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148、チゲ平原 〜 襲撃者の狙いは?

「いま来たガキは、俺が見えていたんじゃないか?」


「広域バリアを張るなど、無駄なことを。すべて風の刃で粉々に砕いてやるわ、ハッハッハッ」


「あのガキも、神族かもしれんな」


「おそらく番犬を、あの背の高い男を、守りに来たんじゃないか?」


「神族の兵か? おとなしくしていれば、巻き添えで死ぬこともなかったのにな」


「さっきので、死んだか?」


「さぁどうだか。バリアは、確実に破壊したぞ」


「砂塵が収まったらすぐに確認しよう。あの剣を持つ番犬は生きているだろうな、近寄るなよ」


「あぁ、こちらから近づかなければ、奴は何もできまい」


「背の高い男も、まだ生きているだろうな。ワープワームが俺のところに現れない」


「トドメが必要か。ふん、風の刃で斬り裂いてやる」





 僕はいま、チゲ平原にいる。この地は今、他の星からの侵入者に襲撃されているんだ。安全なはずの平原の空に、2体の飛竜が飛んでいた。

 1体は全身に火を纏っていて炎を吐く。もう1体は認識阻害の術を使い、風の刃のようなものを飛ばしていた。


 そして、奴らは、どうやら背の高い白魔導士を狙っているようなんだ。だが、人違いだ。おそらく奴らが探しているのは、僕のことだと思う。


 迷宮で、僕が闇を暴走させた神殺しの復讐か、もしくは単純にワープワームを狙っているのだろうと、オルゲンさんは言っていた。

 背の高い白魔導士は、普通の人族、ギルドの特定登録者だ。彼は能力が高いから、番犬だと勘違いされたのだろう。



 今回の新人冒険者イベントを指揮するオルゲンさんは、ギルドの守護者であり、女神様の番犬でもある。

 彼は、飛竜の攻撃を受けている冒険者達のもとへと移動していた。


 でもリリィさんが言うには、彼は魔力が低いから魔剣を使えないかもしれないんだ。もしそうなら、飛んでいる飛竜とは相性が悪い。


 僕は、オルゲンさんをサポートするために、彼の近くに生首達のワープで移動し、即座に冒険者達を覆う広域バリアを張った。


 とりあえず、軽く物理防御だけを張ったが、飛竜達の初撃は弾いた。すると、奴らはさらに威力をあげた攻撃を放った。すごい音を立てて、バリアは砕かれたんだ。




「おい、ライト、広域のバリアでは、飛竜の攻撃には耐えられないぞ」


「あ、はい。砕かれましたね、すんごい砂塵ですね。でも、あいつら、何なんでしょう? 追撃してこない」


「あぁ、こっちの魔力が枯渇するのを待ってるんじゃないか? 近寄ってこないからな」


「んー、とりあえず、砂塵が収まる前に、バリアを張り直します。今ので、だいたいわかりましたから」


「えっ? いや、広域バリアは、もろいから魔力の無駄だ」


「僕、ポーション屋ですから、魔力切れは、気をつけていれば防げます」



 奴らの攻撃による砂塵で視界を遮られている中、僕は、再び手を空に向け、冒険者達を守るバリアを張りたいと念じた。僕の手から放たれた光がドーム状に広がった。


 そして、僕はそのバリアに触れ、その属性を変えた。炎に強く、風の刃に切り裂かれないように…。


 バリアは水のカーテンとなり、さらに変化を続けた。粘土状の土が混ざったような黄土色のバリアが大量の水を含む。

 そしてさらに魔力を注ぐと、ゼリー状のぷよぷよしたバリアが出来上がった。


(なんか、わらび餅みたいだな…)


 砂で咳き込む人がいたので、僕は、バリア内全体にシャワー魔法をかけた。これで空気を清浄化できた。


 砂塵が収まると、きな粉をまぶして、しばらく置いていたわらび餅、そんな感じのバリアになっていた。



「な? 何だ? ライト、これはバリアか?」


「はい。奴らの攻撃を防ぎたいと考えて作りました。中から外へは出られますが、外から中へは入れませんから、皆さん、バリアから出ないでくださいね」


「あ、あの、オルゲン様、彼はいったい?」


 貴族の騎士風の男が、オルゲンさんに話しかけた。他の冒険者達も、その父兄達も、また、このメンバーをサポートしている特定登録者達も、こちらに注目している。


「ん? あぁ、彼はな…」



 ドドドン!



