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160、女神の城 〜 城のクリスタル

 僕はいま、女神様の私室のある城の、とても美しい中庭にいる。


 そこにいた子猫は、女神様が僕の種族逆転の変身ポーションを飲んだ姿だったんだ。


 クリアポーションをナタリーさんがかけると、呪いが解除されて、女神様は本来の姿に戻った。驚いたことに、その姿は、よちよち歩きがやっとできる赤ん坊だったんだ。


 いま、女神様はすごいスピードで成長しているという。そのことから、変なことを思いついたらしいんだ。

 うーん…。ただ、本当にそうなれば、平和な世界になるのかもしれないとは思うけど。




「ライトくん、叱ってやってー」


「うーん…。でも、もしそんな世界になれば、平和になりますよね。少なくとも、他の星から侵略される心配がなくなるのなら…」


「でも、だからって、無茶苦茶よー。新しい星系を作るだなんて、どんだけ魔力がいることか…」


「そんなもの、簡単じゃ! 新たな太陽を造れば、勝手に星は引き寄せられて、第三の星系ができるのじゃ」


「た、太陽を造るのですか!?」


「どんだけマナエネルギーが必要なのか、想像もできないわー」


「エネルギーは生み出すものじゃ。属性の異なるものをぶつければ爆発する、これが強力なエネルギーじゃ」


「難しい話ですね…」


「やり方は簡単じゃ。自然を生み出すのは妾の得意分野じゃ」


「自然じゃないでしょ。星よ? ただの星じゃない、太陽よ?」


「自然じゃないなら、大自然じゃ」


(いや、全然ちがうと思う…)



「はぁ、もう、いろはちゃん、いい加減にしなさい。何もかも無茶苦茶よ? だいたい、人族はまだしも、魔族が協力なんてするわけないわ」


「女神様は強力な魔法を使って、疲れておられるのでは? 星が再生したから眠れるようになったんですよね。ちょっと、お休みになったらどうですか」


「ライトはバカなのじゃ! 眠ったら、体力も魔力も回復してしまうではないか」


「ん? 回復すれば元気になりますよ?」


「バカなのじゃ! 妾が全回復してしまうと、星の保護結界が消えるのじゃ! こんなチビの姿のまま、成長が止まってしまうかもしれないのじゃ」


「えっ…」


「ライトくん、ほんと、いろはちゃんってば無茶苦茶でしょ? 眠れるようになったのに、寝ないのよ。なのに、あんな演説をして…」


「眠らないのに、眠るから16人を代行者にすると言ったのですか? 嘘つきじゃないですか」


「嘘も方便という言葉を知らぬのか? 妾が弱っておることにしなければ、いつまでも結界が消えないと怪しまれるのじゃ」


「あー、なるほど」


「奴らが気づく前に、妾は成長し、準備を整えるのじゃ。だから、眠ることにしたのじゃ」


「ライトくん、叱ってやってー」


「うーん…。僕には難しいことはわからないです。でも、第三の星系ができたら、この星はどうなるのですか? 女神様が最高神として、世界を支配するのですか?」


「は? なぜ、そんな邪魔くさいことを妾がやるのじゃ? 妾は自由に楽しく過ごすのじゃ」


「え? でも最高神って…。少なくとも第三の星系のトップになるんですよね?」


「当たり前じゃ。創造神は、トップになるのじゃ」


「じゃあ、星系の支配とか…」


「そんな邪魔くさいことはイヤじゃ。星系に属する星は、個々に自分のことは自分でやればよいのじゃ。なぜ妾が、世話をせねばならぬのじゃ?」


「うーん? じゃあ星系を作るのはなぜですか?」


「ライトはバカなのじゃ! 赤と青に、干渉されないためじゃ。中立の星の星系じゃ、争いごとをしたい星は、妾の星系から追い出すのじゃ」


「ということは、争いごとに巻き込まれたくない平和主義の星の星系を作るということですか?」


「そうじゃ、最初からそう言っておるではないか」


「はぁ、もういくら言っても聞かないのよー。ライトくん、叱ってやってー」



 僕は、しばし考えた。でも、これがどれだけ大変なことかは全くわからない。ナタリーさんは、それがわかっているから反対しているのだろう。

 でも、女神様は、支配欲に取りつかれたわけではない。自由でいるために、みなが自分らしく生きるために、一番良い選択をされたのだと思う。



「うーん…。僕は、女神様に賛成です」


「ええっ? ライトくん、どうしちゃったのー? いつも慎重なのに」


「侵略されたら、自由を奪われるから、侵略されないようにするんですよね?」


「うむ」


「星系が変わっても、この星の住人の暮らしは、変わらない?」


「うむ。多少の変化はあるが、あまり変わらぬじゃろうな」


「それなら、女神様の考えは最善だと思います。今の状況のままで、侵略されないようにするために、星としてチカラを持つようになったら…。逆にこの星が脅威となり、赤と青が共闘して潰しに来るかもしれません」


