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15、女神の城 〜 ジャックの決断

 僕が手術のイメトレをしていたのと同時刻、他のみんなは、それぞれの席に座り、女性ふたりはパラパラとメニューをめくっていた。


「とりあえず、食後のパフェじゃな」


「ここのスイーツは、フルーツたっぷりで美味しいですものね、私もいただこうかしら?」


「じゃが、小さいのじゃ……たくさん注文させようという店主の悪意すら感じるのじゃ!」


「そんな食ったら、太るんじゃ……げほっ」


 タイガが言い切る前に、女神様のおしぼりが、立ち上がり朝食メニューを取ろうとしたタイガのお腹にヒットする。


「お、おまえな……俺じゃなかったら、腹に穴開くぞ! なに考えとんねん」


「いろはちゃん、おしぼりは投げちゃダメよ〜」


「タイガが悪いのじゃ!」


「相変わらず、激しいっすね。あははっ、楽しい」



 そして、女性ふたりはスイーツを、男ふたりは朝食を注文。そして料理が届き、さらにみんなが食べ終えてもライトが戻ってこない。


「ライトくん、ナイフ借りに行ったまま、戻ってこないわね…」


「貸してもらえなくて、粘ってるんすかね?」


「いや、さっさと借りておる」


「じゃあ、なんで戻ってこーへんねや? あ、あれか? う○こか?」


 今度は、ガンッと頭をナタリーさんに殴られる、メニューの角っこで。


「っつー、角っこはやめろ! 目から星が出るやないけー」


 魔力を込めて、ガンッと殴るもんだから、屈強なタイガでさえ、ちょっと涙目になっていた。


「ほんっと、下品ね! 場所をわきまえなさいよ、他に食べてるお客さんいっぱいいるんだから!」


「相変わらず、激しいっすね。ぷぷぷっ」



 女神イロハカルティアは、下品な会話を気にもとめず、再び、メニューをにらんでいた。


「ライトは厨房の奥で、魔法を試しておる。それに医療ドラマがどうのとあれこれ考えとるようじゃ。ドラマってなんじゃ?」


「テレビドラマか? 俺はそっち系はあんま見ないから、よーわからん」


「テレビ? ドラマ?」


「俺は基本、テレビは野球中継くらいしかまともに見なかったしな。辛気くさいドラマなんて見てたら酒が不味くなるやんけ」


「ん〜、なんか、全くわからぬが、まぁ、おぬしが知らぬということはわかったのじゃ」


「そもそも、ライトと俺では、時代が微妙にズレとるやろ? 俺は昭和のディスコ全盛期に、こっちに連れて来られたからな。テレビ番組も、アイツが観てるもんとは違うんちゃうけ?」


