151、チゲ平原 〜 ライト、参戦する
新たにやってきた赤の神の指揮のもと、60人近くの侵略者が一斉に動き出した。
オルゲンさん、セリーナさん、そして助っ人にあちこちから現れた女神様の番犬10人。僕も含めると、この場には番犬が13人いる。
相手の数は5倍、でもオルゲンさんは助っ人が来て、ニヤリと笑ったんだ。勝算ありということなんだよね?
僕は、セリーナさんから、隠れているようにと言われた。役立たず、足手まといなんだ…。
最初の侵略者はワープワームの支配者を殺し、その支配権を奪いたいようだった。
でも、最後に現れた神々は、番犬をすべて殺し、この星を奪いたいようだ。おそらくそれが、そもそもの目的。この星を、女神様を支配したいんだ。
赤も青もいる、この状況から、この侵略の首謀者は、青のトップ争いをしている神だと思う。
赤と青の勢力争いがいま、青が優勢だから、赤の神の中には、彼に媚び、配下となる者もいると、前に、女神様の城の魔道具屋の爺さんが言っていた。
この侵略戦争の首謀者は、きっと青の神、万能神といわれるダーラだ。呪術系悪魔だったよね、確か。
ということは、もしかして、セリーナさんの魔法が効きにくい奴らは、アンデッド系なのかな。
僕の危機探知のリングでは青く見えるのに、セリーナさんが苦戦していたなんて…。青く見えるのは、僕と互角、僕が戦える相手。
(よし!)
『おい、待て』
(何? リュックくん、僕、アンデッドが相手なら強いよ?)
『闇を使えば、だろ?』
(あ、うーん…)
『はぁ……俺のタンク満タンにして、おまえも全回復してからにしろ』
(えっ? う、うん! わかった)
僕は、リュックを下ろし、リュックの横ポケットの内側の水晶みたいなものに触れた。グンッと、リュックくんに引っ張られる感覚と、軽いめまい…。
そっか、このめまいって魔力切れの直前のアレだ。ってことは、リュックくんは、そのギリギリまで吸収してるってこと…。はぁ、遠慮がないよね。
『おい、2本ずつ飲めよ』
(また、2本ずつって言った? ずつって…)
『早くしろって』
(あ、うん)
僕は、変身魔ポーションを2本飲み、リュックくんの水晶みたいなのに触れる。これを結局、5〜6回やったんだ。そんなに、リュックくん消費してたの? 魔力食べすぎだよ。
そして、リュックくんのストップのあと、僕は、変身魔ポーションと、クリアポーションを飲んだ。
ん? なぜクリアポーションかって? 口の中がチョコケーキ状態で、さっぱりしたかったから、パナシェ気分だったんだ。
『別に、なぜクリアポーションなのかなんて、聞いてねーけど…』
(あ、うん、いいんだよ、独り言だから)
『あっそ。おまえ、暴走する前に、味方に新作ポーション配っておけよ』
(いや、暴走しないってば。ん? 新作? 30%回復?)
『あぁ、おまえ、闇を使うと性格がさらに陰湿になるから、回復できなくなるだろーが』
(ちょ、ちょっと陰湿って何? 僕そんなに…)
『イジイジ、ウジウジだけじゃなくて、いろいろぶっ飛ぶだろーが』
(そ、そうでもないよ)
『参戦する気なら、早く行け。あの金髪が体力ヤバイぞ。アイツ、防御できねーんじゃないか』
(わかった、バリア張って、回復して、マルガリータ風味のポーションを渡せばいいんだね)
『あぁ、それから、オレの言うことは聞けよ? 無視するんじゃねーぞ』
(うん、わかった)
僕が話していると、リュックの中に出来ていたポーションが消えた。あれ?
(リュックくん、ポーションは?)
『ダンジョン産の魔法袋に移した』
(え? 僕、魔法袋、触ってないよ?)
