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130、女神の城 〜 ライト、魔道具を買う

(はぁ……)


 僕は呆気にとられていた。なぜか「まな板の鯉」ということわざが頭の中に浮かんでいる。今の僕は、まさに、まな板の鯉。


 あのことわざって、なぜ鯉なんだろう? と子供の頃から謎だったことも、ぼんやりと思い出していた。鯉って食べたことないんだよね〜。



 僕がちょっと考えごとをしている間に、いろいろなことが勝手に進んで決められていったんだ。



 魔道具を買うのは、まぁ僕も必要だと思ったからいいんだけど…。お金がないから、ポーション出せ、というのも話としてなくはない。でもそこから先が、驚きなんだ。


 魔道具屋のお兄さんを売り子にして、広場にポーションを売りに行かせるとか、そのバイト代を僕が払うとか、は、まだわかる。


 タイガさんのコンビニの裏の倉庫が移転する跡地に、アパートを建てるから入居しろとか、アトラ様もそこを使えるらしいこととか、管理費代わりに和食を作れとか、僕が返事する隙もなく、勝手に決定事項にされていったんだ。


 さらに、魔道具も予算オーバーらしいけど、足りない分はポーションでとか、とにかく、僕が呆気にとられている間に、どんどん決まっていった。



 そして、前から僕の取引先の、この居住区に店を構えるロバートさんが、やってきたんだ。魔道具屋の爺さんのことを、お父さんと呼び……。親子? にしては似てないと思うんだけど、しかも、険悪な感じなんだ。




「ライト、なんや? ボーっとして」


「いや、なんだか、圧倒されてしまって…」


「俺も、この二人の間に入るん嫌やわ」


「えーっと、そのことだけでもないんですけど…」


「ライトさん、あんな奴は放っておけばよいのじゃ。さて、品物の説明をしようかの」


「あ、はい、お願いします」



 僕の目の前に、爺さんとタイガさんが選別した魔道具が並んでいた。魔道具屋の爺さんは、順に簡単な説明を始めた。


「まず、魔法袋だ。中身の表示の仕方は、女神のうでわと同じじゃ。危険な場所に行くときは、うでわに入れておく方がよい」


「ん? 腰ベルトじゃなくですか?」


「あぁ、そうじゃ。人気のダンジョン産だから、持っていることで余計なことに巻き込まれる」


「あ、盗まれたり、襲われる?」


「そうじゃ。次に、マッピングの魔道具じゃ。これは、どこに入れていても勝手にマッピングするから、普段は腰ベルトに付けた魔法袋の中に入れておけばよい」


「あ、はい」


「歩いた道を記すから、ワープは対象外じゃ。どこかの場所を書き込むときは、念話の要領で書ける」


「念話は……できないです」


「は? うーむ、では、できる奴に記してもらえ。持ち主か否かは関係なく、誰でも書き込める」


「わかりました」


「それから、みがわりのペンダントじゃ。死を1回無効にする。装着している本人の身代わりになって砕けるのじゃ」


「えっ! すごい」


「これは、常に首から下げておけばよい。多少のことでは、チェーンが切れることもないし、何の手入れもいらぬ」


「あ、はい。あ、あの、霊体化しても?」


「装着している本人と同化するから、ペンダントも霊体化するはずじゃ」


「わかりました」


「それから、こんなもんいらんと思うが、タイガがいると言うんでな……危機探知リングじゃ」


「危機探知?」


「普通、相手を見れば無理かどうか、わかるだろうし、強い敵が近づいてくれば気づくはずじゃが」


「あ……僕、わからないんです」


「本気か?」


「はい…」


「うーむ。子供用のおもちゃだが…。設定した強さを超える敵と遭遇すると、光って知らせるんじゃ。赤は逃げろ、黄は危険、青は設定した強さギリギリってことじゃ。ベルトにでも付けておけばよい」


「便利ですね」


「いやいや、本気で言っているのか?」


「あ、はい」


「……まぁよい。あとは帰還石じゃ。これは色々な種類があるが、パーティ全体を戻す1回使い切りタイプじゃ。最後に立ち寄った街や村に戻る」


「へぇ、すごい」


「パーティじゃなくても、戻そうと思った範囲の人を連れていけるが、まぁ状況にもよるが20〜30人が限界じゃの」


「わかりました」


「ワープワームを呼ぶ余裕がないときに使えばいい」


「はい」


「ということで、以上じゃ。質問は?」


「えっと、危機探知の設定とか帰還石の使い方がよくわからないです」


「設定は、タイガがしておった。帰還石は手に持って念じるだけじゃ」


「あ、はい、わかりました」



「で、いくら足らんかのぅ」


「えっと、全部でいくらくらいに?」


「かなり格安でというか、ほぼ仕入れ値で売ってやってくれと言われておるからの、金貨4,300枚でどうじゃ」


「えっ? 金貨4,300枚?」


「ぶっちゃけ、仕入れ値じゃ。呪いを消してくれたお礼じゃな」


「えっ……でも、儲けなしというのも…」



 僕が説明を受けている間、静かだと思ってたら、タイガさんは、店の外でロバートさんと話をしているようだった。


 店のお兄さんが、僕がキョロキョロしていることに気づき、タイガさんを呼びに行ってくれた。


「おう、で、説明は終わったんかいな」


「あぁ、終わったぞ」


「で、なんぼにするんや?」


「仕入れ値で、金貨4,300枚じゃな」


「はぁ? そんなに高いか? 内訳を言うてみぃ」


(値切る客のセリフだ…)


