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136、イーシアの森 〜 伝説が気になる彼女

 ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……はぁ〜


 いま僕は、イーシア湖の草原で、薬草を摘んでいる。僕が昼寝している間に、リュックくんが進化していたんだ。普通に念話できるようになって嬉しいんだけど、ちょっとスパルタなんだよね。


 それに、めちゃくちゃ上から目線だし…。


 でも、女神様が魔力で作り出した分身だと聞いたから、上から目線な理由もわかった気がする。

 進化して別人格になったって言うけど、もともと分身なら似てるよね、性格。


 ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……疲れたな〜


 しかし、アトラ様、遅いなぁ。もしかして、また捕まってたりして…。なんてことは、ないよね。


 ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……あれ?



 僕は、イーシアの森の一部から、空に向かって何かが立ち昇っていることに気づいた。木が燃えているわけでもなさそうだ。


 ゆらゆらと、景色がにじんでいるような幻想的な煙のような……ん? 幻想的?



 僕は、もしやと思い、その煙のようなものが立ち昇っているあたりを『見て』みた。

 たくさんの冒険者がいる。みな、腰ほどの丈の草を刈っているようだった。あれが幻惑草かな。


 刈り取られた草は、冒険者によって扱いが異なっているようだった。刈ってどんどん袋に入れる人がほとんどだが、刈ってそのまま放置している人もいる。


 そして、煙のようなものの出所を探すと、刈り取られた草の山から出ていることがわかった。その草の山の周りでは、たくさんの冒険者が……踊っている? 錯乱しているのかな? 様子がおかしい。


 ということは、あの立ち昇っている煙のようなものは、幻惑草が出している霧?


(まずいんじゃ……アトラ様はどこに?)


 僕は、そのあたりを『見て』みたが、アトラ様はいない。もしかして、ほんとに捕まってるとか?



 見つけられないなと思っていたら、頭の中に映像が流れてきた。ん? どこだ? 森の中だけど、腰の丈の草は生えていないし、霧のようなものもない。映像がそのまわりを映していった。あ、蟻か…。


 僕は、フルでバリアをかけた。そして、アトラ様のところへ運んでほしいと考えた。すると足元にサッと生首達が現れた。

 コイツら、やっぱ人目がないと、はらはら雪はやらないんだね。というか、急ぎだとわかっているのかもしれない。


 僕は、生首達のクッションに乗り、アトラ様の近くにワープした。




「ご無事ですか?」


 僕は、アトラ様に声をかけた。まわりの状況はよくわからない。ただ、アトラ様は今は青き大狼の姿だ。

 そして冒険者らしき人達が、3グループ、15人程度いた。みんな、巨大な蟻と対峙している。


「ライト、コイツら錯乱してるの」


「原因は、あの霧ですか」


 僕は、アトラ様にバリアをフル装備でかけた。そして、アトラ様の体力を回復!した。


「ありがとう。うーん、ここは少し離れてるから影響ないと思うんだけどな」


「冒険者が刈り取った草の山から、妙な煙のようなものが空に向かって立ち昇っているんです」


「えっ? どこ?」


 僕は、幻想的なゆらゆらしたものが立ち昇っている方角を指し示した。あ、ゆらゆら煙の筋が太くなっている。


「あー、あれだね。森を覆いそうな勢いだね、背の高い生き物が霧でやられたか」


 幻想草の霧は、上の方に溜まる性質があるようだ。巨大な蟻は、上の方の空気を吸うから先にやられたんだな。

 でも、このまま覆い尽くされたら霧は下の方へも広がってくるかもしれない。まずいよね、これ。


 あ! そうだ! 僕は迷宮でやったポーションの使い方を思い出し、魔法袋から、クリアポーションを出した。


「これを蟻に投げつけてもらえませんか?」


「ん? 投げつけるの? 割れちゃうよ?」


「それでいいんです。これで解除できればいいのですけど」


 僕がそう言うと、アトラ様は人の姿に戻った。そして、僕から受け取った小瓶を巨大蟻に投げつけた。


 パリン!


 巨大蟻の頭に命中し、小瓶は割れた。すると、狂ったように暴れていた蟻が、動きを止めた。そしてアトラ様の姿を見つけると、驚き、逃げ出したんだ。


「へぇ、ライトおもしろいね、こんな使い方あるんだ」


「はい、リュックくんが教えてくれました」


「リュックくん、かしこいね」


「はい、かしこいんです」



 この様子を見ていた他の冒険者達が、僕達の方へと移動してきた。まだ、暴れている蟻は5〜6体いる。


「やはり、守護獣アトラか」


「呼び捨て? 感じわるいよー」


「ばか! 申し訳ありません、アトラ様。あの今の魔法は?」


「魔法じゃないよ、ポーションだよ。ライト、この人達にも手伝ってもらおう」


「はい、そうですね」


 僕は、クリアポーションを冒険者に1本ずつ配った。


「これを、蟻に投げつけてください。瓶が割れるくらい、おもいっきり」


「頭か、それが無理なら上半身を狙ってー」


「えっ? ポーション?」


「はい、クリアポーションです。奴らは正気に戻れば、アトラ様を怖がって逃げますから」


「わ、わかった」


 冒険者達は、次々と蟻にポーションを投げつけ、正気に戻していった。

 みな、正気に戻るとアトラ様を見て逃げ出す。なんだか、それがコントのようで面白かった。


「ライト、冒険者にもうちょっと配って。あの霧を消すまでは錯乱した奴が現れるよ」


「わかりました」


 僕は、クリアポーションを冒険者達に2本ずつ渡した。なんだかんだで40本くらい使ったかな?


