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140、ロバタージュ 〜 ライト、魔導ローブを買う

「フリーミッション参加の冒険者の方は、ギルド前広場に集合してください」


 外から大きな声が聞こえた。マイクなんかないだろうし、魔法なのかな?


 いま、僕は、ロバタージュのギルドの事務所にいる。なぜだか、フリーミッションに参加することになっている。


 タイガさんが参加するはずだったらしいんだけど、僕に押し付けて逃げるつもりみたいなんだ。


 このフリーミッションは、学校を卒業したばかりの新人冒険者の初ミッションイベントなのだそうだ。

 貴族や商会の、いわゆる金持ちの子供達に父兄同伴で、ミッション教習をするというものらしい。


 こういうのって、タイガさん嫌いだろうな。親のすねかじりの子供達だけじゃなく、その父兄まで居るんだから、僕でもげんなりしてしまう。




「ライト、作戦会議やるらしいで。こっちこいや」


「あ、はい」


 僕は、事務所から出て、ギルドのカウンター裏の広い倉庫のような場所に移動した。あちこちに、様々な魔物が積み上げられている。買い取った素材の保管場所のようだ。


 そこには、ギルマスのノームさん以外に、数人の職員さんと、あと、冒険者らしき人が20人ほど集まっていた。


 僕がタイガさんの近くに寄ると、ギロリと何人かの人達に睨まれた。みんなベテランっぽくて強そう…。

 タイガさんのファンなのかな? ちょっと怖い。


 そして、そこに、目つきの鋭い爺さんとリリィさんが入ってきた。ギルドの職員さん達は、ペコッと頭を下げていた。もしかしたら、コペルの社長さんかな?



「これで全員ですかね?」


「はい、コペル様、全員揃っています」


「ほう、タイガ殿も?」


「いや、俺は用事できたから、代わりを置いていくわ」


 そう言うと、僕の頭をポンポンと叩いた。もう、子供扱いしないでよね。僕は、ジト目で睨んだが、タイガさんは全く気にしていないようだった。


「そちらは?」


「お爺様、彼のリュックについている旗が、見えないのかしら?」


「おお〜! あなたが伝説のポーション屋、失礼しました。ワシは現場にはあまり顔を出さないもんでな」


「私が、コペルの場所を彼に教えたのよ?」


「さすが、リリィだ」


 コペルと呼ばれた老人は、リリィさんにはメロメロなようだ。リリィさんは甘やかされた孫娘、なんだな。

 でも、冒険者をしているから、すねかじりのお嬢様というわけでもなさそうだ。



「ライトさん、どちらで参加していただけるのですか?」


「えっと、詳細も何も聞いていないのですが…」


「あー、すみません。時間がなくてお話できていませんでしたね」


 ギルマスは、そう言いつつ、タイガさんの指示を待っているようだった。


 僕が伝説のポーション屋と呼ばれたことで、さっき睨んでいた冒険者達の表情は、やわらいだ。

 どこのガキかと思ったら、伝説扱いされている奴だとわかって安心した、というところだろうか。しかし、伝説って……どんな噂なんだろう。



「ギルドの守護者は、ふたりしかおらんやんけ。どちらもクソもないやろ。テキトーに分ければええやんけ」


「はは、これは手厳しい。今朝、遭難者の救助をギルドの守護者達にお願いしたものですから、人手不足でしてね」


「いま、ライトは療養中や。特定登録者だからと無理矢理に引っ張り出した責任は、ギルマスにあるんやからな」


「えーっと、では、特定登録者として参加をお願いしますね。ギルドの守護者の指揮下に入っていただきます」


「わかりました」


「では、能力ごとに、こちらで勝手に臨時パーティを組ませていただきます。出発は1時間後に。ギルド前広場に時間厳守でお願いします」


「ノームさん、ライトは私のパーティに入れるわ。前に、約束があるのよ」


「ですが、リリィ様、魔導士は少ないので分散させたいのですが…」


「私は、黒魔導士よ? ライトは白魔導士でしょ? 役割は全く違うわよ。ギルマスのくせに何を言ってるのかしら?」


「ですが、リリィ様も回復魔法は使えるじゃないですか」


「回復役なんて、つまらないわ。そのために魔力を温存しろと言うのかしら?」


(わー、なんか、こわい…)


「はぁ、わかりました。そのように致します」


「ふん、始めから、そう言いなさいよ」



 倉庫にいた冒険者達は、タイガさんに挨拶をして、出ていった。僕は……あ、そうだ!


「ライト、おまえらの部屋は、あまりもんになるけど文句言うなよ」


「へ? なんの話ですか?」


「部屋って言うたら、アパートに決まってるやんけ。今から、部屋割りなんや。おまえ、来られへんねんからな」


「いや、それ、タイガさんが変なミッションを押し付けるからじゃないですか」


「俺は嫌いなんや、中途半端な奴らの世話は疲れる」


「はぁ。よくわからないですが、あまりものでいいです。それより、女神様にポーション持って行ってもらえませんか」


「なんで俺が、おまえのパシリせなあかんねん」


「じゃあ、僕が届けますから、交代してください」


「アホか、1時間あったらお届けもんくらいできるやろが」


「あー、まぁ、そうですけど…」


「ごちゃごちゃ言うてんと、行くで。はよ、呼べや」


(生首ワープしたいだけじゃない…)



 仕方ないか。僕達のやり取りを、職員さん達が不安そうに見ている。


 僕は、生首達を呼ぼうとしたら、もう足元に集まって来ていた。早いね…。いつものはらはら雪は、やらないのね。やはり、奴らはヘラヘラしながらも、一応、時と場所を選んでいるらしい。


