135、イーシア湖 〜 リュックの第2進化
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いま僕は、イーシア湖で水汲みと薬草摘みをしている。
トリガの里からイーシアへ、アトラ様と一緒に来たんだけど、彼女は誰かに呼ばれて、森の中へと入って行ってしまった。
だから、僕はいま一人なんだ。と言っても、リュックくんがいるから、話し相手はいるんだけどね。
それから、さっきリュックから、出来ていたポーションをすべて魔法袋に入れ替えたんだ。
いったん、ダンジョン産の魔法袋に入れて数を数えたんだ。これ、やっぱ、めちゃくちゃ便利だ。
そして、売り物3種と、女神様に交換してもらった1,000回復魔ポーションは、いつもの魔法袋に戻した。
たぶん種類ごとに分かれて収納できていると思う。小さい魔法袋2つには、モヒート風味とカシスオレンジ風味、ごちゃまぜ魔法袋にはパナシェ風味が入ってるみたいだ。
ダンジョン産の魔法袋は、うでわの中に入れておいた。これ自体が高価だから、腰に下げていると面倒に巻き込まれると、魔道具屋の爺さんから注意されていたんだ。
水汲みは、やっぱまだ疲れるよね。薬草摘みメインにしよう。夜寝るのはいいとして、疲れやすいのはなんとかしたいなぁ。暴走からもう3ヶ月以上になるのに…。
ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……いい天気〜
(イーシア湖って、雨降らないのかな)
ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……風も気持ちいい〜
(幻惑草の霧って、風に流されるのかな)
ぷちぷち、ぷちぷち、ぷちぷち……ちょっと眠い…
(ちょっと昼寝しようかな)
僕は、急に眠くなり、草原にゴロンと寝転んだ。いつも昼寝するときのように、リュックを枕にして、僕はスーっと眠りに落ちた。
『おい、いつも重いんだけど』
ん? 誰かが話しかけてくる? 夢? スースー
『昼寝用の枕、買えばいいだろ? なんでオレを枕にするんだよ』
ん? 枕? 何? スースー
『はぁ、ったく、起きる気しねーな』
ん? 誰? 耳元でうるさいなー。ん? 違う、あれ?
僕は、なんだか違和感を感じて目が覚めた。起き上がり、まわりを見渡しても誰もいない。あれ? やっぱ、夢?
再び、寝転がろうとして、違和感の原因がわかった。リュックが大きくなっていたんだ。
と言っても化け物みたいなサイズではない。登山用に使うような、縦長になっていたんだ。
ポケットも増えていた。コペルの旗と、ポーション印は、横ポケットの下の方に付いていた。
(えっ? リュックくん、大きくなった?)
『あぁ、おまえが寝てる間に、進化してみたんだよ』
(わ! すごい! 普通に話せるようになったんだ)
『話せるってわけじゃねーぞ。おまえと念話しかできねー』
(あ、うん、でも単語じゃなくて、文章で念話できるなんて、すごいよ!)
『ふっ、まぁな』
(あー、それそれ! いつも、そんな感じだったもんね)
『おまえ、はしゃぎすぎだろ』
(だって、びっくりしたし〜)
『ふっ、昼寝ばっかしてねーで、水汲みしろよ。水あまり余裕ねーぞ』
(えっ? そうなの?)
『おまえ、薬草ばっか摘みすぎ。何も考えてねーだろ』
(いや、水汲みは疲れてくるからさー)
『ごちゃごちゃ言ってないで、湖に行けって』
(うわぁ、リュックくん、こわい)
『はぁ? オレは、おまえの方がよっぽど怖いと思うけどな』
(そんなこと、ないでしょ…)
僕は、リュックくんに急かされ、湖のほとりに移動した。そして、リュックを開け、中から水汲み用のボトルを取り出そうとした。あれ? ない。
(リュックくん、ボトル出してよ。水汲みできないじゃん)
『ホースあるだろーが。いま持ってるふたのとこに』
ん? 僕は手をどけてみた。すると、リュックの開け口を覆うカバーの部分に、ホースの金具のようなものが見えた。
それを引っ張ると、むにゅーっと伸びてきた。ガムを伸ばしてるみたいに、むにゅーだ。
(これでいいの?)
