162、ロバタージュ 〜 新しい島の調査依頼
僕はいま、ロバタージュのギルド奥の事務所にいる。
チゲ平原のミッションの報告に来たら、ギルマスに強引に事務所へ連れてこられたんだ。
なんだか、ギルド内の冒険者達の雰囲気が、いつもと違っていたから、その人目がない場所の方が話しやすいのかもしれないけど…。
「ライト様、こちらへ」
「だから、様呼びしないでくださいってば」
「それでは示しがつきません」
「僕は、神様ではありません。ただの人族です」
「またまた〜。隠さなくてもいいじゃないですか、私と貴方様の仲なのですから」
「はぁ……ギルマスと仲良くなった記憶はないですけど…」
「あ、そうだ、報告でしたね。登録者カードをお預かりしましょうか」
そして、僕からカードを取り上げて事務員さんに渡し、強引に、奥の応接室へと連れていかれた。絶対、神様扱いじゃないよね…。
応接室に入ると、そこには先客がいた。テーブルの上には紙の地図や魔道具らしきものが広げられている。
どうやら長い時間、会議か何かをしていたようだ。少し疲れた顔をしていた。
「ライト、久しぶりだな! あ、ライト様と呼ぶべきか?」
「フリード王子、お久しぶりです。いえいえ、今まで通りでお願いします」
「はははっ、だろうと思ったぞ。女神様の番犬で、様呼びを嫌がるのは、ライトとジャックだけだそうだが」
「あはは……様呼びされる意味がわかりません」
「ふたりは、そんなタイプだから守護獣の里を任されたのだな。あの里は、一筋縄ではいかぬ…。王宮としても、きちんと調査をしたいのだがな」
「あー、あの場所はなんだか不思議な雰囲気ですから…。来客を嫌うのかもしれません」
「ライトは、やはり噂どおりだな。そのローブの中の服は、精霊の衣か。あの里の長の証、次期里長か」
「はい、なぜかそんな話に…」
「しかし、なぜ急にそんな話が出てくるのだ? 彼らは縁を重んじるはずだが…」
「ん〜、僕がイーシア北部の集落の出身だからでしょうか?」
「守護獣の里の誰かと、特別な関係がおありなのでしょう」
「アレクさん、お久しぶりです」
話に入ってきたのは、フリード王子の執事のアレクさんだった。いつ見ても、きちんとした紳士だね。
「アレク、突然、何を言いだすのだ?」
「ライトさん、お久しぶりですね。いえ、少し噂話を耳にしましてね」
「ん? ライトが守護獣の里に縁が……あ! だからあの里で療養していたのか?」
「えーっと…」
「ライト様、私もそのあたりの件は、気になっていたのですよ」
そんなことを言われても、僕は勝手に話すわけにもいかない。下手に話して、彼女に迷惑をかけることになったら困るもんね。
「ん〜、そんなことより、地図を広げて難しい話をされていたのですか?」
「ん? はぐらかされてしまったな。はははっ」
「えーっと…」
「まぁよい。あぁ、ちょっとこれを見てくれ」
フリード王子は、紙に書いた地図の一部を指差した。僕は、この星の地図なんて知らなかったから、何かおかしな点があってもわからない。
地図には大きな大陸が二つ。そして、小さな島があちこちに点在していた。大陸間は海で隔てられていて、かなりの距離がありそうだった。
その、フリード王子が指差した場所には、大きな島があった。大陸と比べると100分の1くらいだが、他の島と比べると圧倒的に大きなものだった。
そしてその大きな島の周りにも、たくさんの小さな島が散らばっていた。
「大きな島ですね」
「そうなんだ。これまではこんな島はなかった。女神様の再生回復魔法で、新たに生み出されたのだ。それに、星自体も大きくなったようなんだ」
「あ、地形が変わったところがあるって、演説されてましたよね…。島が生まれたんだ」
「あぁ、ただ、この島の周りの海流が激しくて、魔道船では近づけないんだよ。だから大人数での調査ができない」
「たどり着くのが大変なのですね」
「あぁ、それに冒険者の報告によると、島では、地底から魔族が湧いているらしい。さらに、もうひとつの国からも調査隊が来ているそうだ」
「えっ? じゃあ、入り乱れてる感じですか」
「魔族も、魔物的な下等なものばかりでなく、近寄りがたいほど戦闘力の高い奴もいるようだ。奴らも調査に来ているのかもしれない」
「なるほど…。新しい島なら、そのうち領土争いとかが始まりそうですね」
「もう始まっているかもしれないな」
「あー、確かに…」
「だが、地上は、やはり人族の地だ。この島の場所は、この国に近い。魔族もだが、あちらの国にも居座らせたくはない」
「うーん…」
「ライト、調査に同行してくれないか?」
「えっ? 僕ですか?」
「あぁ、今回は少数精鋭で行きたい。どうしても魔導士の数は制限されてしまうからな…」
「でも、僕、転移は酔うので無理です」
「いや、転移は無理なんだ。海流だけじゃなく、気流も妙なマナを含んでいるらしく、転移は弾かれるらしい。だから、『風使い』で、行くつもりだ」
「え? 風使いの妖精さんですか?」
「あぁ、一度に5人程度しか運べないからな。10人までの調査隊にする予定だ」
「そうなんですね、わかりました。同行させてもらいます」
「そうか! よかった。ライトと一緒だと、何だか調査も上手くいく気になるよ」
「あはは、そう言っていただけて光栄です」
