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158、女神の城 〜 ファジーネーブル風味の魔ポーション

「ライトさん、ここっす」


「えっ? アパートというより、リゾートホテルみたいですね」


「ん? あー、玉湯の真ん中辺りのホテルに似てるかもっすねぇ。タイガさん、あそこ気に入ってるらしいっすから」


「へぇ」



 僕はいま、女神様の城の居住区にいる。僕が借りた部屋を、ジャックさんに案内してもらってるんだ。


 そのアパートは、聞いていたとおりタイガさんのコンビニの裏手にあった。


 1階には、まだ開店準備中のようだけど、小さな店舗が3軒と、大きめのカフェ風の店が入っている。

 うーん、3階建かな? にしては1階部分が天井が高いのか、横のアパートは5階建なのに、それと建物の高さはあまり変わらないように見える。


 管理人はタイガさんだけど、タイガさんは、あの後そのまま女神様の側にいたんだ。今回の移動で城仕えになったから、たぶん、仕事なんだと思う。

 それで、ジャックさんが案内すると言ってくれたんだろうな。



「ライトさんの部屋は、1階っす。だから、強制的に店を開く必要があるっす」


「ん? どういうことですか?」


「居住区は、店が少ないので、新しく大きな建物を建てると、その1階は、店舗兼住宅になるんす。正確に言うと1階が店で、階段でつながる2階が住居っす」


「えっ!」


「1階は、入居するのは、3世帯っす。カフェは、2階部分もカフェだから、店だけっす。3階と4階には、8世帯ずつだから、入居は全部で19世帯っす」


「そうなんですね、もっとたくさんの人が住むのかと思いました」


「ん〜、人数でいえば、100人以上は住むんじゃないっすかねー? まだ、引っ越してない人もいるから、正確にはわからないっすけど…」


「えっ? かなりの人数ですね。1世帯5人とか?」


「一応、ファミリー向けのアパートっすから。俺は、一人暮らしっすけどね〜」


「そうなんだ。僕も一人暮らしだから、よかった」


「でも、ライトさんは、そのうち結婚するんじゃないんすか?」


「いや、まだまだ先ですよ。アトラ様が、イーシア様が復活するまで待ってって……あ! イーシア様…」


「復活したっすよ〜」


「ほんとだ! 気づいてなかったです」


「ええぇ〜? まじっすか!」


「あはは、だって、なんだかバタバタで…」


「ですよね。いま城仕えだと最悪っすよね、いろいろな事後処理が…」


「あー、それでナタリーさんが少し忙しそうな感じだったんですね」


「いや、あれは怒ってるっす。近づかない方がいいっす」


「怒るようなことって?」


「女神様が、眠ると演説したからじゃないっすか?」


「ん? あ、女神様、そういえば、チカラを使って負担になったとか…。さっき普通にしてたから気づかなかったですけど、大丈夫なのかな」


「うーん、見た感じ、いつも通りだったっすねー」


「なら良かった。でも、なぜ眠るって言ったのかな?」


「まぁ、あの後、チゲ平原から他の星へ帰れなかった侵略者はどこかに消えたみたいっすから、それをあざむくためかもしれないっす」


「あ、そっか。どこに居るかわからないから、女神様が弱ってると見せかけておくんだ」


「でも、俺の予想では、女神としての仕事が増えるのが嫌なんだと思うっす。療養中にしておけば、何もしなくていいからじゃないっすかね」


「そうなると、女神様の代行者がその仕事を?」


「城仕えが、担うことになるっす。だから、ナタリーさんが機嫌悪いんすよ、きっと」


「ん?」


「ナタリーさんは、ずっと女神様の代理をしてきてたから、女神様が眠るということは、ナタリーさんに丸投げっす」


「あー、なるほど」