「魔法袋が2,000枚、マッピングの魔道具が50枚、みがわりのペンダントが2,000枚、危機探知リングが150枚、帰還石が100枚じゃな」


 爺さんは、不思議な光る板を見ながら、値段をひとつひとつあげていた。あの板、帳簿かな? あんなのも欲しいなぁ。でもあまりポーションの在庫を減らすわけにもいかない。


 ロバタージュのギルドに戻れば、きっと冒険者のサポートミッションが待っている。僕は、特定登録者にされていたのを思い出した。


「あー、魔法袋が意外に高いな。ダンジョン産のいいやつなんか?」


「あぁ、魔族の国のダンジョン産だから、衝撃にも強いはずじゃ」


「じゃあ、そんなもんか。みがわりのは安いな、質流れ品か?」


「いや、攻め滅ぼされたどこぞからの、流れ品みたいじゃな。蔵か何かに、かなり大量に貯め込んでたらしいの」


「じゃあ、値崩れ品か、それなら大丈夫やな」


「利益なしにしておるから、値切っても無駄じゃよ」


「売り子が稼いできたのは、全部完売で金貨3,900枚ちょっとやで」


「えっ? もう完売? ってかすごい!」


(予定よりも、かなりの高値だよね)


「まぁ、なかなかの頑張りやな。端数の銀貨はバイト代で、取っておけばええ」


「端数、2枚しかないんですけど…」


(あ! バイト代、僕が払うんだった)


 僕は、魔法袋から財布を取り出して、銀貨を10枚つかんだ。


「相場がわからないのですが、これで足ります?」


「ライト、その倍や」


「あ、すみません」


 僕は、もう10枚取り出し、銀貨20枚をお兄さんに渡した。


「あざーす。毎度あり〜」


「いえ、こちらこそありがとうございます」


「あの」


「はい?」


「ライトさん、そんなかしこまらなくていいですよ〜」


「あ、はぁ」


「コイツは、誰にでもこんな感じなんや。自分の女にも、敬語で話しとんねん」


「ええ〜っ? そんなの堅苦しいじゃないですか」


「えっ? 堅苦しいですか」


「もしかして、彼女さん、年上です?」


「はい、年上です」


「あー、なるほどね。じゃあ、敬語になってるのが逆に、いいのかもしれないですね〜。ウチの嫁も年上でねー」


「そうなんですね。もしかして敬語で?」


「いや、最初からタメ口なので、そのままなんすよ。でも、たまに言葉遣いがどうとか、ぶつくさ言われるんすよね」


「へぇ、あははっ」



「ライト、外で待ってるオッサン、なんとかしたれや。あ、せや、あと金貨400枚分、売ってこいや」


「タイガ、あいつの金はいらんぞ」


「爺さん、もうそろそろ時効やろ。普通にしたれや」


「まさか、ありえん」


 僕は、話が気になりつつも、この場を抜けて外で待たせていたロバートさんの所に行った。


「お待たせしました」


「いえいえ、すみませんね、頑固ジジイで…」


「あの、お父さんと呼んでおられたみたいですが?」


「ええ、義理の父だったんですよ」


(あ、過去形…)


「すみません、変なこと聞いて…」


「いえ、爺さんは何か言ってました?」


「特に何かをというわけではなく、拒絶反応だけですかね」


「まぁ、仕方ないんですよ。爺さんが怒るのも…」


「はぁ…」


(あれ? 話したいのかな?)


「まぁ、この話は、長くなりますから、ライトさんがここに住むことになってからで」


「あ、はい。えっと、ポーションですよね?」


「1,000本ほどお願いしたいんですよ、モヒート風味のポーションありますか」


「はい、わかりました。これ、あまり地上では売れないから助かります」


「ん? 地底ではバカ売れですよ?」


「えっ? 地底で売ってるんですか?」


「はい、まぁ、ほんの一部だけですけどね」


 僕は、魔法袋からモヒート風味の10%回復ポーションを1,000本出して渡した。お代として金貨で10枚を受け取った。


 すぐに、ロバートさんは、挨拶をして去って行った。こんなすぐに済むなら、先にロバートさんの対応をすればよかったな…。



 店の中に戻ると、タイガさんが残りの精算方法を決めていた。あとの金貨400枚分は、なぜか媚薬つきポーションでということになっていた。


 そんなに数がないことを話すと、結局、媚薬つきポーションを100本、変身魔ポーション30本ということで精算終了した。媚薬つきが金貨1枚でというすごい価格になった。


(まぁ、いっか)



「さっき、アイツ、何か言うておったか?」


「いえ、また、僕がここに住むことになったときにでも、ということでした」


「それなら、来週以降ってことか。あまり、アイツを信用するのはどうかと思うがのぅ」


「ははっ、えっ? 来週? 」


「タイガのアパートに入居するのじゃろ? 来週には出来ると聞いておったが…」


「何言うてんねん。明日にはできるわ」


「え? でもまだ建てる予定って…」


「潰すのも、建てるのも、ババアが一瞬でやるからな。内装とか細かいチェックして、ババアに手直しさせれば完成や」


「す、すごい…」


「あ、おまえ、コーヒー牛乳、持ってるか?」


「あ、はい」


「それ、10本くれ」


「金貨20枚ですよ」


「ケチくさいこと言うなや。魔道具買う世話してやったやないか」


 はぁ…。まぁそうだね。僕は、タイガさんに、カルーアミルク風味の魔ポーションを10本渡した。たぶん、女神様に渡すんだろうな。


 儲けなしの魔道具屋の爺さんにも、手数料代わりに同じく10本渡した。


「これは、なんと!」


「それをエサにすれば、ババアは何でも言うこときくで」


「それはいいことを聞いたな、ふっふっ」


(えっ? 悪だくみ?)


 ……僕は、聞こえないフリをするのだった。





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