『おまえなー、オレがその魔法袋を乗っ取ったって言っただろ? 移し替えくらいできるって』
(あ、そうだった。だからポケットサイズになってたんだ)
『あの金髪、ヤバイぞ』
(あ、うん、すぐ行く)
『姿、消せよ』
(うん、わかってる)
僕がリュックをゴソゴソ触っているのをバリア内の冒険者達は、ジッと見ていたようだった。
この間も、戦闘は激しくなっていた。やはり相手は数が多い。個々の戦闘力的には、番犬の方がわずかに高いように見えるが、相性もあるのだろう。
僕の危機探知リングが青く色付けている相手に、苦戦していたようだ。逆に黄色の相手には優勢に見えた。
「皆さん、僕も参戦してきます。バリアから出ないでください」
「わ、わかった」
「でも、あなたは白魔導士でしょう? 参戦って…」
「純粋な白魔導士というわけではないんです、では」
僕は、透明化! そして霊体化! を念じた。そしてこの状態で、金髪の人のとこに行きたいと考えると足元に生首達が現れた。
生首クッションに乗ると、スッと金髪の人のそばに、ワープした。
(霊体化してても運べるんだ! すごいね)
生首達はヘラヘラするかと思ったら、あれ? 居ない。もう消えた? そっか、戦闘のど真ん中だもんね。
僕は、金髪の人に、バリアをフル装備かけた。敵の攻撃をかわし損ねた彼が一瞬変な顔をしていた。
あ、そっか、僕のこと気づかないよね。僕は透明化を解除した。目の前に現れた青白い綿菓子に彼は驚きの表情を浮かべていた。
「ライトです。バリアを張りました。あと、これ、魔法袋に入れてください」
綿菓子から出てきたポーションに驚きつつ、敵の攻撃を避けつつ、彼はそれを受け取った。
「回復して、次の人の所に行きます。ご武運を」
「あぁ、助かる」
僕は、再び透明化! を念じた。そして、彼の身体にサッと手を入れ、回復! を唱えた。
「では」
「ありがとう」
僕は、次の人の所に行こうと少し動くと足元というか、霊体化しているから足はないんだけど、足元に生首達の感触があった。
(あれ? 見えないけど居たの?)
と、思った瞬間、行こうと思ってた人の近くにワープした。どうやら、生首達は、透明化まで真似できるようになったようだ。
(ちょっと、すごいんじゃないの!)
僕は、次々と、味方を回り、30%ポーションを渡し、回復をし、バリアの弱い人にはバリアを張っていった。
「なぜだ? 弱い番犬にも攻撃が効かなくなってきている。それに、回復しているじゃないか」
「回復に回っている奴がいるんじゃないか」
「ハッ! そいつだ! ワープワームを従えているのは」
「バリアの中で怯えている白魔導士ではなかったのか」
「さっき、飛竜がどこかのバリアに突っ込んで遊んでいたが……アイツ、我々に隠して自分だけで仕留めるつもりだったんだな」
「抜けがけか、あのトカゲ…」
「それより、回復に回っている奴は、どこにいるんだ? 気配が全くないではないか」
「ッチ、回復特化の番犬か。うっとおしい」
「探せ! 回復役を潰すのが先だ!」
「そいつを殺せば、ワープワームが手に入る。一石二鳥だな、クックック」
僕は、最後にオルゲンさんを回復した。敵が僕の動きに気づいて、傷が多いオルゲンさんのまわりに張り付いていたから、後回しにしたんだ。
「助かった」
「いえ、最後になってすみません。ちょっと近づきにくくて」
「アイツらは、ライトを探していたのか。取り巻きが変な方向を向いていると思っていたが」
「だと思います。先に僕を探したいようです。さっき、近くを通ったときに聞こえました」
「拡声魔法は、もう効果切れか。いや、解除したんだろうな」
「ですね」
「おまえは、そのまま、隠れていろ」
「そういうわけにもいきません。この数の差を覆さないと…」
「だが、奴らも回復しているからな」
「持久戦になると、バリア内の冒険者の神経がもちません」
「あぁ、わかってはいるが…」
「半数以上が、アンデッド系じゃないですか?」
「そうだ。隠しているがな、あの回復力は他の種にはあり得ない」
「首謀者が、呪術系の神だからですか」
「いや、この星の番犬のほとんど、光か聖属性だから弱点をついてきたんだ。ダメージを互いに与えやすいから、体力や回復力の差が、戦闘力の差になってしまう」
「じゃあ、そのアンデッド系を弱体化させてみます」
「えっ? おまえ、無茶なことは…」
「大丈夫です。リュックくんがコントロールしてくれますから」
「わかった。手伝えることは?」
「アンデッド系を、なるべく1ヶ所に集めてください」
「了解」
僕は、戦線を少し離れ、わらび餅バリアの中に入った。そして、変身魔ポーションを1本飲んだ。
(リュックくん、あの中で、一番強いのは?)
