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131、女神の城 〜 タイガの家に泊まる

 僕は、いま魔道具屋に居る。買ったばかりの魔道具を、あれこれ装着したところなんだ。


 魔法袋にはまだ、何も入れていない。魔道具屋の爺さんから、これ自体が高価だから危険な場所では、うでわに入れておく方がいいと言われたんだ。

 うーん、使い方としては、数を数える計数機みたいな感じかなぁ。とりあえず、うでわに入れておいた。


 マッピングの魔道具は、ギルドミッションに必須だよね。とりあえず、いつもの魔法袋に入れた。


 みがわりのペンダントは、首から下げた。シルバーっぽいチェーンは少し太めだから、なんだかチャラくないかな? ペンダントトップと言うには大きすぎる気はするが、涙型の透明なクリスタルのようなものがついていた。


 危機探知リングは、ベルトに付けておいた。これはリングという名だけど、指輪じゃなくて、輪っかだ。100均で売ってる単語帳についている輪っかみたいな感じ。


 帰還石は、いつもの魔法袋に入れた。必要なときにすぐ取り出すには、やはり魔法袋だよね。


(よし、完璧!)


 どれも、なんだかワクワクする。ゲームの世界で見たようなものが、実際に手元にあるなんてすごいよね。


(ふわぁ〜、眠い…)


 そういえば、かなり起きている。そろそろ限界が近そうだ。暴走で倒れる前は、何日寝なくても平気だったのに、いまは無理だ。僕は、まだ治っていないのだと実感した。



「なんや、ライト、おねむか?」


「はい、そろそろ限界です…」


「爺さん、ガキがおねむやから、帰るわ〜」


「あぁ、ライトさん、また気軽に寄ってくれたらええ。ここの場所はマッピングに記しておいたからの。買い物の際は、金貨を持って来てくれ。まぁ、足らない分はポーションでもいいがの」


「わかりました。ありがとうございます」


「いやいや、こちらこそ」


「お兄さんもありがとうございました」


「ポーションの売り子のバイトなら、いつでもやるよ〜」


「はぁい、助かります。では〜」



 魔道具屋さんを出て、タイガさんに連れられて行ったのは、なぜか、タイガさんのコンビニだった。

 僕は、眠気マックスだったので、宿に行きたいのに、何か買っていけということなのだろうか。


「おーい、帰ったでー」


「はいはい、おかえり。珍しいねー。ん? ライトさんも一緒にどうしました?」


「ご無沙汰しています」


「ウチのバカが、いつもすみませんねぇ」


「あはは、いえいえ」


「いま、2階の天窓の部屋、誰もおらんか?」


「先週まで、ミサの友達が使ってたけど、いまは空いてるよ。掃除してないけど〜」


「まぁ、ええやろ。ライト、上に上がって右奥の部屋や」


「ん? えーっと…」


「さっさと寝ろ。その隙に進めといたる」


「へ?」


「泊まってけって、言うとんねん。はよ寝ーや」


「え、あ、ありがとうございます」


「あぁ」


 そしてタイガさんは、アゴをくいくいとして、はよ行けと急かされた。僕は、階段を上って、右奥の部屋に入った。


 そこは、天窓のある明るい部屋だった。窓が開け放されていて、外の通行人の声が聞こえる。


(いい感じの部屋だな〜)


