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14、女神の城 〜 隠居者ジャックを『見る』

 僕はいま、ケーキ屋っぽい喫茶店に居る。


 女神イロハカルティア様の城にある、神族とその家族の居住区……そこにこの店はある。


 ここは地上とは別の空間にあるため、僕は自力では来れない。転移能力がないと、ここには来れないのだ。


 この居住区の住人の神族は、みな、以前は「女神のうでわ」を与えられた『落とし物』係だったという。


 そして、女神様によってこの世界に連れて来られた転生者は、すべて神族になるのだという。


 だからこの僕も、神族なのだそうだ。だけど、僕はチートではない。地上の一般的な人族よりも弱いような気がする。


 ま、もう、いいんだ。僕は、僕にできることをするしかないんだ。





「この子が、タイガさんがお世話する新人くんですか?」


「ああ、そうらしいわ〜。まぁ、同郷やからな、俺が世話するんが筋っちゅうもんやろ」


「はじめまして、ライトです。よろしくお願いします」


「あー、よろしくっす。俺、たった1年で『落とし物』係をクビになった、ジャックっす」


「ジャックさん、ですか。えっと『落とし物』係の任期がわからないのですが…」


「ライトくん、『落とし物』係に任期はないのよ〜。怪我とか病気とか、あとコワイ神々に目を付けられたりしたら、強制的に隠居よー。自分の意思での隠居もできるけど、そのときは、いろはちゃんに嫌味いっぱい言われる覚悟が必要よー」


「な、なるほど…」


「俺は、ドジ踏んで死にかけたんす。いまは自分の命を繋ぐためだけで魔力を使っちまうから、『眼』が使えなくなっちまって……強制隠居っす」


「えっ? た、大変なんですね。大丈夫なのですか? 出歩いたりして」


「日常生活には問題ないっす。魔法は使えないけど、もともと剣士なので、問題ないっす」



 僕は、ジャックさんを『見た』。


 あれ? なんか、身体の中に変な塊があるような? さらによく見ようとすると軽い頭痛に見舞われた。


 でも、これって人体の透視? ちょっとヤバイ…。

 レントゲンというよりは、もっとなんていうか……理科室にあった人体模型のような感じ。気持ち悪く 筋肉や血管が見えているんだな、これが。


 僕は、さっきの変な塊っぽい所を探す。そこだけ、なんか黒くなっていて、血が通っていないのがわかる。



「あはっ。そんなにガン見するようなもんじゃないっすよ。炭化してるだけっす」


「あ、すみません、ジロジロ見て…。えっと、治癒魔法とかで治せないのですか?」


「無理じゃ! それは呪詛をくらってやられたのじゃ。呪いは魔法では治せぬ」


「呪い…」


「普通の毒や呪いは、女神のうでわが弾き飛ばすんじゃが、キツイやつは自分で防御壁を張らねば弾けぬと、教えてあったんじゃがの」


「あはは。余裕かましてたっす」


「じゃあ、この炭化している部分を取り除けば?」


「おいおい、いくらなんでも、腹をえぐりとったら、その瞬間、死ぬだろーが。おまえ、あほか。腕や足なら、ぶった切っても、すぐ止血すりゃ、治癒魔法で再生できるけどな」


「え? 腕や足なら、再び生えるんですか?」


「回復魔法が得意なやつなら、それくらい余裕やろな」


「ひ、ひゃ〜、すごい世界…」


「ライト、おまえが考えてるような医者はおらんで。この世界に医術はないんや、外科医もおらん」


「え、お医者さんいないんですか? あ! 魔法があるから? 医学が発展しなかったのかな」


「医学も、科学も、カラオケもないんや。俺、この世界に来たとき、もう、呑むしかないと思ったわ〜」


「ヤケ酒ですか…」


「でも、呑むと、歌いたくなるしな……まぁここなら、今はカラオケあるけどな」


「えっ! カラオケ屋あるんですね」


「はぁ? スナックに決まってるやろ。ただな……電気がないんや」


「じ、じゃあ、使えないんですか?」


「いま、誰か電気、発明してくれへんかなーって期待してるんやけどな」


「なるほど…」


(なぜ、カラオケの機械だけ? どこかの国から輸入したのかな? その国から電気の技術も輸入すればいいのに)




 僕は、ジャックさんのことがやはり気になった。


 彼は、僕がタイガさんと話しているのを、楽しそうに見て、うんうんと頷いたり笑ったりしてるけど、たまに、眉をしかめてる…。


(無意識なんだろうけど、痛いんだろうな…)


 僕には、医学の知識は全くない。理科も、生物の授業は選択しなかったから、人体の仕組みも覚えていない。肝臓や、すい臓がどこにあるかもわからない。


 でも、前世での前職は、家電量販店だったけど、ドラッグストアコーナー担当だったから、薬は少しわかる。それに薬を買いに来た人に、医者に行くよう勧めるべきかもだいたいわかる。


 いまのジャックさんの状態は、大病院で精密検査を受けなきゃならないレベルだと思う。きっと、即手術になるくらい危険な状態だと思う。


(あ! もしかして、できるんじゃ?)