「まぁ、そういう考えもあるかもしれないわ」


「でも、別の星系の創造神となれば、独立した別の、いわゆる同格以上の存在になるから、奴らは手出しできなくなりますよね」


「うむ、そうじゃ。何かを仕掛けてきたら、星系への侵略として、そやつを消滅させる正当な理由にもなるのじゃ」


「ですよね」


「それができるほどの魔力を妾が持てば、抑止力になるのじゃ。そしてコッソリ入り込んだ密偵を、撤退させる戦闘力を、各地の住人達が持てば、密偵は裏工作もできぬのじゃ」


「でもいま、あちこちに、かなりの数の洗脳されている住人がいるわ。こんな状態で…」


「だから、星の保護結界じゃ! 結界が消えるまでは、外からの攻撃も効かぬし、人の出入りもできぬ。念話は通してしまうがの」


「新たに入り込めないんですね。でも、念話を通してしまうなら、外からの指示も…」


「うむ。だから、このような話は、ここでしかできぬ。さっき婆がいた場所の外はもうダメじゃ」


「えっ? 城の中なのに?」


「居住区には、いろいろな者がおるのじゃ。洗脳はかなり解いたが、まだまだ洗脳されている奴もおる。それに、地上や地底から来る商人もいろいろじゃからの」


「なるほど」


「それから、念話もダメじゃ。念話を傍受する奴もおるからの。だから、この話は、まだ城仕えの8人とライトしか知らぬことじゃ」


「えっ!」


「この場所以外で、この話をしてはならぬ。話したい相手がいるなら、ここまで連れてきてから話すのじゃ。よいな?」


「わ、わかりました」


「でも、いろはちゃん、具体的にどうするのよ。神族はいいとして、人族も魔族も、自分の利益優先なんだから…。人族なら神の言葉に従う信心深さは少しはあるけど、魔族はそんなの皆無よ」


「それをなんとかするのが、代行者の仕事じゃ」


「えっ…」


「無茶苦茶だわ。魔族をチカラで抑え込むのは不可能だわ。反対する人族なら、なんとか抑え込めるでしょうけど…」


「ナタリーも、野蛮なのじゃ」


「魔族は、チカラこそすべてなり、なのよ? 強い者にしか従わないわ」


「ふむ」


「じゃあ、女神様が強いってことにしたらどうですか? 成長すれば魔力は高くなるなら、あながち嘘でもないですし」


「えっ? いろはちゃんを? 魔族は、いろはちゃんが戦うチカラのない妖精だと知っているわよ?」


「では、今回の再生回復魔法で、不思議な副作用があったことにしては? これも、嘘じゃないですし…。副作用というか、成長することができるようになったんですから」


「なるほどね。うーん、そうねー。でも、そう簡単にはいかないわ」


「妾の成長のことは、秘密じゃ。成長し、準備が終わるまで、他の星の神々に知られてはならぬ」


「だから、副作用ってことだけにしておくんです。詳しくは、女神様が目覚めるまでわからないという感じで…」


「おおー! ライトは、天才なのじゃ! それがよいのじゃ」


「うーん、そうねぇ…」


「ナタリーさんも、もしそうなれば、その方がいいと思ってるんですよね? ただ、女神様のことが心配なだけで」


「うーん…。まぁねー。でも、いろはちゃんが成長するまでの間、私達は代行者よ? めちゃくちゃ迷惑な話だわ〜」


「それは、そういう運命なのじゃ。諦めろ、なのじゃ」


「はぁ……もう、わかったわ、好きにしなさい。その代わり、無理だとわかれば、すぐに計画は中止よ?」


「うむ。無理じゃないから大丈夫なのじゃ」



 僕は、ふたりが仲直りしたようで、ホッとしていた。でも、これから大変そうだな…。


 女神様の目的を伏せたまま、人族や魔族に、女神様に従わせる? いや、侵略者に屈することなく、互いに協力する関係を築かせる?

  人族と魔族って、めちゃくちゃ敵対してるんだよね。それを協力させることなんて、できるのだろうか。


 やっぱ、人間関係って難しいよね…。




「はぁ……婆がやかましいのじゃ。ライト、あれは数はあるのか?」


「えっと……新作の魔ポーションですか? 数はまだ見てないです。リュックくんが魔法袋に移してくれたから…」


「ふむ。こっちじゃ」


 そういうと、女神様はふわりと浮かび、城の中へと入って行かれた。なぜ、浮遊? あ、まだ歩けないのかな?




 僕は、中庭から、女神様が開けた城の門をくぐって、城内に入った。僕が城内に入るとすぐ、門は音もなく閉じた。


 城の中は、全体的に白っぽい石で作られた、シンプルだけど落ち着いた雰囲気だった。


 これも意外だった。僕の頭の中では、お城といえば、いろいろゴテゴテとした装飾があるイメージだったから…。


 そういえば、僕がこの世界に転生してきたとき、白い部屋に居たけど、あれもこの城内なんだよね。



 そして、女神様について奥へ進んでいくと、らせん階段が左右に現れた。その左側を女神様は、ふわふわと上っていかれた。これ、かなりの段数…。

 体力が残念な僕は、必死に上った。キツイな…。


 上った先にある広い空間を見て、僕はその大きさに圧倒された。必死に上った階段はアパート10階分はあったと思うんだけど、その高さは、それの下3分の1にも届かない。


 僕の目の前には、巨大すぎる黄色いクリスタルがあったんだ。


「女神様、これは…」


「城のエネルギー貯金箱じゃ。地上のクリスタルへは、ここから動力を送っておるのじゃ」


「めちゃくちゃ大きいですね」


「そうか? 回復魔法に使ってエネルギーが空っぽになったから、半分以下に縮んでしまったのじゃが」


「ええっ?」


 そう言われてみれば、この場所からクリスタルまでは少し距離がある。縮んだから、この隙間ができたのかもしれない。


「さて、婆がやかましいから、補充するのじゃ。ライト、コーヒー牛乳を出すのじゃ」


「新作じゃなくていいのですか?」


「今はコーヒー牛乳の気分なのじゃ」


 僕は、カルーアミルク風味の魔ポーションを、とりあえず10本渡した。すると、女神様はすぐさま2本飲み、クリスタルへふわふわと近づいていかれた。


 そして、女神様が触れると、クリスタルは魔力を注がれ、パッと輝き始めた。


(っ! な、なに……すごい! 吸い込まれそうなくらいキレイ…)



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