 なぜ女神様があんな演説をしたのかは、僕にはわからない。でも、確かにナタリーさんにその重責がドンと…。うん、下手に近づかない方がよさそうだ。



「とりあえず、ライトさん、部屋に入ってみるっす」


「あ、そうですね」



 僕の部屋は、大きなカフェのすぐ横の部屋だった。部屋の真ん前には、タイガさんのコンビニの裏出入り口がある。裏から出入りしていいなら、コンビニまで徒歩0分だね。


 僕が近づくと、カチャっと鍵の外れる音がした。これすごい便利〜。ガラス張りの店の中へと入ってみた。

 外から見るよりもかなり広く感じた。隣に大きなカフェがあるけど、ここもカフェでもできそうな空間だった。


 奥に階段があり、それを上っていくと、またカチャっと音がした。2階にも鍵がついているんだ。

 中に入ってみると、かなり広いリビングダイニングになっていた。さらに部屋が3つある。3LDKだ。浴室などまでしっかり完備されていた。



「あー、これは同じっすね。いや、ロフト部分がないから、こっちの方が少し狭いかもしれないっす」


「予想よりめちゃくちゃ広いです。僕が前世で住んでた部屋の10倍くらい広く見えます」


「えー! そんなにっすか?」


「うん、5倍ではない気がします。すっごく広い」


「家具とかはどうするっすか? 俺は邪魔くさくて、前の部屋のをそのまま運びこんだだけっすけど、お任せオーダーがオススメっす」


「あ、じゃあ、そうしようかな」


「タイガさんに伝えておくっす。たぶん、すぐに整えてくれるっす」


「助かります〜」


 一瞬、ジャックさんが無言になった。念話中なんだよね。僕はまだ受信しかできない…。そのうちできるようになるのかなぁ?



「ライトさん、この後、ロバタージュに戻るんすよね? ミッションの報告に」


「え、あ、そうですね。忘れてました」


「ははっ、やっぱり〜。俺は守護獣の里へ、行ってくるっす。精霊が呼んでるっす」


「あ、僕は?」


「大丈夫っす。たぶん決まったことを伝えたいだけだと思うんす。何かあれば念話するっす」


「わかりました」


「じゃあ、また〜」


「はーい」




 ジャックさんが出て行くと、部屋はさらに広く感じた。とりあえず、1階に下りようかな。

 2階から1階への階段を少し下りると、後ろでカチャっと鍵の閉まる音がした。やっぱ、めちゃくちゃ便利だね。


 1階には、さっきは気づかなかったけど、カウンターっぽい所の奥に、休めるような小さな部屋があった。

 中を覗くと、ミニキッチンの横に、テーブルとイスが並べてあった。なるほど、ここは店の休憩室として使うのかな。



 僕は、リュックをおろし、イスの上に置いた。さっきから、めちゃくちゃ重かったんだよね。


 中を開けると、どっちゃり入っていた。リュックくん、ダンジョン産の魔法袋を乗っ取ったんだから、魔法袋に全部移してくれたらいいのに。


『新作もか?』


(えっ? 新作できたの?)


『あぁ、さっさと確認しろよ』


(うん、わかった)



 僕は、ゴソゴソと中身を物色すると……あった。うぉ〜、これ、すごいじゃん!



 ラベルには『 MーⅢ 』


 僕は完璧に予想できたけど、一応魔力を流して、説明書きを出してみた。


『魔ポーション。魔力を30%または1,000回復する。(注)回復は、いずれか量の多い方が適用される』



 うん、やっぱり、30%の魔ポーションだ。これは、確か、女神様がリュックくんに注文していたんだよね。


 あ、でも、もう星の再生回復魔法を使ったから…。きっと女神様は普通に眠れるようになるから、魔ポーションはいらないか。もう少し早くできていれば、役に立ったのになぁ。


『何? いらないわけ?』


(あ、いるよー! リュックくんありがとう。飲んでみる)