 その瞬間、奴らは再び攻撃を仕掛けてきた。激しい炎と、風の刃が、バリアを砕こうと降り注ぐ。


 だが、その攻撃はバリアを破ることはできなかった。


 炎は、ぷよぷよのバリアに当たると消火され、風の刃は、ぷよぷよのバリアに刺さり、そしてバリアに吸収されていた。


 バリアを張ったまわりの草原は、炎に包まれ、真っ赤に染まった。


「ぎゃぁ〜……ん? あれ?」


「何? 熱くない。炎の中にいるのに…」


(わらび餅、いい仕事するね)



『おい、今のうちにあの魔法袋、うでわから出して、腰につけとけ』


(ん? リュックくん、どうして?)


『おまえ、魔ポーション、どこに入れている?』


(あ! ダンジョン産の魔法袋と、うでわのアイテムボックス…)


『魔力が切れたら、うでわから出せねーぞ』


(固定値1,000のは、普通の魔法袋に入ってるよ)


『それ、チマチマ飲むのかよ?』


(……だよね。わかった)


 僕は、ダンジョン産の魔法袋を出し、腰に下げた。すると、ん? リュックから何かがスルスルと出てきて、魔法袋にブスッと…。


(ちょ、ちょっと、リュックくん、何してるの!)


『乗っ取ってんだよ。魔道具としてはオレの方が圧倒的に上位だ』


(えーっ? ちょっと、ちょっと、僕の魔法袋だよ)


『んなもん、わかってる。いちいち心配してんじゃねーぞ』


(あっ! え?)


 リュックくんに、ブスッと刺された魔法袋は、形を変え始めた。大きかった袋は、どんどん小さくなり、手のひらサイズのポケットのような形になった。


(これ、ズボンのポケットになったじゃん)


『でかいと、おまえの闇から守れねーだろ。計測能力が消されちまうじゃねーか』


(えっ? 闇は使わないよ?)


『念のためだ。おまえ、ぶち切れると制御不能だろうが…』


(大丈夫、暴走はしない……と思う)


『まわりを見渡しても、同じセリフが言えるのか?』


(えっ?)




 アイツら、2体の飛竜は、このバリアが破れないことから、ターゲットを他に移していた。そう、他の冒険者達に、襲い掛かっていたんだ。


 チゲ平原は、奴らの攻撃で、いたるところが真っ赤に染まっていた。冒険者達は、それぞれバリアを張り、直接のダメージを避けていた。


 だが、奴らは炎を吐き、風を操る。


 さっきまであんなに心地よく美しかった草原は、瞬く間に火の海へと変わっていった。僕は、頭がチリチリとしてきた。なぜ、こんなひどいことを…。



『おい、1本飲め。冷静になれよ、誰も殺されてねーんだからな』


(えっ? うん、わかってる。僕をこのバリアの中から引きずり出そうとしてるんだよね)


 僕は、変身魔ポーションを1本飲んだ。アブナイ…。リュックくんに言われなければ、このまま、突っ走っていたところだ。


『貴族は問題なさそーだが、商会の奴らは、厳しいんじゃねーか』


(じゃ、行く!)



「オルゲンさん、僕、あっちのバリア補助してきます」


「ライト、おまえ、まだ…」


「大丈夫です。僕には、相棒がいますから。では」





 僕は、足元に集まってきていた生首達のワープで、リリィさん達のもとに戻った。


 リリィさんが張ったバリアを、魔道具を使って強化しているようだ。

 僕は、半分霊体化!を念じて、リリィさん達が張るバリアの中に入った。



「ちょ、なんでバリアをすり抜けるのよ? ライト、一体なんなのよ」


「僕は、女神様の番犬だと言ったじゃないですか。ここのバリアでは耐えきれないので、張り直します」


「な? なによ、それ」



 ドドドン! ドガン!



