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132、女神の城 〜 子供達の笑顔

 いま僕は、居住区のタイガさんの家にいるんだ。

 と言っても、タイガさんは出掛けているようで、僕が目を覚ましたときには、いなかったんだけど…。


 僕が起きたとき、すぐそばには、この家のペットなのか、シャルと呼ばれる白虎がいたんだ。僕は、その白虎と一緒にソファで眠っていたようなんだ。


 なぜか顔をなめられて、べちゃべちゃにされたんだけど、この行動は、自分の子供にするようなことらしいんだ。僕は、なんだか複雑な気分だった。


 そして今、タイガさんの奥さんの手料理をご馳走になっている。コンビニのバイトのお姉さんふたりの食事休憩に、僕もお邪魔した形になっているんだ。

 なぜか僕は性別を聞かれ、なぜかかわいいと言われ、これもなんだか複雑な気分になったんだ。



「ごちそうさまでした」


「お口に合ったかしらね? ウチのバカは、私の料理は味気ないって文句ばかり言うのよー」


「優しい味で、美味しかったです。地上の普通の店より、圧倒的に美味しいです」


「そうかい? よかったよ。あ、店の裏のアパートに入居するんだってね」


「それ、なんだか勝手に決まってしまっていて…」


「はぁ、やっぱりね。ジャックさんも入居させるみたいなんだよ。いまの家の方が広くていいのに、引っ越しせぇって強引に決めたみたいでね」


「ジャックさんも?」


「困ったもんだよ。ジャックさんは、まぁよくウチに来るから、家が近いと便利だけど、ライトさんの場合は、まだ隠居もしていないのに、ごり押ししたみたいだからね」


「やはり、隠居者の居住区ですもんね」


「まぁ、隠居していないクマさんも、居住区に家があるから、初めての特例というわけでもないようだけど」


「はぁ」


「たぶん、居住区の住人同士は、女神様が念話できるようにされているから、その念話能力狙いだと思うんだけどね…」


「あ、なるほど」


「あと、私に、ライトさんから料理を習えって言っててね。わしょく? とかいう民族料理を作れるようになれってうるさいのよ」


「それ、僕にも作れって言ってました。そのための調味料も調達するそうです」


「あー、あっちの世界のだね」


「はい、昭和の日本で買ってくるって言ってました。確か、月イチの日帰り旅行ですよね?」


「そうだね、いつも妙なものばかり買ってくるんだよ」


「あはは、そういえば、前にカラオケの機械を買ったとか言ってました。電気がないのに」


「でしょ? ほんと、バカなんだから」


 奥さんは、タイガさんのことをバカだバカだと言ってるけど、たぶんそれが愛情表現なんだろうなと思った。奥さんの表情は、悪口を言っている人のものではなかったんだ。



「あの、僕、そろそろ失礼します。泊めていただいてありがとうございました」


「そう? また、気軽においでよ」


「はい、ありがとうございます。あの、よかったら使ってください」


 僕は宿代と食事代のかわりに、モヒート風味の10%回復ポーションを10本、魔法袋から取り出して、奥さんに渡した。


「えっ? いいのかい?」


「はい、お世話になったお礼です」


「たいしたことしてないのに、ありがとね」


「いえ、こちらこそ」


 バイトのお姉さんにも声をかけようかと思ったけど、もう仕事に戻り、接客中だったので邪魔しないように、そのまま失礼することにした。


 そして、タイガさんの家を出て広場へと向かって歩いて行った。途中、ちょくちょく見られるような気がした。

 まぁ、居住区の住人じゃないから、珍しいんだろうな。あ、でも、ほんとに僕は、ここにアパートの部屋を借りるのだろうか?