 僕は、蓋を開けて意外だなと思った。魔ポーションって、カルーアミルク風味と、アレキサンダー風味、どちらも甘いカクテルだ。

 でも、これは甘酸っぱい香りがする。オレンジとピーチの香り。これ、ファジーネーブルだね。


『飲まずによくわかったな』


(まぁね〜。味も確認しておこう)


 僕は、一気に飲んでみた。えっ? うわっ……甘っ! 何これ? ちょっと甘すぎるよ。魔ポーションは甘くなるの? あ、でも、XYZ風味のダブルポーションは甘くないよね。


『あの桃が甘すぎたんだよ。仕方ねーだろーが』


(あー、なるほど。確かに完熟だったもんね)



 ファジーネーブルは、ピーチリキュールとオレンジジュースで作るカクテルだ。アルコール度数の低いロングカクテルが多いが、リキュールの割合を多めにしたショートカクテルとして出す店もある。


 とてもフルーティで飲みやすいので、女性に人気のカクテルだ。家でも簡単に作ることができるので、お家カクテルとしてもオススメだ。


(うん、甘すぎるけど、ファジーネーブル風味だね)



 そして、リュックくんが、中身をすべて魔法袋に移してくれた。めちゃくちゃラクだ。


『おい、魔法袋、うでわに入れるんじゃねーの?』


(えっ? あ、そっか、そうだよね)


 そう返事すると、ポケットサイズだった魔法袋は、みるみるうちに元の大きさに戻ってしまった。


『なに? 残念なわけ?』


(いや、別に…。ずっと乗っ取られたままってのもね)


『あぁ、オレの負担がハンパねーからな』


(えっ? そうだったの? ごめん)


『はぁ、もういいから、さっさとうでわに……の前に、女神に渡しに行ってやれ』


(えっ? でも女神様は、完全復活でしょ?)


『いや、無謀なことをしやがった。変身ポーションを飲ませてから、クリアポーションを飲ませればわかる』


(ん? 何が?)


『やってみればわかる』


(うん……ん? もしかして、本当に調子が悪いから寝るって言ったのかな)


『いや、それはない』


(なら、いいけど…)


 僕は、リュックを背負って、小部屋から店に戻り、そして店の外に出た。店から出ると、やはり後ろでカチャっと鍵がかかった。





 そして、僕は、女神様がさっきいた建物へと戻った。だが、そこは、城兵達が訓練をしているだけで、女神様達の姿はなかった。


 僕に気づいた、僕の部隊の隊員さんが、部隊長のペールさんに声をかけた。あ、別に用事はないんだけどな……どうしよう。


 すぐに立ち去ろうとしたんだけど、それよりもペールさんの方が早かった。


「ライトさん、どうされました?」


「あ、訓練中にごめんなさい。えっと、女神様はどこに行ったかわかりますか?」


「たぶん、城の私室かと…。ナタリーさんに拉致されてました」


「あはは、やっぱり、叱られてるんだね」


「ん?」


「あ、いえ何でもないです。あのよかったら、最近の新作なので、試飲用にどうぞ。僕の部隊の隊員さんにも配ってあげてください」


 僕は、マルガリータ風味の30%回復ポーションを渡した。隊は21人だけど、とりあえず30本渡しておこう。他の部隊長とかが欲しがるといけないし。


「わっ! ありがとうございます。役得ですね! やった」


「味の感想、今度聞かせてくださいね」


「了解です! わざわざ、このために?」


「いえ、女神様を探してるだけですよ〜。じゃあ、訓練頑張ってくださいね」


「はい!」


 そして、僕は、建物を出て、女神様を探しに行った。




「おまえの主人は甘いな。隊員に差し入れか?」


「そうみたいです。訓練で疲れた体力を回復するようにとの配慮でしょう。人数分以上に渡してくださいました」


「ふぅん」


「どうぞ」


「俺にもか?」


「おそらく、そのつもりの数かと」


「ふっ、なるほど、よくわかっておられるな」


「ええ、ほんとに」


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