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147、チゲ平原 〜 ライトとリュックの絆

「やはり、あのガキは、ただの白魔導士だな。番犬と話していたし、回復魔法力が測定不能値だから、もしやと思ったが」


「この距離で俺達に気づかないんだから、番犬ではないだろう。その測定器は、3万までしか測れないんだ。回復特化の白魔道士なら、3万超えは珍しくない」


「それに、もし例の奴なら、あの程度の呪いは、すぐに解除できるはずだ。1度目の魔法では、止血だけしかできなかったようだぞ」


「ダーラ様の呪術を消すチカラがあるなら、あの程度の呪い解除に、アイテムを使うわけはない」


「2度目の魔法で、やっと欠けた足を治していたようだな」


「そうだな、白魔導士としては悪くない。だが、治療に時間がかかりすぎだ」


「ということは、やはりあの背の高い男だな」


「あぁ、だが、背の高い男は、それほど魔力は高くないようだが?」


「奴はダミーの数値を見せるという噂を、魔族の国で聞いたではないか」


「おっ、そうだったな、じゃあ、行くか」


「あぁ、他の番犬に気づかれる前に、さっさと片付けよう」






 僕はいま、ギルドの新人冒険者ミッションのサポートのために、チゲ平原にいるんだ。


 何かの罠で、足を吹き飛ばされてしまった新人冒険者の足の治療を終えたところなんだ。


 みんなは、リリィさんの指示に従い、ミッションの爆弾草の採取作業をしていた。


 僕は、不思議な青い花を見つけ、これを集めていた。毒のある花だそうだが、強い毒ではなさそうだ。ポーションの色付けに使えそうな気がするんだよね。


『おまえ、毒の花を集めて何する気だ?』


(ん? 色がキレイだから、素材になるかなぁと思って)


『毒を抜くのは、誰だと思ってんだよ。かなり魔力を使う作業だってこと、わかってるんだろーな?」


(えー、そうなの? でも、また呪い系の新作を作るかもしれないでしょ?)


『だから何? 青いのがいいとか言うんじゃねーだろうな』


(赤と混ぜて、紫でも綺麗だよね。呪い系って、瓶が透明だよね?)


『あぁ、その方がうっかり間違って飲むなんてことを防げるだろう?』


(なるほど、やっぱりそうなんだ。リュックくん、さすがだね)


『とか言いつつ、青い毒花をどんどん摘んでるんじゃねーぞ』


(ん? これくらいでいい?)


『おまえなー、左手見てみろよ。でっかい花束になってるぞ。おまえは花屋か』


(だって、青と黄を混ぜたら緑だし、いろいろな色ができるじゃん。いま、赤ふたつと茶と白だよ?)


『だから、何?』


(また赤になったら、紛らわしくない?)


『はぁ、もう好きにしろ。その代わり、魔力充填しろよ』


(ん? いつも背中から魔力を吸収してるんじゃないの?)


『あのな、それは生産用の魔力だ。おまえが要求してる毒抜きは、魔道具のレベルで出来ることじゃねーんだよ』


(もしかして、魔人レベル?)


『あぁ、生産以外のことはすべて、別のチカラだ。生産用の魔力では無理なんだよ」


(んー、仕方ないなぁ)



 僕は、草原にリュックを下ろして、中を開けた。どっちゃり入っているのを見えないフリして、青い花を入れた。


『おい! 無茶苦茶するんじゃねーぞ。中身を出してからにしろよ』


(もう、文句が多いよ? リュックくん、反抗期だよね)


『おまえこそ、中身を見て見ぬフリしてんじゃねーぞ』


 やっぱり? バレてる気はしてたんだよね。まぁ、仕方ないか。



 草原を見渡してみたが、近くには誰もいなかった。そりゃそうだよね。毒の花畑だからね、ここ。


 僕は、いったん青い花をリュックから出して、草の上に置いた。

 うでわのアイテムボックスから、右手で魔法袋を取り出し、左手でリュックに触れた。

 リュックくんが、中身をどんどん魔法袋に移してくれた。移し替えが終わると、僕はまた魔法袋をうでわに収納した。


 そして、草の上に置いていた青い花をリュックに入れた。よし、完璧!