 僕は、さっきからずっと、僕の頭の中を覗いているに違いないイロハカルティア様の方を見た。


 目があった! やはり……覗いてらっしゃった…。


「なんじゃ? その疑いの眼差し……何を考えておる?」


「あの、僕、手術できるんじゃないですか? もしかして…」


「手術って、なんじゃ?」


「医術ですよ。おなか切って、悪い部分を取り除くんですよ」


「ライト、おぬし野蛮じゃの。腹を切るとか……タイガと同郷なだけはある」


「ん? それって、別の意味なような? 武士じゃないんですから…」


「武士って、あ、あれか! 武田とか上杉じゃな」


(わ! 戦国武将が出てきた)



「……で、話を戻したいんですけど…。僕、医学の知識はないんですけど『見える』んですよ、ジャックさんのおなかの中」


「は? ここにいる全員、見えると思うのじゃが」


「えっ? あ、そっか。この『眼』は、みんな持ってるんだ…。なら、どうして手術しないんですか?」


「ライト、それは、日本人の発想やで。ここは、剣と魔法の世界やしな…」


「タイガさん、魔法で治せない病気や怪我は、どうするんですか?」


「呪術師が、なんとかできるならなんとかするし、無理なら諦めるんや」


「もしかして……伝染病とかが発生したら?」


「発生源を消すやろな、感染者も、な」


「っ! そ、それがこの世界の常識なんですか! 僕の……ライトの村は…」


「そうや。この世界には、予防注射もワクチンもあらへん。病気を治すことに特化した薬もな。だからちょっと風邪こじらせただけで、死ぬこともよくあるんや」


「………だからって、全員、殺すなんて…」


 僕は、いま……何かが、頭の中でブチっと切れたような気がした。この世界の、人の命の軽さに、なんていうか…。


(おかしいだろ、そんなの……ありえない!)




「ライトさん、もう、そんな深刻な顔してちゃダメっすよ〜」


「あぁ、まぁそうやな。しゃーないことやからな」


「……でも…。イロハカルティア様!」


「なんじゃ?」


「僕、さっき、魔ポーションの説明、すぐに出せたんです。ここに来るまでは、魔力で説明を出すの苦労したのに、ナタリーさんに整えてもらったからですよね。さっきは触れただけで、出たんです」


「そうじゃな」


「僕、この世界の、こんな常識っておかしいと思うんです。だから試してみてもいいですか?」


「ジャックを切り刻んでもいいかと聞いておるのか?」


「へ? あ、まぁ……はい」


「本人に聞いてみるがよい」


「ってことは、お許しが出たってことですね?」



 イロハカルティア様は、プイと明後日の方を向いてしまわれた……が、却下はされていない。ということは、僕にはできる可能性があるんだ!


 僕は、ジャックさんの方を見た。ジャックさんは、ひきつった笑顔を浮かべていた…。


(だよね……そりゃビビるよね)


 でも、僕はもともと手先は器用な方だし、バーテン見習いだった。ひたすら飾りフルーツのカットをさせられてたんだ。だから、ナイフの細かな扱いには少し自信がある。


「あの、ナイフないですか? 出来れば、小振りな」


「こんな感じか?」


 タイガさんが出してくれたのは、サバイバルナイフのような、ゴツイやつ…。無理だ、タイガさんって元日本人なのに手術用のメスを知らないのかな? ドラマ見ないタイプ?


「いえ、もっと小さな、手術用のメスに使いたいんですけど…。フルーツナイフとか、ないですか?」


「あ? 店の厨房に聞いてみればあるんちゃう?」


「おぉ〜、確かに! 聞いてきます」


 僕は、厨房に走って行った。そして、フルーツナイフを貸してほしいと頼んだ。


 何に使うのかと問われたけど、ちょっと試したいことがあるとしか言えなかった。しばらくして、1本貸してくれた。


 僕は、その厨房の奥の、金属製の保管庫の前の場所を少し貸してほしいと頼んだ。

 ここなら邪魔にならなさそうだし、何か飛ばしてしまっても、あの金属製のドアは頑丈そうだ。


 不思議そうにされながらも、許可をもらえた。たぶん、僕がイロハカルティア様の連れだから、だよね。




 僕は、自分の能力を確認する必要があった。


 ナタリーさんにマナの流れを整えてもらい、女神様に、なんか教えこまれたんだ。ここに来る前とは何かが違うはず。もちろん過信はしない。人の命に関わることなんだから。


 僕は目を閉じて、頭の中を整理する。あの炭化している部分を取り出すためには…。


 まず、腹を切って、そして炭化した部分をまわりから切断して、取り出す。


 きっと、出血すごいことになるだろうな…。でも、と、以前見た医療ドラマを思い出す。


 太い血管を傷つけなければ大丈夫なはず! それから、クリップみたいなやつであちこち止めたりしてたな。あと、もし神経とか切ってしまったら…。


 あ、でも腕も足もぶった切っても再生できる魔法があるんだっけ? 女神様なら絶対できるはず。取り出したあとの部分の再生も、魔法でできるはずだ。


 とすれば、僕は、なるべく出血を抑えて、切り取って、取り出せばいい。

 ってことは、止血は、その部分を凍らせるとかかな。洗い流す水もいる。ナイフの消毒は火だな。



 僕は、手のひらを上にして、必要な魔法を試してみる。


 火をイメージする……頭の中に読めない文字が浮かび、ポッと、ライターのような火が出た!

 水をイメージする……また頭の中に読めない文字が浮かび、チョロチョロと、公園の水飲み場のような水が出た!

 これを凍らせたい……氷をイメージする…頭の中に読めない文字が浮かんだ、が……えっ? 水で濡れた手のひらが凍った。痛っ!


 でも、使いたい魔法は使えた。どれも、驚くほどしょぼいけど……手術するには充分だ。


 あ! 出血した血の吸引とかしてたな、ドラマで。

 そんな掃除機のような魔法ってあるのかな?

 あ! また頭の中に読めない文字が浮かび……風が起こった、ブワァ〜……なんていうか、ドライヤー弱冷って感じ。


(風は、手術には使えないか…)


 とりあえず、僕の準備は整った。



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