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143、ロバタージュ郊外 〜 果樹園の困りごと

「お待たせしました。どれくらい必要ですか?」


 オーナーさんが、廃棄予定だった完熟桃を持ってきてくれた。ゴミと言っていたのは、葉っぱのことらしく、桃の実だけを大きなカゴに入れてくれたようだ。


(リュックくん、どれくらいいる?)


『完熟だろ? 全部買っておけばいいじゃねーか』


(わかった)


「オーナーさん、それ、全部ください」


「えっ? こんなにですか?」


「はい、腐らないので、完熟の果物は貴重ですから」


「えっと、魔法袋は汚れてしまいますから…」


「魔道具に入れますから、大丈夫です。お代はどれくらいですか? 僕、相場がわからなくて…」


「うーん、廃棄予定でしたからねぇ」


「普通なら1ついくらですか?」


「1つというより、1盛で売りますね。1盛で銅貨3〜5枚でしょうか」


「じゃあ、この量だと、その数十倍ですよね」


「でしょうかね」


「では、銀貨3枚くらいでしょうか?」


「いやいや、それはもらいすぎになりますよ」


「ん〜でも、妥当だと思うんですよね。とりあえずこれで」


 僕は、銀貨3枚を支払った。そしてカゴの中から、リュックへと桃を収納した。これもリュックくんが一瞬で収納してくれた。


「すごいですね、その魔道具!」


「はい、最近、進化してかしこくなったんですよ」


「へぇ、進化する魔道具って、リュックのようなものもあるんですね。サーチ系の魔道具はよく進化した話を聞きますけど」


「サーチ系?」


「はい、危機探知の魔道具とかですね。ライトさんも腰につけられていますよね? ローブの隙間からチラッと見えましたが」


「あ、はい、危機探知のリングです。なるほど、進化するかもなんですね」


「ええ。あ、リングは進化しないかもしれませんが…。では、そろそろクリスタルを見ていただいても?」


「あ、はい」



 オーナーさんについて、僕はまたグネグネ道を歩き始めた。

 ほんの少し歩くと突然、真夏のアスファルトの上に出たかのように猛烈に暑くなった。


「急にすごく蒸し暑いですね」


「そうなんですよ。ここは暑い土地の果物を育てていますが、この暑さで異常な成長をしましてね」


「大きく育ったのですか?」


「ええ、大きくというか……化け物ですね。処分したくても出来ないのですよ」


「化け物!?」


「とは言っても、我々に危害を加えるわけではないのです。普通に収穫もできますし。ただ、処分しようとすると、返り討ちにあうといいますか…」


「え? 果物の木が、返り討ち?」


「見ていただくとわかります」



 僕は、オーナーさんが指差す方を見た。うわぁ〜! ほんとに化け物じゃん。そこは、気味が悪い植物のお化け屋敷のような光景だった。


 花は巨大化し、肉厚な花びらや枝が、まるで意思を持っているかのようにうごめいている。

 花の蜜が、なんだかよだれのように見える…。僕達が近づくと、花が一斉にこちらを向いた。巨大花に襲われるのではないかと、思わず身構えてしまう。


「気味が悪いですね…」


「でしょ? 通常なら拳より小さい花なんですよ。もちろん普通ならこんな風に動きません。近くを通ると、頭に噛みつかれるのではないかと考えてしまいます」


「噛みつかれるというより、丸呑みされてしまいそうですね」


「そうですよね。この奥の方がさらに怖いですよ…」


「あの、もしかしてクリスタルは、この奥ですか?」


「はい、そうなんです…」



 さらに奥へと、蒸し風呂のような中を歩いていった。湿度もどんどん上がっているように感じる。


 オーナーさんが怖いと言うから、僕は思わずバリアをフル装備かけてしまった。果樹園で、バリアって……しかも魔導ローブも着ているのに、ビビりすぎな気もするけど。


(念のため、念のため)


『そんなことだから、体力上がらないんじゃねーのか?』


(えーっと、うん、かもね。リュックくん、用事?)


『用事なく話しかけるわけねーだろ。あの実も買っておけ』


(どれ?)


『右の木の上の方に実ってるやつ』


 僕は右上を見て固まった。うわぁ〜、気持ちわるい巨大な実が…。黄緑色で、実というより顔が描いてある風船? 僕が見上げたのがわかると、その実は僕を見て、にやっと笑った。こわっ…。


(リュックくん、あの実、笑ったよ?)


『収穫してもらえるから嬉しいんじゃねーの』


(うそ、絶対、僕のこと餌だと思ってる顔だよ)


『はぁ…。アレは肉食じゃねーよ。肉食なら今頃は、襲われてるんじゃないのか』


(あ、確かに…)