『おい、何か忘れてねーか』


(ん? )


『魔力は?』


(あ! 忘れてた)


『はぁ…』


 僕は、リュックの中の横ポケットの内側に触れた。するとすぐに、グンッと手が引っ張られるような感覚と、軽いめまいを感じた。


(リュックくん、めっちゃ吸ったよね?)


『魔ポーションで回復しろ。全然足りねー』


(えー? )


 僕は、変身魔ポーションを飲んだ。そして、手を触れると、また、グンッと引っ張られる感覚…。


『おまえ、なんで1本しか飲まねーんだよ。2本ずつ飲めよ』


(ちょ、ちょっと、2本ずつって言った? 何回、吸収する気なわけ?)


『早く魔人化してほしいんだろ? 成長にも魔力は必要なんだからよ』


(それなら、そう言えばいいじゃん)


『あのなー、普通わかるだろーが』


(僕は、言ってくれないと気づかないんですー)


『はぁ、そうですかー』



 それから、なんだかんだで、結局リュックくんは、魔ポーション15本分くらいを吸収した。吸いすぎでしょ。まぁ、成長期ってことなのかな。


 ミッション中だから、僕自身も、魔力は満タンにしておいた。口の中がチョコケーキ味、じゃなくてアレキサンダー風味で甘くなってしまった。


 スッキリするために、モヒート風味のポーションを飲んだ。自分でポーションをこんなに飲んだのって、初めてだなぁ。



『俺は、ちょっと毒抜きに専念するから。もう変なもん入れるなよ?』


(うん、わかった〜)


 さて、他の色の花を探しに行こうかな。あと何色があるといいかな? 果物にない色が欲しいよね。


 僕は、リュックを背負って、草原の散策を再開した。


 あ、毒で汚れたかな? 僕はバリアを解除し、自分にシャワー魔法をかけた。そして再びバリアをフル装備でかけておいた。

 うん、完璧。毒をつけたまま歩き回ると、害になるといけないもんね。




「ちょっと、ライト〜!」


「へ? あ、はーい」


 リリィさんが、また呼んでる。昼寝しててもいいと言ってたのに…。また、誰か怪我したのかな?

 僕は、急いでリリィさん方へと駆け寄った。


「ごはん作れないかしら?」


「は? ごはんですか?」


「そう、お腹空いてない? 」


「えーっと、うーん…。他の人達、ミッション中ですよ?」


「こんなに時間がかかるなんて思わなかったから、携帯食しか持ってないのよ」


「えーっと、じゃあ、携帯食を食べておけば…。ん? 果樹園で果物たくさん食べていたのではないのですか?」


「果物なんてジュース代わりだもの」


「はぁ……でも…」



 バリバリ! ドガガガッ!


 ダダーン! ヒュン!



