表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

144/286

144、ロバタージュ郊外 〜 リュックの説教

「さぁ、道もできたのでクリスタルの調整に行きましょう」


「この道、大丈夫でしょうか? 横からパイン草に頭突きでもされると、大怪我をしてしまいます」


「じゃあ、バリア張りますね」


 僕は、オーナーさんにバリアをフル装備かけた。念のため、僕もバリアを張りなおした。


「えっ? これって……何種類のバリアですか! 」


「えーっと、まずかったですか? 苦手な属性あれば外しますが…」


「いえいえ、苦手な属性はありません。こんな贅沢なバリアをかけてもらったことがなくて、驚いてしまいまして」


「贅沢ですか?」


「はい、冒険者をするときは、私は防御力が低いので、バリアが得意な高位の魔導士をパーティに勧誘するのですが、ここまでの多重バリアを見たのは初めてです」


「そ、そうなんですか。僕は、ビビりだから、いつもバリアを張っているから、上達したのかもしれません」


「なるほど、すごいですね」


「ありがとうございます。さぁ、行きましょう」



 僕達は、生首達が蹴散らしてできた道を、クリスタルに向かってまっすぐ歩いていった。途中、何度か、槍のようなものが飛んできたけど、すべてバリアが弾いていた。


 槍のようなものを飛ばしてきた奴は、すぐに生首達の餌食になっていた。

 かなわない敵に囲まれたら、生き残るには、じっと隠れていなきゃいけないな…。僕は、奴らを見ながら、なんだかそんな教訓じみたことを考えていた。


 やっぱり、アイツら、僕よりめちゃくちゃ強いよね…。なんだか、くやしいな…。

 僕は、夢中でお食事中の生首達を、ジト目で睨んだ。すると、奴らは、ヘラヘラ、ふわふわ、クルクルとし始めた。


(喜んでる……はぁ、意味がわからない)


「ライトさん、懐かれてるんですね。ライトさんが目を向けると、この子達、嬉しそうです」


「そうですかねぇ」



「あ、これです、クリスタル。お願いします」


「はい、見てみます」


 僕は、台座の上に浮かんでいるクリスタルを『見て』みた。うーん、クリスタルは浮いてるんだから、台とクリスタルの間に何かが挟まっているわけではなさそうだ。


 マナの流れって言ってたっけ? その流れは僕には見えない……ん? 『見え』る! 黄緑色の粒子がクリスタルから台座へと吸い込まれている。あ! 流れが、石を避けるように、曲がっている場所があった。


 なるほど、台座に何かがくっついているんだ。僕は手を半分霊体化した。クリスタルを通り抜けてその下の異物を取り除こうとしたけど、クリスタルは通り抜けできなかった。


 僕は、上は諦め、下の台座の方から手を入れてみた。台座は普通に通り抜けできた。そして異物を掴んで霊体化し、スッと引き抜いた。これ、パイン草の槍みたいな武器じゃん…。


 僕は、半分霊体化していた手を実体化し、その異物をオーナーさんに渡した。


 あ、クリスタルの色が変わった。さっきは真っ赤だったのに、オレンジ色になっている。


 クリスタルって、半分霊体化している状態では通り抜けできなかったな。完全霊体化なら、通り抜けできるんだろうか?


「あー、ありがとうございます。クリスタルも、他の場所と同じ色になりました。よかった〜」


「さっきは真っ赤でしたもんね」


「ですねー。しかし、これ、パイン草の葉ですね…。これでコイツら、クリスタルのエネルギーを吸収して魔物化したんですね」


「えっ! 根じゃなくて、葉から吸収するのですか?」


「マナや光などのエネルギーは、ほとんどの植物は葉から吸収するんです。その挟まっていた葉から、他の個体へとクリスタルのエネルギーが流れたのでしょう」


「なるほど…」


「おそらく、掃除をしたときに何かの拍子で、葉が挟まったまま気付かなかったのだと思います。お騒がせして申し訳ないです」


「いえいえ。ということは、これで植物魔物は、元の植物に戻りますね」


「あー、それは無理です。いったん魔物化したものは、再びただの植物には戻りません。いま以上の進化はしなくなると思いますが…」


「じゃあ、気味わるい植物は、そのままに…」


「ええ。ただ、美味しいことがわかりましたから、上手く付き合っていきます。収穫は、冒険者仲間に依頼するかもしれませんが」


「あはは、それはギルドが喜びそうですねぇ」


「ですねー。おっ! パイン草の魔物、逃げ始めましたね〜」


「ん? 」



 僕は、草原を見渡した。ツンツン頭が見当たらない。まさか、生首達が全滅させたの?


「もしかして全滅ですか?」


「いえいえ、まさか。隠れただけですよ。でも私には居場所はわかりますけどね〜」


 そう言って、オーナーさんはまた不思議な魔道具を出してきた。


「いろいろな魔道具があるのですね」


「ははっ、このために冒険者もしてるんですよ。あと、果樹園の宣伝のためでもありますが」


「ん? 宣伝ですか?」


「ええ。果樹園を知ってもらって、利用してもらうためですね。知り合いになると、近くを通るときに立ち寄ってくれる人が多いので、外から直接レストランに入れるようにしたんですよ」