 そして、僕はタイガさんと共に、女神様の城へとワープした。






「女神様は、どこにおられますか?」


「おまえ、そんな焦る必要ないやろ」


「だって、時間厳守って」


「そんなもん、気にしたら負けや。おまえが戻るまで絶対、待っとるで」


「いやいや、時間は守らないと…」


「はぁ、おまえ、真面目か」


「ライトは、真面目じゃ」


 えっ? パッと振り返ると、そこには普通に女神様がいた。


「ん? なんじゃ?」


「いえ、驚いて…」


「話は聞こえておる。時間がないのじゃろ?」


「あ、はい。っていうか、なんでその格好なんですか?」


「は? 妾は、だいたい、黄色のドレスじゃ」


「いえ、てっきり子供の姿だと思って、広場の子供チェックしてたのに…」


「ふっふっふ、ライトも、ちょろいのじゃ」


「えーっと、はい?」


「おまえ、しゃべってんとお届けもの出せや」


「あ、はい。女神様、置く場所か、魔法袋あります?」


「ふむ」


 すると、目の前に、大きな透明な台が現れた。


「ありがとうございます」



 僕は、魔法袋から、変身3種、男女逆転を2,000本、時間逆転を3,000本、新作の種族逆転を500本取り出した。


 あ、新作は、うでわに入れてなかったから、ついでに移し替えておこう。うーん、キリよく100本ずつにしようかな。

 キール風味、アレキサンダー風味を50本ずつと、新作のXYZ風味を100本、うでわのアイテムボックスへ入れた。


「リュックが、でかくなったのじゃ」


「はい、進化しました」


「ちょっと、嫌な予感がするのじゃ」


「は、はぁ…」


「ん? なんじゃこれは? 白いのじゃ。新作か?」


「あー、はい。体力と魔力の両方を10,000回復します。でも、甘くないので、女神様向きじゃないんです」


「ふむ。ライト、こんなに大量に置いていく気か?」


「だって、売れないですし…」


 大量の変身ポーションを台に出していると、人が集まってきた。


「ライトさん、それ、欲しいです」


「俺も欲しい」


 ん? なんだか、即売会だと思われている? 僕がどうしようかと戸惑っていると、女神様は、ひとりのお姉さんに声をかけた。


「セリーナ、服屋を連れてくるのじゃ。ローブと交換じゃ、闇耐性の高いのがいるのじゃ」


「ウチのでいいのですか?」


「ライトは、時間がないのじゃ」


 セリーナと呼ばれた人は、スッと消えた。その間に、女神様は、やはり、魔ポーションを自分の魔法袋へと、せっせと収納されていた。


 新作はすべて女神様の魔法袋へと入っていった。甘くないって言ったのに…。後で文句を言われそうだな。




 フヮンと空気が揺れた瞬間、オープンクローゼットのようなものが現れた。ズラリと、魔導ローブがつり下げられている。


「わっ! すごっ」


「ライトさん、はじめまして。お時間がないのですよね? 少し計測させてください」


 そう言って、突然現れた男性が、僕に手のひらを向け、やわらかい光を放った。


「あ、それ、トリガの服ですね。弾かれるので、直接触れますね。失礼します」


 そう言うと、彼は僕の手を握って再びやわらかい光を放った。この作務衣、すごいんだな。


「ん〜、このどちらかですねー」


 彼は、クリーム色のローブと、ダークグレーのローブを手に持って、僕に見せてくれた。


「クリーム色の方は、幻獣の皮を使っていますから軽くて動きやすいです。ダークグレーの方は、魔鉱石から作られたので耐久性は高いですが、少し重いかもです」


 僕は、持たせてもらうと、確かに重さが全然違う。軽い方は持っている感覚さえない。


「魔鉱石の方がよいのじゃ。ライトの深き闇が暴走すると、幻獣の皮では厳しいのじゃ」


「かしこまりました」


 服屋さんは、そう言うと、魔法を使って何かしていた。僕の方をチラチラ見ている。あ、サイズ調整だな。

 僕は、軽い方がいいって言おうとしたのに…。まぁ、暴走に耐えられないローブじゃダメか。



 そして、サイズ調整の終わった魔導ローブを受け取った。リュックを下ろし、魔導ローブを着てみた。着た瞬間は、結構ズシリとしたが、すぐに重さは感じなくなった。


「へぇ、器用ですね、ライトさん」


「えっ? 何がですか?」


「ライトは、無意識に使っておるのじゃ。だから、体力が残念なままなのじゃ」


「はい?」


「なるほど。いま、ローブの重さを軽減させるために重力魔法を使われましたよね。無意識なんですね」


「えっ? あ、そういえば軽くなりました」


「代金は、これくらいか?」


 女神様は、さっき僕が出した男女逆転2,000本と、時間逆転1,000本を台に置いていた。


「それで、金貨何枚になりますかね?」


「ん〜、11,000枚くらいじゃないかの」


「えー、せめて20,000枚は欲しいですよ」


(金貨2万枚って、200億円!?)


「ッチ、仕方ないのじゃ」


 そう言うと、女神様は、さっき収納した魔法袋から、時間逆転を900本出した。


「まいどあり〜。じゃあ、即売会を始めようかな」


 その声を待っていたとばかり、広場にいた人達が寄ってきた。そして本当に即売会が始まった。



 僕は、いつの間にか勝手にリュックを触って、ぶつくさ言っていた女神様から、リュックを返却された。


「次の進化で、魔人化するのじゃ」


「えっ!」


「それまでに、キチンと更生させるのじゃ。反抗期のまま魔人化すると、大変なのじゃ!」


「は、はぁ」


「時間ないのじゃろ? はよ、地上へ戻るのじゃ」


「あ、はい」



 僕は、リュックを背負って、足元に集まっていた生首クッションで、ロバタージュのギルド前に戻った。


(更生って……リュックくんを不良扱いして…)



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