150、チゲ平原 〜 侵略戦争
皆様、いつも読んでいただき、ありがとうございます。たくさんのブックマーク、評価もありがとうございます。めっちゃパワーもらってます、嬉しいです!
今回で、おかげ様で150話です! 当初は、200話前後の予定でしたが、もう少し長くなりそうです。250話にはならないと思いますが…。(たぶん)
今後も、どうぞ、よろしくお願いします。
僕は、セリーナさんの近くに生首達を使ってワープした。そして半分霊体化し、セリーナさんが張ったバリアをすり抜けた。
彼女は、僕がワープしてきたことに少し驚いた顔をしていたが、すぐに、まわりを見渡して警戒を強めていた。
(あ、僕が近づいたから……迷惑に…)
『おい! イジイジしてんじゃねーぞ。奴らが動く前に早く渡してやれよ』
(そ、そうだよね)
「あの、これ飲んでください、今すぐに」
僕が、カルーアミルク風味の魔ポーションを出すと、セリーナさんは、目を見開いた。だが、すぐに受け取り、蓋を開け一気に飲み干してくれた。
「助かります、よくわかりましたね。ライトさん」
「セリーナさん? ですよね、服屋の」
「ええ」
僕は、さらにもう1本渡した。するとやはりすぐに、彼女は、それを飲み干した。
(枯渇寸前だったみたいだね)
『あぁ、まだ25%くらいだぞ』
(わかった)
僕は、さらに、彼女に10本渡した。彼女は、また驚いた顔をしていた。
「念のためです。リュックくんが渡せって」
「ありがとう、助かります。オルゲンの説得次第だけど、おそらくこのままでは終わらないわ」
「奴らは、どうすれば撤退しますか?」
「目的を達成するか、もしくは達成が困難だと感じたとき、だと思うわ」
「僕が殺されるか、もしくは僕を殺すことを諦めるか、ということですね」
「……殺させないわ」
キィン! ドドーン!
僕が、セリーナさんと話していると、何かが飛んできた。雨の中、その何かが再びバリアに体当たりした。
バリン! ボゥオッ!
その何かが、バリアを破り、そして炎を吐いた。さっきの火を纏った飛竜だ。雨の中でも、その火は消えず、バリアを失った冒険者達を襲う。
「ぎゃー!」
「いやー」
冒険者達の多くは、炎に焼かれている。突然の出来事に、僕は呆然としてしまった。
(…僕が、来たせいだ…)
『おい! バリアを張れ! すぐに!』
(あ、うん)
僕は、手を空に向け、わらび餅バリアをイメージした。僕の手から放たれた光がドーム状に広がり、水のカーテンが炎で焼かれる人達を囲んだ。そして、さらに魔力を注いだ。
その瞬間、奴は再び体当たりをしてきた。未完成の水のバリアは、奴の体当たりを通してしまった。
すると、すかさずセリーナさんが、奴の雨に濡れた身体を凍らせる。一瞬、動きを封じられた奴を、セリーナさんはバリアの外へと風魔法で吹き飛ばした。
(セリーナさん、すごい)
僕は、奴が外に出たのを見て、更に魔力を注いだ。再び水のカーテンがドーム状に広がり、そして、その性質をゼリー状に変えた。よし、完成。
セリーナさんは、すぐさまバリア内の火を消火していた。中にいた人達は炎で大怪我をしている。それに、飛竜の下敷きになって動かなくなってしまった人もいる。
僕は、慌てて、バリア内の全体に回復魔法をかけた。そして、ゲージサーチをすると、体力は、10人ほどが黒、他全員が赤。
僕は、セリーナさんを見た。彼女は首を横に振った。亡くなった人を、そう簡単に蘇生してはいけない……僕はそういう意味だと感じた。
(でも、僕のせいだ。僕は、僕は、僕は…)
『ウジウジしてんじゃねーぞ。さっさと、蘇生しろ』
(え? でも…)
『そいつは、おまえの能力がわかってねーんだ。この世界は、基本3時間ルールなんだよ』
(そ、そっか! じゃあ、そうする)
ドーン! ぷよーん!