「へぇ。ここは、たくさんの種類の果物があるから、果物好きにはたまらないでしょうね」


「ここでしか提供できない完熟果物は、絶品ですからね。この国で一番の果樹園だと自負していますよ」


「ここには、すべての種類があるのですか?」


「ほとんどの物があります。ただ、協定で大規模に作れないものは、お客さんの目にふれないようにしています」


「ん? 協定ですか?」


「ええ。近くの畑を潰すことにならないように、大規模な農園には、守るべきルールがあるのです」


「近くの畑?」


「徒歩で数時間以内の範囲です。このあたりだと、ヘルシ玉湯の湯の谷近くに、数軒の農家があるんですよ」


「あ! 湯の谷の上の草原?」


「はい、行かれたことありますか?」


「あります。カカオやぶどうを買いました」


「ん? カカオ? それは木の実でしょうか? 勝手に自生しているものかと…。ぶどうやイチゴ、りんごなどは、競合するので、協定で作れないんですよ」


「あー、イチゴやりんごも、もらいました」


「あそこにないものは、ほとんどすべてありますよ。あそこにあるものも、自家消費用に栽培していますけどね」


「じゃあ、この国の果物は、この果樹園と湯の谷の農家に行けば、すべて手に入るのですね」


「ええ、おそらく。未開の森には自生している果物が、まだまだあるとは思いますけどね。そうそう、ライトさんのイーシアの森などはその代表格ですね」


「未開の森ですか」


「イーシアの森の近くには、強い精霊が守る守護獣の隠れ里がありますから、なかなか開拓できないのですよ」


「あー、なるほど」


「精霊は、神の分身ですからねー」


「えっ? そうなんですか」


「ええ、精霊や下級神は、星の神がその魔力で作る分身だと言われているのですよ。だから、神と同じく、うやまう対象です」


「へぇ」


「それに、精霊にも神と同じく格があるそうです。隠れ里の精霊は格が高いので、やはりその庭を開拓することは、信仰心からも難しいそうです」


「そうなんですね、知らなかったです」


「こういう話は、年寄りからの言い伝えですからね。あれ? ライトさん、イーシアの民なのにご存知なかったのですか?」


「僕は、17歳より前の記憶がないのです…」


「えっ? あ、それは申し訳ないことを聞きました」


「いえいえ、大丈夫です」



 僕は、草原を見渡した。生首達は、お腹がふくれたのか、食事は終了し、ヘラヘラしながらパイン草を追いかけて遊んでいた。

 あんな遊び……追いかけられる植物魔物が、少しかわいそうに見えてきた。


「ライトさん、そろそろ戻らないと、リリィ様が…」


「そうですね。あの黄色い実、集めてきますね」


「では、お手伝い……したいところですが、ちょっと植物魔物が…」


「大丈夫ですよ。お気持ちだけで〜」



 僕は、生首達が根を食べた残骸の山へと近寄った。そして、パイナップル部分をナイフで切ると、リュックくんが即座に収納していた。


(このカットも、リュックくんならできるんじゃないの?)


『無理に決まってるだろーが。オレには手足どころか身体がないんだけど』


(早く進化してよねー)


『そんなもん、おまえ次第だろーが。グダグダ言ってねーで、さっさと手を動かせ』


(うーん。けっこうキツイんだよ? 僕まだ…)


『はいはい、わかったから、さっさとしろ』


(うん〜)


 僕は、リュックくんに急かされながら、パイナップル部分の切り取り作業をした。疲れるよね、この量…。


 途中で、どうにも嫌になってきた頃に、やっとリュックくんのストップがかかった。


『これくらいでいいぞ』


(助かった〜)


『ったく、情けねーな。体力なさすぎだろ』


(だって、まだダル重い状態が…)


『はいはい、わかったわかった。はよ戻れ、あのお嬢さん怒ってるぞ』


(えっ! まじ? なんでわかるの?)


『はぁ、おまえも『見て』みれば、わかるだろーが』


(あ、そっか)


『はぁ……おまえなぁ。『眼』は使わなければ持ってる意味ねーぞ』


(うん、わかってる)


『なら、常にまわりを見ておけよ』


(うーん、そんなの難しいよ)


『やる前から諦めてどうすんだよ』


(う〜…)



 生首達は、僕がリュックくんに説教されているのに、ヘラヘラとお気楽な顔をして漂っていた。

 パイン草を追いかけることに飽きて、暇そうだった。


 僕は、生首達にイラッとしたけど、下手なことを言うと、またリュックくんに説教されそうな予感がしたから、グッと我慢した。



「オーナーさん、レストランに戻りましょうか」


「ええ、そうですね、はぁ」


 ん? ため息? あ、またあの気味わるい場所を通るのが嫌なのかな?


「あの、コイツらに餌を食べさせてもらったので、レストランまでワープしてみます?」


「えっ? もしかして、ワープワーム?」


「はい」


「ええ〜っ!? ライトさんって何者なんですか?」


「えーっと、まぁ、とりあえずどうぞ。足元のクッションに乗ってください」


「えっ? あ、はい」


「じゃあ、行きますね」


 僕もクッションに乗った。その瞬間、レストランの入り口に到着した。近距離だから、めちゃくちゃ速いな。


「へ?」


「着きましたよ」


「あ、え?」



 僕がオーナーさんとレストランの入り口に現れてすぐに、リリィさんがツカツカと近づいてきた。


(わっ、ほんとに怒ってる…)


「ライト! 遅いじゃないの!」


「すみません」


「リリィ様、ライトさんには、クリスタルの不調を見てもらってたので…」


「ふぅん、で? 直したのね?」


「はい、直してもらいました」


「そう、それならいいわ。ライト、もう集合時間を過ぎているわよ」


「わっ、すぐに移動しましょう」


 そう言うと、生首達は僕とリリィさんの足元に集まってきた。行き先、わかってるよね? 僕は、行ったことないけど…。

 生首達は、ヘラヘラしていた。この顔は自信があるんだよね?


「リリィさん、そのクッションに乗ってください」


「わ、わかったわ」


「オーナーさん、ありがとうございました。また、果物を買いに寄らせてもらいます」


「はい、お待ちしています。こちらこそありがとうございました」



 僕は、オーナーさんに手をふり、リリィさんと共に、その場からスッと消えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