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146、チゲ平原 〜 女神の番犬オルゲン

「最後のグループ、ミッション開始だ。先行グループがそれぞれ東西南北に分かれたからな。採取場所が、かち合わないように気をつけろ」


「冒険者は、貴族優先などという配慮はしないものじゃないかしら?」


「リリィ、初ミッションを完了していない者は、まだ冒険者とは呼べない。このミッション完了後に、冒険者の心得について、ギルマスがキチンと話をするだろう」


「はぁ、仕方ないですわね。爆弾草は、西エリアに群生地が多いから、西に行きましょう。貴族には近寄らないように注意してね」


「「はい!」」



 僕達がサポートを担当する商会の子達のグループは、チゲ平原の西側へと向かっていった。

 全体の指揮をしているギルドの守護者は、僕達のグループについてくるようだった。


 リリィさんとふたりの剣士が、先導し、僕とギルドの守護者が後ろをついていく形になっていた。



「ポーション屋、しばらく前から神族の誰かを探し回っている連中がいるんだ」


「えっ? あ、あの、えーっと」


「名乗ってなかったな。俺は普段は、あっちの国を担当しているオルゲンだ。ライトと同じ番犬だよ」


「オルゲンさん、はじめまして。えっと、神族を探し回っている連中ですか?」


「誰かの下僕だろうな。赤も青もいる」


「えっ? 他の星の神ですか?」


「自ら動いているか、もしくは配下を使っているかはわからないが……かなりの数が入り込んでいるようだ」


「そうですか」


「タイガは、ライトを探しているんじゃないかって言っていたんだ。気をつけろよ」


「えっ! な、なんで僕?」


「狙いはわからない。神殺しの復讐か、ワープワームを奪いたいのか……そのあたりじゃないか?」


「あー、はぁ」


「他の星の神がワープワームを従えると、厄介だからな。短期間で国を乗っ取ることも可能だ」


「ワープで攻め込む?」


「まぁそれもだが、それ以上に諜報能力だ。あちらの国では、ワープワームの侵入を防ぐ為の魔法開発に必死なんだ。だが、いまだに侵入を防ぐことができていない」


「そ、そうなんですね。スパイ能力…」


「スパイ?」


「あ、いえ、なんでもないです」


「そうか、タイガと同郷だったな。アイツも変な言葉をよく使うんだが…」


「ははっ、はい」


「それと、ミッション中は、ポーション屋と呼ぶからな。どこに奴らが隠れているかわからないからな」


「はい、了解です」


「この平原にも、ふたり、妙な奴らがずっと居るんだ。ずーっとこちらをサーチしているようでな」


「えっ? 」


 僕は、キョロキョロとあたりを見回したが、特にそれらしい二人組は見つけられなかった。


「ふっ、それならバレないな」


「ん?」


「いや、失礼。完全にただの人族の行動だなと思ってな。それでいい」


「は、はぁ」


「もし、襲われたら、逃げろよ。まだ闇は使うな」


「はい」


(オルゲンさんって、心配性?)




 僕は、チゲ平原の散策を楽しんでいた。見たことのない草花がたくさんある。


 いつの間にかオルゲンさんは、父兄達に囲まれ、嫌そうな顔をしながら、話に付き合っているようだった。


 リリィさんが的確な指導をしていたから、ふたりの剣士も暇そうだった。僕は、新人冒険者が怪我でもしない限り出番はないだろうな。


 ギルドの守護者は、今回のイベントに、ふたり参加しているとタイガさんが言っていた。オルゲンさんと、もうひとりはどの人だろう?