飛竜は、また体当たりを始めた。だが、わらび餅バリアにすべて弾かれていた。
僕は、奴を睨んだ。奴も僕を睨んでいた。僕は、奴に対して殺意を覚えた。でも、僕にはまずやるべきことがある。
僕がバリア内にかけた回復魔法で、少しずつ傷が治ってきた人達は、この状況に泣きわめき、騒ぎ始めた。
新人冒険者達が、父兄同伴で参加した初ミッション。そこで、親を失い、または子を失った親は、半狂乱になっていた。当たり前だ、こんなこと、あっちゃいけない。
「皆さん、落ち着いてください。僕が治しますから」
「治すって、そんな、もうこの子は!」
「ライト、これは、防ぐことはできなかったわ」
「ええ、苦しく痛い思いをさせてしまいました…。すみません」
「えっ?」
「な、謝ってくれとは…」
「精一杯、やってくれているんだ。彼がいなければ、みな、殺されていたかもしれない」
「でも、今も、あの飛竜が…」
バリア内にかけた回復魔法を吸収し、少しずつ体力が戻ってくると、冷静さを取り戻す人も増えてきた。
やはり、特定登録者は、立ち直りが早い。だが、親族を失った人達は、生気を失ったかのようだった。
(ふぅ〜)
僕は、大きく深呼吸をした。
いま、僕の中では闇が暴れていた。やり切れない気持ちと、奴らに対する怒りにのみ込まれそうになっていたんだ。
いま、やるべきことは、死者の蘇生だ! 冷静にならなければ! 意識的に集中していないと、闇にのまれそうになる。
「ひとりずつ、蘇生します。集中したいので、僕の邪魔をしないでください」
僕がそう言うと、一瞬、どよめきが起こったが、静かに! と互いに互いを注意し合い、そしてシーンと静寂が訪れた。
まだバリアに体当たりする馬鹿がいたが、奴も、バリア内の変化に気づいたらしく、警戒して距離をとった。
(よし、蘇生に専念しよう!)
僕は、倒れている人にスッと手を入れ、蘇生! を唱えた。ゲージサーチで確認する。黄色か、40%以上だ。ゲージの長さからして、たぶん50%かな。
そして、僕は、次々と倒れている人を蘇生していった。10人かと思っていたけど、結局は11人。
瀕死の状態から亡くなってしまった人もいたんだろう。苦しかっただろうな…。
次々と生き返っていく人達に、悲しみのどん底にいた親族は、うれし涙を流していた。
ただ、僕が邪魔をするなと言ったから、必死に大声を出さないように耐えていたようなんだけど…。
『おい、飲んどけ』
(あ、うん)
僕は、リュックくんの指示に従い、変身魔ポーションを1本飲んだ。
そして、バリア内を見渡した。みんな不安そうにしているが、先程よりは表情は明るかった。
「ライトさん、大丈夫? こんなに大量の蘇生を一気にやったりして…」
「魔ポーション飲みましたから、大丈夫です」
「でも、あなた、まだ体調が…」
「ですね…。ほんと、ちょっと必死です。闇が暴れて…。暴走してしまうと、白魔法は使えなくなりそうですから」
「無理、してるわよね」
僕達の話を不安げに、みなが聞いている。あー、ダメだな、怖がらせてしまう。
「いえ…」
外の雨が止んだ。火の海だった平原は、すっかり焼きつくされ、水分を含んだ茶色の平地になっていた。
「あ……始まってしまうわ…」
「えっ? 何が、ですか?」
「決裂よ」
「話し合いですか」
「どうやら、まだ奴らは、人違いをしているわ」
「えっ?」
「あのオルゲンが付いていたグループの白魔導士のことを、ワープワームの所有者だと思っているみたいね」
「でも、飛竜は僕を狙っていませんか?」
「おそらく、この飛竜だけが気づいていて、他の奴らには知らせていない、ということだと思うわ」
「抜けがけ?」
「それほど、ワープワームが欲しいのでしょう。支配権を得たら、おそらく配下としての序列がぐんと上がるのだと思うわ」
「そうですか…」
パァン!