『もっと伸びるだろ? 伸ばして、湖の中に放り込めよ』
(えっ? うん、わかった)
僕は、さらに引っ張ると、ホースはさらに、むにゅーっと伸びた。そのホースの口を湖にそっと入れた。金具の重さで少し沈んで止まった。
『背負って。魔力が吸えない』
(あ、うん、了解)
リュックを背負うと、背中からグィッと引っ張られる感覚があった。魔力を吸収したのかな。
僕は、背負ったまま湖面に目を移すと、ホースが脈打つように揺れていることに気づいた。
(え? リュックくん、ホースで水を汲んでるの?)
『それ以外にホースの使い途があるのかよ?』
(あ、いや。ちょっとびっくりして。自動汲み上げ装置が搭載されたんだね)
『はぁ? おまえの魔力を使って、湖から水を汲んでいるだけだぜ? なんか、大げさじゃねーの?』
(そうかな? 画期的だよ。水汲みって、かなり重労働だったんだよねー)
『薬草摘みの方が圧倒的に、時間かかるじゃねーか』
(まぁ、薬草摘みは嫌いじゃないからね)
『ふぅん、変なやつ』
そう話をしている間にも、リュックは休まずどんどん水を汲んでいた。めちゃくちゃ楽になった。進化バンザイ!
しかし、汲みすぎじゃないの? 僕は、汲みすぎで湖の湖面が下がってしまうのではないかと、少し不安になった。
あ、もしかしたら、汲みすぎで精霊イーシア様に叱られるかもしれない。
『おまえ、いつも、変なことばっかり考えてるよな』
(ん? そんなことないと思う)
『オレ、たまに腹立ってくるんだよねー。うじうじしてんじゃねーぞってな』
(え? あ、はい、すみません…)
『おまえ、主人としての自覚が足りねーんだよ。魔道具に気ぃ遣ってどーすんだ?』
(はぁ、うん、まぁね)
『おまえがそんな調子だから、オレがあれこれ世話しなきゃならねーじゃねーか』
(えっ? あ、うん、ホースも助かったよー)
『はぁ……怒っても、張り合いがねーな』
(うーん、そう? ってか、怒らないでよ)
『はいはい。あ、もう水汲み終わったから、片付けて』
(はーい。リュックの中に、ホースを入れればいいの?)
『湖から引っこ抜いて、持ってりゃいいよ』
(わかった〜)
僕は、湖に沈んでいたホースを手に、ホースの口の金具部分を湖から引き上げた。そして、リュックを下ろし、ホースが繋がっているカバーの部分を開けた。
すると、ホース部分がどんどん縮んでいったんだ。さっき、むにゅーっと伸ばした部分が、どんどん元に戻っていったという感じ。
(すごい、コンパクトにまとまるんだね)
『伸ばしたものを縮めただけなんだけど…。驚くことじゃねーだろ』
(伸ばす前の、元の状態に戻ってるからすごいんだよー)
『ふぅん、あっそ』
(あと、足りない素材は、何かわかる?)
『水以外すべて』
(えー、さっき、薬草摘みばっかりって言ってたじゃん。薬草も足りないの?)
『おまえな、オレが進化したってこと、覚えてるよな?』
(あ、うん、もちろん。前ならこんな風に話せなかったもんね。で? 進化したからどうなったの?)
『作りたいものが少しは作れるようになったんだよ。でも、素材がぜんぜん足りねー』
(えっ? XYZで終わりじゃないの? まだ種類を増やす気?)
『前のオレなら、あれが最終の限界だったんだよ。女神からのオーダーもあるしな。作らねーと、不良品として処分する気だぜ?』
(ん? どんなオーダー?)
『30%回復作れって言ってたな。魔ポーション作るのにどんだけエネルギーいるか、わかってねーんだよ』
(魔ポーションで30%回復あれば、女神様はすごく助かるだろうね。でもエネルギーかぁ)
『おまえの闇をエネルギーに転換して使ってるけどな、やっぱ、魔力も必要だしなー』
(すごい、闇をエネルギーに変えれるんだ!)
