139、ロバタージュ 〜 ステイタス(D)
「ライトさん、新しい登録者カードができました」
「ありがとうございます」
登録者カードの顔写真の横には、やはりデカデカと、特定登録者のマークがついていた。顔写真、また目をつぶってるじゃん…。
「あの、本日大規模なイベントがありますので、武器防具屋と、魔道具屋が何人か集まってきているんですよ。ライトさんもいかがですか?」
「ん? えーっと、はい?」
「あ、もしかして、何も聞いておられませんか?」
「はい、タイガさん自身も、よくわかってないみたいでしたし…」
「またですか。興味ないことはすぐ忘れてしまわれるんですよね…」
「ははっ、ですよね」
「詳細は、おそらくギルマスが説明すると思いますが、先週から、新人のフリーミッションが始まったんです」
「新人?」
「はい、各種学校を卒業した子供達が、卒業と同時にギルド登録をしたのですが、その一斉教習のような感じです。父兄同伴で、初めてのミッションに挑戦するイベントなのです」
「なんだか過保護な感じですね。父兄同伴って」
「ですよね、そもそも学校に通うのは、貴族か商会の子供達だけです。金持ちばかりなんですよ。その中で優れた者は、警備隊や王宮勤めをしますからね」
「えっ? ということは…」
「はい、このイベント参加者は、甘やかされて育った親のすねかじりが大半です」
「だから、父兄同伴なんですね」
「そうなんです。あ、話がそれてしまいました。ライトさんもいかがですか? 3階の大会議室が、いま、仮設店舗になっています」
「あ、そうですね。魔導ローブをダメにしちゃったから、買おうかな?」
「えっ? あ、いえ、違うんです」
「ん?」
「あの、ライトさんも、仮設店舗を使われてはいかがかと思いまして」
「え? でも、ここで話があるみたいで…」
「それは大丈夫です。売り子のバイト志願者がたくさんいますから、職員に商品説明をして預けていただければ、責任を持って、販売します」
「なるほど〜。新人冒険者には、ポーションがあると安心ですもんね」
「父兄は、お金持ってますからね。このイベント時は儲かりますから、商売人は仮設店舗の予約に必死なんですよ」
「え? 僕、予約してないですよ?」
「ライトさんは、コペルの行商人ですから、予約なんていりませんよ。このイベントを取り仕切っているのはコペル大商会ですから」
「そうなんですね」
「あ、担当の者を連れてきますね、少しお待ちください」
「え? あ、はい」
僕は、まだやるとは言ってないのに、話がどんどん進んでいった。もしかしたら、出店させろと言われていたのかもしれないな。
僕は、その間に、受け取った登録者カードを確認することにした。
迷宮で、魔力切れどころか、生命エネルギーまで空っぽ寸前の状態になったから、魔力値は上がっているだろうな。前にも魔力切れで倒れた後は、随分上がったもんね。
僕は、顔写真のところに触れて、ステイタスを表示した。
[名前] ライト
[ランク] D
[HP:体力] 1,010
[MP:魔力] 25,600
[物理攻撃力] 60
[物理防御力] 220
[魔法攻撃力] 30
[魔法防御力] 7,500
[回復魔法力] 89,700
[補助魔法力] 24,100
[魔法適正] 火 水 風 土 他
おっ! 体力1,000超えた〜! やった〜
と言っても、1,000が、普通の人族の基準値だったよね。他のは、100が基準値だったけど。
僕は神族だから、体力、魔力以外の値は、本来の約半分の値になるんだっけ。
魔力、魔法防御力、補助魔法力が、約3倍かな。回復魔法力は2倍ちょいか。他は微増…。攻撃力って全然上がらないよね、ほんとに…。もう、期待するのは辞めよう。
前回の測定から、4ヶ月以上時間が経つから、まぁ、こんなもんかなぁ?
相変わらず物理防御力は冒険者としては低い。ずっとバリア張ってるから、上がらないってタイガさんが言ってたっけ? でも魔法防御力は上がってるんだよね。よくわからないな……ま、いっか。
「私にも見せていただけますか」
いきなり、僕の背後から、嫌な声が聞こえた。
「ノームさん、わざわざカードを見なくても、ギルドのデータで見れるって言ってませんでした?」
「いいじゃないですか。データが私の手元に届くのは、数日後になるのですよ」
「数日くらい待てばいいじゃないですか」
「おまえ、また、残念やったんか」
いつの間にか、タイガさんも寄ってきていた。ふふん、体力1,000超えたんだからねっ!
僕は、タイガさんに、登録者カードを渡した。タイガさんは、僕の顔をチラッと見たあと、カードに目を落とした。
「はぁ……おまえ、そのドヤ顔は、体力か?」
(えっ? 僕、ドヤ顔した?)