「ひっ!? 魔道具が砕け散ったぞ」


 僕は、手を空に向け、さっきのわらび餅バリアをイメージした。僕の手から放たれた光がドーム状に広がり、水のカーテンを作り出した。



 ドドドン!



 そこに、邪魔するかのように、2体の飛竜が炎を吐き、風の刃を飛ばしてきた。

 だが、水のカーテンに吸い込まれ、バリアのまわりを焼き払っただけだった。


 僕は、さらに魔力を注いで、バリアを強化した。うん、完璧な、わらび餅だね。



「ちょ、なんですか? これ、バリア?」


「奴らの炎と風の刃を防ぐバリアです。中から外へは出られますが、外から中へは入れませんから、バリアから出ないでください」


「こんな、ぷよぷよしたもので…」


「硬いバリアは、風の刃で斬り裂かれるのです。認識阻害の術を使う飛竜が、攻撃力高いので」


「でも、まわりは火の海だぞ」


 まわりが完全に炎に包まれ、冒険者達も、その父兄も動揺していた。僕を睨む剣士達も、動揺を隠せないでいた。


「じゃあ、聞きますが、いま、熱いですか?」


「えっ?」


「あ、そう言えば……暑いけど、熱くはない」


「僕、バリアはわりと得意なんです」


 僕がそう言うと、彼らは少し落ち着いたようだ。だが、飛竜が飛び、バリアの外は火の海だ。当然のことながら、みなの顔には焦りの表情が浮かんでいた。


「でも、これで、耐えられるとしても、いつまでもあの飛竜がいると…」


「一体、どうなっているんだ? なぜ飛竜なんか」




 奴らは、僕がこのバリアを張ると、僕を威嚇するようにギリギリの低空飛行をした後、別の場所へと飛んでいった。


(あれ? どういうこと?)


 まだ気づいていないのか、わざと知らぬふりをしているのか…。奴らは、ターゲットであるはずの僕には、たいした興味を示さなかった。


 どこかを攻撃しては、オルゲンさんのいる場所に戻っていた。いや、背の高い白魔導士のいる場所に、というべきか。



「ライト、あの飛竜、あの貴族の誰かを狙っているんじゃないの?」


「俺もそんな気がするぞ。俺達は、巻き添え、とばっちりじゃないか」


「刺客を送り込まれるような、そんな奴が新人冒険者のミッションに参加しているなんて」


「ええ、確かに動きがおかしいですね。遊んでいるかのような…」


(まさか、まだ気付いてないの? ワープワーム使ったのに)


「ライトがバリアを張っても、あまり関心がないようにみえたわ。私達のことは殺す気はないのね」


「もしくは、時間稼ぎかもな」


「なぜ時間稼ぎする必要があるのかしら?」


(時間稼ぎ? まさか!)


 僕は、とんでもなく怖ろしいことを想像してしまった。時間稼ぎなら…。


 さっき、オルゲンさんが言っていた言葉が頭の中によみがえってきた。


 あちこちで同じようなことが……番犬をおびき出すようなことが、もし作為的に行われているのなら…。


 バリアが破れないから援軍を呼んだってこと? もしくは、あちこちの襲撃者は、誰かを探すフリをしているだけ? 初めから、女神様の番犬すべてを狙っている?




 そんな不吉なことが頭をよぎったとき、ベルトに付けていた危機探知リングが光った。

 リングが黄色く光るとともに、僕の目に見える景色の一部が、黄色のサングラスをかけたかのように、黄色くなった。


 黄色は危険、赤は逃げろだったよね。僕は、自分にバリアをフル装備でかけ直した。


 景色の一部が黄色くなったあたりの空間が、グニャリと歪んだ。


(ッ! 何か、来る!)



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