(アトラ様にも、話してみなきゃ)




 広場に戻ると、たくさんのチビっ子達が集まり、生首達と遊んでいるようだった。


 生首達は、もはや特技なのか、はらはらと雪のように降ってはまた上空に舞い上がり、またまた、はらはらと雪のように降って……を繰り返していた。


 その光景を何度見ても、チビっ子達は飽きずに騒いでくれていた。チビっ子達に遊んでもらっているんだな。


 僕が広場に戻ってきたことに気づいた何体かが、サッと僕の目の前に現れた。それ以外のその他大勢は、はらはら雪ごっこ遊びに夢中のようだった。


『アルジ、ココ ガ スミカ ニ ナルノ デスカ?』


「うん、そうなりそうだね」


『デハ、イチブ ノコシマス』


「ん? 何体か、ここに?」


『ハイ』


「それは、女神様の許可が必要だなぁ」


『メガミ サマ ガ、ノコセ ト』


「えっ? そうなの? うーん、ちょっと確認してみるよ。族長さんを疑うわけじゃないんだけど」


『ハイ』


「女神様、どこにいるんだろう」


『アソンデ クレテ イマス』


「遊んでくれてる? ん? もしかしてあのチビっ子達の中にいるの?」


『ハイ』


「そっか、ありがとう。全然気づかなかったよ」


『ヘンソウ シテイル ヨウデス』


「うん、そうだね。女神様、変装というか変身にハマってるみたいだから」


 僕は、はらはら雪ごっこ遊び中の、チビっ子達の方へと寄っていった。

 生首達は、僕も見に来たと勘違いしたのか、めちゃくちゃテンション上がって、僕のまわりに積もってきた。ちょっと、何してんのー。


「わー、雪だるまみたい〜」


「ほんとだー、綺麗〜」


(雪だるまにしないで)


「お兄さんの服、草原の色だから、赤いふわふわが集まると、すごく綺麗だよー」


「そう? 」


「その服、どこの民族衣装?」


「守護獣の里の服じゃ…だよ」


「うん、ボク、よく知ってるねー。トリガの里っていう守護獣の里の服だと思うよ」


「守護獣? 狼の里? 虎の里?」


「狼の里だよ」


「じゃあ、人族の方だ」


「ん? 虎の里もあるの?」


「あるよー。ミサちゃんのペット、虎の里の守護獣の子供だもん」


「捨て子なんだよ、かわいそう」


「シャルロッテは、人が嫌いなんだよ」


「えっ? シャルって守護獣なの?」


「わかんない」


「守護獣と、他の魔物との間にできた子じゃ…だよ。その魔物を飼っていた人族に虐待されて、死にかけていたの…だよ」


「だから、人族が嫌いなんだ。ボク、めちゃくちゃ詳しいんだね」


「えー、だってこの子は…」


「しー、ダメだよ、大人に言っちゃ」


「あ、そか。なんでもないよ」


(ん? なんだか、よくわからないけど…)


「それをミサさんが、拾って飼うことになったんだね」


「うん、ミサちゃん、虎の里、好きだから」


「そうなんだ。虎の守護獣って見たことないや」


「お兄さんは、人族の方にいるんでしょ? 虎は、もうひとつの国の守護獣だよ」


「あー、もうひとつの国には行ったことないから、見たことないんだね」


「虎が守護獣してる国は、ずっと戦争してるんだって」


「人族と魔族が?」


「うん、人族同士や、魔族同士も」


「そっか、戦乱の国なんだ」



 生首達は、話に退屈している子供達の方に、また、はらはら雪ごっこをしにいった。キャッキャと楽しそうに笑う子供達を見ていて、僕はなんだか平和だなぁと思った。


 でも、地上には戦乱の国もあるんだ。そんな国でも子供達は、こんな風にキャッキャと笑うことは出来るのだろうか。



「そうだ、僕、女神様を探しているんだけど、みんな知らない?」


 僕は、女の子の顔を一人一人確認してみたが、女神様らしき人はいなかった。族長さんは、さっきこの中にいると言ってたんだけどな。


 子供達は、互いに顔を見合わせていた。その中の一人の男の子が、口を開いた。


「女神様に、何の用事なの?」


「うーん、このワープワームをここに少し置いておく許可を出されたのか、確認したいんだよね」


「ふむ。許可していたよ」


「そうなの?」


「そうなのじ…そうなんだ」


(ん? 変なしゃべり方する子だな)


 見ると、その男の子は、さっきいろいろ教えてくれた物知りな子だった。僕がじっと見ていると、知らんぷりをする。


(ん? 知らんぷり? あれ? このしぐさ…?)


