161、ロバタージュ〜 なんだかいつもと違う
「ふむ。この程度では、転移魔法陣は動かせぬな」
「えっ? でもいま、20%回復したから500万以上の魔力を注いだのではないですか?」
「その倍は注いだのじゃが、クリスタル自身が吸収してしまったのじゃ。食い意地がはっておるのじゃ」
(それは、城の主人に似たという…)
「じゃあ、新作の方を飲んでみてください」
「うむ。言われなくてもそのつもりじゃ」
女神様は相変わらずだったが、赤ん坊姿でそんなことを言われても、不思議と可愛いだけだった。いつもなら呆れるところだけど…。
そして瓶の蓋を開け、一気に飲み干された。すると、みるみるうちに、その目が輝いた。
「な、なんじゃ! これは……フルーツパフェ味なのじゃ!」
(なんでもパフェにするのね)
「ファジーネーブル風味です。ピーチとオレンジの…」
「フルーツパフェなのじゃ!」
「あー、じゃあ、フルーツパフェでいいです…」
「うむ」
そして女神様は、再びクリスタルの方へ、魔力を注ぎに、ふわふわと飛んでいかれた。
クリスタルに注がれた魔力は、クリスタル全体を輝かせていたが、ほんの少しだけ、底へと光の粒子が集まっていた。
まるで光の砂時計のような、美しく幻想的な輝きに、僕はすっかり見惚れていた。あの輝きで満たされたら、クリスタルはもっと強い輝きを放つのだろうな。
目の前を小さな何かがひらひらしていることに気づき、僕は我に返った。あ、女神様が、手をひらひらと……もっとよこせ、ということね。
僕は、魔法袋から、30%回復魔ポーションを3本取り出して、女神様に渡した。するとすぐに1本飲んでクリスタルに魔力を注ぎ、また、1本飲んで魔力を注いでを3回繰り返された。
なぜ一度に3本飲まないんだろう? 90%回復で注ぐ方が手間が省けるんじゃないのかな。
「50%を超えぬようにしておるのじゃ」
「えっ?」
「成長が遅くなるからの」
「あ、50%以上だと能力低下がゆるやかになると、以前おっしゃっていた逆バージョンなんですね」
「うむ。枯渇ギリギリにしておく方が成長スピードが速いのじゃ」
「なるほど」
「クリスタルは、これでよいのじゃ」
「えっ? まだ、底の方にほんの少ししか溜まってませんけど…」
「30%回復魔ポーションは、そうそう数は作れないから、妾がもっと成長してから使う方がよいのじゃ」
「あ、確かに…」
「あと、どれだけあるのじゃ?」
「えーっと…」
僕は、ダンジョン産の魔法袋の中身を表示した。えっ? いつから数量確認してないんだっけ?
「ちょっと入れ替えて計測してもいいですか?」
「ふむ、妾は、やかましい婆と話しておるから、終わったら声をかけるのじゃ」
「はい」
普通の魔法袋にも売り物を入れていたから、全部ダンジョン産に移して、計測しよう。
PーⅠ 、 4,580
MーⅠ 、2,020
F10 、 5,601
C10 、26,677
B10 、525
H10 、1,988
化x100 、2,012
化y100 、4,340
化z100 、1,657
PーⅢ 、 1,053
MーⅢ 、36
M10 、14
なんだか、すごいことになっている。暗号のような…。
上から作った順だよね。一番下のは女神様に交換してもらった固定値回復だね。
僕は、いつもの3種を普通の魔法袋に入れようと思ったけど、クリアポーション、これ無理だな。
10%回復のモヒート風味と、火無効つきのカシスオレンジ風味、そして30%回復のマルガリータ風味をすべて普通の魔法袋に移した。
そして、パナシェ風味のクリアポーションは、10,000本はダンジョン産に残した。
あと、10%魔回復のカルーアミルク風味、輝きのモスコミュール風味、媚薬効果つきのカンパリソーダ風味、男女逆転のキール風味、時間逆転のアレキサンダー風味、種族逆転のXYZ風味は、50本ずつ普通の魔法袋に入れた。
(ふぅ〜、種類増えたよね…)
「女神様、計測と整理、終わりました」
「うむ。フルーツパフェは何本あるのじゃ?」
「36本です。カルーアミルク風味はかなりありますが、30%はまだ少ないです」
「ふむ。ライト、アパートの家具は買ったのか?」
「へ? あ、いえ、えっとお任せオーダーでということにしてありますが、まだ支払いはしてないです」
「タイガに頼んだのじゃな?」
「ジャックさんが、タイガさんに念話してくれたみたいです」
「ふむ。では、それを妾が支払ってやるのじゃ」
「えっ? あ、その分のポーションを置いていけという感じですか」
「くれと言うと、オババがうるさいのじゃ。だから、正当な交換じゃ」
「あ、あの、前に交換してくれた固定値1,000の魔ポーションありますか?」
「は? あの不味い薬か?」
「はい。あれ、持ってるとミッションで便利だと思って…」
「ライトは、あれを大量に飲む気か?」
「あ、いえ、誰かの回復をするときに、配りやすいので、もし余っていたら、交換して欲しいんですけど」
「なんじゃ、それを早く言うのじゃ。何万本いるのじゃ?」
「えっ? 50本くらい…」
「は? 遠慮はいらぬのじゃ」
「そんなに大量にあっても、使い切れないですから」
「ッチ、しょぼいのじゃ」
(舌打ち? しょぼいって…)
僕は少し考えたけど、リュックくんが渡しに行ってやれって言ってたし、やはり、うん、そうしよう。
僕は、巨大すぎるクリスタルをチラッと見た。やはり、底にわずかに溜まっているだけで、ほぼ空っぽに近い状態だ。