「えっ? 何? 地震? 火山の噴火?」


「ライト、あれ、見て! 飛竜が!」


「へ? 飛竜?」


 僕は、リリィさんの指差した方を『見た』

 何? あれ…。飛竜といえば飛竜だけど、火を纏っているドラゴンの形をしたモノが飛んでいた。


「ここは安全なはずじゃ?」


「当たり前よ。ここに飛竜が現れたことなんてないはずだわ。魔族の国との門は、このあたりにはないもの」


「じゃあ、アイツは……あれ? 2体いる」


「うそ、1体しかいないわよ!」


「感知の魔道具は持ってないですか」


「あ、あるわよ」


 僕はゲージサーチをした。奴らは3本、2本。やはり…。オルゲンさんが言っていた奴らだよね。


「な、何? あれ。1体は、認識阻害を使っているのね。そんなドラゴン、この世界にいるの?」


「ちょっと、ややこしそうですね」


「アイツら、冒険者を狙っているようね。でもドラゴンが、一方的に人なんて襲うかしら? 弱い者には興味がないはずなのに」



 飛竜は、人を襲っていた。チゲ平原にいる新人冒険者達に、火を纏った奴が炎を吐き、認識阻害をしている奴が風の刃を飛ばし、冒険者達に傷を負わせている。


「妙だわ。あの飛竜、何がしたいのかしら。回復の時間を与えているわ」


 確かに、飛竜の攻撃で怪我をした冒険者達を、サポートしている先輩冒険者が回復している。その中には、あの背の高い白魔道士もいた。


 そして回復が終わると、また傷を負わせた。まるで遊んでいるかのような行動だ…。


「白魔道士の魔力切れを狙っているのかもしれません」


「えっ? 意味がわからないわ。そんなことしてどうするの? ドラゴンよ? そんなチマチマしたことを、考えるわけないわ」



 僕は、ギルドの守護者オルゲンさんを探して『見た』

 貴族のケンカの仲裁がまだうまくいかないのか、飛竜に気づいているようだけど、動きはなかった。


 あ、違う。飛竜だから、いつ自分達の方に飛んでくるかわからないから、貴族達がオルゲンさんを離さないんだ。


 飛竜は、冒険者達を襲い続けていた。


 僕はリリィさんを見た。彼女は悔しそうに飛竜を睨んでいたが、やはり、自分が担当する持ち場を離れるわけにはいかないようだ。


(どうしよう)


 あ、オルゲンさんが動いた。魔道具で、飛竜に襲われている冒険者達のもとへとワープしていた。


(よかった)



「ライト、あの人は空中戦、出来ないわよ。あの魔力では、魔剣なんて使えないわ」


「えっ?」


「私が飛竜を地面に撃ち落とすしかないかしら」


「リリィさん、やめてください。飛竜がもし、こちらに飛んできたら、私達はどうすればいいのですか」


「そうですよ、貴女は我々のサポート役、ボディーガードなんでしょう?」


「でも、このままだと、あの人達は飛竜に殺されるわ。私がいなくても、剣士が二人いるわよ」


「お二人は魔剣使えるのですか?」


「俺は、魔法は…」


「俺は風系なら使えるが、奴には水系じゃないと効かぬだろう」


「じゃあ、やはりリリィさんには居てもらわないと困ります!」


 みんな、必死だ。自分のことしか考えていない。自ら戦おうという気はないのだろうか。



 僕は……万全じゃないけど、このまま見ているだけなんて、できない。それに、もし、あの飛竜が僕を探しているなら、あの人達は人違いで襲われている…。


『はぁ……やっぱりな』


(リュックくん?)


『こうなるんじゃねーかと思ってたが…。無茶はするなよ? 魔力、少しストックあるからな、おまえが倒れないように、なんとか調整してやる』


(リュックくんっ!!)


『早くしろ、手遅れになるぞ』


(うん、了解!)



「リリィさん、僕、行ってきます」


「えっ? ライトが? 馬鹿なこと言わないの! 死ぬわよ」


「大丈夫です。少なくとも、飛竜の攻撃は防げます。これでも、僕、女神様の番犬ですから」


「ええーっ? うそ」


「ほんとです、では」



 僕は足元に集まっていた生首達に乗り、オルゲンさんの近くにワープした。


「ちょ、なぜ来たんだ」


「オルゲンさんのサポートに来ました」


「ライト、おまえ、バカか」


「かもしれませんねー」



 僕は、手を空に向け、この付近にバリアを張りたいと念じた。僕の手から放たれた光がドーム状に広がった。


 飛竜の攻撃を受けていた冒険者達を、ドーム状のバリアがすっぽりと覆った。

 

 そこに、火を纏った奴が炎を吐いた。そして認識阻害をしている奴が風の刃を飛ばした。


 キィン!


 僕が張ったバリアが、攻撃を弾いた。すると、飛竜達が、僕をキッと睨んだ。


(僕がターゲットだと気づいたか?)


 奴らはさっきよりも強い威力で、炎と風の刃を飛ばしてきた。その攻撃はバリアに当たり、大きな破裂音とともに、砂煙で視界が遮られた。


(ちょっと……何? あいつら)



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