「ねぇねぇ、お兄さん、新しいアパートに入居するんでしょ?」


「え? あ、うーん、その話も女神様に確認しようと思ってたんだよね」


「ん? どうして? どこに引っ越しても大丈夫だよ?」


「お嬢さん、僕はまだ隠居してないんだよ。だから、ここは隠居者の居住区だからさ」


「神族の居住区だから、隠居は関係ないと思うよ」


「そうなの?」


「うん、兄ちゃんが、ライトさんと同じアパートに住むことになったって言ってたから」


「えっ? お嬢さんのお兄さん?」


「隣の家の兄ちゃん」


「あ、そっか。びっくりした。ジャックさんかな?」


「うん、そうだよー。お嫁さんにしてもらうの」


「えっ! そうなんだ」


「そうなの。私が大人になったらね、って言ってた」


「えー! 私も、お嫁さんにしてもらうんだよー」


「私が先に言ったもん」


(わっわっ、三角関係?)


「地上には、ジャックよりいい男がおるぞ」


「えっ? そうなの? いろ…」


「ばかっ」


「し、しまった…」


 そう言うと、ジャックさんのお嫁さん候補のふたりは、じっと僕の方をうかがっていた。


 やっぱり、あの物知りな変なしゃべり方の男の子は、女神様か。それを隠している遊びの真っ最中なわけね…。


 僕は、気づいたと子供達にバレないように気をつけつつ、女神様に確認を取ることにした。


「ん? 何?」


 僕が、ふたりに、そう聞くと、ふたりともホッとした顔をしていた。


「な、なんでもないよ〜」


「そっか」


「うんうん」


 ふたりとも、必死な顔をしていた。僕は、ぷっと笑いそうになるのを我慢して、平静を装った。


「女神様が見つからないから、僕はそろそろ地上に戻りますね」


「お兄さん、確認ってふたつなのか?」


 物知りな男の子が呼び止めた。僕の頭の中を覗いているはずだよね。なら、念話してくればいいのに…。これも遊びの一環なのかな? 僕にはよくわからない。


「うん、そうだよ。ワープワームを置いておいていいのか、僕がアパートに入居してもいいのか、聞きたかったんだよね」


「どっちも、許可してあるはず、だよ」


「そっか。ありがとう。ボク、ほんとにいろいろなこと、知ってるんだねー。すごいねー」


「ふむ、まぁ、うん」


(ふふっ、変な返事)


 僕がそう思うと、物知りな男の子は、ムッとした表情を浮かべた。でも、必死に子供を装っているらしく、なんの反論もされなかった。


 いつもなら、なんじゃ?とか、妾にケンカを売っておるのかと言われそうだけど…。これはこれで、ありだな。文句を言われないもんね。


 物知りな男の子にジト目で睨まれつつ、僕は、地上に戻ることにした。


「みんな、ありがとね〜。じゃあ、戻りますね」


「またねー」


 僕は、足元に集まって生首達を見た。来たときの半数くらいか。あとの半数は、ここに残るんだね。


『アルジ、ハンスウ ノコシ マス』


「了解〜」


 僕は、生首達のクッションに乗り、女神様の城からスッと消えた。


 ライトが去った後、広場のチビっ子達は、バレなかったと、ハイタッチをしていた。

 その子供達の無邪気な様子に、物知りな男の子、女神イロハカルティアは、頬を緩ませていたのだった。



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