163、ロバタージュ 〜 ステイタス(C)
「お待たせしました。登録者カードができました、ご確認をお願いします」
「ありがとうございます」
僕は、いま、ロバタージュのギルドの奥の事務所にいる。さっきランクを上げてもらって、登録者カードの発行待ちをしていたんだ。
前回は、迷宮で倒れて随分と時間が経ってから測ったけど、今回は、あれからそんなに時間が経ってない。測定するほどでもなかったんだけど、一応、測ってもらったんだ。
相変わらず、また目をつぶっている顔写真の部分に触れ、カードの情報を表示した。
[名前] ライト
[ランク] C
[HP:体力] 1,020
[MP:魔力] 32,000
[物理攻撃力] 60
[物理防御力] 230
[魔法攻撃力] 30
[魔法防御力] 9,800
[回復魔法力] 101,500
[補助魔法力] 30,700
[魔法適性] 火 水 風 土 他
うーん…。言葉が出てこない。まぁ、こんなものかな。
体力と物理防御が10上がったね。攻撃力は物魔まったくピクリとも伸びてないけど。あとは20%アップくらい? うーん…。
体力3,000超えるまで、タイガさんが僕のお世話係なんだよね、確か…。この調子だと、ほんとに山ごもりとかさせられそう。
僕がどんよりしていたためか、職員さんがとても困った顔をしていた。僕に声をかけようとしてくれているけど、言葉が見つからないようだ。
「確認しました。ありがとうございました」
「あ、いえ、あの…」
「あ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「え、はい…」
「じゃあ、僕は失礼します」
「はい、お疲れさまでした」
僕は、職員さんに軽く会釈をして、事務所からギルド内へと戻った。
ギルマスのノームさんが何か言いたそうにチラ見されたが、職員さんが何か合図を送って、それを阻止してくれた。
ギルド内でも、僕がどんよりしているのがわかったのか、僕が姿を見せると、なんだか妙に静かになった。
『おい、闇、漏らしてんじゃねーぞ』
(えっ? まじ?)
僕は、自分の足元を見ると、スーッと闇が引いていくところだった。あはは、めちゃくちゃわかりやすいな、僕…。
ギルドの外に出ると、ちょっと気分が浮上してきた。うん、よし、買い物しよう!
僕は、マッピングの魔道具を取り出した。店を探そうと思ったけど、そういえばこの魔道具は、歩いた道の近くもマッピングするんだったよね。
適当にあちこち歩いて、街の中の地図を完成させようかな。
さっき、ここに着いたときは、街の人々の視線がなんだか気になった。でも、今は特に見られている感じはしなかった。
そっか、僕の顔が知られているんじゃなくて、生首達か。アイツらがワープワームだとは大半の人は知らない。でも、ギルド近くは冒険者が多いから、知られていたのかな。
「ポーション屋さん?」
「はい?」
見知らぬ人に声をかけられ、僕は条件反射のように、バリアをフルで張った。
王宮セシルさんの娘婿のバックルさんに、声をかけられたときのことが一瞬、頭をよぎったんだ。
「コペルのポーション屋さんですか?」
「はい、そうです」
「よかった! あの火無効のポーションありますか?」
偶然、僕を見つけて嬉しそうにしてくれる、冒険者風の若い男性だった。お客さんだ!
「あ、はい、あります。何本にしましょうか」
「俺、銀貨3枚しか今なくて……買えないですよね」
「いえ、1本銀貨1枚で直販しています」
「ええ〜っ! 銀貨4枚で買ってた…」
「お店の儲けも必要ですもんね」
「そっか、じゃあ3本ください」
「はい、ありがとうございます」
僕は、火無効つきカシスオレンジ風味のポーションを3本渡して、銀貨3枚を受け取った。
彼は何度もありがとうと言ってくれて、去っていった。
本当に必要な人に買ってもらうことが、こんなに嬉しいとは……僕は、行商人だということを忘れていた気がした。
(う〜ん、なんか楽しい)
その後も、ふらふらと歩いていると、ちょくちょく声をかけられた。そういえば、こうやって一人で歩くのは久しぶりだな。
結局なんだかんだで、いつもの3種が売れた。モヒート風味が10本、火無効つきが23本、クリアポーションが51本。クリアポーションは1本銀貨5枚、他2種は銀貨1枚で販売。銀貨288枚分の売上だ。
一人だけ金貨の支払いでお釣りを渡したから、皮袋の財布の中身は、金貨1枚、銀貨188枚が増えた。
このままだと、また財布を買わなければ…。やっぱ銀貨も必要だな。金貨に両替してもらおうかとも思ったけど、お釣りで必要なことがあるもんね。
(あれ?)
突然、僕の目の前が青く染まった。ハッとして危機探知リングを見ると、青く光っている。
僕は、バリアを張り直し警戒した。すると、前から当たり屋のような馬車が爆走してきた。
ひとりの男が馬車から身を乗り出した。そして、僕の腰もとに手を伸ばし魔法袋を奪おうとしたが、僕はバリアをフル装備している。彼の手は僕のバリアに阻まれ、空を切った。
「チッ! バリアかよ」
彼は、ひったくりを失敗したことにイラついたのか、少し先で馬車を止めた。そして、二人の男が、馬車を降りてこちらに向かってきた。
(えー、何?)
「おい、おまえ! 誰に断ってここで商売してるんだ?」
「え? 許可が必要なのですか?」
「当たり前だろ、ここは俺達のナワバリだ」
ちょっと待って! これ、絡まれてる? もしかして強盗とか、そういうたぐい?