「なんか、難しい話っすね…」


「まぁ、魔法なんてない世界やからな。おまえらに理解させる説明なんて、できる気せーへん」


「まぁ、タイガは、脳筋じゃからな」


「…ッ、ちっ…」




 僕が、準備を整えてみんなの元に戻ってくると、タイガさんがめちゃくちゃ機嫌悪そうにしていた。


「あ、あの、お待たせしました、すみません」


「ナイフ借りてきたのじゃな」


「はい」


「ジャックを、切り刻むんじゃな」


「え、えっと……ダメですか?」


 僕は、ジャックさんの方を見た。やはり、顔をひきつらせて笑ってる…。僕は、でも、なぜかできる気かしていた。

 それに女神様もいるんだから、もしものことにはならないだろうという安心感もある。


「ライトさん、本気っすか?」


「…はい。イメトレもしてみましたが、炭化した部分の摘出は出来ると思います。取り出したあとの、身体の修復は、イロハカルティア様なら大丈夫ですよね?」


「む? 呪詛の塊がなくなれば、そんなもの余裕じゃ。じゃが、少しでも残っていれば、回復魔法を吸ってまた炭化した塊ができるだけじゃ」


「もしかして?」


「うむ。以前、結界魔法でその塊の周りを封じて、炭化した塊を取り出し、ただちに再生させたのじゃが……結界魔法自体に、呪詛が入り込みおったのじゃ」


「えっ、結界魔法?」


「この呪詛は、意思を持っておるのじゃ。しかも魔力をエサにして食らっておるのじゃ」


「いまも、ですか?」


「そうじゃ。それに、炭化した塊自体に直接触れるわけにもいかぬから、どうしても魔法を使う。するとエサを与えることになってしまうのじゃ」


「え? 直接触れると、どうなるのですか?」


「呪詛が移るか、もしくは腐る」


「え?」


「この呪詛をかけた術者より、呪詛能力が低ければ移る…。術者と同等なら、腐る程度で済むから、その部分を切除して再生すりゃいいんじゃが…」


「じゃあ、イロハカルティア様なら?」


「呪詛は妾に移るじゃろな…」


「えっ! そんなに?」


「妾は、呪詛能力はほとんど持たぬ。それに術者は、他の星の神の右腕といわれる直臣じゃ。あの術者を超える呪詛能力は、その飼い主の神しか持っておらぬじゃろな」


「ジャックさん、そんな人と、戦ったんですか…」


「あはは。そうとは知らなかったんすよ〜」


「まぁ、そうは言っても、ライトには効かぬがの」


「えっ? ど、どういうことですか?」


「ライトは、妾が与えた『能力』透明化、これ以外の能力を使えるじゃろ?」


「えっと、霧になる感じの?」


「そうじゃ。うまくいったのじゃ。死体に魂を入れれば、突然変異の能力が備わるかと考えたのじゃ」


「あ、あの……僕は実験された的な?」


「なにを言うておる。妾がキチンとそのタイミングを計算したし、死神やリッチにも確認したのじゃ。完璧なのじゃ」


「ええーっ! 呪詛が効かないってことは、ライトさんはアンデッドなんっすか?」


「ふむ。いや、ギリギリ間に合ったから人間なのじゃ。3時間ルール、やばかったのじゃ」



 なんだか、すごい話を聞いた。僕は……やっぱ半分、幽霊なんじゃん…。いや、アンデッド? 身体、このまま成長しなかったりして……ははっ。


 渋いクールなバーテンを目指していたのに、このままだと、あまりにも僕の理想から離れすぎている。


「安心せい。そのうち、ジジイになるのじゃ」


「ジジイって……いきなり?」


「そんなわけないじゃろ? 時の流れに逆らわねば、そのうちジジイになるのじゃ」


「えっと、時の流れって、逆らえるんですか?」


「当たり前じゃ。妾をみよ!」


「僕……イロハカルティア様の年齢、知らないんですけど…」


「妾は……こほん…忘れた」


「へ?」


「いちいち、数えておらぬのじゃ!」


「ライト、この星と同い年やで。めちゃめちゃ年寄りなんや」


 というと、すぐ、タイガさんは防御の構えをとる。それを横目で見た女神様は、チッと舌を鳴らしただけだったが。



「して、ジャック、どうするのじゃ? ライトに切り刻まれる覚悟はできたのか?」


「えっと……そうっすね。えっと…」


 ジャックさんは真顔で、真剣に考えてくれているようだった。さっきまで、ずっとへらへらしていたのが別人のようだ。


 黙って真顔でいると、ジャックさんって、かなりイケメンなんだと気づいた。うらやましい…。

 僕と年齢あまり変わらなそうなのに、イケメンの剣士か……モテるだろうなぁ…。


「やっぱ、ライトは、オトコが好きなのじゃな?」


「ちょ、ちょっと、どうしてまた、そうなるんですか! 僕は…」


「青いワンちゃんが好きなのよねぇ」


「っ! ナタリーさんっ!」


「なんやそれ? 青いワンちゃんってどこかの獣人か?」


「イーシア湖のワンちゃんよ〜」


「なっ! なんやて? あの冷酷非道な狼か…。あいつ、バケモノやぞ? 怒らせると血の雨が降るぞ」


 僕は、ジト目でふたりを見る…。


(アトラ様はバケモノなんかじゃない、あんなにかわいいのに)


「血の雨を降らせた張本人の意見は貴重ね。完全に怒らせて、そこから逃げ出せたのは、たいしたものだわ」


(えっ…)


「ライトさん、あの青き狼と、親しいんっすか?」


「あ、いえ、あの……この世界に来て初めての友達というか、いろいろ教えてくれたんです。リュックのことを一緒に考えてくれたり…」


「女神様の『落とし物』係だから、親切にしてくれたってことなんすかね?」


「その話はしてないから、バレてないはずです。リュックは女神様から渡された物だとわかったみたいですが…。たぶん僕が、精霊イーシア様に守られている森の中の集落の人間だからだと思います」


「あー、なるほど! その地の住人を大事にする守護獣って多いっすからね」


「やはり、そうなんですね……僕、なんか、子犬扱いされてましたけど…」


「おまえ、子犬って言われたんか?」


「はい…」


「ふぅん、バレとるやないけ」


「な、何がですか?」


「女神の『落とし物』係は、女神の犬って呼ばれてるんや」


「なんで、犬なんですか?」


「おまえ、前世で犬と関わったことないんか?」


「えっと、実家で、飼ってましたけど…」


「じゃあ、わかるやろ? ボール投げたら、喜んで取ってくるやろ?」


「あ、まぁ、はい。それで?」


「鈍いやつやなー。女神がほうり投げた『落とし物』を『取ってこい』って……おまえやってるやろ」


「あ、そういうこと」


「妾は、犬より猫派なんじゃが…。その呼び方はなんとかならぬのかの」


「そんなもん、知るか。嫌なら自分で……あ、なんも言うてへんからな」


 タイガさんは、イロハカルティア様に睨まれ、何かを予知したのか、さっと引き下がる。よほどコワイんだな、ならケンカ売らなきゃいいのに…。



「ジャックくん、で、どうするのー?」


 ナタリーさんも、さりげなく意思確認をしてくれた。まぁ、そう簡単に、気持ち決まらないか…。僕は、また後日に、と言おうと、口を開きかけた。そのとき、


「ナタリーさんもついていてくれるなら、ライトくんに命預けます」


(わっ! きたー)


「妾だけだと不安だと申すのか? 妾にケンカ売ってるのか? 買うぞ? 妾は買うぞ?」


「あ、いえ、そんなつもりは…。でもいろはさんは、たまに固まって動かなくなるから……少し不安で」


 確かに、僕もスプーンを持ったまま、固まっていたのを目撃した。あれは、他との通信中だっけ?


「ふむ。まぁ、そうじゃな。今は特に ややこしいからの」


「じゃあ、また後日にでも」


「は? なにを怖気づいておるのじゃ? いま、やるのじゃ。善は急げなのじゃ。妾は待つのが苦手なのじゃ」


「じゃあ、場所を借りてきますわね。えっと、希望者の見学は可能かしら?」


「問題ないのじゃ!」


「じゃあ、ライトくん、準備よろしくね」


「えっ、は、はい」


(もいちど、イメトレしておこう…)



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