『はぁ? おまえなに寝ぼけてんだよ。闇をエネルギーに変えるのは、おまえの能力じゃねーか』
(え? あ、そっか、暴走……あれ、闇をエネルギーに変えてるんだっけ)
『無意識のうちにやってて、気づいてねーんだろうけど、おまえ、かなりヤバイことやってんぞ』
(そうかな? だからエネルギー切れで倒れたんだよね)
『おまえの闇は、生き物だからな』
(ん? あ、元の身体の持ち主のこと?)
『両方だよ、ふたつの闇はそれぞれ生きてるんだよ。バランスが崩れると、一方が相手を食っちまうぞ。そうなるとそのまま闇に食われるぞ、おまえ自身も、オレも』
(あー消滅だよね。ふたつの闇は、仲悪いの?)
『そんなもん、知らねー。共存しようとはしているみたいだな、どっちも。おまえ自身を食っちまったら、闇は器を失うことになるからな』
(そっか、じゃあ仲が悪いわけじゃないね)
『はぁ、おまえの発想はガキか。そんな調子だから、おまえの闇は、あれだけ暴走させても元の器に戻ったのかもしれんけど』
(ん? どういうこと?)
『おまえの闇だから、おまえに似てるって言ってんだよ。普通なら大暴走したら、そのまま食い尽くすはずだぜ』
(似てる?)
『おまえが無欲だから、おまえの闇も支配欲があんまりないんじゃねーの?』
(えっと、闇に、支配欲があるの?)
『当たり前だろ。すべてを奪い、すべてを無にするのが、闇の持つ野望であり、支配欲だよ』
(えっ? 野望? 意思を持つの?)
『だーかーらー、生き物だって教えただろーが』
(あ、そっか。じゃあ、暴走して僕が消滅してしまったら、僕の闇はそれで野望達成?)
『おまえ、頭悪いだろ。すべてを奪い、すべてを無にするんだよ。器を失えば、闇は理性も知性も失う。主人を失ったおまえの深き闇は、すべてを無に変えていくぞ』
(ん? すべてって?)
『この星の生き物すべてを、それが終われば近くの星も、さらにその周りの星も……闇は闇を食い、さらに闇を広げようとするんだよ』
(えっ…)
『だが、おまえの闇は、それを望んではいない。おまえに似てるからな。しかし、おまえが消滅すると、器を失った深き闇は、理性も知性も失い、ただすべてを無に変え続ける化け物になるんだよ』
(化け物…)
『そういう可能性があるものを、女神が作り出しちまったんだよ。背に腹はかえられんかったらしいけどな』
(じゃあ、もし僕が闇にのまれて消滅したら、大変なことに…)
『あぁ、だからおまえ、隔離されてるじゃねーか。それに常に監視がついてる。何かあれば、闇が広がる前にその闇を消し去らないと、取り返しがつかなくなるからな』
(ッ……もしかして僕が街に戻れないのは、それが理由? ってなんでリュックくん、そんなこと知ってるの?)
『オレは、女神の魔力で作り出された分身だからな。進化することで、別人格を得たけどな』
(あっ、そっか…。女神様が作ったんだった。ん? 分身なの?)
『もう今は、女神とは別人格だがな。進化していないときは、ただの分身だった。あの変な猫みたいなやつと同じだよ』
(あー、あの猫ね。っぷぷ、ほんとに別人格なんだね)
『はぁ? 猫で、なに納得してんだよ』
(だって、女神様なら、変な猫とは言わないでしょ。あれ、自信作みたいだから)
『ふっ、確かにな。ってか、おまえ、薬草摘みヤル気ねーの?』
(えっ? あ、やります…)
『じゃあ、オレは生産に入るし、邪魔すんなよ』
(うん、わかった)
『じゃあな』
(……リュックくん、スパルタすぎる)
僕は、再び、ぷちぷちと薬草を摘み始めた。