「その腰の魔法袋、置いていけよ」
「どうしてですか? 売り物が入ってるので無理です」
「じゃあ、おまえの命、置いていくか?」
二人組は、剣を抜いた。人々はこの様子を遠巻きに見ていた。うんざりしたような顔や、僕に同情的するような顔もあれば、楽しそうにニタニタしてる顔もある。
「嫌です!」
「なんだと? このガキ! 調子に乗りやがって」
「おい、見せしめだ! 殺れ!」
二人組が斬りかかってきた。
キィン! キン!
僕のバリアが、二人の攻撃を弾いた。
「は? てめえ、魔導士か!」
「だったら何ですか。街の中で剣を振り回すなんて、バカなことやめてください」
「なんだと? きさま!」
二人組は、さらに僕に斬りかかってきた。僕は、奴らを避けようと考えると、頭の中に読めない言葉が出てきた。
(あ! この感じ、久しぶり)
そして、急に彼らの動きのスピードが半減した。
(急に遅くなった! 避けれそう)
僕は、奴らの攻撃をかわした。うん、いける。
「なんだ? こいつ、急に素早くなりやがって」
「補助魔法だろ。どうせ、すぐに魔力切れになる」
(ん? 僕がスピード上がってるのかな)
奴らの攻撃は普通にかわすことができた。バリアに触れられることも減ってきた。
そういえば、僕が迷宮で闇を暴走させてしまったとき、あの赤の神の動きがスローモーションになったのを思い出した。
あれは、相手が遅くなったんじゃなくて、僕のスピードが上がっていたのか。
今のスピード、たぶん倍速だよね。あの暴走は10倍速とかだったのかもしれない。
バタバタバタバタ!
「何をしている!」
「うわっ、誰か通報しやがったな!」
「逃げるぞ」
奴らは、とめていた馬車に乗り込み、その場から逃げ出した。彼らも、それ以上追いかけることは断念したようだった。
「大丈夫か? お嬢さん」
「えっ?」
その懐かしい声は、警備隊のレオンさんだった。 この世界に来て何もわからなかった僕に、いろいろと教えてくれて、世話をしてくれた恩人だ。
この世界のポーションをくれたのも彼だ。
もしかしたら、あのときにポーションを飲んで、ポーションという存在に強く惹きつけられたから、リュックくんがポーションを作るようになったのかもしれない。
「あ! 坊やじゃないか」
「レオンさん! お久しぶりです」
「あぁ、久しぶりだな。元気そうでよかった。しかし、何があったんだ?」
さらに警備隊の数人が駆けつけ、見物していた人達にも事情をきいていた。
「突然、当たり屋みたいに馬車が爆走してきたんです。それを避けたら、怒ったみたいで…」
「そうか、アイツら…。坊や、怪我はないな?」
「はい、大丈夫です」
「隊長、どうやら手配中の強盗団のメンバーのようです。貴方も一人歩きするときに、そのような高価なローブを着ているからターゲットにされてしまうのですよ」
「えっ? あ、そうなんですね」
「おい、別に彼は悪くないだろう」
「あ、申しわけありません。狙ってくれと言わんばかりの格好だから……ついつい…」
「僕、街歩き用の服がいまなくて…。ちょうど買い物しようと思ってウロウロしてるんです」
「ん? この辺に服屋はないぞ。街の反対側だ」
「あ、僕まだマッピングの魔道具、使いこなせてなくて…。じゃあ、あちら側へ行ってみます」
「あぁ、気をつけてな」
「はい、ありがとうございます。レオンさん、また〜」
僕は、偶然の再会に嬉しくなったが、仕事中のレオンさんを邪魔するわけにもいかない。僕は、後ろ髪を引かれる思いで、その場をあとにした。
メイン通りを、教えられたとおりに反対側へと進んでいくと、見たことのある景色が現れた。以前に、ナタリーさんと買い物に来た場所だ。
(なんだか懐かしいな)
あのときは、ほとんどナタリーさんの好みで服を選んだんだっけ。おとなしすぎる少年のようなコーディネートだったよね。
僕は、前に買い物をした店に入った。
「いらっしゃいませ〜」
店内は、思っていたより広く感じた。幅広い年齢層のお客さんがいる。ほとんどが男性客だ。メンズ専門店みたいだな。
僕がキョロキョロしていると、店員さんが近寄ってきた。
「どのようなものをお探しですか? よかったらご案内します」
「あ、はい。街歩き用の服を全然持ってなくて…」
すると、店員さんの目がキラリと輝いたような気がした。先程よりも一層にこやかな営業スマイルを浮かべている。
「どのような感じがよろしいですか?」
店員さんは、僕のローブの中からチラッと見える草色の作務衣のようなトリガの里の服を見ていた。
「動きやすいものがいいです。あと、たまに女性に間違われてしまうので…」
「かしこまりました。では、女性に間違われないような動きやすいものですね。お任せください」
そういうと、店員さんは、店の2階へと僕を連れていった。そのフロアは、格闘家っぽいお客さんが多かった。
いろいろと張り切って品選びをしてもらい、試着をして一番動きやすい服に決めた。
色は、ダークグレーのローブを着ていたからか、黒とグレーを基調とした服を選んでくれた。
上は、今の流行りだというデザインシャツ。下は、とび職の人のような感じの足首が細くなったズボン。
そして、ショートブーツも古くなっていたので、似たデザインのものに買い替えることにした。
「このまま着ていかれますか?」
「はい」
そして、着ていた服は魔法袋に入れ、お会計を済ませて店を出た。3点で銀貨5枚。結局、ほぼお任せで買い物したな。
(よし、次の店、行ってみよう)
僕は、買い物スイッチが入っていた。