「ポーション屋、ちょっとサポートに行ってくる。くれぐれも気をつけろよ」


「あ、はい。サポート?」


「セリーナがな…。あ、今回のイベントの指揮をするもうひとりの番犬だがな、貴族のケンカが始まったから、仲裁しろと言ってきてな」


「冒険者の初ミッションで、ケンカですか」


「いや、親同士のケンカらしい。ったく、たまたまこっちの国に寄っただけなのに、こんな邪魔くさいことを押し付けられて…」


「あはは、確かに大変ですね」


「だが、ちょっとおかしいんだ。別の場所の遭難もなぜか作為的だったらしい。まるで、番犬をすべて引っ張り出そうとしているかのようだ」


「えっ?」


「本来なら、俺もセリーナも、あっちの国を担当しているから、こっちのギルドの手伝いなんてやらないんだよ。誰もいないから仕方なく引き受けたんだ」


「そうなんですね」


「魔族の国も、いま、同じようなことが起こっているんだ。やはり、番犬が振り回されている。タイガとジャックは女神様の護衛として城に戻ったんだ」


「えっ? 逃げたんじゃないんだ」


「ははっ、逃げもあるだろうな。俺も、こんなことだとわかっていれば、城での護衛を選ぶよ」


「あははっ、確かに、この人数のイベントは大変ですもんね」


「こっちの国の人族は、危機感も足りないしな。いろいろ疲れる。では、うるさいから行ってくる。くれぐれも気をつけろよ」


「はい、おつかれさまです」


 そう言うと、オルゲンさんは、腕につけた魔道具を操作し、その場からスッと消えた。ワープの魔道具かな? 高いのかな…。僕も欲しいな。


 気軽にワープしたいなら、やはり魔道具だよね。生首達を使うと、ワープワームを狙っている神に見つかる危険があるもんね。




「ちょっと、ライト! こっち来て、すぐに!」


「えっ、あ、はい」


 僕が不思議な青い花を見つけて、それを摘んでいると、リリィさんに呼ばれた。


 リリィさんの方へと駆け寄ると、あー、あらら。冒険者のひとりが、何かの罠にかかったらしく、片足が吹き飛ばされ、倒れていた。その父兄が慌てて、半狂乱になっていた。


 怪我人をゲージサーチしてみると、オレンジ、青。体力は20%以上あるね、うん、大丈夫。



「ライト、なんとかして!」


「はい、了解です」


 僕は、手に持っていた青い花をリュックの横ポケットに入れ、そして、念のために、バリアをフル装備かけて、怪我人に近寄った。


 左足が太ももから先が、爆破されたかのように消えていた。怪我人は意識を失っているようだった。傷口から、ドクドクと血が流れていた。


「ライトさん、何でもしますから息子を助けてください! あぁ〜、神よ!」


「大丈夫ですから、落ち着いてください」


「ライトの邪魔になるわよ」


「あぁ〜、すみません。あぁ〜」


 僕は、怪我人の腰にスッと手を入れ、回復!を唱えた。ドクドクと流れていた出血は止まり、そして、彼の意識が戻った。


「あれ? 俺は…」


「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます!」


「いえ、まだ治療は終わっていませんから…」


「俺、何か踏んで……あー!! 足が〜!」


「ちょっと、身体の中を見せてもらいますね。他に何か異常がないか確認します」


「は、はい…。俺、もう歩けない…」


「ライト、この子、強い毒を受けているわ。目が青いわ」


「毒ならさっきので消せたはずなので、何かあるなら呪いだと思います」


「ええ〜? 呪術士なんて、参加していないわよ」


「軽いものなら治せます。ちょっと探しますから…」


「あ、邪魔……ごめんなさい」


(えっ? リリィさんが謝った?)



 僕は、彼の身体の中を『見て』みた。目に異常が出ているなら、血流かな?

 でもどこにも呪詛の塊はなく、頭の中の一部に少し黒いモヤがかかっているだけだった。

 弱い呪いだな、クリアポーションで大丈夫かな。


 僕は、魔法袋から、クリアポーションを出し、彼に渡した。


「弱い呪いは解除できます。飲んでください」


「うわ! これ、クリアポーション」


「はい、それでダメなら、ちょっと難しいのですが」


 彼は、すぐさま、蓋を開け、クリアポーションを飲み干した。するとスッと、頭の一部の黒いモヤは消えた。

 そして、彼の目も、さっき血管が浮き出たように青くなっていた白目部分が、もとの普通の状態に戻った。


「身体が軽くなった」


「うん、もう大丈夫ですね。痛いところはないですか?」


「はい……いや、左の足首が痛い…」


 彼は、ないはずの足首を痛がった。


「おまえ、何を言っている? 高位の魔導士を探して再生してもらうから、気をしっかり持て」


「あ、再生もしますから、ちょっと待ってください。貴方の記憶を使わせてもらってもいいですか?」


「えっ? 記憶? あ、はい」


「じゃあ、失礼します」


 僕は、彼の頭にスッと右手を入れた。そして彼の腰に左手を入れ、元の足に戻るようにと願い、再生! を唱えた。


 すると足の付け根から、するすると足が生えてきた。新しい足は、まるで赤ん坊の肌のようにツルツルだったが、古傷らしき部分は傷あとができていた。


「立ってみてください。違和感はないですか?」


 彼は、呆気にとられた顔をしていたが、僕がそう言うと、慌てて立ち上がった。破れて血だらけのズボンからのぞく足は、違和感なく治せていたようだった。


「大丈夫です! 古傷まで再現されていて、驚きました!」


「貴方の記憶を使わせてもらいましたからね」


「あー、それで記憶をって言ってたんだ」


 僕は、血だらけの彼にシャワー魔法をかけた。服についた血は落ちにくいから、完全には綺麗にはなってないけど、まぁ仕方ない。



「わぁっ、すごい! ライト、何それ」


「シャワー魔法です」


「どうやるの?」


「弱い火風水の同時発動です」


「なんですって? 3属性も持ってるの?」


「あ、はい。威力は、しょぼいですが…」


「私に、かけてみてくれるかしら」


「あ、はい」


 僕は、リリィさんにシャワー魔法をかけた。すると、彼女の目がキラキラと輝いた。


「ライトがいれば、便利ね。日帰りできない場所でも平気だわ」


(なんだか嫌な予感がする…)


「あ、簡単な魔法ですから、3属性持っていれば、できると思います」


「3属性持ちは、それなりにいるけど、火風土か、水風土が多いのよ。火と水を持ってるとだいたい2属性だわ」


「そうなんですか」


「あ、いや、いるわ! 4属性の全部持ちならできるわよね」


「あ、はい」


「ふふっ、習得させるわ」


(よかった…)



 怪我をしていた彼は、父親に新たな服を与えられ、着替えていた。なーんだ、シャワー魔法いらなかったかな?


「ライトさん、ありがとうございます。貴方がこんな高位の魔導士だなんて思っていませんでした。失礼な態度、申し訳ありません」


「いえ、別にたいしたことでは…」


「お礼に…」


「お礼なんて不用よ。冒険者のミッション中に、そんな話をするのは無作法だわ。互いに助け合うのが冒険者よ。親ならよく覚えておきなさい」


「リリィ様、かしこまりました」


「さぁ! みんな爆弾草の採取は、終わったのかしら?」


 リリィさんの厳しい声に、みな、慌てて採取作業に戻っていった。


「ライト、助かったわ。昼寝しててもいいわよ」


「え、あ、はぁ」


「あ、その青い花は、毒があるの。取り扱いに気をつけなさい」


「えっ? あ、はい」


 きれいな花には毒がある、か……なるほど。でもこの青って、ポーションの色に使えないかな?


 なんて考えていると、どこからか視線を感じた。僕は、あたりを見回してみたが、特に変わった様子はなかった。


(気のせい……かな?)


 僕は、再び、青い花を探し始めた。




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