「暴れている巨大蟻を見つけたら、投げつけてください。それからもし、錯乱した人を見つけたら飲ませてください」


「おう、わかった!」


「これ、楽しい」


「ねぇ、ライトって、あのライトだよね? 伝説のポーション屋」


(伝説のポーション屋? なにそれ)


「ポーション屋ですけど、伝説?の人じゃないと思います」


「でも、コペルの旗だし、間違いないよ、ね」


「ほんとだ、コペルの旗だから間違いない。あ、パワー切れでどこかで療養してるんだよな? だから、噂が本人に伝わってないんじゃないか?」


「人族の枠から外れる噂がたくさんあって、どんどん伝説級になってきてるんだよ」


「まぁ、噂だから、話は大げさに伝わってくんだろうけどね。見た感じ、普通の子だし」


「だよな。噂どおりなら、化け物だもんな」


(えー、どんな噂? やだな〜)


「ポーションがすごいのは、確認できたね」


「魔導ローブも持ってなさそうだな。そんなに貧乏なのか? 魔導ローブが買えるように、ポーションの宣伝しておいてやるよ」


「うん、私も宣伝しておいてあげるよ」


「ふふっ、ありがとうございます。助かります」


「じゃあ、ライト、あっちの霧の元を片付けに行くよー」


「あ、はい。では、皆さん、蟻のことよろしくお願いします」


「おう、任せろ〜」


「うんうん、任せろーっ」


「正気に戻れば、あたしが居なくても、むやみに襲ってこないはずだよ。よろしくねー」


「はい、了解です!」




 僕達は、冒険者達と別れ、煙の筋の方へと向かった。さっきより、さらに煙の筋は太くなっているようだった。


「冒険者も、たくさんいると、こういうことが起こっちゃうのよねー」


「ん?」


「ギルドは、刈り取った草は、すぐに魔法袋に入れるように指示しているはずだよ。でも邪魔くさいから、後でまとめてやろうとした人が、この空気汚染を作り出しちゃったのね」


「あー、なるほど。いちいち袋に入れる人の方が多いように見えましたが、確かに面倒くさいですね」


「危険だとわかってる人は、キチンと指示に従ってるはずだよー。ほんと、冒険者の質はバラツキ激しいんだよね」


「刈り取った草が危険だとは、なかなかイメージできないですもんね」


「そういえば、リュックくん、なんだか長くなったね」


「はい、進化して、普通に会話ができるようになったんです」


「ん? 前から、話せるんじゃなかったっけ?」


「前は、一言だけの、単語くらいだったんですが、今は普通に、文章で会話できるんですよ」


「へぇ、じゃあ、ほんとに賢いんだ。知能がかなり上がったんだよ。やっぱ、魔人化しそうだね、楽しみー」


「でも、かなり上から目線というか……このままの性格で魔人化したら、ちょっと生意気すぎるアダンみたいになってしまいそうです」


「あはは、あの闇竜くんね。確かに生意気だけど、口と頭の中は違う気がするよー」


「ん?」


「口は悪いけど、やることはキチンとやってるし、案外まじめかもだよ?」


「へぇ、そんな一面もあるんですね。僕に対しては、おもいっきりライバル視してますけど」


「ふふっ、尊敬してるんじゃない? 素直じゃないのよー」


「そうでしょうか?」


「うんうん」



 そして、僕達は、妙な煙の立ち昇る場所のすぐ近くにたどり着いた。そこには、真面目に草刈りをしていた冒険者達が、とろんとした顔で座り込んだり、木にもたれかかったりしていた。


「近くにいる人達は、霧にやられてるね」


「アトラ様は大丈夫ですか」


「ふふっ、守護獣はそのテリトリーにいるときは、強いんだよ? 状態異常にも、かからないんだー」


「そうなんですね、頼りにしてます」


「うん、いいよー」


 僕は、冒険者達にクリアポーションを飲ませていった。中には1本では効かない人もいた。かなり霧を吸い込んだのかな。


「助かったよ、あんた、もしかして伝説のポーション屋じゃないのか?」


「えーっと、ポーション屋ですが…。伝説って、ただの噂みたいですよ?」


「ねー、どんな噂なのー?」


「ひっ! まさか守護獣アトラ?」


「また〜。なんで冒険者はすぐ呼び捨てにするのよー、感じわるーい」


「あ、す、すみません、アトラ様」


「アトラ様、体調の悪い人ですから、ほどほどにしてあげてくださいね」


「ふふっ、ライトに叱られちゃった〜」


「えっ、あの……アトラ様、伝説のポーション屋さんと親しいのですね」


「うん、まぁね。で、どんな伝説?」


「アトラ様、それよりあの霧をなんとかするのが先ですよ」


「えー、気になるのに」


「霧が広がってしまいます」


「うーん……ライトに任せるよー」


「へ? 僕?」


「うん、あたし、噂話を聞きたいからー」


「えっ! ちょ、ちょっと〜」


「リュックくんがサポートしてくれるなら、心配いらないよね。サクッと片付けたら、伝説が増えるかもだよー」


「増えなくていいんですけど…」


「で、伝説って何? 教えてー」


 アトラ様は、冒険者の人達を相手に、噂話の聞き取り調査を始めてしまった。


(えー、変な噂は、聞かないでほしいのに〜)


 僕は仕方なく、アトラ様から少し離れ、霧が立ち昇る、刈り取られた草の山へと、移動した。


 はぁ、まるで干し草の山のようになっているな。刈ってすぐに、こんな水分が抜けたようになるんだろうか? もしくは、霧を放出したから、抜けがらになっているのかな?


(さて、どうしようかなー)


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