『あんま、差はねーが、あの姉ちゃんにしつこく付きまとってるヤツ』
(ん? セリーナさんと交戦中の人、いっぱいいるよ?)
『首から上が、ないヤツ』
(ん? あの小さい人?)
『あぁ、首から上の部分がなくても、おまえよりデカイんじゃねーか』
(ッ! チビで悪かったね)
『別に……あ、集まったな』
(そう?)
『おまえ、もしかして、どれがアンデッドかもわかってねーのかよ』
(危機探知リングで、青くなってるヤツだよね)
『単純に、弱い奴も青く見えてんじゃねーの?』
(えっ…)
『まぁいいや、早く行け。また分散するぞ。戦場にいるってことを忘れるなよ」
(あ、うん、わかってる)
僕は、わらび餅バリアからスッと抜けて、霊体化と透明化を解除した。そして、バリアをフル装備かけた。
バリアのすぐ外に僕が突然現れて、中の人達は少しざわざわしていた。
当然、敵も僕の存在に気づいた。この近くにいた、アンデッド系の奴らが僕にターゲットを移した。
「見つけたぞ! 回復特化の番犬。よりにもよって、我々の近くに現れるとはな。バリアに入りそびれたか」
「ックック、白魔導士なんか、一瞬で消し去ってやる」
僕は、剣用の魔法袋から、剣を取り出し腰につけた。
「剣なんて、持ってやがるぞ! クックッ」
奴らは、僕を取り囲むように、じわじわとにじり寄ってきた。
離れた場所にいた火を纏う飛竜が慌ててこちらに飛んできた。だが、セリーナさんが飛竜を魔弾で撃ち落とした。
オルゲンさんの念話で、番犬の人達は、僕にアンデッド系以外のものが近づかないようにしてくれているようだ。
僕は、魔族の国スイッチをいれた。そう、はったりスイッチだ。
「ねぇ、キミたちの中で誰が一番強いの? 僕、ザコと遊ぶ趣味はないんだよね」
「な、なんだと? このガキ!」
「キミは、ザコでしょ? 退いてよ、つまらない」
「は? 頭いかれてるんじゃねぇか」
僕は、剣を抜いた。僕の手から剣に深き闇が吸い込まれていく。今まで、怒りを我慢してたためか、すごい勢いだった。
だが、奴らは、それに気づかない。
そういえば、闇は僕から溢れていない。魔導ローブの中には闇の霧が溜まってるけど、手の袖口から剣に吸い込まれている。
(魔導ローブ、すごい!)
『バカか! オレが誘導してんだよ』
(リュックくん、すごい!)
『油断するなよ』
(わかった!)
奴らがさらに近寄ってきた。僕の射程圏内だ。
「キミは邪魔だって言ってるでしょ」
僕は、絡んできた奴に向けて剣を振った。