突然、オルゲンさんと話していた、リーダー格の男が空に向かって魔弾を打ち上げた。
すると、空から、いや星の外から、次々と人が現れた。そして皆、このチゲ平原に降り立った。
「星のすぐ外で待機していたのね」
「そんな…」
チゲ平原には、50を超える侵入者が集まっていた。僕の危機探知のリングは、新たな侵入者のほとんどを青だと色付けしていた。
「戦争……侵略戦争だわ。中立の星に、こんなこと、許されないわ」
「僕は、どうすれば」
「ライトさんは……隠れていて」
「足手まといですか」
「戦いに慣れていないでしょう? それに、貴方を守るための戦いでもあるのよ」
(僕は……役に立たない)
「私は、オルゲンのサポートをするから」
そう言うとセリーナさんは、オルゲンさんの近くへ魔道具でワープして行った。
そっか、みんながワープを使うから、僕がワープをしても目立たないのか。
新たに現れた侵入者達は、オルゲンさんを囲み、一斉に攻撃を始めた。
もともとこの場にいた侵入者達は、あの白魔導士をバリアから引きずり出そうと、バリアに攻撃を仕掛けた。中にいる冒険者達は恐怖のあまり動けなくなっているようだった。
オルゲンさんは、囲まれても平気な顔をしているが、徐々に傷が増えていった。
セリーナさんはオルゲンさんを囲む敵に、魔法攻撃を仕掛けていたが、あまり効いていないように見えた。
いや、回復力が高いのか、もともとの体力が高いのか…。
絶対的な数の差だ。どうあがいても無理な戦いだ。飛竜も、その戦闘に参戦しなければならないのだろう。僕から離れ、セリーナさんの詠唱を邪魔しに行った。
そのとき、僕の危機探知のリングが赤くなった。あたりを見回すと、空の一部が赤くなっている。赤は逃げろだったはず。
(やばいんじゃ…)
そして赤くなったあたりの空間が、グニャリと歪み、また、人が出てきた。今度は3人、すべて赤く見えた。ゲージサーチをすると、えっ? 4本ずつある…。今まで、トータル6本までだったのに。
新たな侵入者に、オルゲンさんもセリーナさんも、厳しい表情になった。
すると、あちこちにまた空間の歪みができた。今度は色はついていない。そして、その歪みから出てきた中には、見たことのある人もいた。
(神族だ。いや、番犬なのかな)
次々と現れた数は10人、これで僕も含めると神族はこの場に13人だ。相手は60人近くいるけど…。
この中には、タイガさんはいなかった。ジャックさんとナタリーさんもいない。
オルゲンさんは、ニヤリと笑った。ということは、勝算あり、ってことなんだよね、よかった。
「ほう、女神の番犬は、これで全員揃ったってことか。イロハカルティアは16人、番犬を飼っているはずだが、非常事態でも自分の側に主要な側近は置いているか」
「非常事態? 侵略だと認めたということだな。おまえ達、なぜ、赤も青もいる?」
「不安を取り除きたいのは、我々に共通の認識だからな」
僕の危機探知リングが赤く色付けした侵入者が、地上に降り立ち、オルゲンさんをキッと睨んだ。
「敵意を持って、中立の星に降り立ちましたね、赤の神。そちらの青の神々も。降り立った以上、侵略の意図ありとみなします」
「だったら、何だ? ここの番犬を片付ければ、この星は我々のもの。弱った女神には、もはや我々を排除する魔力はないのだからな」
「赤も青も配下にする神といえば、ひとりしかいませんね」
「この世界は、すべて我が主人が統べるべきなんだ」
「中立の星を巻き込まないでいただきたい!」
「うるさい口だ。ふっふっ、弱い犬ほどよく吠える」
そう言うと、赤の神と呼ばれた男は、右手をサッと上げた。そして、それを振り下ろすと同時に、侵略者達が再び一斉に動き出した。