「あの、オーナーさん、あの黄緑色の実も買いたいんですが…」


「えっ!? 気味わるい顔の実ですか?」


「はい」


「どうぞ、どうぞ! あれ困っていたんです。とにかくここのブロックの果物は、すべてこちらの考えがわかるらしく、取って処分しようとしても、抵抗されるので…」


「…抵抗? じゃあ、収穫できないんですね」


「いえ、お客さんからの注文があるものや、レストランで使おうと考えると、収穫できるのです…。完全に、植物魔物です」


「植物魔物…」


 僕は玉湯の、あの雑草魔物を思い出した。あれは、本当に、嫌な魔物だったな…。


「えっ? ライトさん、どうされました?」



 あ! また僕の足元には闇があふれてるよ…。僕が気付くと、闇はスーッと消えた。嫌なことを考えると出てきてしまう癖、直さないと…。


 ローブが封じ込めてくれたのか、足元だけだったからよかった。身体から広がると、植物に悪影響になるよね。


「ん? あ、すみません。ちょっと体調崩してて、まだ完治してなくて」


「闇属性持ちなんですね、珍しい。もしかして、魔族とのハーフだから神族をご存知だったんですか?」


「えっと、ハーフというか…。まぁ半分は、魔族と言えるのかもしれません」


「そっか、じゃあ、安心しました」


「えっと、何でしょうか?」


「お恥ずかしい話ですが、私、このブロックにいるのが怖くて…。でも、ライトさんと一緒なら安心です」


「あはは、あまり頼りにならないかもしれませんよ?」


「いえ、さっきの闇で、みんなおとなしくなりましたから」


「えっ! す、すみません。害になってしまいましたか?」


「とんでもない。大歓迎ですよ。知能の低い魔物は、危機探知能力が高いのです。特に地面から動けない植物魔物はね、ほら、さっきまではあんなに威嚇していたくせに…」



 オーナーさんの視線の先には、気味わるい顔の実が、ただの黄緑色の実になっていた。顔はどこ行ったんだろう?


「ほんとに、あの実がいるのですね」


「あ、はい、お願いします」


 すると、オーナーさんは近くにあった木づちを拾った。そして、その木の幹を木づちで叩いた。


 ボタボタボタ!


 うわぁ〜、一気に落ちてきた。しかし、デカイな。なんだろう?


「割らなくても大丈夫ですか?」


「ん? 割るのですか?」


「あ、試しに飲んでみられるかと思いまして。穴を開ける魔道具もありますよ」


「あ、じゃあ、飲んでみます」


(ん? 果物だよね? 食べるじゃなくて、飲み物?)


 オーナーさんは、ドリルのような魔道具で、実を削っていた。そんなに硬いんだ…。木ノ実みたいな感じかな?


「できましたよ、どうぞ。運ぶのは大変なので、こちらへお願いします」


「あ、はい」


 黄緑色の実には、穴が開けられ、ストローがさしてあった。僕は、それを吸ってみた。甘っ! 何これ? ココナッツジュース? にしては甘すぎる。


「甘いですね、めちゃくちゃ」


「そうですか? 収穫して少し置いておくと、もっと甘くなるんですよ。あ、このサイズのは知らないですが」


「オーナーさんも、飲んでみてください」


「まだ青くさいんじゃないですか?」


「完熟だと思います」


 オーナーさんも、ストローを吸って、驚いた顔をしていた。そっか、化け物が怖くて、処分することしか考えてなかったのかな。


「いけますね〜」


「甘いでしょ?」


「ええ、驚きました」


 僕は、結局、巨大ココナッツを3個、わけてもらった。これは、お代はいらないと言われた。

 リュックくんは、さっさとココナッツを収納していた。


 まだ、地面にゴロゴロと転がっているココナッツは、オーナーさんが、魔道具を使って回収していた。農機具用の魔道具っていろいろあるんだな、おもしろそう。


「さて、この奥です。魔物がうじゃうじゃいる先です。よろしくお願いします」


「あ、はい、わかりました」


 僕は、オーナーさんについていくと、緑の草原が広がっていた。ん? 別に何もいないじゃん。と、思ったら、突然、草原の植物から槍のようなものが飛んできた。


(うわっ)


 その鋭い何かは、僕の張ったバリアに当たって地面にポロポロと落ちた。そして次から次へと飛んできては落ちる。


「ライトさん、マズイです!」


「ん?」


 草原の中から、なんだかパイナップル頭のような植物魔物が飛び出した。遅いけど、動けるんだ。

 上下に飛び跳ねるようにピョンピョンしながら、じわじわとこちらに近づいてきた。


(リュックくん、もしかしてパイナップルって、これ?)


『そのようだな』


(魔物だよ?)


『首から上は、パイナップルじゃねーの?』


(えー……そうかも?)


『狩るか』


(無理っ!)


『はぁ、情けねー。じゃあ、どーすんだよ。あ、アイツら使えば? 喜ぶんじゃねーか』


(アイツら? もしかして、生首達のこと?)


『あぁ、火の魔物は、植物には強いだろ。たぶん餌だぜ』


(パイナップル、食べられちゃうじゃん)


『全部は、食わねーだろーが』



 僕は、生首達に、ここの植物魔物を食べるかとたずねてみた。すると、来た! また、あれだ……今日は大量だね。


「わぁ〜、なんだろう? この赤黒い雪のようなふわふわしたものは? 見たことのない現象です、いったい…」


「あ、僕の配下です。ここの植物魔物を食べたいみたいなので、呼びました。構いませんか?」


「えっ? 食べる? どう猛ですよ。今朝も従業員が襲われて、大怪我をしましたから、駆除してくださるなら、助かりますが」


「はい、大丈夫だと思います。あと、あの黄色っぽい実を買いたいんですけど」


「え? パイン草は、根を食べるんですよ? 頭の実は、イガイガで触れると怪我をしますから、食べ物ではないのですが…」


「んー、じゃあ、もらっても?」


「構いませんよ」


「ありがとうございます。あ、先にクリスタルを見に行きましょうか」


「でも、パイン草が暴れて通れな……えっ?」



 僕の前からクリスタルのある位置まで、まっすぐに道ができていた。その道は、まるで草を芝刈り機で刈ったかのように、まっすぐにのびていた。


 生首達が、植物魔物を蹴散らしたようだ。道の両脇には、ひっくり返って頭のトゲトゲが地面に刺さってバタバタしている植物魔物が、積み上がっていた。


 そして、アイツらは、ひっくり返った植物魔物の根を食べている。パイン草は根を食べるとオーナーさんが言ってたけど、生首達も、根を食べるのか。

 あ、だから、ひっくり返して、頭を地面に刺したのね。


 僕は、生首達の意外な一面を見て、少し驚いていた。


(僕より、強いんじゃないの? アイツら…)


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