これを満タンにするには……いや、違う、半分になったって言ってたから、この倍の容量って考えると、魔ポーションはいくらあっても足りないよね。
僕は、ダンジョン産の魔法袋に入れていた2種の魔ポーションをすべて出した。10%回復1,970本、30%回復36本。
「なっ? コーヒー牛乳だらけじゃ!」
「はい、これで家具代、足りますか?」
「どんだけ豪華な家具にする気じゃ? 余りすぎじゃ」
「あ、1階の店舗の改装費もこれで」
「ダブルのはないのか?」
「ん? 変身ポーションですか?」
「うむ」
「ありますけど……そんなに猫になりたいのですか?」
「人型だと、チビがバレるのじゃ」
「なるほど…」
僕は、ダンジョン産の魔法袋から、種族逆転の変身ダブルポーションを100本取り出して渡した。
「パフェはないのか?」
アレキサンダー風味のことだったよね? 僕は、時間逆転の変身魔ポーションを100本渡した。これ、婆さんになるんじゃ? ま、いっか。
「うむ」
あれ? 数が不服なのか、ジーっと、まだ僕の方を見上げていらっしゃる。
「足りませんか?」
「いや、まぁよいのじゃ」
そう言うと、女神様は小さな手で魔法袋へ、せっせと収納されていた。そして、別の魔法袋から、どっちゃり、何かを出された。
「交換じゃ」
「えっ? こんなにですか?」
「いま、手持ちはこれだけじゃ。あとの分はまた渡すのじゃ」
「えっ? いえいえ、もう十分です」
「……もう魔法袋に入れたから、返さぬぞ」
「へ? あ、はい。お納めください」
「うむ」
すると、急にニコニコ、いやニタニタされていた。僕が見ているのがわかると、ぷいっと知らんぷりをされた。嬉しいんだな、素直じゃないよね。
僕は交換した固定値魔ポーションをいったんダンジョン産の魔法袋に入れた。うわー、566本もある。こんなに使うかな…。
そして、これをすべて普通の魔法袋へと移して完了。
「女神様、僕、ロバタージュに報告に行かないといけないので、そろそろ失礼します」
「うむ、くれぐれもあの件は、秘密じゃぞ」
「はい、了解です」
「1階の店舗は、何屋をするつもりじゃ?」
「まだ、決めていません。ポーション屋でもいいんですけど、僕、あまりここにはいないと思うので…」
「ふむ。じゃあ、アイツらの遊び場にでもしておくか?」
「え? えーっと……ワープワームですか?」
「うむ。最近、なんだか数が増えてきよったのじゃ。広場のあちこちで人だかりができておるからの」
「もしかして、お邪魔ですよね」
「いつも住人は喜んでおるが、何かのイベントで使うときには、少々困るときがあるようじゃ」
「わかりました。じゃあ、アイツらの遊び場で……ということは、アイツらと遊びたい人達が、自由に出入りできればいいですね。店というより、プレイランド的な感じで」
「うむ、そうじゃな」
「じゃあ、そんな感じの改装を……誰に頼めばいいのですか?」
「それくらい妾がやってやるのじゃ。追加料金はいらぬのじゃ」
(これは……追加料金が必要なパターン)
僕は、ダンジョン産の魔法袋から、種族逆転変身ダブルポーションを、300本取り出して女神様の前に置いた。すると一瞬で、ささっと自分の魔法袋に収納された。
「うむ。追加料金は、しかと受け取ったのじゃ」
「ははっ。はい、よろしくお願いします」
「うむ」
そして、僕は、門の前まで女神様に送られ、そして門の前に集まっていた生首達のワープで、ロバタージュのギルド前へと移動した。
(あれ? なんだか、いつもと違う?)
僕は、何だかよくわからない違和感を感じつつも、ギルドの扉を開け、中へと入っていった。
とりあえず、ミッション完了…じゃないかもしれないけど、報告カウンターの列に並んだ。
(あれ? なんだか、いつもと違う…)
僕が並んでいると、なぜか、スッと順番を譲られ、戸惑っている間に、報告カウンターの前へと進まされてしまった。
報告カウンターでも、職員さんが僕の顔を見ると、ハッとして、誰かを呼びに行かせたようだった。
「ライト様、お疲れ様です」
「え? 僕まだ登録者カード出してないのに、覚えてくださってたのですか? というより、なぜ様呼び?」
「あ、あの、女神様の代行者ですから、当然、女神様と同格で…」
「あー、あれには、僕も驚きました。でも僕は、ただのポーション屋ですから…。今まで通りに接してもらう方が嬉しいです」
「えっ? で、でも…」
「ミッション報告が遅れてすみません。途中で、チゲ平原から去ったので、ミッション失敗ですよね。その手続きをしてもらいに来ました」
「え! そんな、失敗だなんて…」
「他のみなさんは、報告完了されたのですか?」
「あ、はい。新人冒険者さん達と、そのサポートの特定登録者の方々は完了です。女神の番犬の3名がまだでして…」
「3人とも、チゲ平原から消えましたよね」
「はい、ライト様が去られた少し後で、オルゲン様とセリーナ様も、どこかへ転移されたと聞いています」
「じゃあ、3人とも失敗ですね」
「そんな、とんでもないです!」
奥の事務所から、疲れるあの人がこちらに向かってきた。あーもう、見ただけで疲れる。
「ライト様、報告なら奥でどうぞ」
「ここで結構です。様呼びやめてくださいね」
「おや、つれないことを。ここではあれですから、奥へどうぞ」
ギルマスは、ほぼ強引に、僕を事務所へと連れて行った。
(はぁ……もう、何か用?)