 客室なのか、壁際にはベッドが2つ並んで置いてあった。天窓の近くにはソファが置かれていた。


 僕は、ソファに腰を下ろし、そのまま崩れるように眠りについた。頭に、なんだかふわふわしたものが当たった気がするが、僕の意識が浮上することはなかった。




「あれ? 母さん、シャルロッテはどこにいったん? 地上に連れて行きたいねんけど」


「今朝は、あちこち巡回していたよ」


「どこにもおらんで」


「じゃあ、2階じゃない? あ、出窓の部屋は来客中だから」


「わかった〜」


 ミサは、階段を上っていった。2階でシャルロッテがいそうな場所を探すが、見つからない。


「シャル〜」


 呼んでも返事はなかった。


「こりゃ、寝とんな」


 シャルロッテが寝そうな場所を探していったが、やはり見つからない。


「来客中の部屋ちゃうやろな」


 ミサは、奥の出窓の部屋の扉をコンコンとノックした。しかし、中からは応答はない。


「お客さんは外出中やな。今のうちに、シャルロッテを探そか」


 ミサは、その部屋の扉をそーっと開けた。部屋の中には誰もいないように見えた。


「さて、あの子がいるとすれば、ベッドの下か、ソファの上か」


 ベッドの下を覗いてみるが、シャルロッテはいない。ミサは、出窓の方へと歩いて行った。ソファに近づくと、ソファの背もたれの上に、シャルロッテのしっぽが出ているのが見えた。


「やっと見つけた! シャル〜、起きやー」


 いつもなら、すぐに起きてミサの元に駆け寄るはずが、今日は熟睡しているのか、反応がない。


「はぁ、もう! 急いでんのに」


 ミサは、ソファの後ろ側からソファにダイブした。


「えっ?」


 ソファの上のシャルロッテに抱きついたつもりだった。しかし、ミサは、眠る少年の上に覆いかぶさる形になっていた。



 スースー、ズーズー



 その少年は、シャルロッテにもたれるような姿勢で眠っていた。シャルロッテも、その少年を前足で囲むような姿勢で眠っている。


 いま、ミサは、思考停止中だった…。



 バン!


 閉まりかけていた扉が勢いよく開かれた。


「おまえ、何やっとんねん。夜這いか?」


 その大きな声で、ミサは我に返った。そして、慌ててソファから降りた。


「ちゃうわ! シャルロッテかと思ったら、少年も一緒におっただけや」


「ふぅん、そいつに発情すんのはやめとけ」


「だから、違うって言うてるやんか!」


 この親子ゲンカで、シャルロッテは目を覚ました。そして自分の主人をチラッと見たものの、また、ズーズーと眠りに落ちていった。


「ちょ、ちょっと、シャル〜」


「しかし、こんだけ騒いでも起きへんって、どういう神経しとんねん」


「この子って、ポーション屋の子?」


「あぁ、しかし、コイツ、ワンコだけやなくて、ニャンコも好きなんか?」


 ライトは、シャルロッテに寄りかかるようにして眠っていた。そう、白い虎に包まれるようにして眠っているのだ。


「シャルロッテは猫ちゃうで、白虎やで」


「似たようなもんやんけ」


「ってか、なんで、シャルが見知らぬ男にくっついてるんや。しかも眠るなんて…」


「知った男にも寄り付かへんで」


「それ、自分のこと、言うてるん?」


「せや」


「アホに近づくと脳筋が移るからちゃう?」


「ったく、おまえなぁ」


「もう、ウザイねん。喋りかけんといて」


「はいはい、ほな退散するわ〜。ライトを襲うなよ? 眠らせといたれ」


「だから、違うって言うてるやんか」


「ふふん」


「シャルロッテも起きる気ないんちゃうん……はぁ」


 ミサは、タイガが出て行ったのを見届け、改めてソファの上を見た。


「なんか、ちょっと複雑やわ…」


 ミサは、自分にもなかなか懐かなかった白虎が、ライトを守るようにして眠る姿に、少し嫉妬心を抱いていた。その反面、この少年に少し興味がわいていた。


「この子って、魔物使いやったっけ?」


 そして、ミサは、呼びかけても起きないシャルロッテを諦め、地上へと戻っていった。




 ゴロゴロゴロゴロ〜!


(ん? 雷?)


 僕は、雷の音のようなゴロゴロ音で、目が覚めた。


 ピチャッ


(あれ? 雨?)


 僕の顔に何かが降ってきた。雨? なわけないよね。あれ? えーっと、ここどこだっけ?