「ふっふっふ、1,000超えましたからね!」
「あのなー、最低でも3,000ないと、お話にならんって前に教えんかったか?」
「えーっと、そうでしたっけ」
「はぁ、あんな死にかけても、これくらいしか伸びへんのか……どないすんねん。困ったな、全然あかんやんけ」
「仕方ないじゃないですかー。それに、別にタイガさんが困ることないじゃないですか」
「アホか。おまえが体力3,000超えるまで、俺はおまえの世話係せなあかんねや」
「えっ?」
「はぁ、山にでもこもるか? あと5〜6回は、死にかけなあかんのちゃうか」
「うーん」
「はぁ……なんとかせーや」
「どうすればいいんですかー」
「そんなもん、知らんわ」
「あの、私も気になるんですけどね、ギルマスとして」
ノームさん、しつこいなぁ…。見せるまで引き下がらないような気がした。タイガさんも、邪魔くさそうにしていたが、僕をチラ見したあと、持っていたカードをノームさんに見せた。
「えっ! ちょっとこれは…」
「体力、全然あかんやろ。ほんま、知らんわ」
「タイガさん、下の方を見てないですよね。回復魔法力と補助魔法力、異常値ですよ。どうやってこんな数値に…」
「そればっかり使ってるから、体力上がらんねや」
「もう多少のことには驚かなくなりましたが、回復魔法力20,000で、すべての回復魔法は使えます。だからそこから先は、そう上がらないはずなのになぜ?」
「ライトは、ポーション作っとるからな」
「なるほど。じゃあ、補助魔法力は? 10,000を超える人なんて、まずいません。20,000超えだなんて、広域バリア展開できるほどの能力じゃないですか」
「ライトは、ビビりやから、いつもバリア張っとるからや」
「広域バリアってなんですか?」
「エリアにバリア張るんや。おまえ、水のカーテンみたいなやつ気に入っとるんやろ? あれや」
「水のカーテン? あ、トリガで木に張った水のバリア?」
「知らん。ババアが水のカーテンって言うとっただけや」
「はぁ」
そこに、さっきの職員さんが、3人の人を連れて戻ってきた。ひとりは担当の職員さん、あとのふたりは売り子のバイトのようだった。
ギルマスが、急に気持ち悪い笑顔をはりつけている。本人には自覚はないのだろうか。
(キモい…)
「ライトさん、仮設店舗を使ってくださるのですね」
「ノーム、おまえ、その顔キモいで。悪代官、顔負けやで」
(タイガさん、時代劇好きなのかな)
「悪代官? ってなんですか?」
「まぁええ、おまえ、ライトのポーションを出店させたら、なんぼ入るんや?」
「何のことでしょう?」
「貴族からのワイロや。ポーションを欲しがる貴族が多いから、今回、コペルに仕切らせとんねやろ」
「なんだか、私が悪いことを考えているようではないですか」
「おまえ、いつも、自分の利益しか考えてへんやないけ」
「そんなことないですよ。これから冒険者となる新人さん達にとって、ポーションは大事なアイテムになりますからね」
「ポーションなんて、どこにでも売ってるやんけ」
「飲みにくい味のものを、子供達に買い与えたくないとおっしゃいましてね」
「僕も行商人ですから、買ってもらえるのはありがたいです。どれくらいの数が必要ですか?」
僕がそう言うと、担当の職員さんがすかさず口を開いた。
「可能な限りお願いします!」
「え? えーっと、お客さんは何人くらい来られていますか」
「いま、仮設店舗の3階には、20名ほどおられます」
「じゃあ100本くらいでいいですか?」
「えっと、フリーミッションの本日の参加者は新人150人ほどなのです」
「えっと、100本では少ない?」
「はい。ギルドの冒険者も欲しがると思いますから…」
「うーん、じゃあ…」
僕は、魔法袋の中から、モヒート風味の10%回復ポーションを100本、カシスオレンジ風味の火無効付き1,000回復ポーションを500本出した。
「あの、クリアポーションは?」
うーん、あまり出したくなかったけど、パナシェ風味のクリアポーションを100本出した。
「ありがとうございます! 火無効付きの固定値回復は、新人冒険者にピッタリですね」
「えーっと、それは、もう少し出せということですか?」
「できれば、あと、300本、いや、支払いのキリがよい400本、お願いしたいです」
僕は、あと400本、火無効付きを出した。
すると、先に精算しておくとのことで、ポーション銀貨1枚×1,000本、クリアポーション銀貨50枚×100本、これを合計して、金貨60枚を渡された。
あ、クリアポーション、病人以外の通常査定額だ。
「あの、売り子のバイト代は?」
「それは、ギルドで負担しますから大丈夫です」
「おい、あまり無茶苦茶な値段で売るなよ?」
「はい、規定通り、仕入れ値の2倍で売りますから」
「そーか」
なんだか、これって、ギルドが儲かる仕組みじゃん。まぁ、いいけど…。
職員さんはポーションを魔法袋に入れ、売り子のバイトを連れて出て行った。
商品説明のために、バイトを連れてきたんじゃないのかな? まぁ、ラベル見ればわかるか。
「さて、ライトさん、本題に入りますが、フリーミッションのお手伝いをしていただけますよね?」
「僕、まだ、完治してないですよ? ノームさん」
「完治を待っていたら、年単位の時間がかかるじゃないですか。闇を使わなければ、大丈夫なはずですよね?」
「まぁ、そうですが…」
「ライトさんは、特定登録者ですから、私の依頼は原則、断れないですよ?」
(はぁ、嫌な言い方…)
「おまえ、それ、脅しとるんか? ライトの闇は不安定やって教えたやろ? 知らんで。おまえ、ライトの深き闇に包まれるだけで、行動不能になるで」
「えっ、あ、申しわけありません」
ギルマスが珍しく、本気で謝った。
なんだか、僕、危険物扱いだよね。だから、さっきもギルド内が静まり返ったのかな。
「まぁ、今回は、ライトを参加させるけどな。あくまでも、白魔導士としてやで」
「どちらで参加していただけるのですか?」
「それは、メンツを見てからやな。俺は参加せーへんし」
「えっ? お話が違いますよ」
「俺は、この後、用事できたんや」
(……タイガさん、僕に押し付けて、逃げる気だよね)