「では、ノーム、あと3名ほど頼む。なるべくならハーフがいい。島に魔族も多いなら、人族だけじゃない方が隊として安定するからな」
「わかりました。ギルドランクは気にされますかな?」
「ある程度、戦い慣れている者なら構わない」
「かしこまりました」
「じゃあ、ライト、近いうちに連絡する。頼むぞ」
「はい!」
「あ! あのライトさん、クリアポーションありますか? もうほとんど使ってしまいまして」
「ありますよ。どれくらい必要ですか?」
「そうですな、とりあえず5,000本、というと欲張りすぎでしょうか」
「いえ、大丈夫です」
僕は、ダンジョン産の魔法袋からクリアポーションを5,000本取り出し、アレクさんに渡した。
「へぇ、いい魔法袋をお持ちですね」
「あ、はい。計測用ですが…」
「ダンジョン産だな、その魔力は…。どこかに潜ったのか?」
「いえ、魔道具屋さんで買いました」
「高いだろう?」
「儲けなしで、売ってくれたみたいで…」
「それは感謝しないといけませんね。それは、かなりの量が入りそうですから、値段はどこまでもつり上がりますよ」
「そうですね。助かっています」
ギルマスが何か言いたそうにしていたが、王宮の調査隊の人選に忙しいようで、会話に入ってこなかった。
「では、ライトさん、銀貨5枚×5,000本で、金貨250枚です」
「あ、はい、確かに。毎度ありがとうございます」
僕は、そういえば、結局財布は、何だかんだで 麻袋だったりと、適当になっていることを思い出した。
また、キチンと買わなきゃね。そう思いつつ、魔法袋へと収納した。
「ライト、金貨は、腰の魔法袋にポーションと一緒に入れておくのは危険じゃないか? 特に、未知の島に行くときは…」
「あ、そうですね。でも、僕そんなにお金持ってないので…」
「ライトさん、あると思って盗まれると、他の物の被害の方が大きくなるかもしれませんよ? クリアポーションを盗られてしまうと、私達も困ります」
「とりあえずは、財布がわりの魔法袋と、ポーションの魔法袋を分けておけばいい。そのダンジョン産は、人目につかないように、どれかに入れておけ」
「あ、はい。ローブで隠れているからいいかと思ってましたが…。調査に行くときは、腰回りはスッキリさせておきます」
「あぁ。じゃあ、そろそろ戻る。連絡がつくようにしておいてくれよ?」
「はい、了解です」
フリード王子とアレクさんは、魔道具で転移し、王宮へと戻っていった。
ギルマスも、事務所で何かしているようで、僕は、ぽつんとひとりになった。
すぐにでも、ここを出たかったがカードを預けたままだ…。
(ちょっと整理でもしようかな)
僕は、とりあえず、ダンジョン産の魔法袋を、女神のうでわのアイテムボックスに収納した。その際に、中に入れていた財布や財布がわりの麻袋などをすべて取り出した。普通の魔法袋からも取り出した。
どう考えても、財布が足りない。そういえば、だいぶ前にタイガさんが、財布は最低でも10個は必要とか言ってたよね…。
(すっかり忘れていて、買ってない…)
僕は、財布3つしかないんだよね。1つは、腰にぷらんと下げている飲食用。ちょうどテーブルがあるので、所持金を数えてみた。
金貨が1,986枚、銀貨が1,658枚、銅貨が145枚。金貨は100万円、銀貨が1万円、銅貨が100円だから、僕の今の所持金は、なんと、20億ちょいだよ!
日本円に換算して怖くなってきた。これを麻袋とか、あちこちに入れていてはいけない気がする。うん、財布を買おう!
とりあえず、大きめの麻袋に、金貨1,986枚をすべて入れて、うでわのアイテムボックスへと収納した。
ひとまとめにした麻袋は重くて、思わず重力魔法を使ってしまった。金貨って小さいくせに重い…。
そして、財布に銀貨を詰めた。ふたつの財布はパンパン。飲食用の銅貨入れの中にも詰め込んだが、全然入りきらない。銀貨、デカすぎるんだよね…。
そこに、職員さんが登録者カードを持ってきてくれた。
「手続き完了です。ランクAまで上げられるようですが、どうされますか? ん? 銀貨を…? 財布が破れたのですか?」
「あ、えっとランクは、じゃあひとつだけ上げてください。あの、財布が足りなくて、適当な麻袋に入れてたのを整理してまして…」
「えっとCランクでいいのですか? 財布ならギルドで皮袋のを売ってますが、いかがですか? 1つ銅貨50枚です」
「はい、Cランクで。じゃあ、財布2つください」
「かしこまりました。能力検査は、されますよね?」
「はい」
「では、検査室へご案内します。あ、先に財布を持ってきますね」
「あ、はい、すみません」
僕は、職員さんから皮袋の財布2つを受け取り、銀貨1枚を支払った。
そしてテーブルに散らかっていた銀貨を財布に詰めた。結局、銀貨だらけの財布は4つになり、これは普通の魔法袋にいれた。
(買い物しよう…。銀貨減らそう)
そして、職員さんに案内され、能力検査室へと移動した。この服では検査できないと言われ、検査の間だけ、冒険者の服に着替えた。
そして、いつものように、ピカピカと光を当てられ、検査は終了。
「登録者カードはすぐにできますから、事務所でお待ちください」
「はい、わかりました」
(待ち時間に買い物行こうと思ったのにな…)