 目の前には、大きな出窓、そして背中はポカポカとカイロをつけているかのように温かい。


 ピチャッ


 また、上から何かが降ってきた。ん? ちょっと臭い。その水滴は、なんだかケモノ臭いというか、ちょっとヌルヌルしていて、うん、臭い。


 僕は、水滴が落ちてきた方を向いて……言葉を失った。僕の目に飛び込んできたのは、白い何かが、口からポタポタとだ液を落としている姿だった。


 僕が、起きたことに気づいた奴は、僕の顔をなめた。


(ひぇー)


 僕は驚き、引きつった顔でそのまま固まっていたのだと思う。奴は僕の顔を、だ液だらけにしていた。


(喰う気? じゃなさそうかな)


 奴は、さんざん僕の顔をべちゃべちゃにした後、ソファから飛び降りた。僕は、それに引きずられるようにソファから転がり落ちた。


 すると、奴はまた僕の顔をべちゃべちゃにする。これは……転がり落ちた僕を気遣ってくれているんだろうか。


 しかし、これは何? ホワイトタイガー? にしては、シマシマが目立たないというか、シマシマが茶色っぽい。虎にしては、毛が長いなぁ。猫っぽいようにも見える。あ、虎って確か、猫グループだよね。



 僕がぼんやりした頭で、考えていると、下からタイガさんの奥さんが上がってきた。


「あらあら、ドスンという音は、やはりシャルの仕業だったんやね。ライトさん、起こされちゃったんだね」


「あ、いえ、僕が起きるまで、この子はジッとしてたと思います」


「あーあー、ライトさん、べちゃべちゃにされちゃって…。ごめんなさいね、あ、シャワー魔法使えるわよね?」


「はい、大丈夫です」


 僕は、立ち上がって、シャワー魔法をかけた。べちゃべちゃになった服もスッキリした。


「シャル、下でごはん食べてきなさい。お客さんの前で、そんなお腹ゴロゴロさせてヨダレ垂らして…」


 ガゥ〜


 そう言われ、シャルと呼ばれた虎?は、スッと部屋から出て行った。


「ライトさんも、ごはん食べるでしょ。店のバイトの子達もいるけど、よかったら一緒にどう?」


「あ、はい、ありがとうございます」


 僕は、奥さんの後をついて、店の休憩室らしき部屋へと移動した。


 そこには、コンビニの制服を着たお姉さんがふたりいた。テーブルには、まるで中華料理店のような大皿が並んでいた。


「ライトさん、空いてる席に座って、適当に食べちゃって」


「はい」


 僕は、お姉さんふたりに挨拶をして、空いている席に、座った。お姉さんがフォークとスプーンと小皿を僕の前に置いてくれた。


「ありがとうございます、いただきます」


「やだ〜、かわいい」


「えっ? あ、ははっ」


 僕は、アレコレ少しずつ皿に取り、そしていただくことにした。中華料理っぽい感じではなく、普通の炒めものだったり、揚げ物だったり、家庭料理という感じだった。


「ねぇ、あなたって、男の子? 女の子?」


「えっ……男です」


「やーん、かわいい。そうなんだ〜、新しいバイトの子かなー?」


「え、いえ…」


 そこに、奥さんもフォークとスプーンを持ってきて、席に座った。


「なに言ってるのかと思えば…。この子が誰か知らないの? さっき、噂話してたでしょ」


「えっ? もしかして、ポーション屋さん?」


「はい、ライトです」


「うそー、こんな女の子みたいな子だとは思わなかった」


「だから、天使ちゃんがあんなかわいい顔してるのよ」


「彼女いるの? 年上は好き?」


「えっ、あ、はい、います」


「なーんだ、残念〜」


「私、昨日、広場でポーション買ったのよー」


「あ、ありがとうございます」


「やっだー、かわいい〜」


 僕は、なぜか、かわいいかわいいと言われ、戸惑っていた。


「シャルロッテも、可愛がってたんだよ」


「えっ! 人嫌いな白虎が?」


「ソファで仲良く眠ってたんだよ」


「うそ〜、シャルって、ミサちゃんと奥さんにしか寄っていかないわよね」


「たぶん、自分の子供みたいに見えてるんだと思うよ。子供にするように、顔をべちゃべちゃになめてたから」


「ひゃー、臭いでしょ! 災難だったわね」


「あ、えっと…」


(確かに臭かったとは言いにくい…)


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