が張ったバリア内に広がっていく。あちこちで、ときおりチリチリと音を立て、闇はバリア内を覆い尽くした。


「な、なんだ? この霧は」


 バタバタとあちこちで倒れる音がした。操られていた魔物は死体に戻っていった。だが操られたせいか、その身体は一部が溶けている。


「はははっ、愚かな奴だ。俺が操り生かしてやっていたのを断ち切ったな」


「死体に戻しただけだよ」


「バカか! 死体に戻るわけないわ! コイツらは完全によみがえるぞ。クックック、再び殺された恨みを抱えて、この街を襲うアンデッドとしてな!」



 奴の言葉に、避難していた一部の人が騒ぎ始めた。そして、だんだんその騒ぎは広がり、パニックになっていった。


 この距離で、なぜ聞こえるわけ? 盗み聞き魔法? いや、魔道具か…。


(はぁ、もう! さっさと片付けなきゃ)


 僕は、左手をスーッと、魔物達に向けた。



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